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第78話 隠れ聖女と夢郷の謎

「夢獏....神獣なの....?」


「そうだよ。聞いたことないかもしれないけど、僕はれっきとした神獣さ。だからくれぐれも”鼻の長い豚”などと思わないでくれ!」


 バレてた。いやだって、知らなかったら”鼻の長い豚”にしか見えないんだもん!

 そう言い訳をするが、目の前の生物が神獣だと分かったからにはもう豚呼ばわりは出来ないだろう。


「ぷぷぷ....豚だって....!」


「おいリム!笑うんじゃないぞ!」


「ま、コイツが神獣なのは本当だけどね。で、君の名前は?」


 夢の精霊リムに問いかけられ、私は素直に答えた。


「私はティルナノーグ家長女のライラ・ティルナノーグと言います。よろしくお願いします」


「よろしくライラ~」


「ふん。取りあえず今後のことを話したいから後ろの扉を閉めてくれる?」


 ムーバに指示され、私はゆっくりと音をたてないように扉を閉めた。万が一誰かが入って来た時に、図書館の静かな空間では音が響いてしまうからだ。

 扉を閉め、私は部屋の中に入ってムーバ達に近づく。


「君は僕達に協力してくれるってことでいいんだよね?」


 ムーバの問いにどう答えるか悩む。様子を見てこいとは言われたが、その後に何をするかは分からない。だが、知り合ってしまった以上協力しないと言えば私はこの場の記憶を消されてしまうことだろう。だが....


(相手が神獣とは思わなかった。神獣....もしかして....)


 そこで思い浮かんだのはエノクとヴァイアのこと。勇者エノクと神獣リヴァイアサンの話は有名だが、もしかしたら勇者と神獣には深い関係性があるのかもしれない。目の前の神獣もどこかの勇者と関係がある可能性がある。

 そう考えれば協力する以外の選択肢はない。


「はい。もちろん協力します」


 そう言うとムーバはフイッと顔を背けて歩き出すが、リムはフヨフヨと浮いて私の肩に座る。


「ねぇねぇライラ~そんな他人行儀な喋り方はやめない?もっとフランクに行こうよ~」


「そうだね、そこだけはリムに賛成だ。これから秘密を共有する以上僕たちは仲間だ。もっと砕けた話し方でいいよ」


「2人がそう言うなら....改めてよろしくね」


 リムは喜んで私の頬に頬ずりをし、ムーバは相変わらずトコトコと部屋の奥へと歩いて行く。部屋の奥にはもう一枚扉があり、ムーバがその扉を開けて中へと入っていった。

 私もその後を追う。扉を開けて中に入る時、眩い光が視界をくらます。その光に目が慣れると、そこは真っ白な空間と無数の泡が現れては消える不思議な光景が目に映った。


「これは....」


「見るのは初めてだろう?この場にある泡は全てこの学園に存在する人間たちの見ている”夢”だ」


「2人はここで一体何をしていたの?」


「....なるほど。本当にここに来ることしか言われてなかったみたいだね」


 ムーバがはぁ....とため息をつくと、肩に乗っていたリムが代わりに答えてくれた。


「アタシ達はね~夢の管理人なんだよ!この学園を守っている”夢郷”の管理人!」


 えっへん!と腰に手を当て鼻高々に言い放つリム。だが、そもそも夢郷とは一体何なのだろう?管理人と言われても、何をしているのかまでその一言で分かるわけがない。私は頭にはてなマークを浮かべたまま首を傾げた。


「バカだねリム。彼女が夢郷のことまで知っているわけないじゃないか」


「あー!バカって言ったー!そう言う方がバカなんですー!」


「くだらないね。さて、じゃあとりあえず僕たちのことを知ってもらううえで最低限の説明位はしてあげよう。ライラ、君は”夢郷”が何なのかは知っているかい?」


 夢郷....先ほどからムーバとリアがよく口にしているワードだ。私は今までそんな単語聞いたこともないし、そんなものが本当にあるのかも知らない。だが....


