第95話 隠れ聖女と夢魔教師〜その1
睨み合う両者の間を静かな沈黙の空気が流れる。お互いに剣とガントレットを構えたまま動かず、私の背後にいるリムとギャレンの背後にいるガミジンもお互いに見合っている状況。
そして部屋に置いてある机から本がドサリと落ちたその瞬間....
「ふっ!」
「っ!!」
お互いに駆け出して剣とガントレットが激しくぶつかった。私が片手で剣を持つのに対して相手は両手に装着するタイプのガントレット。手数でもスピードでも負けている。
ギャレンは声を発することもなく両手のガントレットでラッシュを繰り出してくる。魔力を使って強化しているためか、そのスピードや威力は普通のラッシュよりも強い。
「くっ....!」
防御魔法と剣でどうにか防いで入るが、ダメージこそ喰らってはいないものの確実に後退していく。
物理攻撃だけじゃ確実に勝てないと判断し、すぐさま剣で弾かれた反動を利用して距離を取った。丁度下がった位置にはリムもおり、既に魔法の準備は整っているようだ。
私もすぐに空いている左の手のひらをギャレンに向け、魔力を練った。
「風魔弾!!」
「火魔法の記憶!!」
風魔法と炎魔法の攻撃が混ざり合う。疑似的な”コンバージ・フレイムランス”を狭い部屋の中で放った。複合魔法の規模を流石にこの狭い部屋の中で避け切れるとは思わない。倒しきれるとは言わないが、かなりのダメージを与えることはできるだろう。
するとギャレンはスッと後ろに引き、その後ろにいたガミジンの肩を掴んで盾にした。
「なっ?!」
「おいおい、マジかよ」
盾にされた当の魔族もかなり驚いていたが、そのまま複合魔法はガミジンにヒットして煙を上げた。
そしてその煙を払う様にガミジンが翼を広げる。その時の突風で煙はすぐに消え、無事なギャレンとガミジンが姿を現した。
「相棒よぉ....俺が魔法耐性高いって言っても無傷なわけじゃねぇんだぜ?」
「だがあの規模の魔法は防がなければ部屋が滅茶苦茶になっていただろう?」
「だからってよぉ....まぁいいや。幸い俺はほとんどダメージねぇし、近接戦闘だと無力だからなぁ~」
相手の2人は非常に相性がいい。近接攻撃兼魔法ブーストで戦う前衛職に、魔法耐性が高く魔法による攻撃を得意とする後衛職。たった2人のコンビだが非常に相手しづらい。
そして何より厄介なのは....
「そう言うな。そもそもお前の本職はサポートだろう?戦闘は俺がやる」
パチンッと指を鳴らした瞬間、私はその場をサッと引いた。その時、先ほどまで私がいた位置の天井と床が変形して無数の針がその場を貫いた。
(あっぶない....!!)
この攻撃。先ほどまで原理は分からなかったが、ようやくその本質を理解し始めた。この攻撃の正体は恐らく....
