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第91話 留学王子と思い出の夢《イアン視点》

 16年前、人界にあるシャオラン大陸に存在するとある王国で男児が生まれた。

 その国の名はアルドノア王国。特徴といえば人界に存在する大国の中継地点として重宝されているアクセスの良い国であること。始祖国家エキドナ、法皇国セントレア、技術大国ヴィルヴィ、和の国楼月など各国と深いパイプがあり、商業の中心として名を知らしめている国だ。

 今代の王には男児がおらず、生まれていたのは女児1人のみ。だがその姫が3歳になった頃に王妃が妊娠し、そして王子が生まれた。

 王子はイアンと名付けられ、次代の王となるために育てられていった。


「姉さま」

「あらイアン、どうしたの?」

「これ、綺麗な花を見つけたんだ。姉さまにあげる」

「ふふっ、ありがとう。これはイチゴの花ね。確か花言葉は....」

「”尊重と愛情”、”幸せな家庭”それと”あなたは私を喜ばせる”だね」

「賢いわねイアン。今の私は正に喜んでるわ」


 姉は俺の頭を撫でる。俺が7歳になった時、姉に婚約者が出来た。別に姉のことを女として好きだったわけじゃない。でも、子供心としてたった1人の姉を取られると考えるとかなり悔しかったのを覚えている。


「....ふん」

「こらイアン、私の婚約者よ?ちゃんと挨拶しなさい」

「姉さまには俺がいるじゃん....」

「そういう話じゃないの」

「ははは、イアン様は俺に貴女を取られることが嫌みたいだね」


 婚約者の男が笑う。何がおかしいんだ。

 姉の婚約者と初めて会った時はこんな感じで常に不貞腐れていた記憶がある。でも、それも俺が成長していくにつれて考え方が変わっていった。

 俺は王になるべく勉強や運動、商業知識や外交技術などを学んでいった。その中でも特に苦手だったのは交渉術。俺は口が上手い方ではないし、相手の考えを読むことは得意だったが誘導するのは苦手だった。

 そんな俺の苦手分野を教えてくれたのが姉の婚約者だった。彼の実家はアルドノア王国内でも随一の商家であり、婚約者の弟である俺にもその技術を叩きこんでくれた。婚約者と弟が仲良くなったのを見て、姉も喜んでくれていた。


「まさかイアン様とこれだけ仲良くなれるとは思ってなかったよ」

「奇遇ですね。俺もです」

「イアン様は頭もいいし聡い方だ。きっといい王になれると思う。俺もそれを支えて行けるように頑張るよ」

「....俺を蹴落として王になろうとは考えなかったんですか?」

「随分唐突な質問だね。何故そう思ったんだい?」

「俺の次に王位継承権を持っているのは姉です。このままいけば、俺がいなくなるだけであなたは自動的に次の王になれる。野心家であればそんな状況を利用しない手はないでしょう?」


 そう言うと驚いたように目を見開く彼。だが、その後「フッ....」と小さく吹き出し、耐えられなくなったと言わんばかりに大笑いした。


「あっはっは!確かに、王の座を狙う野心家であればそうしただろうね。でも、残念ながら俺はそんな野心家じゃない。それに、俺には君のお姉様がいればそれでいいんだ。王の座になんて興味はないよ」

「本当に姉のことが好きなんですね」

「ああ。何を捨ててでも俺は彼女を取るよ。世界で一番愛している」

「....失礼なことを聞いてすみません。あなたになら姉を安心して任せられそうです」

「ああ、任せてくれ。その分、俺も臣下として目いっぱい役に立ってみせるよ」


 姉の婚約者とも良好な関係が続き、俺の人生は良い方向へと確実に進んで行った。俺にも婚約話はかなりの数が来ていたが、俺はその全てを断って勉学に励んだ。


 ある日、いつものように勉強用の本を取りに図書館へと向かった日だった。王宮内の図書館で本を開きっぱなしにして寝ている人物を見つけた。姉が読み途中の本の上で潰れるように寝ていたのだ。


(全くこの姉は....)


 そう思い、起こそうと肩に触れた瞬間だった。


「姉様、起きー」


 その瞬間、俺頭の中に無数の記憶が流れ込んでくる。姉のここ数日の記憶。婚約者とデートした記憶、夕飯で好物を食べる記憶、湯浴みの時に少し太ったことを気にして侍女に話しかける記憶....俺の知らない光景もあったが、どれもが恐らく姉が見て・聞いた記憶なのだろう。突然の情報に驚き後ずさりしてしまった。その時に近くの椅子にぶつかってしまい、その音で姉が起きる。


「ん....ふわぁ~....あれ、イアン?どうしたの?」

「姉様....いや、今のは一体....?」


 この日、教会に行って判明した。俺は固有魔法を持っていたらしい。

 数十万人に1人と言われる確率で与えられる特異体質。俺の固有魔法は”霊憶(スピリチュアル)”というらしく、”触れた物や人の記憶を際限なく読み取ることが出来る”という能力だった。俺の記憶の許容量はほぼ無限であり、昔から人より勘が鋭く記憶力がよかったのはこの能力が原因だったらしい。


「記憶....この能力があれば、失われた過去の記憶も読み取れるのか....?」


 世界中にある遺跡に触れ、その記憶を読み取ることが出来れば世界に記された歴史をより詳細に知ることが出来るだろう。また触れることが条件とはいえ、他国の重鎮の記憶を読むことが出来れば交渉で有利になる情報が見つかるかもしれない。

