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第93話 隠れ聖女と学園夢郷

 深い深い闇の底に落ちていく感覚がする。朦朧とした意識の中、とにかく底へ底へと身が浮遊しながら落ちていく感覚。もがく事も抵抗する事もせず、ただゆっくりと先の見えない暗闇に身を委ねていた。


『ーーーて』


 何か声が聞こえた気がする。

 ....ダメだ....意識が遠のいていく....


『ーーーて!』


 うるさいなぁ....誰です?

 薄っすらと見えた先にある光。そこから誰かが手を伸ばして近寄って来る。逆光でそれが誰なのかまでは分からなかったが、その人物がそっと私の両頬に手を添えた。

 その瞬間....


『起きろこんんんの寝坊助がぁぁぁぁああああ!!!』


 絶叫と共に額に強烈な痛みを感じた。心地のいい暗闇から強制的に引き上げられる感覚。暗闇の中を漂う体が上空から照らす光の中へと引き上げられていき....




***




「うっ....痛....」


 頭がぼーっとする。ゆっくりと目を開き、ひりひりとする額を抑えながら上半身を起こした。すると、私の横で必死に私の腕にしがみつくリムがいた。涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになっており、私が目覚めたことに安堵しているようだった。


「ラ゛イ゛ラ゛....!!よがっだ....!」


 リムがいることに少しホッとしつつ、周囲を見渡して状況を確認する。周囲には何人もの生徒や教師が倒れており、体が動いていることから生きてはいるのだろう。廊下や教室の中に倒れている人物の全てが眠っているようだった。

 だが、残念ながら私以外に目覚めている人はいない。

 その時、私が倒れる直前に会っていた人物を思い出して振り返る。案の定、私の横ではレオンハルト殿下が倒れていた。


「殿下!」


 すぐに駆け寄り、体を揺らしてみる。息はしているから少なくとも死んではいない。だがぐっすりと眠っているようで、何度揺らしても反応はなかった。


「かなり深く眠ってる....?」

「さっきまでのライラもそんな感じだったのよ!起こせてよかった....!」


 先ほどまでの私も同じように眠っていたらしい。ということは恐らく、さっき私が感じていた暗闇に漂う感覚はもしかして....

 そう考えるとリムが私を起こしたことはかなりファインプレーだと思う。

 すると、何かを思い出したかのように慌て始めるリム。すぐに私の服の裾をぐいぐいと引っ張ってその存在を伝える。


「そんなことよりライラ!ムーバが大変なの!早くこっちに来て!」

「え?!どういうこと?!」

「走りながら話すから、早く!」


 リムに急かされて立ち上がる。だが、殿下をこのままにしておくわけにもいかず近くの壁にかけるように殿下を引きずった。


(どういう状況か分からないけど....後でまた来ますから)


 殿下の頬をそっと撫でて、私は立ちあがる。そのままリムの向かう方向へと私も全速力で走った。向かている最中も教室や廊下に倒れた生徒の数々を見て、今のこの学園が一体どういう状況に陥っているのかを何となく理解した。やはり今起きているのは私だけらしい。

 その時、急いで走っていたが故に気づかなかったが窓の外の光景が異様に暗かった。


「今は何時なの....?!」

「夢郷の中は時間軸が違うから中の世界ではまだ30分しか経ってないわ!でも、外の世界ではどれくらい経ってるか私にも分からない!」

「時間軸が違う....?」

「言ったでしょ!本来夢郷は異なる現実、並行世界なの。だから現実の物理法則が通用すると思わない方がいいわ!」


 つまり、この学園だけ外の世界と隔離されていると言ってもいい。外の世界で今この学園がどういう風に見れているのかは分からないが、この現状を打破しない限り私達も外に出られないということだ。


「ライラが眠った後、急いでムーバに連絡したの。そしたらムーバも何者かに襲われてるって....それで、急いで試せる方法何でも試して無理やりライラを叩き起こしたの!」

「もしかして少し魔力が減ってるのは....」

「アタシが精霊魔法を使ったから!アタシは夢の精霊だからね!契約者の魔力を借りて魔法を行使することも出来るの!ライラの意識の中に入って叩き起こしたのよ!」


 あの時私にヘッドバットを食らわせたのはリムだったらしい。おかげで目覚めることが出来たのだが、後に残るこのひりひりとした痛みが気になって仕方がない。

 そんなことを思いつつ走って向かった先は図書館。この中にある夢郷の管理室に行けばムーバと合流できる。勢いよくドアを開け、図書館の中へと入った。そのまま一番奥にある本来存在しないはずの扉を開けて中に入る。


