第65話 隠れ聖女とイザヤ海戦〜その4
「リーア....ちゃん?」
「なんだあの小娘は?海人族?」
戦場に突如現れた少女に戸惑いを隠せない私とルサールカ。リーアは「ふふん♪」と腰に手を当て、自信満々に胸を張る。
「何でこんな所に....いや、そんな事よりも早く逃さないと!!」
こんな戦場に子供を投下していいわけがない。リーアを守らなければとルサールカそっちのけでリーアの下へと走った。
その私の行動に気づいたルサールカが鞭を振る。この子がいる限り、それは私の弱点になってしまうと気づいたのだろう。鞭は風のような速さで迫って来る。
「くっ....!!」
リーアを守らなければと剣で鞭を防ぎ、その状態でリーアを抱えて倒れ込んだ。ズザザ....と地面を滑り、リーアの無事を確認する。
なんでこんな所にいるの?どうして出てきたの?と色々言いたいことはあったが、真っ先に口から出てきた言葉違うものだった。
「大丈夫?!リーアちゃん!」
目をぱちくりさせて驚いていたリーアだったが、すぐにいつものような明るい笑顔で応えた。
「大丈夫!ママありがとう!」
「どういたしまして。さぁ、早く逃げなさい」
「?どうしてなの?」
「どうしてって....リーアちゃんがいるような所じゃないからよ」
子供だから目の前が戦場であることが分からないのだろうか?とも思ったが、ひとまず彼女をここから逃がすことだけ考えろと自分に言い聞かせる。
今目の前の子供を守りながら魔族と戦うのは難しい。魔族相手に1対1でも今満身創痍だったのだから。相手も同じだろうが、守るべき対象が増えてはこちらが圧倒的に不利になってしまう。
「ううん、そんなことないの」
「違うよ。だから早く....」
「ここはリーアのいるべき場所なの。ママ、大丈夫なの」
そう言って堂々と彼女は私の後ろから出て歩き出した。あまりにも堂々と飛び出したものだから私の反応が遅れてしまう。ハッと我に返り、すぐさまリーアの裾を掴んだ。
だが、先ほど喰らった攻撃のダメージが残っていて掴む力が緩んでしまう。
「うっ....リーア、ちゃん....」
「ママ、大丈夫なのよ」
そう言ってリーアは私の手からするりと抜けて前へと歩いて行く。
(行かせるわけにはいかない、早くあの子を守らなくては....動け、動け!!)
自分の体を叩き、限界を超えた状態でもなお立とうとする。だが、無情にも体の痛みが増すばかりで力が入らなかった。何とかよろよろと立ち上がることはできたが、ここから簡易治療の魔法で回復するにも時間がかかる。リーアに追いつくことは出来ない。
「何だ小娘。戦いの邪魔をするな、これは遊びじゃないんだぞ?」
「知ってるなの。おねーさんは敵、そうでしょ?」
「なら何故子供がこんな所に現れた。いや、待てよ....海人族の子供だと....?まぁいい。ここが戦場だと理解しているのなら立ち塞がった時点でお前も敵だ」
無情にも鞭を振るルサールカ。風を切るように早い速度で迫る鞭をリーアは避けず、必死衣伸ばした私の手はリーアを掴むことはできなかった。
「リーアちゃん!!!!!」
悲痛な叫びが響く。鞭はリーアごと地面を砕く様にヒットし、土煙が周囲を覆った。
リーアが攻撃された。この場に彼女が来てしまったことがそもそもの間違いなのだ。私がもっと....もっとちゃんと守ってあげられれば....
そう考えて打つ向いた瞬間、土煙の中から声がする。
「ママ、悲しむことはないの。リーアはここにいるよ」
その瞬間、突風が吹き荒れる。その発生源は土煙の中のようで、1点に収束するように吹いた風が土煙を払った。そしてそこには、その風を操りながら半透明のシールドで攻撃を防ぐリーアの姿があった。
「リーアちゃん....?何その姿....」
リーアの額からは珊瑚のような2本の角が生えており、更に髪は水色の単色だったものが先端に行くにつれ白くグラデーションを纏っていた。風で靡く服の後ろからは尻尾が出ており、その姿はまるで”龍”だった。
「その姿....海人族の子供....そうか、そういうことか!!」
ルサールカは急に何かに気づいたように鞭を振って攻撃し始める。その攻撃を半透明のシールドで防ぎつつ、リーアはゆっくりと前に進み始めた。
ルサールカの攻撃は決して弱いものじゃない。実際に戦っていた私がそれをよくわかってる。攻撃の速度も重さも、私がくらっていたものと大して変わらないはずだ。子供であるリーアにそれを受け止めるだけの力はないと思っていた。
だが、今の彼女は攻撃をものともしない立ち振る舞いを見せている。ゆっくりとだが、確実にルサールカとの距離詰めていった。
「お前が....お前が”鍵”なんだな!!」
「よくわかりましたなの。褒めてあげてもいいの」
「お褒めに預かり光栄だなぁ!!」
更に早くなる鞭の嵐、だがそれでもリーアは進むのをやめない。
「でも、リーアが”鍵”だとわかったところで止められないの。おねーさんは私よりも弱いんだからなの」
