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第13話 最強アピールと次の町へ

ジルじいさんの遺体を小屋の近くに埋めた俺たちはプエナ村に戻る。

 

 じいさんが既に殺されていたこと、仇をとったことを俺たちは宿屋の女将さんに伝えた。話を聞きつけた村の村長が魔族を倒しくれたお礼として何枚かの銀貨をくれるといったので、俺は素直に頂くことにする。


 次の朝、俺たちは北に向けて出発する。


「まずはガイアスの王国北部の城壁都市ロンドを目指そうと思う。大体ああいう大きい町には、商隊やら乗り合いの辻馬車がある。それに乗れば国境近くまでは早く行けるだろう」

「りょうかい」


 城塞都市ロンドまでは徒歩で向かうことになる。

 村人によると大体3日で着くらしい。


 東からの生ぬるい風を感じながら、俺たちはただ歩き続ける。

 俺は体力や足腰の強さにも自信があるが、シンデリカだって中々のものだ。

 

 途中何度か「休憩するか?」と聞いても、へっちゃらそうに「全然大丈夫!」と笑う。


 聞けば旅に出る前から暇を見付けて(あるいは宮殿を抜け出して)は大森林を走り回って遊んでいたお転婆だったらしい。


 2人旅の為、狙い目だと思われたのか道中魔物に襲われた。

 名はレッドウルフ、名前の通り赤色の狼の見た目をした魔物だ。正直なところ色以外の姿形は普通の獣と変わらない。


 普通の獣と魔物の違いを説明するのは難しい。ここは学者の間でも昔から議論が活発で、どこから獣でどこから魔物するかの境目は学派によって分かれるらしい。


 ただ、世間一般で魔物と呼ばれる生物の条件は、



・人間に対して強い敵意を持ち積極的に襲うとすること。

・魔力の影響を強く受けていること。


 であるとされている。



 どういう訳か、魔物は人間に対して積極的に攻撃を仕掛ける。大抵の場合、普通の動物は基本的に自分たちの縄張りを侵さない限りは人間を襲うことはない。

 しかし、魔物は時には自分たちの縄張りを離れても、人間に害を加えようとする。別に人間しか食糧にできないわけでもないのにだ。



 また、魔物は魔力の影響を強く受ける。魔力とは俺たちの世界を漂う目には見えない力のことだ。魔法として不思議な現象を起こしたり、力や体力を強化してくれる。

 人間は魔力の力を借りて様々な困難に立ち向かってきたが、魔物も同様に魔力を身に纏ったり操ったりする。

 つまり、魔物は魔力によって体を強化しているから、見た目よりもずっと力が強かったり、堅牢だったりする。

 

 何でも魔法学院の骨格の専門家が言うには、本来ドラゴンはその巨大故の自重で飛ぶことなんてできないそうだ。


 なのに、どうして自由に空を駆けることができるかというと、魔力によって骨と筋肉を強化し、浮遊する為の風を魔力で生み出しているかららしい。魔力すごいな。


 そんなことをレッドウルフの最期の一匹の首を圧し折りながら言う。


 レッドウルフの群れは悲しいかな、そのほとんどはまずシンデリカの放った魔法の雷で黒焦げになり、残った奴らは俺に殴り殺されるか、絞め殺された。


「なるほどね。エルフの都じゃ、そこまでは教えてくれなかったわ」

「魔物の骨格な筋肉を調べようなんてここ最近の取り組みらしいしな」


 それにこんなことは知らなくても問題なく生きてはいける。


「アレインがそんなに強いのも、魔力のおかげ?」


 俺の身体を観察するようにシンデリカは眺める。


「多分な」

「今更だけど、アレインってどれくらい強いの? 少なくともエルフの都には貴方よりも強い人は誰もいないけど」

「何度も言ってるだろ、世界最強だって」

「でも世界は広いって言うわ」


 シンデリカは俺がとてつもなく強いことは分かっていても、世界で一番強いからどうかは懐疑的らしい。


 ―――心外な。


 俺がドラゴンや魔族を一撃で屠ったのをもう忘れたのか。俺は割と自分が最強であることについては自信を持っている。


 世界中の人間に知らしめたい訳ではないが、俺のことを良く知る奴には、俺が最強ということを理解して欲しい。


「お前は俺の本気を知らない」


 言いながら、俺は周りを見渡した。

 地平線のあたりにおえつらえ向きに大きな岩があった。距離的にはここから1キロってところか。うん、いけるな。

 

