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死神の石  作者: 白髪 シホォン
1/10

死神ミラン

何年か振りなのもあって、なろうの機能を色々覚えてません。よろしくお願いします。

 元は沢山の人が行き交っていたビル街だったりしたのだろうか。しかし、今では人気(ひとけ)もなく、ガラスが無くなって久しい窓枠を冷たい風が通り抜けるのみ。

 そんな寂れた場所を1人、その者は靴音を鳴らすことなく歩いている。目深に被ったフードからは一房のピンク髪がゆらゆらと…揺れていたことも気にかけずに、一件のビルを見て立ち止まった。


「……。ここかな。」


 柔らかい唇から漏れた声は、未だ幼さの残る少女のもの。金の双眸は、人の手が入らないまま放置された廃ビルを見上げている。

 彼女の小さな呟きは誰に聞かれることもなく、ビルの中へと消えていった。


 *


 ひと口に『死』と言っても この世には様々な死が存在する。

 寿命、病死、衰弱死、自殺、他殺死、戦死、事故死、餓死、中毒死、刑死…。生き方に万の数があれば、死に方だって千の数はくだらないはず。

 ただ、昨今だと「刑死」は滅多なことでは お目にかかれない死に方だ。

 何故なら、武器の所持に関する取り締まりはもちろん、法律自体が残っているかも怪しいからである。私自身、『法律』というものを見たことがない。


(まあ、法律があったとしても 私には関係のないことだよね。)


 とはいえ、だ。

 直接関わってこないだけで、全く関係がないわけでもない。

 人はどうも 法とやらで縛られないと死が多くなる様子。

 武器は頻繁に売買され、殺しは獣だけに飽き足らず、治安が保たれていない場所では夜も落ち落ち寝てられないと聞いた。

 だから、ここ(・・)も そういう場所なのだろう。


「典型的な首吊り“自殺”ね。」


 私は、電気の通わなくなった電灯からぶら下がる一体の死体を見る。このご時世ではそこそこ綺麗な死体だった。

 大方、先の見えない未来に絶望して首を吊った…というところか。


(ふぅ。)


 仕事だけれど、気が重い。私は小さく息を吐いてから、顔を上げて手を差し伸べた。


「さあ、迎えに来たよ。」

 “私が見えるの…? あなたは一体?”


 抜けたてホヤホヤであろう霊体が、私の手と顔を交互に見て戸惑っている。

 私はとびきりの営業スマイルを作って、こう答えた。


「私は“死神”。死神のミランよ。こんな暗い所からは さっさとおさらばして、早く天界に行きましょ。」




・───────・────────・────────・────────・


 死神。それは、生きとし生けるものの命を狩る存在。


 ── ではなく、現世で迷える魂を回収し、天界へと運ぶ者たちのことである。

  死神からしたら、の話だが。



・───────・────────・────────・────────・



 “し、死神⁈ ”


 霊体は、私の言葉を聞いて怯え驚いたように震える。

 死神である私からすると、私たち死神なんて所詮はただの運送業者という認識なのだが…どうにも 人間たちにとっては違うらしい。

 死神は命を狩るだとか、随分と物騒なイメージを持たれたものだ。


(また(・・)、お仕事についての説明をしなければいけないみたい。)


 私はコホンと一つ咳払いをし、いつもの営業トークを開始した。


「そう、死神の仕事はあなた達、死んで魂だけになっちゃった人を安全に天界まで運ぶこと。だからね! この袋に入ってもらって、安全に天界まで行ってもらうの!」


 私は腰に下げていた袋を手に取って、口を軽く開けて中を見せる。先客が詰まっていて少々窮屈そうに思えるけど、彼女までなら快適な輸送が保証できるだろう。


 “天界…天国って事? 私を天国に連れていってくれるの?”

「ええ、もちろん。」


 天界を天国と言い換えていたが、否定しないでおく。人からすれば、まあ どちらも大体同じだろう。

 現に、天国だと認識した相手は喜色を伝えてくる。素直に袋に入ってもらえるなら、私も仕事が楽でいい。

 なんだけど、袋に手を伸ばした霊体はフルリと震えて急変した。


 “ああ、でも……私…わた、わたし…私、ハ……!”


 頭を抱え、うめき始める。その周りには、黒く澱んだ空気が現れ出していた。

 私は一歩引いて手を構える。空気を棒のように掴む形に。


「大丈夫。大丈夫よ。私が必ず、あなたの魂を守ってあげるから。」


 そう言い聞かせながら、手の中に自分の武器である大鎌を出現(・・)させて斬りかかった。


 “シニタク、ナ…”


 時間はかけない。私は素早く鎌を回し、霊体を囲う黒いモヤだけを切り払う。

 言葉にすれば たったそれだけのことだが、モヤが無くなると澱んでいた空気は先程と打って変わって軽くなっていた。


 “……あれ、私?”


 正気に戻ったらしい反応を見て、私はホッと肩の力を抜く。

 鎌は見つかると騒がれそうなので、宝石の状態(・・・・・)に変えてから腰に掛け直しておいた。

 これも人間の武器とは違う点の1つ。穢れを祓えるだけでなく、どんな形の武器でも 手のひらサイズにしてしまえるのは非常に便利だと思う。


「安心して。あなたは少し錯乱してただけ。魂が現世に長く留まってしまうと、穢れが蓄積してこういうことが起こり得るの。だから、早く行きましょ。さあ、入った入った…!」

 “え、ええ…わかった、わ?”


 穢れは一度祓うと次に蓄積し始めるまでの時間的猶予が生まれる。けれど、穢れによる精神汚染は個体差があるし、再発の危険がある現世にグダグダと留まっている理由もない。

 危なっかしい魂はさっさと袋に詰め込んで、私はビルの割れた窓から地上を「おさらば」した。

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