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死神の石  作者: 白髪 シホォン
10/10

貴族死神

 夢を見ていた。

 夢だけれど、現実にあった…お伽話みたいな記憶。


(なんで忘れていたんだろう。そもそも 私はどうして眠っていたんだっけ…。)


 まだボンヤリする頭を動かして、周りの様子を確認してみる。天井、部屋、窓、日差し、ベッド、それから………思考が纏まる前に、側にいた誰かが私に声をかけた。


「目が覚めたかしら。」

「はい。あの…あなたは?」


 知らない相手だ。私と彼女がいる一人分の部屋には他に誰もいなくて、自然と警戒心が持ち上がる。だけど、すぐに、彼女が死神(同族)であることに気が付いた。

 人から見れば20、30ぐらいのその女性は、私を安心させる為にニッコリと微笑みを浮かべる。


「カノーア=リッコアよ、よろしくね。」

「リッコア…さん?」


 名字がある死神なんて珍しい。それを持っているのは、力や地位を重んじる貴族死神のはずだ。結局、警戒心がまた上がった。

 しかし、彼女は私の心を見透かすような緑石の瞳を細めて、お上品にコロコロと笑う。


「カノーアでいいわ。あなたが急に倒れたから診てくれって頼まれたのよ、シネラに。」

「シネラさんに…?」


 そこで、ようやく思い出した。私は導ノ内じじ孫に案内されて、シネラさんと一緒に下界の町を散策していたところで…意識が途絶えたのだ。

 シネラさんが頼んだというのが本当なら、カノーアさんは信用していい相手なのだろう。私がそうこう考えている間にも 彼女は私の体を触診して具合を診ている。


「脈拍、瞳孔、異常無し。……大丈夫そうね。死神の石も濁った気配が無いから、穢れの後遺症ではなかったのでしょう。何かあったとすれば…。」


 そう言って、カノーアさんは膨らみのあるハンカチを取り出す。中には、バラバラになった夕日色の石のカケラが集められていた。


「見覚えは…あるようね。」

「はい…。父の石です。夢を見て、思い出しました。」

「夢?」


 これは隠すことでもない。そう思って、カノーアさんに夢のことを話した。プライベートである個人名は伏せ、過去にあった現実であることを含めて、私は覚えている限りのことを伝える。

 本当は、先に母に事実の確認を取りたかったが、カノーアさんの目は穏やかなのに逃がしてくれそうになかったのだ。何か、本能的に逆らってはいけない気配を感じる。

 ともあれ、私は情報共有を(おこな)った。すると、彼女は納得したように頷く。


「…そういうこと。おそらく、死神の石を使った封印ね。あなたが話してくれた記憶、その全てを封じていたんだわ。」

「いったい、何の為に…。」


 父が私の記憶を封じた理由が分からない。母に聞けば分かるのだろうか。夢の中で父が何か言っていた気はするけども 私には今も昔も意味の分からない言葉だった。

 だけど、カノーアさんには心当たりがあるらしい。


「そうね、私の憶測にはなるけれど、“あなたの身に危険が及ばないように”かしら。」

「危険?」

「ええ。あなた、人と接触したことで人に好意を覚えたのでしょう?」


 言い方が堅めなのに直球ストレートで返答に迷ってしまったが、そう間違ってもいないから頷いて肯定する。それを見た彼女は、どこか嬉しそうな表情になっていた。


「何か?」

「ごめんなさい、気にしないで。個人的なことよ。」


 気にしないでと言われても気になるのだが…個人的なこと(プライベート)と釘を刺されてしまっては聞きようがない。私だって、知り合って間もない相手にずけずけと入り込まれるのは嫌だ。だから、ここが引き際なのだろうと自粛する。

 カノーアさんは「私も人は好きな方よ」と言って話題を戻した。切り替えの早さに、出来る死神を思わせる。シネラさんと知己のようだし、彼女もベテラン死神なのだろう。


「でも 貴族や…あなたのお父様世代より上だと特に、かしら。人を、人間を、下等な存在だと見下す死神は多いの。」


 悲しげにカノーアさんの目が伏せられた。

 シネラさんと話していて、似たようなことを考えたことはある。ここまでの暴言が出てくるほどだとは思ってなかったけれど……私が想像しているよりも 死神と人間の関係って実は相当不味い状態ではないだろうか。

