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第85話 隠れ聖女と幽霊調査~その4

「次は、あなたの番です」


 少女に向かってそう言い放つ。少女は動揺することなくただふわりと微笑んだ。少女がゆっくりと歩き出した時に攻撃してくるかもしれないと身構えたが、少女はまるで風にでも溶けるようにその半透明な体で私達の横を通り過ぎる。

 あまりに自然過ぎるその光景に反応が遅れ、バッと振り向いたころには少女は扉に手かけていた。

 少女は扉を開け、また付いて来いと言う様に笑った。


()()()()()()()()()()。次は、こっち」


 そう言って少女は開け放たれた扉から廊下へと出ていく。その後姿にどうするべきか困惑の表情で殿下を見る。すると、殿下も困ったようにこちらを見返した。


「えと....付いて行きます?」

「....しかないだろうな」

「何なんでしょうね....あの子」


 困惑する3人。だが私たちは幽霊調査に来たのだ。あの少女霊を浄化することが目的なのだから、付いていかない選択肢はない。

 訓練場を出て行こうとした時、ふと何かを忘れている気がして立ち止まる。振り返ると、訓練場のど真ん中にボロボロになった鎧が月明かりに照らされて散らばっていた。


「あっ....鎧....」

「....どうせなら粉々にして証拠隠滅するか?」


 王子がそんなこと言っていいのか?!と驚くが、確かにあのまま倉庫の中に戻したとしてもボロボロになった事実は変わらない。あのまま放置して見つかるのと何も変わらないのだ。

 そうなれば後は証拠隠滅するしか選択肢がない。


「それしかないですね」

「分かった。俺がやろう」


 殿下が魔方陣を展開し、正面に第3階級炎属性魔法”焔滅弾(フレイムバースト)”を放つ。鎧は高めの魔法耐久があるはずなのにあっさりと塵となって消えていった。

 ....あれ?初めからそれを撃ってればもっと早く終わったのでは?

 そんな疑問を感じ取ったのか、殿下が腰元のポーチから取り出した魔力ポーションを飲んで答えた。


「最近習得したばかりでな。魔力がすっからかんになるんだ。戦闘があるのに無暗に使ってられないだろ?」

「まぁ....それもそうですね」

「過ぎたことだ。行くぞ」


 そう言って鎧の方を振り返らず殿下が扉から訓練場を出ていく。少女霊はゆっくりとだが廊下を歩いており、時折こちらを振り返っていることから私達を待っているのだろう。

 セレナ様と顔を見合わせてから、私達も訓練場を出た。

 騎士棟の廊下を歩き、目の前を歩く少女霊の後を追いかける。彼女は私達を案内したい場所があるのだろう。そうと分かれば後ろから今すぐ浄化!とはならない。少女の進む方向は騎士棟と本校舎の連絡通路。そこから更に本校舎を突っ切る様に進み、騎士棟の2つ隣の棟へと続く連絡通路に辿り着く。


「ここは....貴族棟?」

「次の幽霊はこの中にいるってことか」


 少女は何も言わず、ただゆっくりと歩いて貴族棟に入っていく。貴族棟は貴族学科を学ぶ生徒が入れる場所であり、この国にいる貴族の数的にこの学科の生徒数はあまり多くない。だからこそ複数のクラブ用に教室を貸し出していたり、貴族棟の中に”淑女棟”なる場所があったりする。

 そして少女霊の向かった先はその淑女棟だった。


「淑女棟....こんな所に霊が?」

「初めて入るなここは」

「それはそうですよお兄様。ここは女性の貴族のみ入れる場所ですから」


 王族とはいえ、男である殿下が入ったことがあったら大問題である。

 淑女棟は貴族の女性が貴族のしきたりやルール、所作などを学ぶ場である。私も貴族令嬢としての義務なので受けているため、この場所はよく知っている。

 少女霊は何も言わず歩いて進んで行く。それを追いかけるために私達も淑女棟に入ろうとしたその時....


 バチィン!!という音と共に殿下のみが弾かれた。殿下はその衝撃で後方へと尻もちをつき、私とセレナ様のみがすんなりと入ることが出来た。


「殿下?!」

「お兄様大丈夫ですか?!」

「痛っ....弾かれた....?」


 困惑していると、前を歩いていた少女霊が振り向いて言った。


「ここは男子禁制の場所。あなたはそこにいて。すぐに案内してあげるから」


 そう言うと少女霊は再び前を向いて歩いて行く。周囲を見ると、本校舎は普通だったのに対して淑女棟には木尾君の泡が浮かんでいる。ということは、この淑女棟が夢郷になっているということだ。その事実が示す事柄はつまり、次の霊がこの場所にいるということ。先ほどの鎧と同じように、この棟にも幽霊がいて、少女がそこに私達を連れて行こうとしている。


「殿下、少し待っていてください。私とセレナ様で行ってきます」

「任せてくださいお兄様!」

「....ああ。すまない、任せたぞ」


 淑女棟の入り口で弾かれた殿下を置いてアタシとセレナ様は淑女棟の中を進んで行く。少女霊が案内したのは授業でも使われるお茶会用の部屋。休憩時間にも使えるその部屋は、淑女棟で学ぶ者たちにとっての憩いの場となっている。

