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わがままだって言いたくなる  作者: 餅月 響子


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33/36

第33話

晃は、果歩の言葉を信じられずに

膝を落として、

果歩の肩に手を触れた。


「一旦、落ち着こう。

 今、具合悪いんだよね。

 比奈子もそばで聞いてるし

 今じゃなく、後で真剣に話そうか。」


 現実から逃げるように

 晃は、なだめようとする。


 背中を撫でる手を振り払った。


「もう、たくさん!!

 我慢するのはもうできない。

 私はいつまで

 自由になれないの?

 子育てもそう、

 家事もそう、

 仕事もそう。

 比奈子には申し訳ないけど…。

 ここで

 私は生きていけない。」


 病院のお見舞いから帰ってきて、

 実母の紗の言葉が鮮明に思い出される。


 晃は子どもを大事にしてくれないという

 言葉が脳裏に焼き付いて離れない。


 わかっていたはずなのに

 結婚する前から

 マイナスからのスタートで


 これから良くなると思っていたはずなのに

 自体はますます

 不運に見舞われる。


 果歩は、精神的にも肉体的にも

 限界に達していた。


 クローゼットの前に

 キャリーケースを広げて、

 必要最低限の洋服をまとめ始めた。


 

 この世の終わりになるのかというくらいの

 感情が晃に湧き出てきた。


 果歩の行動を1つ1つ、じっくりと見るが、

 止めたくても止められなかった。


 比奈子は状況を察して、

 離れて、リビングのソファに1人

 ぽつんと座って

 落ち着くのを待った。


 沸々と、わきあがる気持ち。

 言いたいことを

 我慢して

 我慢して

 どうせ言っても無駄だろうという気持ちが

 いつもあった。


 夫の稼ぎで生活できるのは

 ありがたいが育児だけでは

 生きがいを感じられなくて

 仕事をしたいと思っているのに

 却下されて

 家事も育児も全て人任せ。


 全ての家事育児は

 分担してほしいし、

 仕事くらい

 させてほしい。


 ずっとずっと我慢してきた分、

 わがままだって言いたくなる。


 これまで何度も話し合いを

 してきたが

 晃は首を縦には振ろうとはしなかった。


 果歩の頭の中の

 何かが切れた。


 もう無理だと。


 きっと実母の言葉で

 スイッチが入ったんだろう。


 真っ暗な夜の中、

 果歩は軽自動車にキャリーバッグを

 積んで何を言わずに

 エンジンをかけた。


 行き先はどことも言わず

 走り去って行った。


 

 晃は玄関まで追いかけたが

 止めようがなかった。


 車の前に出ようにも

 怪我をしてしまうかもしれない。


 そこまでの思い入れがなかったのかと

 後々、後悔する。



「果歩が家を飛び出すなんて初めてだ…。

 大丈夫とかよく言ってたけど

 本当は全然大丈夫じゃなかったんだな。」



呆然のリビングの扉の近くで立ち尽くす。

比奈子は、晃の様子を伺った。



「ごめんな。

 俺って、どうして

 相手の気持ち、読めないのかな。

 絵里香といい、果歩といい…

 その時の欲求そのままに

 動くから

よくなかったのかな…。


 比奈子、俺、戻れるなら

 過去に戻りたいよ。


 あの頃の俺たちは

 幸せだったんだから。」


 過去の栄光にすがる晃。

 どんなに頑張っても過去に戻って

 やり直すことなんてできない。


 どこをどう直せば、

 あの時の自分、あの幸せな時を

 羨ましがった。


 安息の地に、平和な地に

 行きたいと、誰もが願うが

 そんな場所なんて

 どこにもない。


 ずっと幸せな時間なんてないし、

 ずっと不幸な時間なんてない。


 晴れの日もあれば雨の日もある。


 その上がったり下がったりする

 気持ちや空間、存在さえも

 楽しむことができたら

 どんなにいいだろう。



 比奈子の体にしがみつく晃の頭を

 優しく撫でてあげた。


 

 夫婦だって親子だって

 良い時もあれば嫌な時もある。


 人間、平坦な道では

 生きられないんだろうなと

 比奈子は

 晃の生き方を見て感じた。



 数時間後、

 晃のスマホの着信音が

 部屋中に鳴り響いた。



 何となく違和感を感じながら

 通話ボタンをタップした。

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