表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/170

第79話 第一王子と眠り村《ラインハルト視点》

 その日、いつもと同じ部屋で執務をこなしていた僕は、王宮からの使いがもたらした情報に困惑していた。

 陛下からとある村に関する報告。そこに出向き調査してこいという内容だったが、その調べるべき村が何やらおかしいという話だった。


「集団昏倒?」


「はい。王国南方のシャングリラ領にある村にて、集団昏倒事件が起きたとの事です。陛下より、その件について実際に現地に行って頂きたい....と」


 集団昏倒なんて事件が起きた場所に王子である自分が行くのは危険なような....とも思ったが、陛下が行ってこいと言うのならそれ相応の理由があるのだろう。例えば....


(僕の()()に頼ろうとしてるとかね)


 ふぅ....と息をつきながら背もたれに寄りかかる。学生のトップとして学園内の問題ごとや教師陣からくる厄介事などを処理してきたわけだが、王族だからと学外のことまで押し付けられては困る。

 もちろん、陛下からの命令とあらばやらなくてはいけないのだが、今回は事件の内容が内容だ。下手に行って自分まで昏倒してしまっては敵わない。


「....面倒くさいなぁ」


 ぼそりと独り言をつぶやくが、そんなことを言っても下された命令が無くなるわけではない。せめて学内の仕事は誰かに押し付けても文句は言われないだろう。

 明日辺りにセルカにでも押し付けようと考え、王宮からの使いを下がらせた。時刻は夕方。日が傾き、既に空は赤く染まっている。


「それにしても....集団昏倒ねぇ」


 どこかの魔獣の仕業か、はたまた....そう考えるが、実際に行ってみないことには分からないだろう。剣術大会の時といい、レオンハルトから聞いたティルナノーグ領の港町の事といい、ここ最近になって急に魔族が活発に動き始めた。

 最後に魔族との大規模な戦争があったとされる数百年前から、時々魔族の侵攻はあるにしてもここまで派手なものは無かった。歴史上の人間や亜人、そして数少ない勇者の伝承から魔族の侵攻はあったようだが、短期間にこうも頻繁に動くことはなかった。

 まるで、()()()()()()()()かのように魔族は人界へと攻撃を始めている。


(魔族の中に夢魔やそれに属する魔法を扱う輩がいるのか....?)


 魔獣の可能性もあるが、人を眠らせて養分を吸い取る魔獣”夢蝙蝠(ナイトバット)”は単体であれば

大した魔物ではない。村一つを壊滅させるほどの量となればそれに対応する夢蝙蝠の群れが確認できていなければおかしいし、そんな報告はない。

 それに、もしも村一つを覆うほどの数であれば住民たちは全員養分を吸い取られて干からびて死んでいるはずだ。報告によればあくまでも昏倒状態なだけであり、養分は吸い取られていないそう。そう考えれば、夢蝙蝠の群れである可能性はほぼ無いと言える。


「事件があったのは....レサル村。普通の村だな。住人数、税収、それに特産品....どのデータを見てもおかしな点はない」


 選ばれたレサル村は特にこれといって特徴のない普通の村だ。今までも魔獣による被害は多少あったようだが、どれも駐在している騎士によって解決されている。周辺に危険な魔獣の出る場所があるわけでもなく、またシャングリラ竜爵家の屋敷からもあまり遠くはない。巡回の騎士が必ず通るルートにある村の為、異変があればすぐに気づけるとのこと。


(その巡回中の騎士が今回の異変に気付いて王都まで知らせを送ったと。う~ん....考えれば考えるほど分からん)


 一応事件があった2日前から1カ月前までに来訪した人物を確認してみたが、特に怪しい人物はいなかった。名簿を指でなぞりながら確認していると、唯一自分も知っている名前を見つける。


「ギャレン・アルドノトス....確か3回生の担任だったか。この村の出身なのか」


 ギャレン教授は確かセルカの妹のクラスを受け持ってる教師だったはずだ。僕も何回か話したことがあるが、やる気の無さそうな気だるげな表情の教師だった記憶がある。確か専攻科目は魔法医学。薬学とは違い、人体に直接影響を与える医術を学ぶ学問を教えていたはずだ。