「あそこに岩があるのが見えるな?」


 彼女が頷くと俺は手首を軽く振り、ストレッチすると深呼吸する。


「離れてろ」

 

 精神を統一して―――。


「よっと」


 遠くで大笑いしている魔族の顔面を打ち抜くイメージで拳を振るう。


 数泊遅れ、地平線近くの大岩が砕け散った。衝撃が風圧となって俺たちを叩きつける。


「……は?」


 シンデリカが呆けた顔で砕け散った大岩を見つめる。


「え、今の魔法?」

「いや。ただ思い切り速く、強く拳を繰り出して衝撃波を発生させただけだ」


 もはやエルフは半笑いだった。

「……とんでもないわね」


「お、ちょうど良く血の匂いに誘われてきたな。ちなみにこんなこともできる」


 間の良いことに、魔物がレッドウルフの血の匂いを嗅ぎつけて、名前の分からない亀に似た魔物がやってきた。


 俺は地面を力一杯蹴る。

 シンデリカから見ると俺が瞬きした間に消えたように見えるだろう。


「え、アレイン? どこ」


 俺は魔物に拳を叩きつける。魔物が絶命したこと確認する前に、間髪入れず再び地面を蹴り、シンデリカの元に戻ってくる。


「ただいま」

「え、魔物が弾けて―――。あ、アレイン! 今、魔物が勝手に内側から爆発したのよ!?」


「ああ、知ってる。俺が殺した。目にも止まらない速さで魔物のところまで行って、そして帰ってきた。ついでに拳を叩き込んでな。…流派によってはこの移動法を瞬歩というらしいが、俺の方が速さも移動できる距離も上だろう」


 シンデリカは草原に咲く真っ赤な薔薇みたいになった魔物と俺を交互に見る。


「なぁ、俺は最強だろう?」

「認めるわよ。というか、貴方よりももっと強いやつがいるなんて考えたくないわ」

 

 シンデリカは苦笑いだ。

 

「言ってしまってはなんだけど、そんなに強いならもし魔王とあってもへっちゃらねっ!」

「そうだけど、そうじゃない」


「む、難しいこと言うわね……」


「俺は誰にも負けないつもりだけど別に死人を生き返らせれる訳でもないし、何処にでも手が届くわけじゃない。精々1キロくらいだ」


「結構長い手ね」

 まぁ、他の奴よりは伸びるつもりだ。


「だけど、そこが限度だ」

「なら、その時は私の出番って訳ね! アレインの手の届かない所にいる人は私が助けてあげればいい」


 気恥ずかしさも見せず、シンデリカは言い切った。

 間髪入れずこう言える彼女のこういうこところ、俺は結構好きだな。

 俺はにっこり笑った。


「ああ、そうだな。頼りにしてるよ」

「任せて頂戴よ!」




 3日後、俺たちは城壁都市ロンドに到着した。


 町を囲むように築かれた城壁を眺めて、シンデリカは興奮しながら言う。太陽光を反射する石造りの分厚い壁が、力強く聳え立っている。

 

「おっきな壁っ!」


「城壁都市ロンドは元々は国境の砦だ。200年前、ここはガイアス王国とレトシア帝国の境で、戦争の為に作られたんだ。帝国が滅んでここら一帯が王国に併合された後は、交易の中継地として栄えている」