鞭での攻撃を盾で防いでいたリーアが突然盾を振り上げる。その衝撃で鞭は弾かれて空中へと跳ねた。その時の威力が鞭を辿ってルサールカに届き、ルサールカの右腕が暴れるように上へと弾かれた。
自身の攻撃の威力がそのまま跳ね返ってきたため、ルサールカの腕は思うように動かないようだ。
その時、弾いた盾の向こうからリーアがルサールカに向けて手を向ける。その形は人指し指だけを前に出し、まるで銃で狙っていることを思わせる動作。リーアの人差し指の先端に水の魔力が溜まっていき、リーアが狙いを定めた。
「ぽぅ、なの」
リーアが言葉を放った瞬間、物凄い勢いで溜まった水の魔力が弾丸となって発射される。真っすぐに飛んでいった水の弾丸はブレることなくルサールカの動かない右腕を根元から貫通して千切った。
「ぐっ....あぁぁぁああああああ!!!!!!!」
ルサールカの悲鳴が響く。が、すぐさま反撃を思いついたらしく左手で鞭を持ち直し立ち上がった。
「はぁ....はぁ....海竜!!海賊など放っておけ!!あの小娘を攻撃しろ!!」
ルサールカの指示で海竜がゆっくりと動き始める。野太い雄叫びを上げ、空中に数十本の水の槍が生成された。それを連続でリーアに向けて発射する。
が、その瞬間に簡易治療で回復した私は全速力の風域を発動してリーアに接近しその攻撃を防いだ。魔力壁と剣で全力で攻撃を防ぐ。あまりの攻撃の嵐に防ぎきれないものもあったが、幸いリーアには当たっていないようだった。
「何が何だかよく分からないけど....リーアちゃんは私が守る」
「ありがとうなのママ。後でちゃんと説明するから、今はリーアと一緒に戦って欲しいの」
「任せて。どうすればいいの?」
そう言うとリーアはスッと海竜を指さした。
「今、リヴァイアサンは支配状態にあるの。でも、”鍵”の私がこうして存在してるから今は全力が出せていないの。力の制御が上手くいっていない今しか好機なら、リヴァイアサンを支配から逃がせられるかもしれないの」
「支配魔法が解けるの?!」
「リーアをリヴァイアサンの核の近く....額まで連れて行ってなの」
「分かったわ。しっかり捕まってて」
リーアがしがみついたのを確認し、すぐさま風域加速を使って空中へと飛ぶ。ルサールカそっちのけで海竜へと接近していった。
右腕を失った痛みから呻いていたルサールカだったが、目の前の敵が海竜へと近づいていくのを見て追撃してきた。
「待て!逃がすかぁ!!!」
鞭による攻撃と海竜の水の槍を空中機動で避けていく。今は反撃している余裕もないため、避けることで精いっぱいだ。
凄まじい空中合戦。だが、私音機動力とリーアが盾で防いでくれたおかげで被弾は一切していない。だが水の槍を避け切ったと思った瞬間、目の前に映った景色は海竜が口を大きく開けて魔力をチャージしている光景だった。
口元に収束される魔力。出現した水球に溜まっていく魔力が、水流波を放出することを示していた。
(マズイ....!!)
今にも放たれそうな水流波を防ぐ術はないし、このまま避けようにも海竜に近づこうとしているこの距離感では避けることも出来ない。
もう後がない状況。背後からはまだ水の槍が追いかけてきている。いくらリーアの盾であっても、海竜の超近距離ブレスを防ぐことは出来ないだろう。
死を覚悟したその瞬間、横から飛んできた何かが海竜の顔面にヒットした。何発も浴びせられる砲弾が海竜の顔や体で爆発し、黒煙を上げていく。魔力を溜めていた口元を攻撃されたことで海竜のチャージは中断され、私とリーアはそのまま顔面の側を通り抜けた。
「邪魔はさせねぇよ!!野郎共、姫さんを援護しろ!!」
何発もの砲弾を海竜に浴びせ、ダメージを負っていく海竜の攻撃が段々と少なくなっていく。その時、下の港の方で土煙が上がるのが見えた。恐らくルサールカがこちらへと接近しているのだろう。
早くしないと....!と私は更に風域加速を速めて上空へと登っていく。空中機動のスピードでフードなどとっくに外れていたが、気にする余裕もなかった。
ウィリアムの協力によって何とか攻撃を防ぎきり、海竜の額へとやって来た。掴んでいたリーアを離して着地させる。
「リーアちゃん、どうすればいい?」
言われるまま海竜の上まで連れてきたが、ここから何をするのかは知らない。
今港から全速力でルサールカも追いかけてきている。彼女が空中浮遊でここに来るまでにおおよそ数十秒しかない。何かをするにも時間が無さすぎる。
「大丈夫なの。今からリーアたちはお話ししに行くの」
「お話し?ってまさか....」
「そうなの。今からリーア達は、リヴァイアサンの意識の中に入るなの」
リーアの発言に、私は驚きが隠せなかった。だが、自信満々に笑うリーアに嘘をついている様子はない。この場所まで来たのも、リーアを信じると決めたのも自分だ。その作戦に乗らない手は無かった。
ルサールカが到着するまで残り数十秒。刻一刻と、決着の時は迫る。




