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第64話 聖女姫と超人メイドの救護

 イザヤ海戦が始まってから、町の外にある救護所は大忙しだった。

 避難した人々をまとめ、戦闘で怪我したものが運ばれてくる。人と人の往来が多く、何かをしようとしたり取りに行こうとしたりするだけで人の波に阻まれてしまう。

 そんな状況の中、せっせと救護所を走り回る少女がいた。彼女はかなり働いているようで、救護員用に支給された白衣はかなり汚れていた。

 そんな格好でバタバタと走り回る彼女だが、実はこの国の王女なのである。そう、セレナだ。


「セレナ様、西区角の支援物資は足りてますか?」


「はい。先程騎士の方が運んでくれました」


「ありがとうございます。では中央治療エリアで治癒の方お願いします」


「分かりました。あ、西区角の方で冒険者様の怪我人が先程運ばれました。聖女の派遣をお願いします」


「はい。伝えておきます」


 イザヤにある教会勤務の聖女に次の指示を仰ぎ、中央に設立された簡易テントに向かってセレナは走っていく。


(私に戦闘能力はないに等しい....多少剣を学んだからといって、今の戦いに参加できるほどの実力はない。だからこそ、私が聖女として後方で支援するんだ!)


 今町中で戦っているライラやレオンハルトを含む人たちの頑張りを無駄には出来ない。

 少しでも皆の役に立つんだと、セレナは中央区の治療テントに入った。


「セレナです。治療のサポートに来ました!」


「あ、セレナ様!ちょうど良いところに!そちらの患者様に治療をお願いします」


「はい!大丈夫ですか?」


 マナの指示の下、近くに倒れていた冒険者に近づいて回復魔法をかける。回復魔法は聖属性に属する魔法。聖女である今のセレナならば使いこなせるのだ。


 回復魔法をかけ、開いていた傷口を塞いでいく。回復魔法に関してはマナより学び、人の傷口を見ても倒れないよう矯正された。おかげで人体の構造にも詳しくなったし、聖属性魔法に関しての知識や経験が増えたのはいいことである。


 そんな時、ふと何かを感じてセレナは振り向いた。誰かに話しかけられた訳でも、誰かに触られたわけでもない。ただ“何かを感じた”、だから振り向いたのだ。


(何....今の感覚....レオお兄様?)


 レオンハルトの強烈な魔力を感じた。他の人は分からなかったのか、今の瞬間にその魔力を感じたのはセレナだけだったようだ。

 何があったのかは分からない。だが、明らかにレオンハルトの魔力量が増加したのは感じた。

 そしてその現象をセレナはマナから教わっている。それと同時に、その状況がマズイものであるということも理解していた。


(急激な魔力の増加....それに、感じた魔力波に怒りの感情を感じ取れた。感情による一時的な魔力増幅は、身体に大きな負荷をかけてしまう....!)


 マナから教わった知識だが、魔力を一時的に増幅する方法がある。それは一定以上魔力を消費した状態で、感情を増幅させること。それに伴い、本来であれば得られるはずのない魔力を体の内側....まだ目覚めていない力を無理矢理引き出すというもの。

 もちろん、普通であればありえない方法ではあるのだが、この方法で魔力を増幅する人が稀にいるらしい。そして、この方法は本来鍛錬の先に得られる力を前借りしたようなもので、身体に多大なる負荷がかかってしまう。


「レオお兄様....!!」


 こんな心配無用かもしれないが、レオンハルトの今の状況に唯一気づいた者として放っておくわけにはいかない。その時、丁度物資を引き渡して話していたシトリンとマナを見つけた。


