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第66話 隠れ聖女と海の記憶

「海竜の意識の中に入る....?」


 どういうことなのか分からない。普通に考えればそんなことはできないはずだし、全く想像がつかない。

 困惑する私を見て、ニコリと微笑んだリーアが優しく手を握った。


「ママにしかできないことがあるの。だから、ここにママを連れてきたの」


「私にしか出来ないこと....?」


「うん。この世界で、()()()()()()()()()()なの。深呼吸して、リーアの手を握って欲しいなの」


 この子は何かを知っている。先ほどルサールカの言っていた”鍵”という言葉、そして今のこの姿。ただの海人族の子供と考えるのはもう不可能。

 私だけが出来ること....それは恐らく、私の聖女紋に関係してる。この世界で唯一”七画”の聖女紋を持つ人間なのだから。

 全部終わったら話してくれると約束した。。なら今は何も考えず、リーアに従うべきだと判断した。言われるがまま、ゆっくりと深呼吸をする。


「すぅ....はぁ....うん、行けるよ!」


「はいなの!」


 リーアが力を使った瞬間、その体が発光し始める。白く輝くオーラは私を、そして海竜の体ごと包んで輝いていく。その瞬間、暴れていた海竜の動きがピタリと止まった。

 段々と包み込んでいくオーラがその光を増し、そしてそれが水のように流動的なものへと変化していく。そしてそのオーラは完全に私達を隠してしまい、そのまま真っ白に輝く光に飲み込まれていった。




***




 ザプン....と何かに落ちる感覚がする。目を開くとそこは海の中。辺り一面真っ青に染まった海の中で浮遊する感覚に私は陥る。何故水の中に?!と驚き息を止めようとするが、その時そっと私の手を掴む何かがいた。

 自分より下にいるのはリーア。そのリーアが、上に上がろうとする私の手を握っていた。


「大丈夫なのママ。ここは本当の水の中じゃないなの」


 そう言われて思い切って息を吐きだしてみる。が、確かに空気が上に抜けていく泡は見えたが苦しくはない。息もできる。何とも不思議な感覚に戸惑いつつも、リーアの方を見た。


「リーアちゃん、ここはどこ?」


「ここはリヴァイアサンの意識の中なの。これから行くのはもっと深い所....記憶の中の世界なの」


 その時、リーアは私の手を離した。私はあわててリーアを掴もうとするが、なぜかリーアの方が落ちていく速度が速い。更に、目の前でリーアの影が薄くなっていくのが見えた。


「リーアちゃん!」


「大丈夫なの。ここで一旦お別れなの」


 そう言ってリーアは自分の後ろにある真っ暗な空間を指さした。


「ママの行く場所はあの底なの。そこで、ママにしか出来ないことをしてなの。リーアはリーアにしか出来ないことをしに行くなの」


「っ....!わかった。必ず、後で会おうね」


「はーい!」


 満面の笑みで応えたリーアの影が水に溶けるように消えていく。この状況がきっと正解なのだろう。リーアに託されたことを完遂しないわけにはいかない。

 私は覚悟を決め、ゆっくりと海底へと進んで行った。


 その瞬間、誰かの声が聞こえる。


「うっ....」


 頭の中に直接響くその声は聞いたことのない男性の声だった。


『君は、一体何者なんだい?』


 頭に響く声は優しく誰かに語り掛けている。だがそれが私に対してなのではないことはすぐに分かった。そして頭痛を和らげようと目をつむった瞬間、目の前には誰かの記憶が流れてくる。

 見下ろすような構図。自分の視点の先には複数人の人間の姿があった。誰もかれもが見たことのない人物達。これは一体誰の記憶なのだろうか?


『君は、一体何者なんだい?』

『ほぅ、私のことを知ってきているのかと思っていたぞ』

『まさか。君のことを知っていたのなら始めから来なかったよ』

『勇者ともあろう者が私に恐れて逃げ腰とは....いや、違うな。お前は心の内には芯の通った強さがある。口では何とでも言えようが、お前の強さは本物よ』

『そう言ってもらえると嬉しいな。僕はただの弱虫なんだけどね。目の前に自分の数十倍以上の大きさの竜が存在するのなら、怖くて震えてしまうのも仕方ないさ』


 目の前の人間は自分に向かってそう言った。ということは、この記憶はリヴァイアサンのもの?そして今私は、海竜の記憶を見ている状態ということになる。

 この視点は、リヴァイアサンから見た当時の記憶というわけだ。

 そして海竜は目の前の人間のことを”勇者”と言った。つまり彼が....


(彼が海の勇者エノク。小説の挿絵とは若干違いますね)


 彼が小説や絵本にもなっている『海竜と海の勇者』に登場する過去の勇者。そしてこれは、彼と海竜が初めて邂逅した時の記憶なのだろう。


『お前がここに来た理由は分かっている。我との”契約”の話だろう?』

 契約....?そんな情報は初めて聞いた。何のことだ?

