第97話 隠れ聖女と夢魔教師~その3
教室の入り口に立つギャレンと奥にいる私が睨みあう。
相手は万全の状態で私は既にかなりダメージを負っている。治癒魔法である程度傷は塞いだとはいえ、まだ万全の状況ではない。ここまで近づかれては逃げることも出来ないだろう。
そして先ほどギャレンがけ破ったドアにバキッ....とひびが入った瞬間....
「ふっ!!」
「はぁ!!」
同時に駆け出した私とギャレンが衝突した。剣による攻撃をガントレットで防がれ、そのまま弾かれる。体勢を崩されてもギャレンを見続けることはやめず、次の攻撃モーションに合わせて空中で体を捻って回避した。
バックステップで着地し、そのまま魔法を発動する。その瞬間にギャレンの足元が発光しだした。
「聖域波!!」
魔方陣から漏れ出した魔力がギャレンを包み込む。教室の足元が崩れ始め、聖属性魔法による魔力がギャレンとガミジンを絡めとっていく。
聖特性の1つである”聖域展開”。それを聖属性魔法を仕込んだ魔方陣を利用して疑似的に再現した。
魔方陣を床に仕込み、許容ギリギリまで魔力を入れておく。そして私が避けるためにその魔方陣を踏んだ瞬間に魔力を追加で流し、溢れ出した魔力が決壊して周囲に破壊を引き起こす。いわばグラスに並々注がれた水に、追加で水を入れて決壊させる原理と同じだ。壊れたグラスは、溢れた水は止まらない。
(疑似的でもいい....魔族を聖属性魔法で巻き込めれば勝機はある!!)
聖属性魔法は魔族にとって唯一の弱点だ。その魔力で相手を絡めとることが出来れば、ギャレンはともかくガミジンを討伐することはできるかもしれない。
だが....
(そう上手くいくわけない)
そんなことは分かってる。私だって馬鹿じゃない。先ほどのギャレンとガミジンのコンビネーションを見ていればこの程度で終わるとは思っていない。
やはりギャレンは即座に真下に向かって魔法を構える。その瞬間にガミジンが追加で魔方陣を重ね、真下に向かってその魔法を放った。放った魔法は炎属性魔法の第3階級”爆炎撃”。崩壊する教室の足場どころか、周囲の廊下や隣の教室ごと巻き込んでその場を爆発させた。
(爆発の魔力で相殺された....!崩れる!!)
私が立っていた場所も例外なく爆心地。そのまま崩壊する教室の瓦礫と爆炎に巻き込まれた。咄嗟にリムと私が同時に防御魔法を展開したおかげで怪我はせずに済んだが、土煙を少し払ってみると教室を含む周囲がごっそりと消えている。
その瞬間、土煙の中から飛び出してきたギャレン。その拳を剣で受けるが、空いたもう片方の拳が私のお腹めがけて迫った。片手剣に対して両手装備のガントレットでは手数が違う。私はその拳を避けるために重心をずらす。だが、辛うじて拳は避けれたものの剣が弾かれて私の手から離れた。
(マズイ....!)
この状況で武器を失った私に反撃する方法は無い。少なくとも、一旦ギャレンを引きはがさなくては私は逃げ回るだけになってしまう。
「終わりだ」
「まだです!!」
ギャレンの拳が迫った瞬間、私は右手を前に突き出した。そしてカッ!!と白い閃光が周囲を包み込む。
「また閃光弾か....!」
ギャレンの視界を奪い、そのまま体の柔らかさを利用してギャレンの腕を蹴り飛ばした。攻撃を逸らし、すぐさま私は剣を拾いギャレンの下へと走る。
まだ視界は戻っていない。少なくともギャレンが動けないこの状況は、ガミジンを倒すには絶好のチャンスだ。剣に聖属性魔法を付与し、そのまま斬りかかる。
だが、ギャレンは目が見えていない状況でも私に反撃してきた。ガントレットを装着した拳が目の前に迫る。
なんで....?!目は見えていないはず....!そう思うも、瞬間的に私は剣の構え方を変える。盾にするように目の前に構え、ギャレンの拳を剣で受けた。
「日桜流剣術、”流剣”双縫!!」
一瞬の刹那に魔力を注ぎ込み、そのまま力量差で勝った私の剣がガントレットを弾く。そしてそのまま流れるように私の剣先がギャレンに向いた。攻撃と見せかけてのカウンター技。ギャレンが反撃してきたことが予想外だったため少し構え方がブレたが、それでも完璧に決まったと言っても過言じゃない。
私の突きは真っすぐにギャレンに向けられるが、それをギャレンがもう片方の拳と膝で挟んで止めた。
「なっ!?」
「段々と....慣れて来たぞ」
視界を完全に取り戻したギャレン。私は剣を掴まれており、相手には弾かれたもう片方の手がある。手数の差で負けたのだ。ギャレンは容赦なくその拳を振り下ろした。
その時、咄嗟に剣から手を離す。そのまま剣に注いでいた聖属性魔法の魔力を拳に集約し、足に力を入れて踏み込んだ。私の拳とギャレンの拳がぶつかり合った瞬間、衝撃波が周囲を駆け巡る。魔力と魔力のぶつかり合いによる衝撃波により、私とギャレンは同タイミングでお互い反対に吹き飛ばされた。
「ライラ!」
