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第7話 レオンハルトの日常 《レオンハルト視点》

 朝方5時、王子....というより俺の朝は早い。


 俺の名前はレオンハルト。人界の最大国家ことエキドナ王国の第2王子だ。

 もっとも、王子なんて肩書に興味はないが。


 今年から学園に通うことになった俺は壁外をランニングして周る。学園の敷地内であれば外部者が狙ってくることはないし、2年分学園に通わずにやっていた筋トレや訓練を怠ると筋肉がなまってしまうからだ。

 騎士団に仮入団していたころの習慣が残っているようだ。


「いやー気持ちのいい朝だな!レオ!」


 そう言って横を走るのは幼馴染にして付き人のマハト・セルドナーグ。セルドナーグ侯爵家の長男でありながら、宮廷魔法師長ラガンの息子でもある。

 普段からお茶らけているような風貌があるが、その実非常に頭の切れる男だ。


「そうだな。早朝はやはり訓練に限る」

「あの時、何の役にも立たなかったからなぁ~。その....アリアさん?がいなければ危なかったし」


 そう、あの時俺は何の役にも立たなかった。魔獣のことなど知識でしか知らない。それも教わったのは討伐級8の魔獣までだ。

 だからこそ的確な指示も飛ばせず、親友の命すらも危険に晒してしまった。

 結果的に助かったが、彼女の助けがなければ俺も死んでいただろう。


 アリア....一体何者なんだ、君は?

 あの複合魔法で魔獣を討伐した時、俺はぼんやりと見たのだ。光に阻まれてしっかりとは見えなかったが、取れたフードの奥にあるその顔を。

 暴風になびく透き通るような金色の髪と蒼色に輝く瞳、顔の形や体系まではわからなかったが、その姿はとても美しく、引き込まれていた。

 どこかで見たことあるような....不思議な感覚に襲われていた。


(今でも印象に残ってる。彼女の姿....髪色と瞳の情報があれば、彼女を探し出せるのか?)


 なぜかはわからない。だが、俺は彼女と話がしたい。

 彼女の知らない一面を知って、一喜一憂する姿を見て、共に笑いたい。


(彼女は王子だから陛下だからと態度を変えることはなかった。俺はあぁいった友人が欲しいのだろうな)


 そう自分に言い聞かせ、早朝の学園を走った。



***



 身支度が終わり、外に出るともう2人の付き人が待っていた。


「おはようレオンハルト。マハトはどうした?」

「主君、おはようございます。今朝も筋トレですか?」

「おはようゼレフ、シノブ。マハトならもう来ると思うぞ」


 この2人も幼少期からの付き人で、幼馴染。

 庶民出身のゼレフ。その剣の腕と圧倒的なまでの冷静な判断力が買われ、王宮にて教育を受けた後俺の付き人となった。親友と書いてライバルと読む、そんな関係だ。


 もう1人は護衛兼諜報員のシノブ。数十年前にこの国に異世界から転移してきた人物の子孫であり、忍?という職業をもっている。

 主に俺専用の諜報員として動いてくれる信頼できる女性だ。


「あ、レオンハルト様よ!」

「ほんとだぁ!かっこいいわ....!!」

「マハト様もいる!あの女の子誰?」

「知らないの?護衛のシノブ様よ!恋愛感情で付き添っているではないからライバルにはならないわ!」

「ゼレフ様ぁ~!相変わらずクール!」


 周囲の女子生徒がキャーキャーと騒ぎ出す。

 だから学園に入学するのは嫌だったんだ。兄たる第1王子から散々聞かされていたから。大国の王子でかつ婚約者なしともなれば、他国の有力貴族や国内の庶民から貴族に至るまで、こぞって群がってくる。

 しょうがないと言えばしょうがないのだが、こうして毎朝囲まれるのはさすがに疲れるな。


 群がる女生徒を突破して教室に入る。この学園では、各々が選択した科目に応じて教室が決まる。1限は騎士学のため女生徒は比較的少ない。

 マハトは戦法学、シノブは情報学へと行っているためこの場にはゼレフと2人だけだ。安心して授業を受けられる。


 この時、教師が入ってくるギリギリで教室に入り、最後方に座る金髪の女子生徒に、俺は気が付かなかった。



***



 コンコンとノックをする。中から返ってきた返事を聞き、扉を開けた。


「失礼します」


 中に入ると、そこは執務室のような場所だった。部屋の窓際に置かれた机に向かって書類を処理する男子生徒と、それを補佐する生徒が1人。


「よく来たね、レオンハルト」

「兄上、お呼びでしょうか?」


 彼はラインハルト・アヴァロン。エキドナ王国第1王子にして次期国王である。

 それを補佐するのはセルカ・ティルナノーグ。ティルナノーグ竜爵家の子息だ。この2人は同じ6回生であり、主君と護衛という関係性の象徴ともいえるコンビだ。


「あら?レオ君じゃない。こんにちは。ラインハルトのお手伝い?」

「こんにちはメルル義姉さん」


 備え付けのキッチンから出てきたのがメルル・エリュシオン。エリュシオン竜爵家の次女にして、次期王妃だ。

 本来であれば長女マアンナが嫁ぐはずなのだが、マアンナはティルナノーグ家次期当主のリオルとの婚約が決まっており、王妃としての素養が高かったのはメルルだと判明したため、メルルをラインハルトの婚約者としたのだ。


 目の前の3人も幼馴染同士である。リオルとマアンナの関係があったからこそできた婚約とも言えるし、この3人はいつ見ても仲が良い。


「殿下、次はこちらの書類を」

「ん、了解。....もしかしてなんだけど、今日って結構仕事の量多い?」

「そうですね。それなりに」

「....気が遠くなりそうだね。あ、そうだ!君の妹を呼んでもいいかい?」

「呼ぶこと自体は可能ですが....まぁ、あいつの処理能力ならなんとななるかも?」


 そう言ってセルカはどこかに電話をかけ始めた。

 この電話という機械も、異世界人の発明品である。なんでも、「電話がないのは不便すぎる!」とのことで転移してきた異世界人が魔力を込めて使う電話を開発したのだ。その異世界人曰く“ダイヤル式固定電話”らしい。

 だが、原材料が高く量産はできないため、国の主要施設や有力貴族の家にのみ配置されている。


 しばらくして、俺と同じようにコンコンと扉をノックする音が聞こえた。

 ゆっくりと開かれた扉の向こうに立っていた人物を見て、レオンハルトは目を見開いた。


 あの時と同じ金色の髪、透き通るような蒼の瞳、そして華奢な体とその顔立ち。

 あぁ....同じだ。同一人物かどうかもわからない。でも、不思議と確信があった。道理で既視感があるはずだ。その髪色と瞳は、あの時俺が助けた1人の令嬢と同じだったのだから。


 扉の向こうには、レオンハルトを見て驚きの表情を見せる令嬢。ライラ・ティルナノーグが立っていた。

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