「なっ....!?」

「ムーバ!!」


 中は既に荒らされた跡。近くには学園長も倒れており、そして完全に開き切った空間の裂け目から現れたであろう異質な来訪者がムーバと戦闘していた。


「くっ....!しつこいな君は!」

「ヘイヘイ!神獣の癖に弱っちいじゃねぇの!」

「うるさいなぁ....!そんなの僕が一番よく分かってるよ!」


 ムーバが夢郷の核である宝玉を守る様に戦闘している。が、ムーバに戦闘能力はないのか妨害による防戦一方だ。じりじり前線が下がって来る。

 戦闘しているのはどう見ても人間ではなく、背中から生えた翼に角を生やし、そして下半身が靄のようなもので構成されている禍々しい見た目の存在。明らかに魔族であった。


「リム、ライラ!丁度いい所に....!」

「隙ありぃ!!」


 一瞬目を離したムーバに向かって魔法が放たれ、それがクリーンヒットする。


風魔弾(ウィンドショット)!!」

火魔法の記憶(フレイムメモリー)!!」


 飛んでくるムーバを受け止めつつ、私とリムが同時に魔法を放った。魔族はその魔法を翼でガードする。それと同時に”黒炎弾(ブラックショット)”でこちらに攻撃を仕掛けてきた。

 ムーバを受け止めた状態で私達は少し下がる。が、その行動に気づいたムーバが慌てて声を張り上げた。


「マズイ!魔族をあの宝玉に近づけちゃダメだ!」

「そういうこと♪悪いね」


 そう言って魔族は宝玉に手を触れる。その瞬間、宝玉の中に蓄積されていたエネルギーが一気に魔族の中へと流れ込んでいき、それと同時に真っ白だった管理空間が一気に色を失っていく。

 そして完全に宝玉を回収しきった魔族は高らかに笑う。


「クックック....アーハッハッハ!!手に入れたぞ!夢郷を制御する力!人間なぞの手には勿体ない!俺が魔族の為に有効活用させてもらおうか!」


 そう言って魔族はゆっくりと裂けめの方へと戻っていく。その時、私の中でムーバの存在がゆっくりと粒子になって消えていくのが分かった。その粒子は徐々に徐々にムーバの体を消していき、そして裂け目へと向かう魔族に流れ込んでいく。


「ムーバ!!」

「僕は....大丈夫だライラ。あの宝玉は夢郷の核であると同時に僕の核でもある。それが吸収された今、僕の存在が保てなくなっただけだ....」

「でも....!」

「いいか、よく聞けライラ」


 そう言ってムーバは懐から一つの指輪を取り出して私に渡した。赤い宝石のはめ込まれたその指輪はシンプルなデザインだが、妙に不思議な気配を感じる。


「あの魔族は夢郷を完全に支配したと思っている....だが、僕の力を完全に制御するまでは時間がかかるはずだ。ライラ、君しか止められない。奴らが何を企んでるかは知らないが、君だけがこの状況を止められる....魔族から夢郷を....僕の”約束”を....取り戻して....く....れ....」


 そう言い残すと完全に粒子となって消えたムーバ。その粒子が裂けめの中へと流れ終わると同時に、空間の裂け目が閉じた。


「ムーバ....!」

「くっ.....!ううん、落ち込んでる場合じゃない。リム、行こう!魔族を止めに!」

「行くって言っても、あの魔族がどこに行ったかなんてわからないわ!」

「恐らく....()と一緒にいるはず。心当たりがあるの」


 そう言って泣くリムを連れ、私達は管理室から飛び出した。学園内の廊下を全速力で走る。

 向かうは魔法棟。そう、あの隠し部屋だ。




***




 魔法棟に入り、一番奥の資料室に辿り着く。その部屋は暗く誰もいないように見えたが、私はつかつかと一番奥の本棚の前に移動した。一見綺麗に並んでいるように見える資料の束だが、その中にある赤い本を取り出す。すると、本棚からガチャリと音がしてゆっくりと扉が開いた。

 リムとアイコンタクトをし、私は空間魔法に収納していた杖を取り出す。そしてそのまま細剣を引き抜いた。


 ゆっくりと階段を降り、警戒しながら進む。そして階段の下が見え始めた頃、扉の向こうにある部屋から話し声が聞こえてきた。


「ーだぜ?よくやったと思うよ俺は」

「ーだろ。なら早くーてくれ」

「おいおい、計画の最終段階まで来たんだぜ?もっと喜んでくれよ」

「確かにお前のおかげでここまでこれた。だがお前の話では目覚めている奴がいるんだろ?」

「ああ。精霊連れた女だったな」


 話し声は先ほどの魔族ともう1人。そしてその声は、私も知っている声でありそして調べたカレン・アルドノトスと家名が同じ人物の物であった。

 半開きの扉を音を立てないようゆっくりと開ける。そしてその瞬間風域で加速した私はそのまま目の前の人物の背後から剣を突き付けた。

 リムも同時に飛び出して魔族に向けて魔法を放つ準備をしている。


「やはりか。しくじったなガミジン」

「おいおい、ここを知ってんのかよ!そりゃないぜ~」


 剣を突き付けられてなお冷静な男。魔族は横でおちゃらけているが、その目からは余裕が溢れている。


「どうしたライラ。子供はおねんねの時間だが」

「やはり....あなたが犯人だったんですね....!」


 振り返った男は細めた眠たげな眼差しでこちらを見る。剣など無いように真っすぐに私の目を見るその男は、私もよく知っている人物。


「ギャレン....先生!!」


 ギャレンはこの状況でも口角を少し上げ、そして私の言葉を肯定するかのようにフッ....と小さく笑ったのだった。


当作品が面白い!気に入った!という方は評価やいいね、感想などお待ちしております。


次回更新日は12月10日AM 7:00の予定です。


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