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第63話 第二王子と魔族戦《レオンハルト視点》

 ライラがルサールカと戦い始めた一方、イザヤの町の北側では別の戦いが繰り広げられていた。

 剣を構え、突撃するレオンハルトに対し遠距離から魔法で攻撃するフルーレティ。だがレオンハルトも負けじと炎属性魔法で追撃を狙う。


黒炎(ブラックフレア)


炎槍(フレイムランス)!!」


 黒い炎と赤い炎がぶつかり合う。お互いにお互いの炎が浸食しあうように混ざり、そして混在した魔力が内部で爆発して2人を吹き飛ばした。


「くっ....!」

「ぐっ....」


 同じような声を上げて距離が離れる2人。その隙に集まって来た水鱗魔達が一斉に襲い掛かって来た。


「グギャアア!!」


「悪いな、お前たちの相手は俺じゃない」


 水鱗魔達に行っても理解できないと思うが、その言葉に反応するように背後から現れた2人の人影が水鱗魔達をばっさばっさと斬り倒していく。

 三叉槍を剣で防ぐゼレフと、少し離れた距離を保ってクナイで攻撃するシノブ。水鱗魔達の数は多くなかったため、たった十数秒の戦闘で数匹の水鱗魔が地面に転がった。


「大丈夫か、レオ」

「主君、周りの雑魚は気にするな。私たちが何とかする」


「助かる。おい魔族、悪いが1対1でやらせてもらおうか」


「ほっほっほ。それは約束できかねますなぁ。わしとてわしなりの戦い方があるのですじゃ。この魔力尽きぬ限り、何度でも水鱗魔達はお主を襲うじゃろうて」


「なら、俺達もその全てを斬ってお前を倒す」


 そう言うと集まって来たゼレフとシノブがレオンハルトの背後を守る様にして立った。

 フルーレティは終始ニコニコと笑っているように見えるが、瞳の奥に光るその眼光は鋭く獲物を狙う狩人の眼をしていた。この魔族もただものではない。レオンハルトが直感的にそう感じるのも無理はない。

 だが、今港でライラがルサールカと海竜と戦っている。あっちは任せると信じた以上、レオンハルトは自分のするべきことを遂行するという使命が心の中で燃えていた。


「水鱗魔達はわしの全てわしの手中じゃ。行け!人間たちを殺しつくすのじゃ!!」


「ゼレフ、シノブ、後ろは任せた」


「ああ。任せろ」

「主君もお気を付けて」


 散り散りになった3人。真っすぐフルーレティに接近するレオンハルトの剣を、フルーレティは杖で防いだ。力の攻防戦なら圧倒的にレオンハルトに分がある。だが、今剣を防いでいるこの杖は木で出来ているように見えるが何かが違う。レオンハルトの剣も決して簡素なものではない。王都の中でも随一の職人が作ったオーダーメイド品だ。使用されている合金も王族だからこそ入手が出来る代物。

 だがあの杖はそれを防いで見せた。硬すぎる杖と小柄な体格も相まって素早く、接近戦も出来るのかもしれない。


(魔法職だと思っていたが....少し気を引き締めるか)


 相手がこちらの剣を防いでくるのなら、対応されないほどの速度で攻めるしかない。幸い、魔法職と言ってもライラのように魔法主体の物量攻めなどは出来ないようだ。戦い方で言えばレオンハルトと似ている。

 つまり魔法による交戦はあくまでもサブ。主体は剣と硬度の高い杖による近接戦闘がメインだろう。


 身体強化で強化した状態でフルーレティに迫る。放ってきた黒炎を避け、距離を詰めた瞬間に視界の端に何かが映った。

 咄嗟にそちらに剣を向け斬り上げると、レオンハルトに向かって突撃してきた水鱗魔が悲鳴を上げる間もなく縦に真っ二つになる。フルーレティの方を見ると、小さく舌打ちしているのが見えた。


(やはり水鱗魔達の司令塔はあいつか。この戦闘をこなしながらも水鱗魔達に指示を送るのを止めないとは流石だ)


 相手ながら感心してしまう腕前。だが、近接戦闘で言えばやはりレオンハルトに分がある。接近して押し切ることさえできれば、勝機は十分と言えよう。

 斬り上げた状態から体を反転し、そのまま再び駆け出してフルーレティを剣の間合いに収める。振り下ろした剣を杖で防御し、その隙に背後から炎魔法を放ってきた。


黒炎弾(ブラックショット)!」


火炎弾(フレアショット)


 2人の周囲で小さな爆発が何度も起こる。フルーレティの黒炎弾とレオンハルトの火炎弾がぶつかり合い、剣と杖が打ち合う音の周囲で花火のような爆発音が無数に響いた。

 打ち合うほど剣の速度が上がるレオンハルトに対して、打ち合うほど早くなっていく剣筋に対応できなくなってくるフルーレティ。焦りの汗がつーっとフルーレティの頬を撫でた。


(なんじゃこの速度は....!?打ち合う度に速くなりおる....!)