「へー、詳しいわね。流石!」


「ああ、この看板に書いてあった」


 俺だってこの町に来るのは初めてだよ。


「そう……」


 すんと、とシンデリがすまし顔になる。

 感心して損したとでも良いだけだ。色んな感情を素直に出すなこの子は。この子って言っても130歳だが。


 ……というか、別にいいだろう、看板の知識でも。


 俺たちは町の中に入る。

 大きな町だ、門では衛兵が待ち構えていた。とはいえ、簡単な身嗜みのチェックだけで中に入ることを許される。


 門の近くにやたらと豪華な馬車がとまっていた。


 あの意匠、聖教会だな…。

 聖教会の関係者とは、今はできるだけ会いたくない。町の中で鉢合わさないように女神に祈っておこう。


 ロンドは街の中も石畳で整備されていた。

 露天商が道の両側に並び、活気よく客を呼び込んでいる。当然、通行人も多く、その人種も人族に限らなかった。

 

「色々な人がいるわね。あの人、耳がかわいいっ!」


 すれ違った兎の獣人を見て、シンデリカがはしゃぐ。


「やめろ。失礼だ。本当にやめろ。今の時代、そこにはセンシティブなんだ」


 獣族は各国で奴隷として使役された時代が長い。

 シンデリカには悪気はないのは分かるが、そういう好奇の視線に彼らは敏感だ。


 ……いや、すいません。別になんでもないですよ、と俺はこちらを睨む兎の獣人に視線で謝る。


 町を歩いていると、俺はある店の前で立ち止まった。砂糖とバターの甘い香りが店先まで漂ってくる。


「ふむ、菓子店か」


 俺は軒先には小さな黒板が置かれており、チョークでずらりと品名が書いてあった。


「おまけにお勧めはアップルパイ、ね。シンデリカ、宿屋に行く前に少し腹ごしらえをしていこう」


「外界のお菓子? いいわね! 何をご馳走してくれるの?」


「アップルパイだ。世界一美味い食べ物だよ」


 脳裏にかつてのステラの声が蘇る。


『―――いいかい、少年。アップルパイが嫌いな女の子なんていないんだよ、覚えておくといい。女の子は全員アップルパイが好きなのさ。あれは神の食べ物だ。毎日、いや毎食食べたって良いくらいだよ。……ふふ、君も将来女の子をデートに誘うことになるかもしれいが、その時はアップルパイをご馳走してあげるといい。きっと君に夢中になる筈さ』


 後半のデート云々は置いておき、アップルパイがとても美味しいということは本当だ。初めて食べたときはこの俺が感動で声を漏らしたほどである。


 アップルパイは俺の好物であるし、ステラによるとアップルパイは女の子は皆大好きらしい。


 これはもう食べるしかないだろう。


 勇者パーティーでもよく仲間とアップルパイを食べながら、穏やかな時間を過ごしたものだ。


 ロンドの建物らしく店内は石造りでできているが、椅子やテーブルは年代物の木目調だった。


 店主が集めた各国の雑貨が棚には飾ってある。

 俺には物を集める趣味なんてないし、その良し悪しも全く分らんが、ああいう風に綺麗に飾ってあるのを見ると、なんかいいな、と思う。


 これは菓子にも期待が持てるな。趣味がいい店の菓子はうまいと相場が決まっている。


 アップルパイを注文すると、数分でやってきた。


 俺はさっそく頂く。

 パイはサクサク、リンゴの甘酸っぱさとバターの濃厚さの調和がたまらない。うーん美味い。


「美味しいわねぇ…」


 紅茶を飲んで、シンデリカはほうと息は吐く。夢見心地のような、とろけた顔だ。うん、菓子を食べるとそうなるよな。


 やっぱり女の子はアップルパイが好きなんだな!!!



 シンデリカがこの城壁都市で毎食のようにアップルパイを食べさせられ、「いくら美味しくても毎食は飽きるわよ!」とキレる羽目になるのは、また別の話である。



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