「”夢郷操作”の力....」
「よくわかったな。さっき神獣から取り出した夢郷操作の権能....段々と馴染んできた。正確な位置と座標がわかれば部屋を変形させて攻撃することなど容易い」
今いるこの部屋を含む学園全体はギャレンの夢郷になっている。今まではムーバから取り出した力が馴染んでいなかったため近くの物を小規模に操作することしかできなかったが、ギャレンがその力を操作できるようになってきた今、この学園全体がギャレンの操作下にあるということになる。
普通に考えればこれを突破するのは至難の業だろう。だが、私には1つだけこの状況を打破する鍵を握っている。
私は指にはめている赤い宝石の付いた指輪を見た。ムーバが消える直前に渡してくれたこの指輪、不思議な感覚がする。そして魔力を込めれば、私の目にだけ指輪からガミジンへと伸びている魔力線が薄っすらと見えた。
(ムーバはまだ完全に吸収されたわけじゃない。それはつまり、何とかムーバを助け出すことさえできれば夢郷操作の力は使えなくなる可能性がある)
「リム、行くよ」
「任せてライラ!アタシもちょ~怒ってるんだから!!」
リムが魔法を放つ。それと同時に駆け出した私は簡易聖剣を数本生成して展開した。
それを見て初めてギャレンが明確な反応を見せる。ガミジンも少し嫌そうな顔をして私を見た。
「簡易聖剣....驚いたな。聖女でもあったのか」
「あ~分かったぜ。あいつから感じてた嫌な感じ....お前さてはルムン様の言っていた奴だな?」
そこでルムンの名前が出てきて一瞬止まりそうになるが、攻撃の手を止めれば私達に反撃する隙は無くなるかもしれない。そのまま突撃して走りながら簡易聖剣を放った。
聖剣は真っすぐ飛んでいくが、今度はガミジンが下がってギャレンがその聖剣を叩き折っていく。ボクシングの様に正確に上下左右から拳を撃ち込んで聖剣を叩き折った。
そして私が剣に風属性魔法と水属性魔法を付与する。するとスゥ....と刀身が溶けるように消えた。
「!!」
「はあっ!!!」
刀身が消えたことにより剣の間合いを掴ませないようにする。だが消えているだけで実体は存在するので、ガントレットで防がれた。それでも消えた刀身のせいでギャレンは上手く間合いを掴めないらしく、私の剣を何となくでガードしているが安全に数歩下がった位置で応戦している。
このチャンスを逃さないと、私は風域加速でさらに距離を詰めた。
「ちっ....!」
距離をガンガンに詰めてきた私から逃げるようにさらに後方へと引き、そのまま夢郷の力を利用して壁を生成する。私は即席で出現した壁を隠遁した剣で斬り捨てていった。
その間、私達を挟んだ遠距離からリムとガミジンの魔法戦が始まっていた。リムの炎魔法や水魔法による攻撃を、ガミジンが雷魔法で相殺していく。だが確実に私とギャレンの戦いには触れないように調整しながら戦闘しているため、相殺しても殺しきれなかった魔法エネルギーが部屋をボロボロに崩していった。
最後に大振りでギャレンを弾く。その瞬間、先ほどまでリムと魔法戦を繰り広げていたガミジンが雷魔法を私に向けた。私はその魔法を防御魔法でガードし、リムが後方から炎魔法をギャレンに向ける。
ガミジンも流石にそこまで手が回らなかったのか、ギャレンが防御魔法を展開して炎魔法を防いだ。
再び距離が空いた両者。防御魔法を解くとギャレンは小さく「ふぅ....」と息を吐いた。
「危なかったなギャレン」
「全くだ。後ろにまで被害が及んでいたらどうするつもりだったのやら」
「でも状況的には有利か不利か分かんねぇな~。実力的にはこっちが上だが、守るべき物がある状況での戦闘はこっちの方が不利だし」
その会話を聞いてある作戦を思いつく。相手はどうやら背後にある計画の要、イアン殿下と魔道人形を守りながら戦っているらしい。たしかに今最優先で処理しなければいけないのは私だが、この戦闘でイアン殿下か魔道人形のどちらかに被害が出てしまえば少なくともギャレンの計画は潰えることになる。
(でも....仮に計画を潰してもその後が辛い。やっぱりギャレン先生をどうにかしないと....)
