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死神の石  作者: 白髪 シホォン
6/10

じじ孫

「昔っから見えていたとはなあ…。」


 導ノ内さんは「なんで言わねんだ」と恨めしそうに睨む。目で咎められている青年はというと、「いや、わざわざ言うもんでもないし…」と気まずそうにしていた。


「まあ、これを飲ませる必要がなくなったんだ。手間が省けて万々歳だろ。」

「…………なあ、シネラさんよ。それの中身って…。」

「残り少ない寿命縮めたいか、導ノ内のおっさん?」

「今ので大分縮んだわ、ボケ。」


 シネラさんは相変わらず、導ノ内さんには上品そうな格好からは想像も付かない言葉遣いを使っている。

 それに驚いているのは青年も同じなのだろう。導ノ内さんとシネラさんを交互に見ては目を丸める。私だって慣れなくて、ちょっとおっかなびっくりしてるのだ。

 余談だが、腰のバッグにしまったガラス瓶の中身は赤黒かった。何も言うまい。


「で、やっと本題に入れるか。秀政、今日は引き続きをするって伝えてたよな?」

「あ、はい。えと、それと死神に何の関係が…。」


 仕事の気配を感じてか、青年は何かしらのスイッチが入ったように雰囲気をしっかりと正す。しかし、後半の引き方には親近感を覚えた。


(分かる。絶対ロクでもないなってなるよね。)


 うんうんと小さく頷くも 自分も同じ立場だということを思い出して現実逃避したくなった。

 以下、暫く、導ノ内さんによる説明が行われる。内容はおおよそ、私がさっき受けたものだ。


「つまり、導ノ内ファミリーのボスになるなら、死神との同盟維持も必要不可欠な仕事だと。」

「そういうことだ。俺らが生前の秩序を保証する組織なら、死神は死後の安寧を保証する者。そして、ここ最近の汚染事件、これは生前にも死後にも関わってくる案件だ。ボスとして、お前には死神と協力し、事件の調査と解決を命ずる。」

「マジか…。」


 あえなく同じ運命を辿った青年を横目で見ながら、導ノ内さんの言葉に気になる単語が幾つかあったことに気付く。


「あの、『汚染事件』というのは?」

「死神の方だと、穢れ増殖事件だね。ここに来る前、君を襲ってきたモノを覚えてる? アレがあちこちで出没しているようなんだ。」


 覚えてるも何も 私の死神生の中で1番身の危険を感じた出来事だ。それこそ、あと10日は覚えてられる自信がある。あんなのがいっぱい出没してるなんて考えたくない。


「…あ、だから汚染事件? 穢れが長時間溜まると、その場はありとあらゆる命を脅かす負の土地になる。人間からしたら、そこは毒が染み付いたような汚染地帯の出来上がり…。」

「そう。その為、今回の事件は人と死神が協力して立ち向かう必要がある。人にとっても死神にとっても 穢れが蔓延し放題なのは大問題だからな。」


 負の感情をかき集めて出来た穢れは、魂どころか土地をも汚染する。汚染された地は、そこからまた魂や人体、私たち死神にまで害を与え、最悪の場合 全ての生き物を死に至らしめていき…放っておけば、穢れと死の連鎖の出来上がりだ。


(そうならないように死神は穢れを祓う役目も担っているのだけど、それが穢れの増殖で間に合っていないと言うのなら…。)


 下手をすると死神の失踪事件も関わってくるとか、人間の方でも きな臭い噂が出回っているとか……どうやら、私達がすべきことは引き続きだけで済まないようだ。予想はしてたけど、家には当分帰れそうにない。


(あとでシネラさんに連絡入れといてもらおう。)


 家に残してきた母を思って今後のことを考えていると、今度は青年が声をあげる。


「それじゃ、政府や他の人間組織に協力を仰がず、俺達と事件を捜査する理由は?」


 導ノ内さんのところは、ここら一帯をしめているとはいえ範囲はひと地域ぐらい。しかも マフィアというアウトロー。世間的には認められない、勝手に民間人の安全保障を買って出て対価を求める組織だ。真っ当な解決の仕方を選ぶなら、彼の言う通り国相手の方がいいのだろう。

 シネラさんは彼の疑問を肯定しつつ、それをしない理由を述べた。


「まず、死神の存在を受け入れられるまでが高難易度だ。目の前で実演してみせてもな。これが国の頭とかになると、主要機関を用いて捜査を始めるのにもっと時間を要する。…国の機関を頼ったからといって、隅から隅まで調べられるとは限らないしな。それに、この事件が多発しているのは世界中でこの近辺だけだ。」