飛ばされた先にいたリムが風属性魔法の”風域:反発”で受け止めてくれる。
対するギャレンは校舎の中に吹き飛ばされたらしく、崩れた瓦礫の山に突っ込んだのが見えた。
「やった....の?」
「ううん、まだよ」
淡い期待を言葉にするリムに対し、確実に違うと言い放つ。あのギャレンがこの程度で倒れるわけがない。案の定、崩れていく瓦礫を押しのけてギャレンが校舎の外に出てきた。
「あー痛ぇ....怪我しちまったじゃねぇかよおい」
「ケケケ、手酷くやられたなギャレン?」
「笑うな。というか、お前も似たようなもんじゃねぇか。かなり魔力持っていかれたろお前」
「そーなんだよな。あの聖属性魔法による疑似聖域爆発....ありゃヤバいぜ。お前は人間だからいいかもだが、俺があれをまともに食らったら一瞬で消滅する。もう二度と見たくねぇな」
「あいつ....魔法だけじゃなくて聖女であることも隠してたのか....今度は何が出てくるんだろうな?」
ギャレンとガミジンが話し合う姿を見ながら私も立ち上がる。先ほどとは違い、ギャレンの額や腕からは出血が見えた。更に、ガミジンも先ほど見た時よりも若干薄くなっているように見える。着実にダメージは入っているようだった。
ギャレンは私の方へとゆっくりと歩いてくる。その途中、足元に落ちている私の剣を見てそれを踏み砕いた。
「剣が....!」
「大丈夫、まだあるから」
そう言って私は空間魔法の中から銀の杖を取り出す。アリアの時にしか持たないこの杖だが、今はそんなこと気にしている場合じゃない。それに、どうせギャレンにはすべてバレたのだ。今更剣を一つ増やしたところで何も変わらないだろう。
杖を剣の形状に変えていく。私の愛用している輝く銀の細剣が暗闇の世界で輝いた。
「ガミジン、このままで勝てるか?」
「どうだろうな....夢郷操作の権限がこちらにあるとはいえ、あの神獣厄介なことにセーフティロックをかけていきやがった。完全に権限をものにするまでどのくらいかかるかにもよるぜ」
「そうか。だったら....”アレ”をやるぞ」
そう言うとガミジンはにやりと笑う。
「いいぜ、”アレ”だな」
そしてガミジンがギャレンの背後に回る。すると、ギャレンの足元に現れた魔方陣が禍々しいオーラを発し始めた。
「何あれ....?!」
「分からない。でも、嫌な予感はする....!」
魔方陣のオーラが2人を包んだ。するとガミジンは翼をはためかせ、その状態でスゥ....とギャレンの中に消えていく。その瞬間、ギャレンの背中から新たな腕が2本生えるように出現した。そしてギャレンの髪色がガミジンと同じ白に変わっていく。
最後にギャレンが目を開いてこちらを見ると....そこには第3の目がぎょろりとこちらを覗いていた。
「ふぅ....魔族と混ざるってこういうことか。違和感が凄いな」
『ケケケ、諦めな。俺様は実態を持たない憑依タイプなんでね。ギャレンの体を借りないとそもそも生きて行けねぇのよ』
「分かってる。この姿まで見せたからにはライラを助ける理由はないな」
『おう、お前の願いを叶えるために精々の俺様の力を使いこなしてみな』
ギャレンが再び1歩、また1歩と踏み出す。その瞬間、周囲の世界が変わる。学園だった景色は唐突に背景の無い真っ白な空間に書き換えられ、その空間が広がって私達を包んだ。
「空間変化....!」
「夢郷操作の力の影響ね!気を付けてライラ!」
ギャレンは私と言葉を交わせる位置まで来ると止まった。その姿は私の知っているギャレンではなく、既に魔族として存在しているかのような禍々しい見た目をしている。
憑依タイプの魔族は過去にも会ったことがある。剣術大会で接敵したバフォメットがそうだ。何となくの想像だが、憑依タイプは宿主の体を借りて存在することが多い。つまり、ルサールカのような実体を持つタイプではないというわけだ。
今のギャレンはガミジンと融合した姿となっている。ギャレンの近接戦闘能力とガミジンの魔法サポート。戦闘技術で言えば抜群のセンスを持った融合体とも言える。
「ライラ、まさかお前にここまで苦しめられるとは思っていなかった」
「お褒めに預かり光栄です。でも、あなたを止めるまで私は止まらない」
「だろうな。だからお前を1人の敵として認めたうえではっきり言ってやる。お前を殺す。もう生徒だとか、俺の夢を潰しただとかはどうでもいい。お前は俺が認めた”敵”だ。苦しまないよう楽に殺してやる」
「こんな所で死んでられないんですよ....私は。まだこの世界でやるべきことが沢山あるんです。だからこそ....ギャレン先生を超えて、私はその先に行きます」
「....いい返事だ」
一触即発の空気の中、真っ白な異空間の中で剣とガントレットが激しくぶつかり合った。
当作品が面白い!気に入った!という方は評価やいいね、感想などお待ちしております。
次回更新日は12月21日AM 7:00の予定です。




