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第6話 隠れ聖女と報酬

「初めまして、国王陛下。私は冒険者を生業としています、アリアと申します。貴族社会の礼儀作法には疎く、ご無礼を働いてしまうかもしれませんが....」

「あ~そういうのはいい、いい。ぶっちゃけ、私礼儀作法とかどうでもいいタイプだから気にしないで」

「....陛下、それそれでどうかと思います」

「堅苦しいのが苦手なんだよ、私。だから崩してくれていいよ」


 一応挨拶を返し、再び座る。

 背後の護衛の1人がすごい睨みつけてくるのは気のせいだろうか?....いや。絶対睨んでる。気のせいじゃなく、まっすぐこちらを睨んでますねあれは。


「さて、まずは一言....息子を....レオンハルトを助けてくれたこと、心から感謝する」


 そう言って()()()()()。一国の王が、たかだか素性もわからない小娘1人に対して頭を下げたのだ。

 護衛も、殿下も、私ですらその事態に動揺してしまう。


「へ、陛下!おやめください!頭をお下げになるなど....!!」

「そうです!私は通りかかっただけで....」

「えぇい!私は今国王ではなく一人の父として感謝をしているのだ!邪魔するでないわ!」


 そう言って頭を上げた。


「息子の危機を救ってくれたこと、そして我が国の同胞である騎士たちを助けてくれたこと、どちらも感謝してもしきれない。

 あそこにいた騎士たちは見習いが多くてな。その訓練のために森に入っていたのだが....まさかあんなことになるとは思ってもいなかったわ」

「......」

「私は無力な王だ。息子のピンチ一つ気づけずに、こうして助けてもらっている。

 だからこそ、私にできる最大限の行動は感謝することだ。この頭1つでそれがチャラとなるのなら、こんな頭いくらでも下げよう」


 私はしばらく無言でいたが、こうして国王ではなく一人の父親として感謝を述べる人物がいるのだ。その礼を受け取らないほど、私も不親切ではない。


「....わかりました。その感謝、受け取らせていただきます」

「ありがとう。....ところで、その恰好暑くないか?」


 唐突に話が変わる。だが、こちらとて貴族の令嬢だ。こうした腹の探り合いは得意だし、言葉の裏の意味も読み取れなければ利用される側になってしまう。


(要するに、『可能であればフードを取って顔を見せてくれないか』といったところですね)


「いえ、私はこの格好で十分です。お気遣いいただきありがとうございます」


 そこまで言った瞬間、もう我慢の限界だとでも言うように護衛の1人が私に食って掛かった。


「お前!いい加減にしろよ!陛下が『そのフードを取りなさい』と言っているのだ!国民として、陛下のご指示に従うのが筋ではないのか!!

 これだから薄汚い冒険者など信用ならないのです!陛下、このような者と話す必要はないかと思われます」


 ....バカだ。今まで何の話を聞いていたのだろう?陛下は今までの会話の中で感謝を伝え、『対等に話がしたい』と伝えていたのだ。こちらは腹を割って話す、ただしそちらも可能なものには国民として答えてほしいそういう意図だ。

 この男の言う国民としてなんちゃらっていう意見に、こちらは従ったうえでの拒否。それすらわからないとは....


 よく見ればこの男結構若い。護衛....というよりは、新米騎士のような風貌を感じさせる。


「リュルス....少し黙れ。私は彼女に恩がある。こちらの意見を押し通すあまり、彼女の意見を尊重しないのはお門違いだ。

 彼女は息子を助けてくれた恩人だ。そして、王子を助けた国の救世主でもある。貴様ごときが口を出していいような相手ではない。

 そして貴様は冒険者を薄汚いと言ったな?彼らとて出自はどうあれ我が国の国民だ。必死に生きている彼らを侮辱するのは我が国を批判するのと同じ。貴族志向の意識を持つのは構わないが、それをかさに暴れることは許さない。

 国家反逆で捕まりたいのか?」

「ぐっ....!!」


 国王にそこまで言われてしまってはこの騎士とて何も言えない。やはり貴族出身の新米だったようだ。

 国王から「謝罪をしろ」との命を受け、彼は悔しそうにしながらも謝罪をした。


「この度は....私の固定観念による不遜なお言葉、並びに騎士らしからぬ高圧的な態度をとってしまったことを謝罪いたします」

「いえ....貴族の方には、少なからずそういった考えの人がいるのは知ってます。ですから、この場では私は何も聞かなかったことにします」


 そう言ってその謝罪を受け取った。

 良くも悪くも、まだまだ若く青い。今後、彼の固定観念に相反するような試練はいくつも現れるだろう。その時に彼がどう乗り切るのか....その峠を越えれば、きっと立派な騎士になるだろうと予感した。