 だとすれば、私が思い出した記憶をアレコレ話したのは軽率だったかもしれない。


「ご両親は、あなたに偏った教育をしなかったようね。」


 私はハッとなる。カノーアさんが私の言動を見て微笑む理由…それは、導ノ内さんやシネラさんが話していたみたいに、人に偏見を持たない死神はかなり少ないからだ。

 私は森の外れ、死神の多くが住む町や村から離れて育った。その為、そういった世論に馴染みがない。加えて、父に関する記憶は相変わらず数えるほどだけど、母は人の世界について悪い面も良い面も口にしていたように思う。つまりは、カノーアさんの言うように“偏った”環境にいなかったのだ。

 私は、自分の育った環境が周りに比べて特殊なものだと理解した。それと同時に、のびのびと育ててくれた親に感謝の念が湧く。カノーアさんの言うような死神になっていたら…もし、他の死神と同じような価値観が育っていたら…。

 私のした『あの約束』は、どんな形であれ完全に消えていただろう。


「ミランちゃん(・・・)?」

「あ……いえ、大丈夫、です。」


 タイミングよく、ちゃん付けで呼ばれてドキリとする。この短時間で与えられた沢山の情報に、まだ頭の動揺が収まらない。

 ただ、蘇ったばかりの記憶は、私の心に深く根を張り始めている。もう二度と手放したくないという思いでいっぱいだ。だから、これで良かったのだと考える。


「お父さんが私の記憶を封じなかったら…私、どうなっていたんでしょうね。」

「そればかりは想像するしかないわ。何も変わらなかったかもしれないし、タチの悪い死神に目を付けられた可能性もあって…交友関係は今の“ゼロ”よりも悪化していた確率が高いわね。でも全て「もしも」の仮定でしかなくて、終わった話よ。」


 さらっと酷いことを言われた気はするが、コンコンと扉を叩く音にこの話は強制終了させられてしまった。


「起きてるようだが、入っても大丈夫そうか?」

「ええ、大丈夫よ。」


 シネラさんの声だ。

 それを聞いたカノーアさんが入室を許可する。扉を開けて入ってきたシネラさんの格好は死神のものに戻っていて、なんだか少しホッとしてしまった。


「ミランちゃん、体調はどうだ?」

「ご心配をおかけしました。まだちょっと混乱しているところはあるけれど、体に問題はないです。」

「混乱? 何があった?」


 毎回1から100まで伝えるのも面倒だ。私は、カノーアさんに話した時よりも掻い摘んで伝える。時折、カノーアさんが自らの視点による補足を入れてくれたお陰で、私の身に何が起こったのかはシネラさんにすんなり伝わる。

 相槌を打ちながら聞き終わった彼女は、何故か呆れた口調でこう言った。


「死神の石ってのは、何でもアリか。」

「何でもは無理よ。でも 使用者次第かしら。この石は、私達 死神にとって力の源だもの。」


 2人の会話にそういえばそうだとなる。私も 死神の石はもっぱら武器として使うのだと思っていた。

 だけど、父が私にしたこと然り、カノーアさんの言い方的に石の用途は幅広い様子。私はまだまだ死神としての勉強が足りないらしい。


「ともあれ、体が無事なら私の出番もここまで。他のことに関しては、あなた自身で解決するのが1番でしょう。」

「面倒なだけだろ。」

「私、最近、縫い物にハマっていてよ。」

「口を縫うってか。勘弁してくれ。」


 こっちとしては、今の言葉だけで嫌味の意味を瞬時に把握した阿吽の呼吸(?)に驚きである。


(私のことでカノーアさんを呼んでくれたみたいだし、2人は友達だったりするのかな。)


 友どころか同期という関係も希薄な私には縁のない話。気心の知れた相手という関係に少し…いや、かなりの羨望がある。


「仲がいいんですね…。」

「いや、いいって言っていいのかどうか…。ああ、けど、面倒事でも頼んだら下界にまで来てくれるのは温情、かもな。」

「あら、これでも身内には優しいのよ。あなたの後任候補が気になったから観察に来たっていうのもあるけれど。」


 時々、触れちゃいけない棘か毒が見え隠れしているカノーアさん。優しいけれど、シネラさんがいないと怖いかもしれない。

 とりあえず、急に記憶が戻ってきた衝撃や不安もあるし、彼女達を敵に回していけない&当分は庇護下に入れてもらう努力をしようと決心した。

 今までは貴族どころか死神同士の交流もロクにしてこなかった身だ。私の価値観によって新たな事件勃発に繋がる可能性があるのなら、ひとまずは権力に守ってもらうのが安全策である。