計画を止めることはやらなければいけないことだが、それではカレンとした約束が違う。彼女の父親であるギャレンを止めること、そしてそれがベアとの約束を守ることにも繋がるのだ。
それと同時に、行方不明になっていたイアン殿下が目の前にいる。彼に何かあっても問題があるため、目下最初の目標はイアン殿下を取り戻すことだろう。それがギャレンの計画を止めることにも繋がる。
『リム、相談があるの』
『ほいほい、何よ何よ?』
思念伝達でリムに話しかける。そしてそのまま彼女に計画を伝えた。
するとリムは小さくコクリと頷いて反応してくれる。
『おっけー!それで行くわ!』
『じゃあ、私が走り出したら開始ね。1....2....3!!』
カウントダウンを終えた瞬間、私は風域を全速力で使用して加速する。その時、背後にいたリムが魔法を発動する。
「獣召喚の記憶!!」
魔方陣が複数展開され、そこから無数に飛び出してきたのは魔獣。様々な魔獣が一斉に召喚されてギャレンたちに襲い掛かった。
予想外の攻撃だったためかギャレンたちの反応が遅れる。魔獣達が鋭い牙を向けて私を追い越し、そのままギャレンを襲う。ギャレンは少し嫌な顔をしながらガントレットで魔獣を殴った。リムの召喚したこの魔獣はあくまでも”記憶の複製体”。その為中身はなく殴られ弾けた瞬間塵となって即座に消えていった。
その隙をついて私はギャレンの懐に潜り込む。そのまま剣で攻撃....するわけではなく、左手に溜め込んだ魔力を使って魔法を発動した。
「照明爆弾!!」
カッ!!と白く輝く部屋の中。さすがのギャレンもこの行動は予想してなかったようで、すぐさまガントレットで視界を守ろうとするが完全には成功しなかった。
真っ白に輝く閃光と襲い掛かる魔獣達。単純な戦闘力で勝てないならこういった絡め手を使えば突破できると思ったが、作戦が成功してよかった。
ギャレンの視界が復活するより前に強化した左手でギャレンを殴る。ガード状態だったギャレンはそのまま飛ばされ、少し後方で着地した。だが、それはつまりギャレンは守っていたイアン殿下と魔道人形の前から退いたということ。
ギャレンの視界が戻り綿委sのいる位置を見た瞬間、その形相が怒りの表情に変わる。
「....ライラ、今すぐそこから離れろ」
「嫌です。少なくともイアン殿下は連れ帰らせてもらいます」
「離れろと言ったんだ!!!!」
ギャレンが我を忘れたように突撃してくる。その時、私の側まで飛んで来ていたリムに魔力を分け、そして一時的に転送ゲートを創り出した。
学園夢郷は完全にギャレンの物になったわけではない。一部まだ支配されていない安全圏....そしてリムでも干渉が出来る場所。つまり....
(図書館の秘密の部屋!!)
ガミジンが侵入してきた際の裂け目がどこかにあるはずだと判断し、イアン殿下の元まで来てみたがビンゴだった。やはりガミジンが使用した裂け目の跡が見つかり、リムの精霊魔法と組み合わせることで一時的な転送ゲートを創れた。
ギャレンがこちらに来るより先に、私はそのゲートにイアン殿下を放り込む。裂け目の先でイアン殿下が無事に秘密の部屋に倒れていることを確認してすぐさまゲートを閉じた。
そしてギャレンの拳が私に当たる....その瞬間、側にあった物を掴み盾にする。ギャレンの拳はその盾を貫通し、そして砕け散った破片が周囲に散らばった。
ギャレンは目の前で砕けた物が何なのかを理解して驚愕する。
「っ....!!」
ギャレンはすぐさまバックステップで下がり俯く。彼が破壊したのは魔道人形。カレンの依り代となるはずだった魔道人形を自らの手で破壊したのだ。
咄嗟に掴んだものとはいえ、ギャレンの計画を完全に潰すことが出来た。後はギャレンの本人を止めるだけ....そう思った瞬間、どす黒い魔力が部屋の中を支配していく。
魔力の発生源であるギャレンがゆっくりと顔を上げた。その目には明確な殺意が籠っており、矛先は私に向けられている。
「お前は....俺の”夢”を壊した....殺す。殺してやる」
完全に怒りに支配されたギャレンが、その魔力で部屋を染めていく。
私はその様子に少し狼狽しながらも、剣をぐっと握り直して立ち上がり剣先を向けた。
「私が、あなたを止めます。それが....彼女との約束だから!!」
今までの戦いなどは比にならない。殺し合いが始まろうとしていた。
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次回更新日は12月14日AM 7:00の予定です。




