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第81話 隠れ聖女と四者(?)面談

「「失礼します」」


 セレナ様と声を合わせて中に入る。部屋の中は散らかっているように見えて整頓されており、きっちりと本がしまわれた本棚に数々の賞状やトロフィーが飾られた棚、そして壁には歴代の学園長の肖像画が飾られていた。

 ローテーブルとソファを挟んだ部屋の一番奥、仕事用のデスクの向こうにいる初老の男性が学園長のオルトラ·ファナディアス。白い髭を存分に生やし、老眼鏡をかけた老人だ。だが、少なくともこの国において5本の指に入るレベルの魔法使いである。


「よく来た。まずはかけなさい」


「ありがとうございます。失礼いたします」


「わしもそっちに行こうかの」


 そう言って立ち上がったオルトラがお茶を煎れて差し出してくれた。そして私達の向かいに座る。


「出しておいてなんだが緑茶は好きかの?楼月から取り寄せた一品じゃて」


「ありがとうございます。私も楼月に友人がおりまして、向こうに行ったときによく飲むんです。いただきます」


「ほっほっほ、他国に友人がいるのは良いことじゃ。国際的な繋がりは経験も視野も豊かにするからのう」


 朗らかに笑うオルトラ。淹れてくれた緑茶は苦味の中に深みがあり、芯から温かくなる感覚で美味しかった。


「さて、本題に入ろうかの。今日はセレナ様からアポイントがあった訳じゃが、用件があるのはティルナノーグ嬢というこでよろしいかな?」


「はい。私がセレナ様に頼んでこの場を設けさせて頂きました」


「して、その用件とは?」


「実は....」


 とそこまで言いかけた時、我慢できなかったのか私の胸元のポケットからシュバッと何かが飛び出してくる。いや、もう飛び出してくるのなんて1人以外にいないんですけどね....


「じゃっじゃ〜ん!久しぶりオルトラ!アタシが来たわよ〜!」


 ドッキリ大成功〜!とでも言いたげな程満面の笑みで胸を張るリム。学園長の前だろうがお構いなしにいつもの様子で喋った。

 その光景に唖然とする私含む3人。特に、オルトラは目を見開いたまま固まっていた。


「リム....?何故ここに....?」


「何故って?アタシがライラに頼んでこの場まで連れてきて貰ったからよ!」


「あの、そういうことです。本日お伺いした用件はリムの....いえ、夢郷と学園に張られた結界について聞きに来ました」


 真剣な顔でそう言うと、オルトラは理解してくれたようだ。私が結界と夢郷の事を知っている事実、そしてリムと共に行動している事実を見て、何となくだが察してくれたらしい。


 こうして3人+1人(?)による四者面談が始まった。

 話の本題に入ったところで、セレナ様同様に夢郷の件を説明する。やはりムーバのことも知っていたようで、私とリムの話を最後まで聞いてしっかりと考えてくれた。


「なるほど。学園夢郷に侵入者のぅ....」


「そ。で、一応結界の発動に関しては学園長であるオルトラが関わってるから、話を聞いてみれば何かわかるんじゃないかと思ったってわけ」


「何か心当たりはありますか?」


「ふむ....残念じゃが、心当たりはないのぅ。リムの言う通り、結界の発動に関しては学園長が切り替わる度に行われておる。わしもリム達とそれを行った。じゃが、それ以降に関して結界の管理はムーバ達に任せておる。我々が下手に口を出すより、専門家に頼った方がいいからのぅ」


「何かを感じたり....とかも無いんですか?」


「学園の結界は夢郷を利用している分普通の魔力とは違うのじゃ。わしが結界の中にいるならまだしも、外にいる場合は何かあっても気づけないんじゃよ。ここ最近は変な事件が多くてのぅ。わしも魔法使いの端くれ故、度々呼ばれて学園を離れることがある。そこを狙われたらわしでも気づけんよ」


 確かに、2学期式以降ここ数日学園長をお見掛けしていない。仕事が忙しくてこの部屋に籠っているのかとも思ったが、学園の外にいたのか。そう言えば、ラインハルト殿下もないやら事件の調査とかで学園を離れていたはずだ。これは偶然....?


「オルトラは今後学園を離れる予定はある?」


「いや、もうわしの案件は片付いておる。急な呼び出しがない限りは大丈夫じゃよ」


「なら、夢郷に異変を感じたらすぐに教えてもらってもいい?管理は引き続きムーバとアタシがやるわ!もちろん、ライラも一緒にね」


「あいなんだ。可能な限り注力すると約束しよう」


 オルトラが頷く。これで一先ず侵入者に関しては解決だ。後は”誰”なのかが特定できればいいんだけど....残念ながら有力な情報はない。


「それにしても、ここ最近は不思議なことが多いのぅ。”死者に会える”噂、”集団昏倒事件”、そして”幽霊騒ぎ”....ここ数日で色々起こりすぎて疲れるわい。”昏倒事件”に関しては王都でも数人被害者が出ておるからのう」


「”幽霊騒ぎ”....?」


 前半2つは聞いたことがる。夢の噂は実際に私も試した結果こうしてここにいるわけだし、集団昏倒事件に関してはラインハルト殿下が対応している事件だったはずだ。だが”幽霊騒ぎ”に関しては完全に初耳。そんなことが起きていたのか....