「マナ様!」


「あら、どうしたのですか姫様」


「あの....レオ兄様が感情魔力増幅状態になったみたいで....」


「え?!というか、なんでわかるんですか?」


「それが私にもよくわからなくて....でも、確かにレオ兄様の魔力の増幅を感じました」


 マナとセレナの会話に、ついていけていないシトリンがマナに尋ねる。


「お話し中すみません。その”感情魔力増幅状態”というのは危険なものなのですか?」


「危険....そうですね、危険です。この状態はいわゆる枯渇した魔力状態の時に、感情の起伏によって外へと放出される魔力を補うことを言います。ただし、その魔力自体は本来得ることのできない”成長”の先の物。つまり、殿下が今後何十年と鍛錬を続けた先の魔力を前借している状態と言っても過言ではないでしょう」


「身体的影響が?」


「はい。この状態になることは稀ですが、なってしまえば本人の身体に負荷をかけます。長時間の使用は命の関わることになりかねません。幸い、治療自体は簡単なのでどうにか殿下を連れて来ていただければ....」


 マナの言葉に頷くシトリン。彼女はセレナの方に向き直り、そっとセレナの肩に手を置いた。


「ならば、私とセレナ様で連れてきます。セレナ様は説得と治療係、私は道中の護衛ということで」


「シトリンさんが付いていてくれるのなら安心です!」


「分かりました。どうにか殿下を連れて来て下さい」


 マナの言葉に顔を見合わせたセレナとシトリンが頷く。振り返って町の中へと駆けて行った。




***




 魔族フルーレティを撃破したレオンハルト。だが、何やらその様子がおかしい。


(なんだ....この....鼓動が速い、体が熱い....)


 今の自分の状況をレオンハルトは理解していない。何が起こって魔力が復活したのか、何が原因であれほどの魔力を引き出せたのか。レオンハルトの頭は朦朧としてきており、普通に思考することすら段々と厳しくなっていく。だが、そこは意地でも耐えると剣を地面に突き刺して杖代わりにした。


「主君!」

「レオ、大丈夫か?!」


 水鱗魔達を処理し終えたゼレフとシノブが近づいてくる。2人に支えられながら立ち上がったレオンハルトだったが、朦朧とする頭をフル回転させて辛うじて指示を出す。


「ゼレフ、シノブ....まだこの町には水鱗魔が沢山いる。全てを殲滅しろ。俺のことは....いい....」


 そこまで言うとレオンハルトは意識を失った。

 自分達の主から出された命令は従わないといけないのだが、王族をこんな道端に堂々と置いていくことはできない。それに、意識を失っているのなら救護所に連れていくのが正解だろう。そうシノブが考えた矢先、誰かがこちらを呼びながら走って来る。よくよく見ると、それはセレナとシトリンだった。


「シノブさん!」


「セレナ様?!なぜこんな所に....いえ、丁度いいです。主君が気を失ってしまいました。なので救護所への搬送をお願いします」


「分かりました!シノブさん、レオ兄様を担げますか?」


 セレナがそう言った時、ふとシトリンが何かに気づいたように振り返る。特に何もなく、荒らされたレンガ造りの建物と吹き抜ける潮風くらいしか感じなかったはずなのに、明らかに”何か”の存在を感じたのだ。


「セレナ様、すみません。少し席を外してもいいですか?」


「えっと....ちなみになぜ?」


「いえ、ちょっとした....野暮用です」




 その頃、救護所の付近であるイザヤの外。そこにはピクリ....ピクリ....と蠢く肉の塊があった。あの時斬られたフルーレティの片腕から、段々と肉が変形してフルーレティの形を作っていく。

 だが腕1本分の肉の量では完全なる肉体を構成することはできない。フルーレティは上半身のみ作って浮き、近くにあった木の棒1本を杖代わりにしてよたよたと歩く。


(クソ....!わしがあんな小僧に!)