 そんな部屋の扉を開け、少女霊は部屋の中へと消えていった。

 私とセレナ様もその後を追う様に部屋の中に入る。やはり中は人がいないためかかなり静かな空間となっており、いつものような和やかな雰囲気は感じなかった。


 部屋の中には大きな円形のティーテーブルと複数の椅子が用意されている。その他にも飾られた花やソファにローテーブル、本棚などいつも見る光景に変わりはなかった。ただ一点、()()()()()()()()()()()()()()を除いて。


「何でしょうあれ....マネキン?」


 ティーテーブルにセットされたティーポッドとカップ、そして用意された椅子に座る3人のマネキン。マネキンはそれぞれ別々の色のドレスを着用しており、行儀よく淑女の座り方で俯いている。


「あれ....デザインクラブの新作じゃないですか?!可愛い....!」


 セレナ様が目を輝かせて言う。ということは、あのマネキンはデザインクラブの持ち物なのだろう。服飾を創る時に使用しているマネキンをそのまま持ってきたということだろうか?

 すると、そのマネキンの近くに少女霊が現れる。少女霊はこちらに向かってふわりと微笑んで言った。


「さぁ、座って」


 促されるまま座るか悩んだが、マネキンとは反対方向の開いている席に座る。すると先ほどまで見えなかった白い魂が3つ、私たちの頭上を飛んでいた。魂達はふわりふわりと頭上を飛び回ってから少女霊の下へと行く。そしてそれぞれの魂が別れて3つのマネキンに入っていった。

 その瞬間、生命ではないはずのマネキンが動き出す。その目は生気が宿ったように光り、そして鎧と同じように白いオーラがマネキンを包んだ。すると剥き出しであったマネキンの骨格が塗り替わるように人肌が描かれていく。

 マネキンは一瞬にして3人の淑女となった。


「お姉ちゃん達、次のお願い」


 少女霊は3人のマネキンを見せるように手を広げ、そして言った。


「彼女達を満足させてあげて。お茶会(ティーパーティー)の始まりよ」


 そう言った瞬間に少女霊は消えた。

 私達は3人の淑女と向き合う様に座り直す。幽霊たちと楽しいお茶会の始まりだった。




***




《レオンハルト視点》

 一方その頃、俺の前にライラ達を送り届けた少女霊が現れる。突然現れた少女霊に警戒したが、すぐさまその警戒を解いた。この少女霊の意図は分からないが、俺達を魂のいる場所に連れて行ってくれているらしい。そして彼女は先ほど『あなたはそこにいて。すぐに案内してあげるから』と言った。ということは、淑女棟に行ったライラ達とは別の場所に俺は連れて行かれるのだろう。


(ライラ達は大丈夫だろうか....?)


 心配ではあるが、セレナの側にはライラが付いている。何かあっても彼女なら助けてくれるだろう。自分の中で、ライラほど頼りになる存在はいない。

 レオンハルトとしての意見でもあるが、同時にアリアと行動を共にした冒険者リオとしての意見でもある。ライラにせよアリアにせよ、彼女はとても頼りになる。


 少女霊が付いて来いと言う様に俺の横を通りすぎて再び本校舎の方へと歩いて行く。俺が向かう方向は貴族棟とは逆方向にあるということか。

 少女霊の後を付いて歩いて行くと、入っていったのは補佐棟だった。補佐棟は将来的に貴族の使用人やバトラーとなる生徒の為に作られた場所だ。執事やメイドとしての所作や、主が危険にさらされた時の対応、護身術などを学ぶ場である。

 何も言わず少女霊の後を付いて行くと、連れて来られたのは護身術を学ぶ道場だった。


(また戦闘か?)


 そう思いながら扉を開けて中に入ると、道場の真ん中に白いオーラを放つ人物が1人立っている。先ほどの鎧とは違い、少女霊の様に1人ではっきりわかる実体を持っていた。

 後ろ姿や体形から男であることがわかるが、何よりも恐ろしいのは男が放つオーラだ。さきほどの魂の集合体である鎧とは比べ物にならない。それこそ、イザヤで戦ったフルーレティよりも強力なオーラを纏っている。


(威圧しているわけでもないのにこの感覚....目に見えるオーラだけでどれだけ練り上げられた魔力なんだ....?)


 目の前に圧倒的強者がいる。少女霊がここに連れて来てくれたことを感謝しなければ。そう考えていると男が振り向いた。その顔は案の定見たことのない顔だったが、年齢的には俺とあまり変わらない容姿をしている。

 男が腰元の剣に手をかけ、そしてゆっくりと話しかけてきた。


「君が俺の相手をしてくれるっていう人かな?」

「ああ。まさか幽霊にこれほど強力なオーラを放つ奴がいるとは思わなかった。生前はさぞ名の知れた剣士なのだろう?」


 そう言うと男はう~ん....と悩むような仕草を見せ、そして眉を下げながら笑う。


「残念ながら俺は普通の人だったよ。この世界の歴史に()()()()()()()()()()()


 その含みのある言い方に少し引っかかるが、今はそんなことどうでもいい。目の前に明らかな強者がいるのだ。戦いたくてうずうずしている。


「エキドナ王国第2王子、レオンハルト・アヴァロンだ。アンタの名は?」

「俺のことは()()()と呼びな。君が勝つ条件は”俺が満足するまで戦うこと”単純だろ?」

「ああ。変に頭を使う内容じゃなくて助かる」


 俺が笑うと同時にハクキも笑う。剣を抜いたお互いが、同タイミングで駆け出し、そして剣同士がぶつかり合った。


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