「まさか....な」


 今回の村全体の強制昏倒も、言ってしまえば魔法医学の一部と解釈できなくもない。だが、彼が村に行ったのは夏季休暇期間に3日間のみで、昏倒事件が起きた日から2週間も前だ。後発起動の魔法を設置していたとしてもここから村まではかなりの距離がある。起動することは不可能だろう。


「流石に考えすぎか。不思議な事件だからか考えすぎてしまうな....」


 少なくとも、現時点では魔族による可能性が一番高いと言えるだろう。だが分からないことだらけの現状で結論付けるのは早すぎる。一旦は実際に現地に行ってみるのがいいだろう。


「ふぅ....行けというのならとりあえず行ってみますよ。父上」


 ぼそりと独り言を呟き、持っていたティーカップに入っていた紅茶を飲みほした。




***




 報告があった日から2日後、僕は護衛の騎士数人と共に馬車に乗り込んで南方へと向かっていた。向かう先はシャングリラ領にあるレサル村。現在はシャングリラ竜爵家より派遣された騎士達によって、住人の避難や現場検証が行われているらしい。村の住民たちは揃って眠ってしまっているわけだが、唯一無事だった木こりの男が騎士達に事情を説明しているのだそうだ。


 窓に頬杖を突き、ボーっと外を眺める。朝早くから出てきたため既にある程度疲れがたまっているのだ。可能なら早めに終わらせて早めに帰りたい。

 そんなこんなで数時間馬車に揺られると、件の村についた。馬車が停止すると同時に、立ち上がっ手ゆっくりと馬車を降りる。


「ラインハルト殿下!」


 その声に気づいた騎士数人がこちらを向いて敬礼する。僕は馬車を降りきると一番近くにいた騎士に尋ねた。


「状況は?」


「は。現在村の内部を騎士十数人にて手がかりを捜索中です。昏倒してしまっている住人たちは、一時的にエルメース伯爵家の屋敷に保護してもらっております」


「そう。ならエルメース伯爵に支援物資と使用人の派遣をしておいて。彼らの体を管理する人材と場所を取ってしまっているのだから支援物資も送らないといけないからね。それで、例の男は?」


「あちらのテントにおります。騎士達と共に村を捜索するのだと聞かなくて....」


 騎士が案内したテントに入ると、明らかに騎士ではない格好の男がそこにはいた。先ほどまで動き回っていたのか汗を拭っている。

 その男は入って来た僕に気づくと素早く頭を下げた。


「ラインハルト殿下....でございますでしょうか?」


「うん、そうだよ。敬語、慣れてないみたいだね。砕いた喋り方でいいよ」


「そ、そうですかい....?変な気を使わせてしまって申し訳ないです....」


「気にしないで。それで、君が唯一昏倒を免れたっていう....」


「はい、ロバートといいます。職業は木こりを」


「当時の状況を教えてもらってもいいかな」


 僕の問いに対し、ロバートは当時会った状況を語りだした。

 どうやら、彼が木こりとしての職務を果たそうと近隣の森へ行った時のこと。昼休憩に切り株の上に座って昼食を食べていた時、村の方が大きく光ったのが見えたのだそうだ。最初は気のせいかとも思ったが、何やら()()()()()()()()()()()がふわふわと浮かんで飛んでいくのが見えた。


「....そこで何か変な予感がした俺が村に帰ると、すでに住民は皆倒れていたってわけです」


「そしてロバートから連絡を受けた騎士がやってきて事件が発覚した、と」


 ここまでで分かることはやはり村全体を包む”何かの魔法”が発動したということだろう。ここで気にするポイントは2つ。村全体を包むほどの”大きな光を放つ魔法”と、浮かんで飛んでいった”シャボン玉のようなもの”だ。だが、どちらもこの証言だけでは分からない。それに、一体何の目的でこの村が襲われたのかも理由が思いつかない。


「うん....まだ断言はできないね」


「今村を捜索しているチームが帰還しました。話を聞いてみたのですが、やはり特に変わった点はない....と」


「魔方陣に痕跡や、外部から誰かが入った様な跡も無かったかい?」


「はい。住人が暮らしていた時の物や、我々が入った結果変わってしまった物以外に特別おかしな点はありません」


 こうも情報が集まらないとどん詰まりだ。何が起こったのか推理しようにも、そもそもの情報が無ければ推理のしようがない。こうして現地を見に来たのも、何かしら手がかりが見つかれば....と思ったからなのだが。

