表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/20

文化祭のはじまり

体育館には、クラスメイトの家族や先生たちがいっぱい。

ステージの幕の裏で、陽翔と咲は並んで立っていた。


「……緊張するな」

「うん。でも、失敗しても笑っちゃえばいいんだよ」

咲は明るく言ったけれど、顔は少しこわばっていた。


(大丈夫。俺が守るって決めたんだから)

陽翔は心の中でそうつぶやいた。


劇が始まり、物語は順調に進んだ。

陽翔は勇敢な王子様役、咲は優しいお姫様役。

そしてクライマックス――姫を救う場面。


台本では「姫を守ります!」と言ったあとに、悪役を倒すだけのはずだった。

でも、陽翔は舞台の上で、急に胸が熱くなった。


観客席の中で、みんながふたりを見つめている。

咲は真剣な目で自分を見ている。


――言うなら、今しかない。


「俺は……姫を守ります! ずっと! 咲のことも!」


観客が「え?」とざわついた。

咲は一瞬ぽかんとしたあと、顔を真っ赤にして笑った。


「……私も! 陽翔が王子様で、よかった!」


体育館の中がどっと沸いた。

先生が慌てて拍手を始め、それにつられて大きな拍手が広がった。


舞台が終わり、幕の裏に戻ったふたり。

咲が小声で言った。


「……あんなの、台本になかったじゃん」

「ご、ごめん。でも、本気で言った」


咲は少し黙ったあと、にやっと笑った。

「……じゃあ、公開告白ってことだね」


陽翔は顔を覆ってうつむいた。

「うわー、恥ずかしい……」

「でも、うれしかったよ」


咲の笑顔は、観客の拍手よりもまぶしかった。


文化祭の空気がまだ残る夕暮れ。

ふたりは並んで帰りながら、そっと手を伸ばし合った。

もう観客はいない。

小さな手と手がつながった瞬間、ふたりだけの物語が、またひとつ始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