 王としては恵まれすぎている才能だったが、俺はこの能力を使うことを止めた。1歩間違えれば国家間の関係にひびを入れかねないと悟ったからだ。


(この能力はまだ発言したばかりで制御が不安定だ....ちゃんと俺の力にするまでしばらくは練習だな)


 そしてそこから5年の月日が流れた。

 俺は”霊憶”を制御できるようになり、王としての素質を確実に積み上げてその準備が整った。今日、俺は戴冠式を執り行って正式に次期王となることを世間に知らせる。

 会場は王の間。レッドカーペットの上を歩き、そして王であるお父様の前に跪く。この会場には俺の友人や国の重鎮、そして姉とその婚約者も出席している。

 恥をかかないよう慎重に形式上の言葉を交わし、そして俺の頭に王冠が乗せられる....その時だった。


 参列者の中からバッと飛び出してきた真っ黒なフードの何者かが、俺に向かって魔法の詠唱を始める。俺はあまりにも唐突なことで動けず、騎士達も一瞬遅れて事態に気づいて取り押さえようと走り出すが、流石に間に合わない。この場の時間だけがゆっくりと流れていく中、俺の視界に誰かのドレスが写りこんだ。

 顔を上げると俺とフードの人物の間に立って俺を守ろうとしている姉の姿。俺が止めようと手を伸ばした時、放たれた魔法が姉に当たる。姉は黒い瘴気に包まれ、そして膝から崩れ落ちていった。


「姉様!!!!」


 フードの男は捕らえられたが、俺はそんなことお構いなしに姉を抱き上げる。姉は生きてはいるが苦しそうにもがいている。

 どうしたらいいか分からず混乱し、俺はただ声をかけることしかできなかった。

 こうして俺の戴冠式は1人の侵入者によって潰れ、俺はこの日最愛の姉を失った。




***




「ん....うっ....寝てたのか....」


 体を起こすと、俺は図書館で寝てしまっていたらしく山積みになった本に囲まれていた。思い出したくもない忌まわしい記憶。だが俺は自分の固有魔法のせいで必ず記憶が残る。これから一生、俺はこの記憶と向き合っていかないといけないのだ。


 幸い、姉が食らったのは呪詛だったため死んではいない。だが、苦しそうにもがきながらも意識が戻らず眠り続けるその姿は、生きながら死んでいると言っても過言ではないだろう。

 アルドノア王国にいた教会の聖女は言った。


『この呪詛は聖属性魔法で無ければ解呪は不可能のようです。ですが問題が....』

『問題?』

『呪詛に練り込まれた術式に、血縁者にしか解呪できない呪いが含まれています。アルドノア王家の血縁者に聖女は....』

『いない....親族を探してもいないだろう』


 つまり、姉を助ける手段は無いということになる。捕らえた犯人の男は牢の中で自害し、背後に黒幕がいるのかや動機などは分からなかった。だが明らかに俺を狙った攻撃だったため、あの男は俺を殺すつもりであの場にいたということになる。


『いや、手段はある』

『と言いますと....?』

『光属性魔法は聖属性魔法と似た性質を持つ。浄化の魔法も覚えられると聞く。俺なら適性がある』

『しかし殿下!光属性魔法の浄化は習得が困難です!一体どれだけかかるのか....』

『大丈夫だ。これがある』


 そう言って俺が見せたのはエキドナ王国からの招待状。つい数日前に来たばかりのドラグニア王立学園へ留学しないかというお誘い。エキドナ王国は始祖の国としても有名な大国であり、守護竜や大聖女がいる国。この国へ留学し、1秒でも早く浄化を習得して帰って来ることが出来れば....

 俺はこうして陛下達を納得させ、そしてこの国へとやって来た。


 学園内にいた聖女として教会へと通っている生徒に紹介してもらい、アルドノア王国王子の名を利用して大聖女様に先日会って来た。習得には時間がかかるが、浄化を教えることが出来ると約束を取り付けることも出来た。


「後は....俺が1秒でも早く浄化を習得できれば....」


 姉様を助けることが出来る。

 俺は最愛の姉を助けるためにこの国に来た。もうあんな悲劇は見たくない。もう悲しむ人を見たくない。王としてではなく1人の弟として、愛する人を助けたいと願ったのだ。


 その時、ひらりと俺の側にあった何かが舞う。そのまま床に落ちた紙を拾い上げると、それは俺が寝ている間に誰かが置いたメモだった。


「誰が置いたんだ....?」


 その内容はシンプルなものだったが、誰が書いたのか名前が無い。怪しく思いつつもそのメモの内容に従ってみることにした。少なくともこの学園内においてこんなメモを残す人物は大体見当がつく。


「『起きたら魔法科の資料室に来るように』か....資料室って確か一番奥の部屋だよね?」


 誰が待っているのか分からないが、こういう風なメモを残すということは魔法科の教師の誰かだろう。何かしたかなぁ....と思いつつも俺は立ち上がり、本を本棚に戻していく。

 そのままの足で図書館を出て魔法棟へと向かって歩いた。


 この日、資料室に辿り着いた時点で()()()()()()()()()


当作品が面白い!気に入った!という方は評価やいいね、感想などお待ちしております。


次回更新日は11月30日AM 7:00の予定です。


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