第87話 隠れ聖女と幽霊調査~その6
「さて、お茶会と言っても特に話題とか無いのよね~」
紅茶を啜りながらベアがそんなことを言う。
一応招待したのは彼女たちなのだけど....
「私達、死んで目覚めてからまだ数日ですからね。今の子達が好きそうな話題は振れないかもしれませんね」
「ベアは50年前、メイルゥはいつ頃亡くなったんですか?」
「そうですね....大体30年前でしょうか?婚約者の下へと会いに行こうと馬車で移動していたのですが、前日の嵐の影響で地盤が緩く、そのまま崖に落ちてしまって」
「それは....すみません。失礼なことを聞いてしまって....」
「全然構わないですよ。むしろ話の話題になったのならよかったです」
ニコリと微笑むメイルゥ。天使だ....
すると、話に入ろうとファナが手を上げる。
「私は病気で死にました!亡くなってからまだ1週間くらいです....あっ、ですわ!」
「ファナ、無理せずいつもの口調でいいのよ」
「ベアトリーチェお姉さま!」
やはり無理に貴族っぽく振舞おうとしていることを指摘されると怒るようだ。でも亡くなってから1週間....私達が夏季休暇を終えて戻って来たくらいだろうか?
見た目の様に幼い彼女がこんな若さで亡くなってしまったことを考えると、少し悲しい気持ちを感じる。
「でも、せっかくならもっと楽しい話をしたいわよね?ファナ、何かある?」
「女子が集まって話すことと言えば1つしかないわ!....無いですわ!」
あ、言い直した。
「と言うと?」
セレナ様の問いに対し、ファナは自信満々に「ふふん♪」と言い、そして目をキラッキラに輝かせて話題を提供した。
「勿論、”恋バナ”よ!!私達はともかく、現役王族と貴族令嬢に素敵な恋愛話は無いのかしら!?」
はい、知ってた。何となくそうなるだろうとは思っていたが、やはりそういう話題になるのか....
ファナの話題に対し、私とセレナ様は紅茶を静かに啜りながら冷静に応える。
「無いですね」
「ライラ様に同じく」
「なんで?!」
話題終了。期待していた恋バナが出来なかったショックがゆえに、ファナはお嬢様言葉が抜けて素で反応してしまったようだ。
確かに、貴族令嬢や王族ともなればそういった浮ついた話は上がりやすいだろう。現に、私の友人にも婚約者がいる人はいる。貴族であれば跡継ぎの問題もあるし、女性ともなれば尚更結婚に関しては前向きに検討する家が多いだろう。
だが、今この場にいる私とセレナ様はそういった話が一切ないで有名なのだ。剣術大会以降、セレナ様に向けて縁談が山ほど来たらしいのだが、姪大好きな国王ことベルンハルト陛下が全て確認して斬り捨てたらしい。なんでも、『私が認めるやつじゃないとセレナを嫁にはやらん』と言っていたらしい。
「へぇ~珍しい。竜爵令嬢ともなれば婚約者の1人はいると思ったのに」
同じ元竜爵令嬢のベアがそんなことを言う。だが、私は長女であるが家は継がない。既に長兄のリオルお兄様と義姉のマアンナ義姉様が次期当主と夫人となり、次兄のセルカお兄様は第一王子ラインハルト殿下のお付きになることが決定している。
そうなれば一番年下の私はお役御免なわけで、こうして自由にさせてもらっているのである。
「私、将来的には世界中を旅してみたいですね。最終的にはどこか静かな土地で暮らすのもいいかもしれません」
「ま、結婚だけが女の幸せじゃないからね。それもいいと思うわ。ちなみに私も婚約者はいたけどね」
ふふふと笑うベア。何となくマウントを取られているような気がしたが、実際に私には婚約者がいないので何も言い返せない。
その時、セレナ様が冷静に爆弾を投下する。
「でも、ライラ様にはレオお兄様がいますから」
「レオお兄様?セレナちゃん、それって誰のこと?」
いつの間にかファナからセレナ様への呼び方がフレンドリーになっていたが、セレナ様は気にせず話を続けた。
「言葉通りの意味よ。私のお兄様、正確には従兄だけど」
「え?!王族とそういう関係なの?!玉の輿....!?」
「ちょっとセレナ様....!勘違いさせそうなこと言わないでください....!」
そう言うとセレナ様はゆっくりとこちらを向く。その目はスン....と冷静な目をしているが、明らかに瞳の奥で『あんな仲いいのになんでくっつかないんだ』と言っていた。
「端から見てもあれだけ仲がいいのに何故ライラ様とお兄様はくっつかないんですか?私は早くライラ様に義姉様になっていただきたいのですけど」
「仲良くなんて....!いや、仲はいい方だと思いますが....」
セレナ様が聖女として覚醒した今、殿下は聖結晶のネックレスを外している。おかげで近づいても聖女の魔力がバレることはないし、イザヤの一件も含めてかなり仲は深まったような気がする。
それに....イザヤの町で殿下に抱き着かれた時、反射的に私も手を回していたこと思い出す。そう考えるとぶわっと顔が赤くなった。
「あら、王族とそういう関係なの?それなら現王族の子と一緒にいることも、他の貴族なんかに目が行かないのも納得ね」
「王族とのラブロマンスですか....!シンデレラストーリーというやつですね!」
「凄いわ!童話のお姫様みたい!」
3人から三者三様の反応が返ってくる。いや、私と殿下はそういう関係ではないのですが....
