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第88話 騎士王子とハクキ《レオンハルト視点》

 補佐棟に用意された道場の中、ドタドタと駆けまわる足音と剣戟の音が響く。2つの影が薄暗い道場の中を駆け、剣と剣がぶつかり合って一瞬の火花を散らす。

 俺は周る様に走るルートから急激にブレーキをかけ、その勢いが生きている内に90度直角に曲がってハクキへと迫る。横薙ぎを軽く受けるハクキ。相手は幽霊だと分かっているが、受けた剣の重量やその質感は本物そっくりだ。

 ハクキは剣を振り上げる形で俺の剣を弾く。その瞬間、目にも止まらぬ速さで剣を構え直し、容赦なくその剣で俺を突き刺そうとしてきた。狙ってきたのは俺の喉元。相手の剣が本当に俺の喉に刺さるのかは分からないが、反射的に俺は体を半分仰け反る様に捻り突きを回避する。


 受け状態の俺と攻撃状態のハクキ。この状況でどちらが有利かは分かり切っていること。ハクキはそのまま剣を引っ込めて連続の突きを繰り出してくる。

 俺は出来る限り剣で受けたり回避したりして連続の突きを捌き切り、ハクキが次に剣を構えるようにひっこめた瞬間に反撃に出る。だが、俺が繰り出した横薙ぎをハクキは跳び上がって軽々と避けた。


「逃がすか!」

「逃げないよ」


 相手を逃がすまいと追撃しようと跳び上がったが、それすらもハクキの計算の内。お互い空中に放り出されたこの状況、俺は追撃を行う気で既に攻撃モーションに入っているが、ハクキは完全に受けの体勢。この状況はつまり....


(カウンター....?!)


 相手の狙いが分かっても、既にこの状況で俺が回避に移行しようとするのは遅すぎる。時すでに遅し、間に合わない。

 俺は一か八かで攻撃を続行する。斜めに振り上げるようにハクキに剣が迫る。だが、やはりというべきかハクキはその攻撃を剣先で受け、そのまま刀身をなぞらせるようにハクキの体から剣が逸らされた。そのままハクキの剣が折り返し、今度は俺の頭上から迫る。俺は反射的に無理やり逸らされた剣を腕ごと戻し、その勢いのままハクキの剣と受け合ってお互いが弾かれた。


 ハクキはふわりと着地したのに対し、俺は背中から地面に打ち付けられる。

 何とか受け身を取ったおかげでダメージはさほどないが、やはり俺の攻撃のこと如くが相手に通じないし相手の攻撃のこと如くを俺が捌き切るのが難しい。実力差は圧倒的だった。


「なんだ?もう終わりか王子様」

「まだだ。この程度で終わると思うなよ」

「いいね、そうじゃないと。この程度で終わるようじゃ大切な人も守れないぞ」


 そう言われて黙ってしまう。分かってる。俺の実力がライラと比べて劣っていることに。剣の腕なら俺の方が上だ。だがそれでも競り合ったうえでの上位であることには変わりない。おまけに魔法技術、冒険者としての知識や経験など、彼女に負ける要素を上げようとすれば沢山出てくる。

 俺はいつか彼女を守れるような男になりたい。その為にはまだまだ鍛錬が足りない。


「お前の言うとおりだ....俺はまだ弱い」

「その通りだ。分かってるじゃないか」

「だからこそハクキ、お前との戦いで学べることは学ばせてもらう。俺がいつかライラの隣に立つその日が来るまで、俺は歩むことを止めない!」


 俺は立ち上がり再び剣を構える。俺の実力ではハクキを倒すことは叶わない。だが、相手が格上であるのなら....学べることは全て搾り取り、俺の糧となって貰おうではないか。

 俺が再び立ち上がったことで、ハクキは二ィ....と口角を上げる。


「ああ、正解だ王子様よ。自分の弱さを認め、それでもなお前に進もうと足掻き続けるその意思よ。彼女がホームズなら君はワトソンだ。君がいずれ、彼女の隣に辿り着くその日まで....進み続けるといい」

「ホームズ?ワトソン?何の話だ?」


 聞きなれない名前に困惑するが、すぐに俺の質問を理解したハクキが笑いながら言う。


「はっはっは!すまない、君達には伝わらないよな。気にするな」


 そういった瞬間に再びハクキが襲い掛かって来た、先ほどまでとは違い一直線に向かってくるハクキ。スピードも俺より早く、実直に迫ってきていると思いきや左右に体を振ることで剣の軌道を読みにくくしている。

 俺は動かずハクキを待ち、ゆっくりと深呼吸をする。


 集中....集中....集中....

