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トーキン・アット・ナイト

設定の整合性とかは技研都市の郊外のドヴに投げ捨てて来ましたわ~~~~~!!!!

「ハンドラーウォルター、貴方はなぜあたしの手足を切り取らなかったの?」

「・・・・・・なんだと?621、もう一度言ってみろ」


 ドーム状のアクリルパネル越しに目があった気がした。彼の顔は手元の電子端末に向けられたままだからそれは気のせいだ。

 ハンドラーウォルターを名乗るこの男、自分の猟犬の肉体再生処置をそばで見守り続けているこの男は、実に感情が豊かだ。本人は隠しているつもりのようだが、純粋な心配で声を荒げられる人間の感情が薄い訳がない。傍で見ていなくても自動で終わる治療術式をただ見守るために夜更かしする人間が、冷徹な訳がない。


 もはや聞きなれたその声色から、彼の今の感情は概ね推測できた。だが、なぜ彼が怒っているのかまではわからなかった。


「今日は僚機にRaDのチャティ・スティックが居た」


 621と呼ばれるこの女、ハンドラー・ウォルターが所有するAC用ハンガーの片隅にねじ込むように据え付けられた手術用無菌室のオートメディックによる肉体再生処置(現在は半ミイラ化した四肢の筋肉細胞を強制分裂させることによる半自然再生術)を受けている女の元の名前は、■■■■■(記録抹消済み)といった。いや、名前が無くなっているのはたいしたことではない。実験的だった強化人間手術が殆ど失敗で終わった事もたいした問題ではない。その過程で大半の記憶が喪失したのも気にならない。また雇い主が変わったのもどうでもいい。どれもよくある話だ。

 彼女にとっての最大の問題は、自分の脳が戦闘以外の思考能力を取り戻しつつあることだった。記憶にある限り始めてのその感覚を、彼女は持て余していた。


「知っての通り、その機体の足は軽量のタンク。そして、それのコンセプトは競技用車椅子」


 天井を見つめたまま話を続ける。


「改めて思うの。凍結処理が劣悪だったせいで使い物にならなかった四肢をわざわざ時間も金もかけて再生するより、切り落として義肢なんかを着けた方が手っ取り早く確実で、何より戦闘能力の向上にも繋がるのに、って。それこそ競技用車椅子を下半身に換装するような、常軌を逸した負荷に耐えさせられるのが、強化人間の強みの筈でしょ?」


 改めてウォルターに視線を向ける。声を出して話を続ける。首に巻かれた小型マイクが掠れた肉声を増幅して空気を振動させる。


「あなたの肉体再生計画は無駄が多すぎる。わざわざ声帯を再生しなくても、脳からの発話信号を直接再生装置なんかに繋げば良かった。眼球もわざわざ元の形を推測して義眼を作らなくても、もっと高感度の多機能センサーを取り付けて視覚野に再統合した方が便利になったはずなのに」

「・・・・・・そうか」


 彼の顔は先程よりも深く伏せられていた。だが声色はいくらかいつもの穏やかさを取り戻していた。その穏やかさに安心してしまった自分に少し苛立つ。この安堵は戦闘中において致命的な甘さになりえる。


「確かに、AC類を始めとした人型兵器に人体の感覚に追従させることで操作性を押し上げる技術を流用すれば、今のやり方よりもよほど効率良く再生の行程は終えられるだろう」

「だったら」

「だが」


 ウォルターがあたしの話を遮る。記憶にあるかぎり始めてのことだった。


「ある友人が、こうも言っていたのを思い出してな」

「?」

「『生きるってさ、そういうことじゃないだろ?』、と」

「どういう、こと?」


 よく目を凝らす。今まで見たことのないような、微笑みにも見える表情が見えた。寂しげでもあった。


「正しく死ぬ、ということだ」


 その顔と声はなにかを思い出し、一瞬だけ苦痛がよぎった。


「・・・・・・少し、話し過ぎたか」


 ウォルターが眉間を揉みながら言う。わざとらしく見えるのは気のせいだろうか。


「もう休め、621。俺もすぐ休む」


 そう言ってまた端末に目を落とす。あたしも目を閉じる。だがウォルターは、これまで術式が終わる前に傍を離れたことは無い。今回もそうだろう。


「おやすみなさい、ハンドラーウォルター」

「・・・・・・ああ、よく休め」

めっちゃどうでもいいけど時系列はデスワーム撃破直後です

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