 その時、ふととある男の名前が思い浮かんだ。先日村に訪れた人物の名簿を見ていた時に見つけた名前。学園で教師をしている男の名前を。


「そう言えばロバート。君はギャレン・アルドノトスという男を知っているかい?」


「え、あぁ....ギャレンの事ですかい?そりゃもう、アイツはこの村から学園の教師になったっていう凄い奴ですよ。村のみんなが知ってます。確か....2週間かそこら前に一度帰ってきてますね。お墓参りに」


「お墓参り?彼の両親のかい?」


「それもありますが....あいつは凄い奴なんですが、不運にも恵まれやすいタイプでしてね....あいつが毎年帰って来る度、村の人間はあいつに優しくするんです。アイツ、数年前に賊がやってきてこの村を襲った時、奥さんと娘を亡くしてるんですよ。今までは多少なりとも頻繁に帰ってきていたのに、2人を失ってから滅多に帰ってこなくなりましてね」


「そういうことか....それは残念だね」


「はい。まさか、アイツがこれをやったんですか?」


「いや、単に僕も知っている名前だったから気になっただけだ。その話を聞いてしまったら、少しでも疑ってしまった自分が恥ずかしく思えてくるよ」


 これでギャレンがこの村に訪れていた理由ははっきりした。3日という短い期間で帰省したのには理由があったことから、彼の疑いは晴れたと言っていいだろう。

 だがやはり分からないのがこの村を襲った理由だ。何故この村を?そして何故住民を眠らせるだけで何もしないのだ?金品や価値のある物は何一つ取られていない以上、族の可能性もないだろう。


「それで殿下....何かわかりますでしょうか?」


「う~ん....流石に分からないなぁ。疑問に対する回答に結びつきそうな情報が無いんだよね」


 現段階ではやはり”目的”に該当する答えが分からない。このまま放っておけば、第2・第3の事件が起きてしまうかもしれない。そう考えると、この事件の解決は急を要する事態だと言える。

 しかも、それが魔族による攻撃かもしれないと考えればなおさらだ。


「とりあえず....」


 そう話し始めた瞬間、カッ!!と地面が急に光りだした。あまりにも唐突な事象に反応することが出来ず、その場にいた騎士諸共光に包まれてしまう。

 その時、僕の加護が効力を発揮して僕は村の外へと弾き出された。ゴロゴロと転がり、何回かバウンスして止まる。


「ぐっ....」


 泥だらけになった体を起こし、村の方を見ると....


「何だと....?!」


 騎士達が虚ろな目をして倒れていくのが見えた。テントにいた騎士も、周囲を警戒していた騎士も、村の中にいた人物は皆揃って虚ろな目をして倒れていく。その様子を、弾き出された僕と村の外にいた騎士が固まって眺めていた。

 そして光が収まり、先ほどまで人の気配があった村は静けさに包まれる。


(何が起こった....?!まさか、これがロバートの言っていた魔法なのか....?!)


 その時、数人の騎士からふわりとシャボン玉のようなものが浮かび上がる。これもロバートの言っていた証言と同じだ。ふわふわと浮かび上がるシャボン玉は村より北の方へと飛んでいく。そしてすぐに風景と溶け込むように見えなくなった。


「今起きてる者!急ぎ村の中を確認せよ!」


 騎士達に対して指示を出し、今まで得た情報を整理して考える。ロバートの証言、実際に発動した魔法、そして先ほどのシャボン玉....そのつながりについて、可能な限り頭を回転させる。

 が、やはりというべきか先ほど同様、答えは出なかった。


(あのシャボン玉はなんだ....?それに、シャボン玉が”出る者”と”出ない者”の違いはなんだ....?)


 この日、ラインハルトが実際に体験したこのレサル村集団昏倒事件は解決することはなく、そしてラインハルトは静かに村を見つめて考えるのだった。


当作品が面白い!気に入った!という方は評価やいいね、感想などお待ちしております。


次回更新日は11月4日AM 7:00の予定です。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