「さて、暗い話で遮ってしまったな。ここからは国王として、王太子を助けてくれたことに対する礼を行うとしよう。君は何か欲しいものはあるかな?お金?それとも地位?」


 礼....と言われても、私がレオンハルト殿下を助けたのは本当にたまたまだったし、何よりこういったタイミングで欲しいものなど思いつかない。

 昔から、他の人よりも物欲がなかったのだ。


「....特に何も。殿下とのお約束で地癌双蛇(ネッドサーペント)の素材をいただきました。それだけで十分です」

「ほぅ....何もいらない、か....。ひとまず、冒険者ギルドに出していた護衛依頼分の金銭は払おう。それは元よりそのつもりだったのだが、追加の褒美に欲しいものはないか....宝物庫から何か持っていくかね?」

「いえ、国宝級のものなど受け取っても困ります」

「ではやはり金貨か?」

「いえ、こちらも冒険者としてのプライドがあります。仕事分以上の報酬は受け取れません」

「うーむ....困ったな」


 悩む国王を見ながら、私も欲しいものを考える。物欲がないとこういった時に困る。

 その時、ふと1つ閃いた。すぐに欲しいかと言われればそうでもないが、今後必要になる可能性の高いものがあるではないか。


「....では、国外通行許可証をください」

「それは....この国を出ていくと言っているのかな?」

「いえ。冒険者として他国に出入りする際に、その許可証があれば面倒な検問も回避できますし、なによりこの国が認めた相手となれば他国も邪険にはできないでしょう」

「わかった、すぐに準備させよう。他にはあるかな?」

「いえ、これ以上は望みません」


 こうして報酬が決まり、いよいよこの時間から解放されると思ったその矢先、唐突にベルンハルトがこんなことを言い出した。


「そういえば、君は宮廷魔法師の地位に興味はないかな?」


 宮廷魔法師。それはこの国でほんのひとつまみの人間しかなれない最上級の地位。優れた魔法の才能と知識、そしてそれを操る力を兼ね備えた選ばれし人間。

 あろうことかこの国王は、冒険者上がりの小娘をその地位に引き入れようとしているのだ。


「いえ、全く」

「あれ?即答?」

「はい。私は宮廷魔法師に興味はありません」

「レオンハルトから聞いた。第3階級魔法同士の複合魔法を扱ったそうじゃないか。それほどの魔法の腕があれば、この国の最上級の地位も夢ではないんだよ?」

「そうですか。でも私には関係ありませんね」

「ぬぅ....3度目の正直!是非とも宮廷魔法師になりなさい!」

「謹んでお断りいたします」


 わざわざ王族の多いこの場所に出入りするような地位についてたまるか。私は聖女であることを隠し通すと決めた以上、極力王族から離れたいのだ。

 そしてしがらみも何もかもを脱ぎ捨てて自由に生きる。だから冒険者になったのだ。

 もっと言ってしまえば殿下を助ける気も初めはなかったし、こうして王族に囲まれた状況もさっさと脱却したいのだ。


「はぁ....そこまで言うなら諦めよう。それじゃあ、最後に1つ聞いてもいいかな?」

「私にとって不都合でないことであればなんなりと」

「君の名前を教えてくれないか?」

「名前....?私の名前はアリアです」

「うんうん、でもそれは冒険者としての名前だろう?僕が聞いているのは、君の()()()()()だよ」

「!?」


 気づかれている....!?私が....アリアが本当の名前ではなく偽名であること。そして、私が名前を変えてまで正体を隠そうとしていること。

 この国王....私の情報を引き出す気だ。謎の若き冒険者アリアの正体を見破り、宮廷魔法師としての外堀りを埋めるために。


 ですが、冷静にならないと。ここで動揺すればそれはボロを出すきっかけになりかねない。


「陛下....冒険者の利点を知っていますか?」

「うん?」

「それは“匿名性”です。王族だろうが貧民街出身だろうが、誰でもなれる。それが冒険者です。私は私であって、それ以上でも以下でもなくそれ以外の何者でもありません」


 その回答を聞いて、お手上げだとでも言うように陛下は笑った。

 こうして、緊張の王族との話し合いは幕を閉じたのだった。


 ....とりあえず、聖女紋の存在がバレなくて本当によかったぁ~


 と、寮の部屋の中で安堵のため息をついたのは内緒である。


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