成れの果てのキセキ〜紙飛行機に転生した悪魔〜
「待って!」
叫ぶ姫の手をすり抜け、紙飛行機は飛び立つ。まるで生き物だ。
「あぁ、大変……」
――あれが城の誰かに見られたら、大変なことになる。
しかし、姫が窓際から覗くと、紙飛行機は城壁を越え大空へ飛び出して行った。
――いったい、どこまで……?
紙飛行機が飛んだ先に故郷の国があると、姫が気づいたのはしばらく後だった。
†
自由に空を飛ぶのは気持ちがいい。
生まれ変わって紙飛行機になった悪魔は、改めてそう思った。
転生先の公爵城で、息を潜めて過ごすのは苦痛だった。――あのガキども、散々俺を投げ飛ばしやがって。
なぜ、紙飛行機になったのか? それは悪魔にもわからない。
ただ、前世の最期で部下に裏切られたことは、よく覚えていた。
先の姫は、元は小国の王女だった。彼女は父王の命で大国への人質とされ、公爵に下賜された。
ある日、彼女は公爵が大国で王家転覆を企んでいると知った。秘密を胸に留めておけず、城内で見かけた紙飛行機を自室に持ち帰り、それを広げて秘密を綴った。
正気に戻った姫が紙を処分しようとすると、それは独りでに舞い上がった。元の紙飛行機の姿となって。
悪魔の魔法が為した業だった。
――さあ、どこへ行こう?
この国は広く、王は用心深いらしい。
ならば、姫の故国へ行こう。
姫をよく知る者の手に届けば、公爵の企みは潰せるだろう。
紙飛行機は飛ぶ。
悪魔が溜めたなけなしの魔力で、どこまでも。
雨にも負けず、風にも負けず、空飛ぶ魔物にも負けず。
農夫は驚き、旅人は祈った。
狩人は矢を射掛けたが、届かなかった。
紙飛行機は野を越え、山を越え、やがて国境をも越えた。
――ははっ、おかしなものだ。
紙飛行機は内心で己を嘲笑った。
前世では血も涙もない悪魔だった俺が、人の世の革命を止めようとしている。
……姫に同情したか、王と自分を重ねたか。
理由なんて、どうでもいい。
魔力を使い切れば、俺の魂は再び死を迎えるだろう。
望むところだ。
たかが紙飛行機の命の賭け処としては上々だ。
そして、紙飛行機の魔力が尽きかけたとき、空から大きな魔鳥が襲いかかった。
†
「……おや?」
小国の王城に務める侍女は、城内の片隅でボロボロの紙飛行機を見つけ、拾い上げた。
……中に何か書かれて――?
侍女が広げてみると、紙面は意外にきれいだった。
現れた筆跡に侍女は見覚えがあった。
「姫様の字……? ――こ、これはっ!」
その後、小国の王がもたらした情報によって、一つの悲劇が防がれたのだとか。