(なぜか分かる。誰に教えてもらったのかは覚えていないけど、夢郷のことを私は知っている)


 心に刻まれた誰かの言葉と同様、私はその意味を知っている。


「夢郷は『現実世界と薄壁一枚隔たれた場所に存在するもう一つの世界』....だと聞いています」


「その通り。夢郷はこの世界に無限に存在する並行世界のことを言う。鏡同士を向かいに並べると鏡の中に無限の世界が広がっているだろう?あれと同じさ。見えないだけで、この世界には並行世界が無限に存在する」


「そこまで知ってるなら話は早いんじゃない?アタシ達は意識と夢郷を繋げて、その上で都合のいい夢を見させてその中に当人の意識を反映してるの。そうすれば、自分の理想が叶う夢の完成ってわけ!」


「私が実践した噂の方法は、夢郷と意識を繋げるための儀式だと聞きました。まさか外部の手助けって....」


「そ、アタシ達のこと!」


「夢郷と夢の違いは、そこに現実があるかないかの違いってわけ。そうだね....分かりやすく言えば、意識のみで完結する”夢”は小説とか本を読んでる感覚。逆に仮想現実を体験できる”夢郷”は演劇の舞台だと思ってもらえれば分かりやすいかな?」


 そう言われると何となく想像できる。私も夢郷に入った際、まるで現実と遜色ないほどリアルな草原を歩いた。見た花畑の景色も、嗅いだ香りも、頬をくすぐった風も、どれもが現実と同じように感じたのを覚えている。


「でも、だとしたら何故この学園で夢郷の管理をしているの?」


 単純な疑問だ。確かに人からすれば都合のいい夢をリアルに体験できる機会だし、『死者と会うことが出来る』という噂も意識が創り出したものだと考えれば納得が出来る。だが、だとしたら何故彼らは学園でその夢を見せているのか?そこだけが分からない。


「この学園に、外敵から守る結界が張られているのは知っているかい?」


「うん、知ってる。確かかなり前の学園長が張ってそのまま残ってるとかなんとか....」


「例えどんな魔法使いでも、何百年も続く結界を維持することはできない。それを可能にしているのは、僕たちがいたからだよ」


「そ!夢郷の力を利用して結界を維持してるってわけ!実はアタシ達って凄いんだよ?」


 つまり、この学園に張られている結界の維持を夢郷を利用して行っているらしい。


「夢郷は異なる現実だ。そこには無限のエネルギーが眠ってる。でも、僕たちと言えど無から有を創り出すことはできないから、人の夢を夢郷に送り込んでエネルギーを得る。そうすることで結界を維持できるってわけさ」


「なんだかすごい情報がポンポン出てきて理解が追い付かない....」


「段々と慣れてくれればいい。彼らが夢を見た後に記憶が無くなるのは、僕たちが夢郷で見せた記憶を魔力に変換しているからだ。それに、本来夢郷は人間が触れられるようなものじゃない。危険なものは忘れていた方が都合がいいだろ?」


「なるほど。記憶が無くなるのはそれが原因だったのね」


「だけど、そんな夢郷に最近困ったことが起こり始めたんだよ」


 そう言ってムーバは夢郷の中を進んで行く。そしてある程度進んだ先、真っ白な空間に明らかに分かりやすい亀裂が入っている場所まで来た。その亀裂は大きくはなかったが、見て分かるほどの存在感がこの真っ白い空間に現れている。


「これのこと?」


「そう。誰かは知らないが、最近夢郷に無理やり入ろうとしている奴がいるんだ。そして忌々しいことに、奴は夢郷に亀裂を与えるほどこの空間に干渉してきている。夢郷が掌握されれば、最悪の事態が起こる可能性があるんだ」


「夢郷に入られると結界の維持が効かなくなっちゃうってこと?」


「それだけじゃないわ。この学園に展開されている夢郷は学園内全ての人間の意識と繋がることが出来る。要するに、内部から他人の意識や記憶を好き放題弄ることが出来るってわけ」