『うん。僕は勇者として、信頼に足る相棒を見つけなければいけない。そして僕の勘が言っているんだ。それは....君だとね』

『お主がこちらに召喚されてからずっと感じていた違和感の正体がこれか。私と契約とはな....だがそう易々と力を貸すほど私は甘くはないぞ。私の契約者となるのなら、それ相応の力を見せて見よ!!勇者よ!!』

『そうだね。そうなると思っていたよ。だから僕も、君の期待に全力で応えさせてもらおう。皆、手出しは無用だ。僕1人で相手する』

『ほぅ?お前如きが私と1対1だと?舐められたものだな』

『どうかな?案外僕って、強いかもよ!!』


 放たれた海竜の水流波とエノクの剣がぶつかったタイミングで記憶が途切れる。目を開くと先ほどと同じ海の中にいた。まだ底まではかなりある。早く行かなければと私はさらに深海へと潜っていった。


 海の底に沈んでいく度、段々と得られる記憶が増えてくる。


『負けたーーー!!』

『フッ、まだまだだな勇者よ。だがお前の度胸と強さにひたむきな姿勢は気に入った。また挑みに来るがいい』


 戦いの末負けたエノクだったが、それでも立ち向かってくる勇者を認める海竜。

 何度も戦いを重ねる内に友情が芽生え、そしてとうとう35回目の戦いにてエノクが勝利し契約を勝ち取った記憶。


『旅に出る?』

『ああ。勇者として、この世界に召喚された意味を探したいんだ。僕の助けを待っている人が必ずいる』

『良かろう。お前が行くというのなら私はそれに従うまでだ』

『そこでお願いなんだけど....』

『何だ?』

『流石にその姿のまま旅に同行されると困るというか....皆驚いちゃうかなって』

『む、なんだそういう事か。ならば....』


 魔力のオーラに包まれた海竜の視点が縮んでいく。光が収まると、エノクと同じくらいの目線まで縮んでいた。


『これでどうだ?』

『いいね!名前もあだ名を付けよう!リヴァイアサンだと長いだろ?仲間内ならもっと短い名前で呼び合った方がいいんじゃない?』

『好きにしろ』

『そうだな....真ん中を取って“ヴァイア”はどうだ?』

『“ヴァイア”か....良い名だ。それでいこう』


 新たなる仲間に“ヴァイア”が加わり、次なる旅をスタートするエノク達一行。

 そして記憶が切り替わり、次の場面は戦闘の最中だった。


『アイン、ペーはサイドの魔物を排除!ヴァイア!僕と一緒に目の前の魔獣を叩くよ!!』

『心得た!任せろ!!』


 どこかは分からないが森の中で魔獣の群れとの戦闘中らしい。エノクの剣捌きと、それをカバーするように水の魔法で援護するヴァイアの動きは完璧で、流れるような流麗な動きで敵を殲滅していく。

 エノクは自分のことを弱いと言っていたが、そんなことはない。小説でも読んだような強さを持った青年だった。

 そしてまた切り替わる。


 宴会を楽しむエノク達。

 迷宮の宝箱のミミックに仲間が噛みつかれて爆笑するエノク達。

 プールに入るか温泉に入るかで揉めるエノク達。

 助けた少女に花を渡されて照れるエノクを影から見ているヴァイア達。


 どれもが彼らにとって大切な旅の風景で、彼らが実際にこの世界に生きた証だった。海の底に沈んでいくに連れ、段々と旅の記憶が鮮明になっていく。

 そしてとうとう底に辿り着いた時、私はある物を見つけた。海底に佇む岩に、めり込むようにして存在する宝玉のような玉。不思議とその玉に手を伸ばすのが正解だと考え、そっとその玉に手を触れる。その瞬間、再び記憶が流れ込んできた。


 今度の場面はエノク達一行が魔族と戦っている場面。この魔族が誰で、何をしたのかは知らないが周囲は火の海になっていた。エノク達もこの戦いでかなり疲弊しており、ヴァイアも含め満身創痍なのが分かる。


『ヴァイア、このままでは奴に勝つことはできない。”あれ”をやるよ』

『正気か?いや、正義感の強いお前ならやると言っても不思議じゃないな』

『行くぞ!僕の権能よ!力を貸せ!!』


 光り輝くエノクとヴァイア。するとヴァイアは元の竜の姿に戻り、エノクは明らかにパワーアップを果たしていた。

 再び戦闘に入るエノクとヴァイア。接戦の末、見事魔族を討伐することに成功した。だがそれと同時に、魔族の動きを止める為ヴァイアが致命傷を負ったのだ。


『ヴァイア!!』


 泣きそうな声でヴァイアに駆け寄るエノク。ヴァイアは既に息も絶え絶えで動くことが出来ず、どれだけ仲間が回復魔法をかけても反応は薄かった。


『案ずるな。私とて生命体....いつか死は訪れる』

『そんなこと言うな!ヴァイアを....相棒を見捨てるなんて出来ない!!』

『お前との旅、私の長い生命の中で記憶に留めておくべき良いものだった。お前と契約し、共に旅出られたのが最後で良かったと本気で思っている』

『まだだ....まだヴァイアを助ける術はある....!!だから諦めるな!!』


 そう言ってエノクは自身の魔力を抽出しだした。全ての魔力を使い、取り出されたそれは宝玉。海のような青い輝きを放つ宝玉だった。


(あの宝玉....!さっき触れたものと同じ!)


