第83話 隠れ聖女と幽霊調査~その2
深夜、日付が変わるか変わらないかという時間帯に私は部屋を出る。既にセナリーには事情を伝えてあり、寮監にも言った所既に学園長から話は聞いているとの事だった。
流石学園長先生。仕事が早い。
そんなこんなで深夜に部屋を出て廊下の反対の部屋へと向かう。貴族寮は階級によって階数が振り分けられており、私は竜爵家(公爵と同じ)なので全5階の内最上階に部屋を貰っている。
ここは公爵以上と寮監、そして王族の部屋がある階の為セレナ様の部屋は廊下を歩いてすぐの場所にあるのだ。
セレナ様の部屋をノックすると、お付きの使用人が出迎えてくれる。彼女はお昼にも会っているので、事情を理解していたようだ。
「セレナ様、ティルナノーグ竜爵令嬢様がいらっしゃいました」
「はいっ!今行きます!」
そう言ってトタトタと走ってくるセレナ様。一応動きやすい服装とのことだったので私は普段の学生服に身を包んでいる。この学園は季節によってロングでもミニでもスカートの長さを選べるため、私は動きやすいようミニスカートにした。
セレナ様も同じく学生服であったが、首から聖結晶のペンダントをかけている。
「大丈夫ですっ!行けます....!」
「セレナ様、そのペンダントは?」
「マナ様から聖属性魔法の練習用にと貰った物です。もしかしたら浄化の役に立つかなぁ....と」
「なるほど。今回は殿下が一緒なので私は聖属性魔法は使えません。なのでセレナ様に一任することになります」
「ま、任せて下しゃぃ!」
緊張のあまり噛んでしまったようだ。セレナ様ってば....可愛い!
と、そんなことを思ってる場合じゃない。今は幽霊調査に集中しなければ。
「行きましょうか、セレナ様」
「は、はい!頑張りましゅ....!」
また噛んだ。可愛い。
緊張を解す為にセレナ様の頭を優しく撫で、そして2人で寮を出た。学園沿いの一本道を歩き、しばらくすると校門が見えてくる。既に校門の前には誰かが立っており、近づくと案の定レオンハルト殿下だった。
殿下は私達に気づくと寄りかかっていた壁から離れてこちらに向かってくる。
「来たか」
「お待たせしました。セレナ様をお連れしましたよ」
「き、来ました!セレナです!」
「緊張しすぎだセレナ。大丈夫、浄化にだけ集中してくれれば外敵は俺達が対処する」
「任せてくださいセレナ様。私たちがお守りします」
やはり幽霊が苦手なのか、少し震えていたセレナ様。こちらに近づけて頭を撫でると震えが少し収まったようだ。なんだか猫みたいだなぁ....
そんなことを思っていると、校門を護衛している騎士がこちらに訝しげな視線を向けてくる。だが、すぐに殿下が反応して事情を説明し、騎士も納得したようで校門を開けてくれた。
「行くぞ」
「はい」
「は、はい!」
殿下が先行して学園へと入っていくのを追いかけて、私とセレナ様も校門から中へと入っていった。
学園の中は案の定真っ暗で、私が光魔法”照光球”で灯りを創る。校門から一直線の大きい道を進み、正面入り口の前で左に曲がる。そこから校舎の側面側についている職員用の出入り口に向かい、丁度巡回で歩いてきた騎士とすれ違いで校舎の中に入った。
「まずは目撃証言の多かった場所からだな。最初は....一番近いのは騎士棟か?」
「ですね。騎士棟は外側に教会がありますし、もしかしたら寄ってきやすいのかもしれません」
「なら騎士棟から周っていこう」
殿下を先頭にセレナ様が真ん中、私が最後方で歩いて行く。照光球は殿下に付いていくよう指示してあるため、私が魔法を解かない限り先頭の殿下の周囲は明るいだろう。中央校舎からそのまま騎士棟への連絡通路に辿り着く。今の所おかしな点はどこにもなかった。
(幽霊....今の所は何も見えませんね)
もっとあちこちに幽霊が飛び回っているようなのを想像したのだが、流石にそんなことになってればもっと騒ぎは大きくなっていたはずだ。今の状況が普通なのかもしれない。
連絡通路を渡って騎士棟に入る。ここは私や殿下、パルドなんかが騎士学を学ぶ場所であり、専用の訓練場も存在する。私と殿下にとっては普段から授業を受けている場所であり、構造についてはかなり詳しい。
騎士棟の教室を見て回るがこれといって特に怪しい点はない。幽霊の姿も見ていなかった。
「とりあえずは何も無いな」
「暗いだけでいつもと変わらないですね」
そう言った瞬間、誰かが私の服の裾を掴んだ。それに気づいて振り返ると、セレナ様が青い顔をしながら小刻みに震えている。その尋常じゃない震え方に疑問を抱く。セレナ様がゆっくりと震える手で廊下の先を指差した。
私達もそちらを見ると....