 相手を見ろ。剣の軌道を、動きの一つ一つを。


 ハクキの繰り出した攻撃は左下からの斬り上げ。俺はその攻撃を剣で受け、先ほどハクキがしたように刀身に剣を滑らせて弾く。だが、その瞬間にハクキの剣がものすごい勢いで空中から折り返す。初めから弾かれることを計算に入れて、その後の連撃まで繋げた攻撃。

 だが、俺もそういった攻撃が来ることは予想していた。左足を一歩下げ、その反動で体を捻って剣を無理やり軌道に乗せる。そのままハクキの剣に俺の剣が当たり、ハクキの連撃をガードした。


 ギリギリ....と剣同士がせめぎ合って小さな火花を立てる。ハクキは俺が攻撃を防いだことに驚いたのかフッと笑い、俺もそれに応えるように笑った。

 相手のカウンターを真似し、そしてそれに追加する形で俺の物にしてやった。剣先で攻撃を受ける技術は相当難しいが、ハクキが剣先で攻撃を受けるときに剣にかける重心を変えているのが分かった。それを真似してみたら出来たというわけである。


「この野郎....俺から盗みやがったな」

「盗れるものは盗って俺の力に変えてやる。舐めるなよ」

「ま、まだまだ詰めは甘いけどな」

「何?」


 そういった瞬間俺の体がぐわりと回転するように横に倒された。剣を受けた状態は俺も相手も剣に体重が乗っている状態。だが、ハクキが話をしている途中で剣にかかっていた重心を変え、俺は力の込め過ぎでバランスを崩した。

 その状態から追撃するようにハクキの剣が俺の剣を弾き飛ばす。剣は空中を舞って俺達の近くで道場の床に突き刺さった。

 俺の喉元にはハクキの剣が当てられており、俺は身動き一つとれない状態。つまりは”負け”ということだ。


「俺の勝ち、だな」

「....マジか」


 そんな感想しか出てこないほどあっさりと負けた。ハクキが生前どんな奴だったかは分からないが、やはり戦闘経験が違う。この男にはライラすらも勝てないのではと思わされた。


「ま、頑張った方だと思うよ。そもそも俺と張り合えるってこと自体が凄いんだから。もっと誇っていいと思うよ」

「だとしても負けは負けだ。今は反省点しか浮かばないな」

「当初の目的は達成したんだからいいじゃないか。俺は満足した。まだまだ君は強くなれる。これからも鍛錬を続けるといい」


 ハクキはそう言うとスッと剣を離し、そのまま鞘の中に収めた。


「あっちも終わったようだし、彼女があの2人をここに連れて来てくれる。君はそこで待っているといい」

「待て、1つ聞きたかったんだが....」

「何だ?」

「お前はライラを知っているのか?」


 その問いに少し間をおいてハクキが言った。


「向こうは覚えていないけどな。多分、俺の名前を出しても知らないと思うぞ」

「どこかで会ったとか?」

「言っただろ、向こうは覚えてない。俺は答える気が無い。おーけー?」


 これ以上詮索するなということらしい。ライラがハクキのことを覚えていないのであれば聞いても無駄だろう。これ以上は聞かないことにした。


「そんな話をしてたら来たぞ」


 ハクキがそう言うと、道場の入り口の方から話声が聞こえてきた。それと足音が複数。恐らくライラ達だろう。


「さて、俺はそろそろ行くかね」

「お前も幽霊なら浄化しなきゃいけないんだが」

「残念ながら聖属性魔法で俺は()()()()()()。そもそも死霊と同じ存在ではないからな」

「お前は幽霊じゃないのか....?でも死んでいるんだろ?」

「そうだな....あまり詳しいことは言えないけど、今君が見てる俺は幻覚みたいなものだ。そう思ってくれればいい」


 そう言うとハクキは同情の入り口を見るように指差した。俺はその行動につられて道場の入り口を見る。


「じゃあな王子様。君がいずれ、彼女にとってのワトソンになる。彼女の隣で、彼女が為すことを支えてやってくれ。君に与えられた特等席だ」

「ハクキ、それはどういう....」


 振り向いた時には既にハクキの姿は無く、その場には俺と突き刺さった剣しか残っていなかった。

 すると道場の扉が開き、ライラとセレナが中に入って来る。彼女達の後ろには白い少女霊がおり、彼女達に続いて道場の中へと入って来た。


「殿下!」

「ライラ、セレナ!無事でよかった。っ!どうしたセレナ!?泣いているのか....?」


 こちらにゆっくりと歩いてくる彼女達を見た時、セレナの様子が変なことに気づいた。今もなお涙を流し、顔には泣き跡がしっかりと残っている。


「殿下....これには理由がありまして....」

「うっ....ぐすっ....」

「淑女棟で一体何があった?」


 彼女達が入っていった淑女棟。幽霊が案内した場所ということは、恐らくあの場所にも幽霊がいたのだろう。だが、俺が戦っている時間は2時間ほどと意外にも長い。その時間向こうも幽霊と戦闘していたのか?とも思ったが、ライラにもセレナにも外傷はない。疲れている様子もなかった。


「実は....」


 ライラはぽつりぽつりと語りだす。淑女棟で出会った幽霊たちのこと、彼女達と話した内容のこと、そして....彼女達との別れのこと。

 その話をし始めた時から、ライラの顔も少し曇ったのを見た。


 既に月は傾き始め、もう2時間もすれば朝日が昇る。

 ライラは、この日に体験した不思議なお茶会のことを話した。


当作品が面白い!気に入った!という方は評価やいいね、感想などお待ちしております。


次回更新日は11月24日AM 7:00の予定です。


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