『なっ....正気か?お前....』

『ああ。ヴァイア。君に僕の権能を渡す。この中に封じられた魔力と権能を使って、傷を癒すんだ。何百年、いや何千前年もかかるかもしれない。その頃には僕たちはもういないけれど、きっと僕の意思を受け継ぐ者が現れる』

『そんなことをしたらお前が....』

『いいんだ。僕たちの旅はきっと、この時の為にあったんだ。こうして守らなくちゃいけないものを守れて、僕は勇者としての責務を果たした。この力は、あるべき場所に返すべきなんだよ』

『エノク....』

『やっと名前で呼んでくれた。さ、相棒。受け取ってくれ。永い永い眠りの中でも、僕たちのことを忘れないでくれよ』

『....私の相棒が、お前で良かったよ。エノク』

『ああ。おやすみ、相棒....』


 宝玉の力が流れ込んできた瞬間、私はふわりとどこかに着地した。辺りを見回すとそこは真っ白な世界。先ほどまでの深海と違い、明るすぎるこの場所で目が眩んでしまった。


『君を待っていたよ』


「誰?」


 振り返ると、先ほどまで記憶の中で見た男が立っていた。マントに青の服装、腰に剣を当てた爽やかな男。海の勇者エノクがそこにはいた。


『僕はエノク。というか、散々記憶を見せたんだから自己紹介は大丈夫だよね』


「海の勇者エノク....なぜあなたがここに?」


『今君の目の前にいる僕は思念体さ。宝玉に宿した魔力で辛うじて作ってるだけの仮初の体。本物の僕はとっくに死んでるよ。老衰なのか、はたまたどこかで冒険中に死んだのかは知らないけどね』


「私をここに呼んだのは何故ですか?」


『君にこの力を()()為さ。今、現実のヴァイアは支配の魔力で意識が乗っ取られている。それを救うために君は来たんだろう?この権能は、君に新たな力を与えてくれる。ずっと待ってたんだ。僕たちの意思を継ぐ者が現れるこの時を』


「意志を....継ぐ者?」


『君の左手の甲、あるんだろう?意思を継ぎし者の証が』


 自分の左手を見ると、隠していたはずの七画の聖女紋が浮かび上がっていた。


『この権能はあるべき場所に返すべき。僕の勇者としての責務はもう終わったんだ。ならば、この権能(ちから)をいつまでも持っている理由は無い』


「私に返すって何ですか?どうして私に?」


『大丈夫、焦らなくても答えは自ずと見つかるさ。時間が無いんだろう?今君は、この権能でヴァイアを取り戻すために動いて欲しい。聞きたいことは色々あるだろうけど、僕の口から全ての答えを知ってしまったら面白くないだろう?』


 そう言って優しく微笑むエノク。ゆっくりと歩いて私の体をすり抜ける。


『僕達の時代は終わった。世代は次の勇者へと託される。当然君にもね』


「1つ聞かせてください。私は....私は”勇者”なんですか?」


『違うよ。思念体の僕でも分かる。君は勇者じゃない。でも、勇者以上に重要な役割を担っている。世界を左右させるほどの重大過ぎる役割をね』


「その答えは、自分で見つけろ....と」


『その通り。大丈夫、君は強い。諦めることなく前に進み給え若人よ。なーんて、少し爺クサいこと言っちゃったかな?』


「分かりました。その権能(ちから)、ありがたく貰い受けます」


『それでいい。この意識が途切れたらこう言うんだ”この権能の名はー”』


 意識が晴れた瞬間、触れていた宝玉をしっかりと掴む。


「私と共に来て!!”栄光の権能(ホド)”!!!」


 そして世界が再び白く染まりだす。




***




 その時、彼らは見た。ウィリアムも、セレナも、シトリンも、ゼレフも、シノブも、テプラも、ティグリも、避難していた民も、戦っていた冒険者や騎士も、そしてルサールカさえも。

 全員が立ち上る水流の渦に目を奪われた。

 暗雲立ち込める空を貫き、水流の渦が上空で水球の形に纏められていく。そして、ゆっくりと暗雲の空が開き光が差し込んだ。上空から舞い降りつ水球を囲むように半透明の体の龍がその周囲を飛ぶ。


 その瞬間、水球が強烈な音と共に弾けて消えた。中から現れたのは銀のローブに金髪の少女。ボロボロになりながらも下にいるルサールカに向かって剣の切っ先を向ける。

 ルサールカは戸惑いながらも、その変化に思わず笑ってしまった。先ほどまでとは明らかに違う魔力の濃さと色。威圧感は先ほどまでとは比べ物にならない。


「ルサールカ、決着を付けましょう」


 水色と金の混ざったオーラを放つ少女ことライラは、こちらに向かってくる魔族に向かってゆっくりと言い放つ。それに呼応するように、水龍が雄叫びを上げた。


 この海戦最後の戦いが、始まろうとしていた。


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