「だからライラ様、早くお兄様とくっついてください。多分この国の独身男性の中で最も優良物件ですよ」
「それは確かにそうですけど、私は将来的に冒険者として世界を旅したいと....」
「大丈夫です。レオお兄様は頑丈ですから付いて行けます!」
グッとサムズアップをしてこちらを見るセレナ様。そんな期待の眼差しを向けられても、殿下にだって選ぶ権利はある。
....確かに殿下はとてもいい人だと思いますけども。
「いいじゃない。王子様と婚約。貴族令嬢としてはこれ以上ないくらいの良縁だわ」
「でも、ライラ様が将来旅がしたいと言うであればそれもいいと思いますよ。先程ベアトリーチェ様が言ったように、結婚だけが女性の幸せでは無いですからね」
「メイルゥ....!」
メイルゥは分かってくれるようだ。
でも、私だって結婚のことを考えなかった訳じゃない。これでも貴族令嬢だ。結婚して子供を生んで、幸せな家庭で一生を終える。そんな人生でもいいなと考えたことはある。
(でも....それじゃダメ。私にはやらなければいけないことがある)
勇者の力を引き継ぐことができる私の聖特性『天聖』の秘密、そしてエノクが言っていた”使命”のこと....
(私が七画の聖女紋を授かったのにはきっと意味がある。....私がそれを見つけないと)
だが、この話にはきっと魔族や国の歴史が絡んでくる。私が聖女であることをバラせば、恐らくこの国に大きな危険が伴うだろう。無関係な人たちを巻き込むわけにはいかない。
「とにかく、私は結婚する気はありません!」
「ぶぅ....ライラ様が義姉様になってくれたら嬉しかったのに....」
不貞腐れるセレナ様の頭を、私は優しく撫でた。セレナ様の義姉にはなれないが、私はセレナ様の先生だ。セレナ様がこれからどう成長しようとその事実は変わらない。
「えへへ....ライラ様の手は安心します」
「それならよかったです。くれぐれも、殿下の前で先ほどみたいなことは言わないでくださいよ?」
「....!それって....いや、分かってなさそうなのでいいです」
「?」
セレナ様の言葉が引っかかったが、幸せそうなのでそれでよしとしよう。
この時、ベア、メイルゥ、ファナから見ても分かりやすいほど私の頬は真っ赤だったのだが、この時の私がそれに気づくことはなかった。
***
お茶会も既に1時間を超え、かなり打ち解けてきたところでベアが話題を切り替える。
「さて、そろそろ話してもいいかな」
「何のことです?」
「あの少女霊のこと。知りたいんでしょ?教えてあげるって言ったからね」
ベアからの話はあの少女霊に関してのことのようだ。ベア達をここに連れてきたのも彼女だというし、やはり謎が多い。彼女は一体何者なんだろうか?
「あの少女霊....一体何者なんですか?」
「そうねぇ....私達も詳しくは知らないの」
えぇ....絶対何か知っている風の言い方だったのに....?
「でも、彼女がこの学園に発生してしまった魂達を纏めているのは彼女よ。そんな彼女も、最近この学園に現れたらしいけどね」
「最近になって急に幽霊が目撃された原因と何か関係が....?」
「あると思うわよ。私達がこの学園で目覚めた時期と、彼女が現れた時期はほとんど一緒だから」
「私が目覚めた時も、あの少女が側にいました」
「私の時もそうだったよ」
メイルゥとお嬢様言葉の取れたファナが同意する。となるとやはり、ここ最近起きていた幽霊事件に深く関わっているのは彼女だということが判明した。
「それにしても、あの子も可哀そうよね....年齢的に言えばファナよりも下でしょ?」
「う~ん....2つ下かな?」
「となると10歳か。あんなに幼くして無くなってしまうなんて可哀そうね。それに彼女、私達とは違うみたいだし、本当に謎よね....」
「待った、違うってどういうことですか?」
ベアの言った言葉に引っかかった私が質問する。彼女も幽霊騒ぎに関わっているのならベア達と同じ”死霊”、即ち幽霊のはずだ。でも、ベアは『自分とは違う』と言った....同じではないのか?
「そのままの意味よ。彼女、確かに死んでるんでしょうけど....その、なんというか....私達の様に”魂”のみの存在ではないのよ。言葉にしづらいけれど」
「そうですね。どちらかというと記憶体に近いような....ごめんなさい。私にも丁度いい言葉が見つかりません」
「魂だけの存在じゃない幽霊....?」
そんなのありなのか?でも、実際に幽霊である彼女達がそういうのだ。きっと死霊とは何かが違うのだろう。
「そうねぇ....あ、魔法生物って言えば分かるかしら?魔法で構成された体みたいな感じで、彼女も”何か”で構成された体をしているのよ。それが何なのかまでは分からないけれど」
ベアですら分からない謎の存在。彼女は一体何者なのだろうか?
私達を導いた少女霊、彼女に関する謎が私のことを悩ませるのだった。
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次回更新日は11月20日AM 7:00の予定です。