「そうじゃ。丁度夢の噂が広まった頃くらいかの?王都の色々な所で幽霊が見えると言った騒ぎが起きてな。わしもそれの対応に追われていたんじゃよ。何せこの学園にも()()()()()()()()事件が実際に起きておる」


 知らなかった。私たちがイザヤの町にいる間に、王都でそんな騒ぎが起きていたとは....


「その事件は解決したんですか?」


「一旦はのぅ。じゃが学園内の少女霊の他にも、いくつか除霊できておらぬ霊がおる。わしも協力してかなり数は減らしたが、まだ終わってはおらんよ」


「ということはこの学園にも....」


 そう言うとカチャカチャと音を立てて紅茶を啜る音が聞こえた。横を見ると、セレナ様が小刻みに震えながら紅茶を飲んでいる。


「だ、だだ....大丈夫ですよよ....ね....?」


「セレナ様、もしかして幽霊が....」


「こ、怖くないです!ライラ様、私を子ども扱いしないでください!」


「セレナ様、後ろ」


「ひぃ!!」


 ビクッと反応し、すぐさま紅茶を置いて私に抱き着くセレナ様。やっぱり幽霊怖いんだ....と少し和やかになる。私はというと特に問題ない。冒険者活動の中で、死霊系の魔獣やアンデットと戦うこともあるため慣れてしまった。実態のあるなしの違いはあれど、彼らは同種とみて問題ない。


「ティルナノーグ嬢、夢郷の事に関してはわしが責任をもって受け持つ。代わりにわしの頼みごとを引き受けてはくれんかのぅ?」


「はい、何なりと」


「先ほど話に上がった少女霊の他にも、学園の敷地内でいくつもの目撃情報が入っておる。それらを浄化してはくれぬか?もちろん聖女の派遣が必要とあらば要請するし、必要な道具もこちらで揃えよう」


「つまり、リム達と結界の管理に注力する代わりに学園長先生のするはずだった仕事を委託したいというわけですね?」


「そういうことじゃ。動ける者と動けない者で役割を交代しようということじゃ」


「分かりました。その幽霊たちの出る時間帯は分かりますか?」


「バラバラ故断定することは出来ん。が、大体深夜2時過ぎといった所であろう。あくまでもその近辺に多いというだけの話じゃが」


 深夜2時、学業と両立しながらであると微妙な時間帯ではあるが、代わりに夢郷のことは任せられる。オルトラであれば私なんかよりも結界について深く知っているし、ムーバ達の負担も減るだろう。

 私は2つ返事でその頼みごとを引き受けた。


「あ、それと....聖女なら派遣していただかなくても大丈夫です」


「というと....?あぁ、そういうことなのじゃな」


「えっ?えっ....?」


 私の言わんとしていることをオルトラはちゃんと理解してくれたようだ。1人状況を理解できていないセレナ様が私に抱き着いたまま困惑している。


「ここに聖女様がいらっしゃいますからね」


「そうですな」


「えっ....?い、嫌です!!幽霊怖い!!」


 だが学園長から直々に頼まれてはセレナ様と言えど首を横に振り続けることは出来ない。学園内では王族と言えどトップではないのだ。学園長には逆らえまい。


「ラ、ライラ様....?私を守って、くださいね?」


 涙目になって訴えてくるセレナ様に対し、私は微笑んで優しく頭を撫でた。


「大丈夫です。セレナ様の身の安全は私が守りますよ。それに、セレナ様に何かあったら私がレオンハルト殿下にぶっ飛ばされちゃいますからね」


「流石のレオお兄様でもそんなことをしないと思いますけど....」


 少し笑顔が戻ったようだ。こうしてオルトラとの面談が終わり、私たちは学園長室を後にする。その日は解散し、調査自体はまた後日ということで私は部屋に戻った。セナリーの用意してくれた夕食に舌鼓を打ち、入浴の末就寝時間に入る。リムは相変わらず私の部屋に居座る気満々のようだ。


 ベッドに寝転がり、今日あった話を思い出す。直近で起こった”3つの事件”。そして学園夢郷に入り込もうとした侵入者。オルトラが気づかなかったということは、偶然か必然かオルトラの不在時を狙って夢郷に入ろうとしたということ。これだけ色々重なって、果たして全てが”偶然”と言えるのだろうか?


(何か....胸騒ぎがします)


 全てが偶然とは考えられないが、全てが仕組まれていたと考えると都合がよすぎる。普段しないようなことをしているためか思考がおかしいのだろうか?何もかもが怪しく思えてくる。

 だが全ての情報を理解しているわけではない小娘が何を考えたところで状況は変わらない。私は横になるとガーゼケットをかけ直し、そして深い眠りについていった。


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