星に願いを、世界の終わり。
濃紺に塗られた空に無数の星が降る夜、北海道岩見沢市にて——。
その日は記録的な冬の寒波でより一層、星が綺麗に見える日であった。
音霧みゆ莉は白い息を吐きながら寒さで悴む手をキュッと握り、星を映すガラス玉のような瞳を閉じて落ちゆく流星群たちに願いをかける。
「神様、お願いします。どうか——」
みゆ莉が星に願った翌日の朝。
いつもなら登校ギリギリまで惰眠を貪るみゆ莉を起こす母の怒号が飛んでこない。更には毎朝ご近所さんと共にラジオ体操に励む祖父の声やBGMが聞こえない。
違和感に気付いたみゆ莉は思わず目を見張る。
何故なら、驚くことに目覚めると世界は滅びていたからだ。否、家屋や雪山を駆ける動物はそのままに、人間だけが跡形もなく姿を消したのだ。
初めのうちは何をしても咎める人間が居ないのを良い事にやりたい放題のみゆ莉であったが、次第に強烈な孤独感に苛まれる。
みゆ莉は直前まで人々が生活していた痕跡を頼りに、一縷の希望に縋り人影を求めて町を彷徨う。
そんな折、出会ったのが東京からプライベートジェット機に乗ってやって来た家出少女——平等院のばらであった。
彼女は同乗していた友人兼メイドである少女と逸れてしまったらしく、墜落したジェット機の傍らに座り込み、ぼんやりと真昼の月を仰いでいた。
✳︎
「うおらぁぁぁア!! 熊狩りじゃあぁァ!!!!」
あの日から幾日か過ぎ、みゆ莉はお隣の上田さんから拝借した猟銃を片手に仁王立ちをし血気盛んに雄叫びを上げていた。
その隣には今は亡き祖父の忘れ形見であるシベリアンハスキーのモモタロー。彼も久方ぶりの狩りに興奮を隠せない様子でブンブンとはち切れんばかりに白い尻尾を振っていた。
そんな一人と一匹の姿を呆れ顔で見つめるのばらは、どうにかして暴走するみゆ莉を止めようと口を開く。
「落ち着いて下さい、みゆ莉さん。淑女がそんな物言いをするのははしたないですわよ」
「だって、のばら! にくニク肉肉肉肉肉肉ゥっ! 血が滴ってピッチピチに張りのある新鮮な肉が食べたい!! タンパク質、タンパク質ゥっ!!」
「⋯⋯」
「あたしの身体が良質なタンパク質を求めているんじゃああア!! さながら、今のあたしは血に飢えた獣、獰猛な獅子の如しっ!」
世界が滅びてからと言うものの、すっかりご無沙汰の活きの良い動物性タンパク質。
真っ赤で引き締まった赤身に程よい脂身を想像しただけで、みゆ莉の口内は唾液でいっぱいになった。緩む口元から垂れそうになった涎を慌ててじゅるりと音を立てて啜る。
「そうと決まれば早速、熊狩りにしゅっぱーつ!!」
拳を振り上げるみゆ莉に応えるかのようにモモタローが『ワオーン』と一鳴きする。
「もうっ、わたくしは行きませんからね!」
「またまたぁ~そう言いながらもついて来てくれるんでしょ?」
みゆ莉はニヤリと笑って素っ気ない態度を取るのばらを見やる。
「⋯⋯」
図星を突かれたのばらはぷいっとそっぽを向きながらも、弓矢を手に取りみゆ莉に続いて歩き出すのだった。
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