「というか、シネラさんって貴族とも交流あるの…どれだけ上の死神…??」

「上の死神って言われても…。」


 もしやシネラさんも貴族なのではと勘繰ってしまうが、元が人間という告白を思い出してこれは違うとバツを付ける。

 私の呟きを拾ったシネラさんは困った表情になっていた。まるで不本意だと言わんばかり。

 全てを一歩引いて聞いていたカノーアさんは、とてもイイ笑顔でシネラさんの代わりに肯定する。


「あら、ガッツリ“上”じゃない。役職こそ、ただの(・・・)ベテラン死神だけど。」

「そうなった原因が、ノーアなんだけどな。」

「否定はしないわ。」


 文脈から、「ノーア」という愛称は「カノーア(・・・)」さんのことなんだろうと推測する。それから、シネラさんも何かに巻き込まれた側なんだということも。

 理不尽とは、下へ下へと受け継がれていくものだったりして。嫌な継承だ。


 カノーアさんはというと、シネラさんと親しげな遣り取りをしながら帰り支度をしている。日が落ち切る前には帰る予定だと言った。家でゆっくりしたいのだろう。

 引き継ぎや例の事件について頑張ってねと軽い激励を口にして、支度を終えた彼女は非人間らしく窓から去ろうとした…その時だった。


“伝令”


 1匹のフェレットが、カノーアさんが手にかけていた窓からスルリと入ってくる。下界の物理的な障害をものともしない動きは、まさに天界に生きる者…ひいてはそれに仕える使い魔や眷属そのものだ。なんなら、体毛がほんのりと青い。

 言葉を発した辺り、このフェレットは誰かの使い魔で、主の言葉をここにいる3人のうちの誰かに伝えにきたといったところだろう。いったい何をと考える暇もなく、フェレットは抑揚のない声音で3人ともに内容を伝えてきた。


“禁域から大規模な穢れが発生。下界の生命に影響を与える前に、速やかに浄化してください。場所は追って説明します。”

「禁域っていうのは…。」

「約100年前の大戦で出来た不浄の土地の一つだな。汚染が酷く、常に穢れと瘴気で満ちた区域で、封鎖されている所が多い。」


 それ故に人も死神も立ち入らない場所。少し聞いた覚えがある。


「わざわざ“発生”と表現したのなら、意思を持って動いているということなんでしょうね。ああ、もう、帰ってティータイムを堪能してからお風呂でじっくり疲れを取る予定だったのに。」

「めちゃくちゃ優雅な予定だが、ガン潰れだな。どんまい。」

「そうね、刺繍の腕を上げておくわ。」

「何を縫い付ける気だ!」


 お互いアレコレ言いながらも出撃の準備は整ったようだ。先程 出ようとしていた窓に、シネラさんも足をかけた。

 私は。私は……。


「私も、行かせてください。」


 私の発言に、シネラさんは目を丸くした。まだ関わって1日も経ってないけど、そう思われるのも分かる。

 私は母と2人で暮らしていける分が稼げたら、それで良かった。大変なことに関わって、私の身に何かあって生活を支えていけなくなったら困ると思うのは、今でも変わっていない。

 けれど、一つだけ。思い出したばかりの約束が、私の体を動かそうとしている。


「ここで休んでいても 減俸とかはないぞ。協力してくれたら、ボーナスは付くかもしれないが。」


 シネラさんの言葉に、私は違うと首を振った。


「約束したんです。立派な死神になるって…子供の頃の、他愛無い口約束なんですけど。」


「でも 思い出した以上、守らなかったら相手に悪いでしょ?」と言うと、顔を見合ったシネラさんとカノーアさんは揃って頷いてくれた。


「シネラ。あなた、いい子を見つけたわね。」

「幸い、周りには恵まれて育ったんでな。そういう運なら、あるって言える。」

暫く見ないうちに仕様変わってるう⁈ 新仕様どころか元々の機能を十全に使えてないんですけど……まあ、投稿が出来れば大丈夫ですよね…!

ただ、創作意欲低下中につき、ちと牛歩になります。

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