 悔しまぎれの意見ではあるが、負けたことに変わりはない。だが、こうして生きているだけで御の字と言えるだろう。

 フルーレティは外向きの名前。本当の名はヴァプラと言う魔族だ。彼の身体的特徴は何度でも再生する耐久力。体内に存在する(コア)が現存する限り蘇るという能力。だが、復活には肉体形成に伴う肉の量が必要。今の状況では完全なる復活は難しいだろう。

 そんな時、ふと目の前に何かがあることを見つける。それはイザヤへの入り口付近で集まっている数千もの人間。そしてここが、後方支援の救護所であるということに気づいてしまった。


「あれは....人間たちの救護所じゃな。丁度いいのぅ。人間を数人食い殺して肉と魔力を吸収するのじゃ。幸い、付近の水鱗魔数匹程度であれば問題なかろうて」


 意気揚々と付近の水鱗魔に指示を出すフルーレティ。しかし、そんな彼の元に”死神”が舞い降りたのだ。


「先ほどの”何か”の気配はあなたですか」


 フルーレティと救護所の間に佇む1人の女性。白と黒のメイド服に身を包んだ女性が、フルーレティの前に立ち塞がっていた。


「何じゃお主、人間がわしに何かようかの?」


「ええ。その額の眼、魔族ですね?何故上半身しか存在しないのかと問おうかと思いましたが、あなたが殿下と戦っていたという魔族というわけですか。どういう原理で復活しているのかは分かりませんが....」


 ザッ....と音を立てて明確に敵対する意思を見せたシトリン。それに対し、フルーレティは怒りのような表情となる。


「殲滅します」


「やれるものならやって見よ!!」


 フルーレティの指示で複数の水鱗魔がシトリンを襲う。だが....


「....」


 シトリンは無言で襲い掛かって来る水鱗魔を素手で打ちのめした。たった5匹ほどしかいなかったが、それでも水鱗魔をそれぞれ打撃一回のみで葬っている。その光景に度肝を抜かれたフルーレティ。だが、かなりの強者がこうして自分を倒しに来たのだ。『負けるつもりはないが、この女を止める方法を考えねば....』と次の行動に入る。

 だが、その瞬間にシトリンは空中を蹴るようにしてありえない速度でフルーレティに迫った。


「バカな....!?」


 驚きの余りフルーレティから声が漏れる。先ほどのレオンハルトとの戦闘と同じ、早すぎて見えないレベルの加速。気づけば目の前にシトリンの足が迫っていた。


「ダメ押しをしましょうか....こんな感じでしょう」


 シトリンが独り言をつぶやいた瞬間、黄金色のような光がシトリンの足を染め上げていく。それは魔族にとって最も嫌うもの。対魔族に対して莫大な効力を発揮する魔法属性。

 そう、”聖属性魔法”だ。


「お主....まさか聖j........」


 フルーレティが言うより先に聖属性魔法で強化されたシトリンの足が顔を粉砕する。あまりのスピードにフルーレティの顔や体は粉々に砕け、頭の中に入っていたフルーレティの”悪魔”としての本体もその衝撃と魔法効力で蹴りをもろに喰い、塵となって瓦解していく。

 ブレーキをかけたシトリンはぱっぱと埃を払い、そして塵となって今度こそ消えていくフルーレティを振り返ることなく言った。


「”瞬光脚”....とでも名付けましょうか。案外やろうと思えばできるものなのですね」


 そう言い残し、シトリンは去って行く。こうして、イザヤ内の一つが終わった。

 シトリンが救護所の方へと歩き出したころ、海の方で何やら大きな変化があったようだ。立ち込めていた暗雲に一筋の光が照らす。雲が割れ、そして天から注がれる灯りの中、現れた水球。そしてそれが破裂した瞬間、背後に半透明な蛇のような存在が現れた。


「あれは....まさか....!」


 その神々しすぎる姿を見て、シトリンは感動すら感じ始めた。その光の中心にいるのは金の髪と銀色のローブの人物。彼女の素性を、シトリンは知っている。


(頑張ってください....お嬢様)


 シトリンの思いは伝わることはなく、そっとしまい込んでシトリンは救護所へと再度向かって行ったのだった。


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