2人の委員会
春の風が、桜の花びらを運んでくる。
小学五年生の佐藤陽翔は、いつものように学校の門をくぐった。
「おはよ、陽翔!」
ランドセルを背負ったまま駆け寄ってきたのは、クラスメイトの山本咲。髪を一つ結びにしていて、いつも元気で、ちょっとだけ男の子っぽい。だけど、陽翔にとっては、なんとなく特別な存在だった。
「おはよう、咲。今日、委員会決めあるんだよね?」
「うん!ドキドキする~。陽翔も立候補する?」
「え、俺? うーん……咲がやるなら、やってもいいけど」
咲は顔を明るくして、にっこり笑った。
「じゃあ、いっしょにやろうよ!」
その笑顔を見て、陽翔の胸がきゅんとした。なんだろう、この感じ。
心臓が、授業前のチャイムみたいに早く鳴る。
陽翔は照れ隠しのように笑って、そっと自分のランドセルの肩ひもを引っ張った。
「じゃ、じゃあ…いっしょにやろっか。委員会」
「やったー!」
咲は大げさなくらいにガッツポーズをして、ぴょんと跳ねた。
その瞬間、風がふわっと吹いて、咲の髪が陽翔の顔にふれた。
「うわ、ごめん!」
「い、いいよ…」
陽翔の顔が一気に熱くなる。咲は気づかず、ケラケラと笑っていた。
教室に入ると、いつものようにガヤガヤしていて、担任の川島先生が「席につけー!」と声を張る。
それでも、陽翔の頭の中は、さっきの咲の笑顔でいっぱいだった。
「今日の委員会、代表はクラスで選ぶからなー。立候補したい人、いるか?」
先生の声に、陽翔は一瞬迷った。でも、咲がとなりで、ちょっとだけこちらを見てくる。
その目は「いっしょにやろ?」って言ってるようで、断れそうにない。
「はいっ!」
陽翔は思わず手を上げた。自分でもびっくりするくらい大きな声だった。
「お、陽翔。えらいな。じゃあもう一人は…」
「私もやりたいです!」
咲が手をあげた瞬間、クラス中から「おーっ」と小さな歓声があがる。
咲と陽翔が一緒に委員会代表をやることは、なんとなく“お似合い”って、みんな思っているらしい。
陽翔はちょっとだけ照れながら、でも心のどこかがふわふわと浮かぶようだった。
(なんか…ちょっとだけ、特別な春になるかもしれない)
そう思ったのは、たぶん陽翔だけじゃなかった。