真っ白な少女が、廊下の先で私達の方を見ていた。
「でっ....」
「「出たぁぁあああああ!!」」
「叫んでる場合か!すぐ浄化しに行くぞ!」
殿下がいち早く動く。その瞬間、少女の霊はゆらりと動いて廊下の先を曲がって歩いて行った。そして一瞬こちらをちらりと見た少女霊は、『こっちへおいで』と言う様に軽く笑って去って行く。向かった先にあるのは騎士棟の訓練場だ。恐らくそこに向かったのだろう。
「逃げたのか....?すぐに追いかけるぞ」
「セレナ様、大丈夫ですか?」
「だ、だ、大丈夫です....大丈夫....」
震えながらも「大丈夫」と口にするセレナ様。取りあえずセレナ様を落ち着かせてから立ち上がり、ゆっくりと廊下を歩きだした。殿下を先頭に、再び私たちは進みだす。向かう先は少女霊の向かった騎士棟の訓練場だ。
それにしてもあの少女霊はどう見てもアンデットには見えなかった。明らかな死霊系。だが、ああも人の形を保った死霊がいるのだろうか?
(人型の死霊が出た記録は見たことがある。でも、それは死霊使いや呪いによって死者の魂が魔物化した時にしか現れないはず....それに、彼女には意思があったように見えた)
死霊は基本的に自分を蘇らせた人物に絶対忠誠の上、意思を持たない。もちろん死霊使いが情報を引き出そうとすれば喋るが、そこに本人の意思はないし主人が命令した動きしかできない。
なのにあの少女霊は自分の意思で動いているように見える。普通の死霊と何かが違うのだろうか....?
「ひとまず、追いかけましょう」
「だな」
殿下と私でセレナ様を挟む形で進んで行く。廊下を曲がり、すぐ目の前の扉を開けると目の前に広い空間が広がった。いつもの騎士棟の訓練場だが、周囲はなぜかほんのり明るい光に包まれており空間の様子がはっきりと見えた。広い空間の中心には見慣れない人物たちがいる。
1人は先ほども真っ白な少女霊。そしてもう1人は....
「あれは....鎧?」
「見た目は騎士の鎧に見えますが....」
謎の鎧に困惑していると、少女霊がゆっくりと手招きをした。明らかに死霊でありながら意思を持った行動。彼女の手招きに私たちは乗ることにした。訓練場の中を進み、少女から少し離れた位置まで辿り着く。
鎧は動かず、ただ座ったままじっと俯いている。
「お姉ちゃん達」
「?!」
今の声は....?目の前の少女霊が喋ったのか....?
驚きの余り私たちは全員固まっている。だがそんな私達にお構いなしに少女霊は言った。
「ここまで来てくれてありがとう。早速で悪いんだけどね....」
少女がそう言った瞬間、私たちは気づいた。訓練場の天井沿いに、数えきれないほどの白い魂が浮かんでいることに。そしていつの間にかこの訓練場に、シャボン玉のような泡が浮かんでいることに。
そして魂達が鎧の中に入っていく。全ての魂が鎧の中に入っていった瞬間、鎧がピクリと動いた。
「この魂達を....救ってあげて」
鎧が足元にあった大剣を手に取り、そして立ち上がった。鎧からは炎のような揺らめくオーラが出ており、立ち上がった鎧がこちらを敵視するように見た。
その光景に驚くと同時に私達も身構える。殿下も私も剣を抜き、セレナ様を下がらせた。少女霊はふわりと浮いて私達とは反対方向へと飛んで離れる。
「あの鎧....もしかして死霊の力によって勝手に動いているのか?」
「でしょうね。見たところ、あれを倒すには聖女の力が必要かと」
「セレナ、俺とライラの剣に聖属性魔法を付与できるか?」
「はい!やってみます」
セレナ様が聖属性魔法を行使する。現れた魔方陣が私と殿下の剣に張り付き、剣が白く発光した。
「あの少女霊はひとまず後だな」
「ええ。まずはこの鎧をどうにかしないと」
だがあの少女霊は私達に向かって『救ってあげて』と言った。つまり、この魂は誰かによって呼び出された成仏できない魂ということになる。この幽霊騒動、やはり何か裏がありそう....
そしてもう一つ気づくことは今の訓練場の状況だ。殿下やセレナ様は気にしていないだろうが、この訓練場に浮かぶ泡....それが存在しているということはつまり、この訓練場が夢郷化しているということ。何故この場所に夢郷が展開されているの....?
気になることだらけだが、目の前の鎧は今にも私達を襲おうとしている。幸い大人が入るような鎧の為動きは鈍いが、それでも大剣を構えてこちらに寄って来る様はかなりの威圧感がある。
殿下と私が剣を構え、そして鎧は大剣の切っ先をこちらに向けた。足を止めた鎧と向き合う私達。両者動かぬこの状況から、同時に私と殿下と鎧は踏み込んで相手へと向かって行く。
夜の訓練場に、剣同士がぶつかり合う音が響いた。
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次回更新日は11月14日AM 7:00の予定です。