 導ノ内じじ孫があっさり受け入れてくれるから忘れかけていたけど、普通の人間は理解の範疇である私達を簡単に認めてくれはしない。死んだ人間でさえ最初は疑ってきたり、死神だと信じてもらえても怖がられるのや嫌われるのが日常である。

 そういうのが世間一般だと思い出した青年は、「なるほど…」と考えるように頷いていた。


「ちなみに、この近辺だけというのは、どのくらいの範囲を指すんですか?」

「ザッと、この島国の半分ぐらい。」

「それ、けっこうな範囲では…?」


 島国半分はけっこうな範囲らしい。死神の暮らす天界と比べたら私も広いと思えるが、人の暮らす下界の地図で見ると点ぐらいの大きさなのに不思議なものである。


「君の言う通り、時間をかければ他にかけ合った方がいいのかもな。けど、導ノ内おっさんだったら、頼っていいって思っちゃったんだよ。巻き込んで ごめんな。」

「い、いえいえ! そういう、こと、じゃ…。」


 また笑ってるシネラさんの顔は、けれど どこか哀愁を感じさせるものだった。チラリと導ノ内さんの方を窺うも そっちはそっちで読みづらい表情をしている。


「ま、ぐだぐだ言ってたってしょうがねえ。死神の嬢ちゃんよ、俺らの町はもう見たか? 調査がてら、町の案内と行こうじゃないか。」

「ボス御自ら⁈」

「四六時中 椅子に座ってりゃあ、体鈍るだろ。」

「そりゃ、そうだけども…。」

「敬語が取れてる。」

「そう、です、け ど も!」


 親子漫才ならぬ じじ孫漫才。いつか読んだ下界の漫画を思い出した気はしたが、特に関係ないので思考をやめる。

 それにしても 戸惑ってる彼ほどではないが、私もマフィアのボスがこういう私用で動いていて大丈夫なんだろうかと疑問に思った。

 ただ、そういう疑問はお見通しなのだろう。導ノ内さんは孫の頭をポンポンしては「引き続きだ、引き続き」と言った。


「少なくとも 事件解決まではこの嬢ちゃん達と一緒に行動するんだ。お前がこの子らに粗相するようだったら、俺は教育方針を考えないといけなくなる。」

「監視ってわけか…。」


 お目付け役ともいう。

 確かにマフィアボスの孫ともなると、身内が指導するしかないのかもしれない。


「シネラさん。彼のご両親は…?」


 ソファから立ち上がり移動する流れで、先に扉へ向かった2人に気付かれずにシネラさんへ耳打ちする。2人に直接聞かなかったのは、人間に死の話をすると恐怖や悲しみを抱くからだ。

 果たして、それが正解の行動だったと私は知る。


「母親の方は健在のはずだが、父親は既に亡くなっている。君が彼らに直接聞かなくて良かった。」


 ついでに、引き続き候補として選んで良かったとも言われたが、そっちは少々不本意だ。

 人間(の魂)は商売相手。機嫌を損ねると仕事がスムーズに行かなくなるのだから、彼らに興味はなくとも 多少の気配りぐらいはするというもの。

 死神不足の昨今、生憎と自殺担当の先輩からマンツーマンで付きっきり指導はもらってないが、私は母にそう教わったのだ。


(それとも…。)


 周りの死神は違うのだろうか。仕事効率の為に人間を大事にしようとしない輩がいたりするのか。


「さあ、人の姿になって。町を歩いて人と話すなら、そっちの方が都合がいい。」


 そう言いながら人間の姿を纏った彼女は、死神の姿からは想像も付かない黒髪黒目の女性になっている。私も言われたように姿を変えるが、死神の時の色の名残りが見える明るめの茶髪に琥珀の瞳だ。彼女の黒は、きっと“人”だった頃のものに違いない。


「お、死神のも愛らしいが、人の姿もまた可愛らしいな。将来はさぞ別嬪になることだろう。」

「それ、何十年後の話です?」

「ははは、死神ってのは長生きだったな。だが、成長速度にあまり差はないと聞いている。そうなる未来も きっとすぐだろうよ。」


 導ノ内さんからベタ褒めされるが、実感は湧かない。別嬪にというなら、せめて このクマをどうにかしてからでしょと思った。

あ、下界に近い世界観って北斗の〇かもしれない。あれよりは物資や文明、形ばかりの国も残ってるし、ヒャッハー言う奴は出てこないけど。

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