「それにこの学園の夢郷は”とある人物”が創り出した特殊なものなんだ。この夢郷で起こった事象は、現実世界にも影響を及ぼしてしまう。その為に管理人である僕たちがいるんだ」


 学園に展開されている夢郷は、下手をすればどんな悪事にも利用できてしまう。この夢郷に入り込もうとしているのが誰なのか?その目的が何なのかは分からないが、ムーバとリムがこれだけ警戒しているということはよほどの緊急事態なのだろう。


「そう言えば、ここ最近になって噂が広まったのだけど....あなた達が広めたの?」


 学園で夢郷に入ることのできる噂が広まったのはつい最近のことだ。夏季休暇前の時点ではそんな噂聞いたことも無かったはず。

 だが、その問いに対してムーバもリムも首を横に振った。


「いや、夢郷に入るための方法は昔からあった。だが、最近になって確かに呼び出される回数がめっきり増えたんだ。今までよりも魔力の供給効率が良くなったのは事実だけど....」


「うん。アタシも変だと思ってた。まるで誰かが意図的に夢郷のことを広めたような気がして....」


 そこまで分かれば十分だ。夢郷に入ろうとしている”誰か”それは恐らく....


「噂を広めた人物と夢郷に入ろうとしている人物は....同じ?」


「その可能性が高いね。何が目的なのかは知らないが、舐めたことをしてくれる」


 ムーバの声が低くなると同時に、周囲の空気がざわっと靡いたような気がした。だが、そんなムーバをリムが落ち着く様に言いくるめる。


「ここは思い出の場所....あいつと僕の....約束を果たすんだ」


「?ムーバ?」


 小声で何かを言っているムーバに話しかけると、すぐにムーバは冷静になったようだった。ゆっくりと深呼吸をし、そして振り返る。


「さてライラ。大まかにここの事と僕たちのことはわかってくれた?」


「うん、大丈夫。協力すると決めた以上はちゃんと協力するから。取りあえず私たちがしなきゃいけないことは....」


「ああ。この夢郷に入り込もうとしている奴を見つけ出すこと。僕たちは出ることが出来ないから、そこはライラに頼むことになる」


「うん。任せて」


「なら、アタシが付いて行こうか?」


 とりあえずの行動目的が決まったところで、リムが手を上げる。


「でも、リムは精霊だから迂闊に外には出れないんじゃ....」


「そんなことはないわよ?そもそも、アタシの存在はこの学園の歴史にも記されてるし」


 ん?今何と?何かとんでもないことをさらっと言わなかった?!


「え?どういうこと....?」


「だから、アタシはこの学園の歴史にも記されてる精霊だって言ったの!アタシは夢の精霊であると同時に”記憶”も司る精霊だからね!学園の歴史を記録し、記憶するためにこの学園にいるの。契約者はもういないけど、歴代の学園長ならアタシの存在は知ってるはずよ?」


「知らなかった....リムって凄いのね」


「ふふん!アタシって凄いでしょ!」


 胸を張って誇らしげにするリム。


「だから、まずはアタシを学園長の元まで連れてって頂戴。そしたら後はアタシが説明するから」


「その方が動きやすくていいね。ライラ、リムをよろしく」


「分かった。何とか学園長に取り次いでみるね」


「それじゃあライラ、リム、頼んだよ」


「「任せて(ちょうだい)!」」


 こうしてひょんなことから神獣と精霊と出会ってしまった私は、この学園で巻き起こる夢郷に関する事件に巻き込まれていくことになった。

 それにしても....一体誰が夢郷に入ろうとしていたんだろう?

 そんなことを考えながら私はリムを連れて同じ方法で寮の部屋に戻り、ベッドに入って就寝したのだった。


当作品が面白い!気に入った!という方は評価やいいね、感想などお待ちしております。


次回更新日は11月2日AM 7:00の予定です。


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