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第8話 シンデリカとの旅立ち

 琴の音がエルレインの広場に響いていた。悲しみにくれる人々の心に寄り添うような、悲しく美しいメロディだった。 


 伝承によればエルフは魔法と弓、そして音楽の名手らしい。その伝承は正しかったことを俺は知った。


 俺はそれを琴の音を聴きながら、広場に集うエルフたちの顔を見る。皆、今回の悲劇に心を痛めているのだろう、泣いている者や顔を俯かせる者ばかりだった。


 魔族の襲撃から数日。俺は襲撃で亡くなった者たちを悼む慰霊祭に出席している。


 やがて音楽が鳴りやみ、ラライアが皆の前に出てくる。彼女はまず亡くなった人々の魂の冥福を祈り、被害にあった者たちに慰めの声をかけた。


 このエルレインの人口は千人ほどらしい。都の大きさに比べると、余りにも人の数が少ない。


 エルフは他種族を遥かに超える寿命を持ち、おおよそ600歳くらいまで生きるが、その反面子どもができにくい。襲撃で57名のエルフが亡くなったという。エルフの総人口を考えると、エルフという種にとっても今回の事件は大きな打撃だろう。


 ラライアの話はやがて、エルフのこれからのこち、未来へと移る。


「我々は間違っていました。世界は繋がっています。エルフだけが、素知らぬ顔で平穏を享受できるはずがなかった。エルフは変わらなければなりません。生きるために。未来に希望を残すために。我々は他種族と手を取り合い、魔族に立ち向かう必要があるのです…!」


 エルフが仲間に加わるならば、人間とってこんなに心強いことはないだろう。 


 まあ、すぐに仲良くはできないだろうが。一度はエルフは同盟の手を振り払った。他種族としても、『何を今更』という怒りは当然抱くだろうな。


 とはいえ紆余曲折ありながらも、最後は同盟は結ばれるだろう。魔族への戦力は現状どう見ても足りていないのだから。


 ラライアの話は気付けば俺のことに移っていた。

 今回魔族を倒すことができたのは、アレインと言う人族のおかげであること、エルフと他種族は団結できることを説いている。


 エルフたちの反応は悪くない。彼らも今回の件を通じて、かなり危機感を抱いたのだろう。


 ラライアに観衆の視線が集まっていることを確認し、俺はこっそりと人込みから抜け出した。

 そのままエルレインの出口に行く。


 門番の目を掻い潜って、森へと一人出た。


 俺はこのまま都を後にさせてもらおう。本当なら俺からのエルフ達への演説があったのだが、柄じゃない。もう俺は勇者じゃないからな。


 ………今の俺は勇者を騙った偽物だ。


 正直、ガイアス王国や聖教会での俺の扱いがどうなっているのか分からない。聖女は俺のことを殺そうとするくらい目の敵にしていた。俺の存在はいなかったことになっているのか、罪人として指名手配されているのか…。


 このまま俺がエルフの都に居続ければ、これから世界に繋がろうとする彼らに何らからの不利になるかもしれない。だから俺は一人で都を出ることにした。まあ、色々と面倒くさそうだというのも本音だ。


「あら、英雄さん。こんなところで奇遇ね」

「……シンデリカ」


 道の真ん中に、ここ数日で見慣れた少女の顔がそこにあった。金糸のような髪に、雪のように白い肌、宝石のようにキラキラと輝き碧眼。シンデリカだ。


 そういえばさっき姿が見えなったな。


「慰霊祭はどうした?」

「抜け出してきたわ、貴方と同じ」

「王族だろ? いいのかそれ。というか、その荷物…」


 リュックサックに、大きな外套。見るからに旅支度、という姿だった。


「…何処かに出かけるのか?」

「ええ。貴方についていこうと思って」


 明日の天気は晴れよ、みたいな気軽な調子で彼女は言った。


「まじか」

「言ったでしょ。助けてくれたらどんな財宝でもあげるって。これでも私はエルフの宝石って称えられているのよ」

「ははははは」


 乾いた笑いが出てしまう。


 確かにこいつの容姿は凄いよ。だが、目やら鼻やら口から色んな体液を出しながら泣き叫ぶ姿を見た後だとなぁ…。そこまで他人の為に涙を流せることは、間違いなく美点だとは思うが。


「本当だからね! それにこうも言ったわ! 私の身体を捧げるって! 今更いらないとは言わせないわ」

「それ一応断ったぞ。押しかけ女房みたいなこと言うなあ、お前」

「なっ! わ、私まだ130歳よ! 女房だなんて…、もうっ! 何言ってるのっ!」


 顔を真っ赤にしてシンデリカは叫んだ。


 だからエルフの時間感覚は分からないって。


 というか、『私の身体を望みなら喜んで捧げます』 とか言ってたが、アレは別に性的な意味ではなく、純粋にすごい献身的にお仕えします!って意味だったのか。


「大丈夫。姉上の許可はとってきてるわ。誇り高いエルフは恩を決して忘れない。嫌って言っても付いていくから!」


 そもそも、とシンデリカは眉を顰めて言う。


「大森林には迷いの魔法がかかっているのよ。エルフの案内がなければ、ずっと迷うことになるわ。アレイン、貴方どうするつもりだったの?」


「……完全に忘れてた。まあ森には木の実や動物もいるだろうし、ひたすら歩き続ければいつかは外に出れるだろ。前に2年くらい遭難したこともあるし大丈夫だと思う」


 最悪俺はしばらく飲まず食わずでも生きていける。


「大丈夫なわけないでしょ! 貴方今までどうやって旅をしてきたのよっ。…心配になってきたわ。やっぱりアレインには旅の相棒が必要みたいね!」

 

 腰に手を当てて、シンデリカは快活に笑った。夏の太陽のように輝く笑みだった。


 全く。お前だって大森林から出たことがない、箱入りのお姫様だろうに。


「…言っとくが俺はだいぶ変な奴だぞ」

「望むところよ。わくわくするわ!」


 自分で言うのもなんだが、大分抜けてる世界最強と、世間知らずの箱入りエルフの旅か。うーん、ろくな未来が見えないな。


 まあ、退屈はしなそうではある。


 俺は苦笑し、シンデリカと共に歩き出す。そんな具合で、俺は勇者パーティーを追放されたが、エルフのお姫様の仲間ができたのだった。

 

 正直、悪い気分じゃない。

 

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