 フルーレティでは対応しきれない速度。剣による斬撃の最中、段々と体に傷が増えていく。


「あの魔族、中々やる」


 遠目から関心するシノブに対し、水鱗魔を斬ったばかりのゼレフが同意した。


「ああ。だが、レオには適わない」


 絶対的信頼の発言。だが実際にゼレフの言った通り最早数分間の撃ち合いの最中フルーレティは防御することしかできなかった。

 レオンハルトは止まることを知らず、着実にダメージを稼いでいく。


(このままだとまずいのぅ....ならば!!)


 フルーレティが力を振り絞ってレオンハルトの剣を弾く。その瞬間、瞬時に付近の水鱗魔に指示を出してレオンハルトを襲わせた。


「くっ....!!」

 

 剣を弾かれたことで完全に止まってしまったレオンハルト。フルーレティの背後から襲い掛かってくる水鱗魔に対して剣を構えている時間などない。

 だが、それでも彼は冷静だった。瞬間的に剣を下げて構え直す。このままいけば剣を振るより先に水鱗魔の攻撃が届くだろう。そうフルーレティが考えた瞬間、レオンハルトの背後から何かが飛んできて水鱗魔の額に刺さった。スピード・威力が強く、水鱗魔達は絶命した状態で背後に倒れていく。


「何が....?!」


「よくやった、シノブ」


 レオンハルトの背後から飛んできたのはシノブのクナイ。カバーに入れる距離からは離れているはずなのに、的確にクナイを水鱗魔の額に当てた。そして、レオンハルトは彼女がカバーしてくれることを読んでいたのだ。

 驚くフルーレティ。結果、レオンハルトの次の行動に対しての反応が遅れてしまう。すぐに攻撃に対応しようとレオンハルトの方に向き直るが、シノブのクナイによって絶命した水鱗魔が丁度視界の邪魔をしてしまい、レオンハルトの剣の動きが読めない。


 その瞬間、水鱗魔の体ごと下から斬り上げられた剣がフルーレティを襲う。何とか回避には成功するものの反応が遅れたことで片腕が斬り落とされた。


「ぐっ....!!」


 呻くフルーレティに対しレオンハルトがすかさず動く。最早お互いに斬り飛ばされた腕になど意識を向けている余裕は無かった。

 この状況、相手は手負いでこちらは攻めの姿勢。勝てるとレオンハルトがもう一歩踏み出した瞬間、横道から飛び出してきた水鱗魔が3体、レオンハルトに噛みついた。


「っ....!?」


 咄嗟のことでシノブも反応が出来ず、諸に牙が体に食い込んでいく。その瞬間、フルーレティが杖の先に溜めた魔力で黒炎弾を放ち、レオンハルトに着弾して爆発した。


「主君?!」


 シノブの声が響くが、レオンハルトは何とか吹き飛ばされた後に受け身をして着地する。

 だがやはり水鱗魔の牙がかなり食い込んでいるうえに近距離の爆発だ。レオンハルトもダメージは相当喰らっている。


「ほっほっほ....少々危なかったが、これでしまいじゃな。所詮、人間は魔族に淘汰されるべき弱者なのだ!!」


 その言葉にレオンハルトの耳がピクリと動く。


「今、なんて言った?」


「聞こえなんだか?人間は魔族に喰われる弱者だと言ったのだ!」


「ふざけるな」


 ゆらりと立ち上がるレオンハルト。上げた彼の顔には明確な怒りの感情が浮かんでいる。そして、その感情が大きくレオンハルトの魔力を増幅し空気を揺らした。


「おい魔族、なぜ人間がお前達魔族に対抗できたと思う?なぜ人間が、何百年も魔族と戦えたと思う?」


 その問いにフルーレティは答えない。


「分からないか?答えは単純だ。お前の言った通り....俺達が”弱者”だったからだ」


 レオンハルトが焼死体となった水鱗魔達を引きはがし、ゆらりと一歩踏み出す。


「弱者故に知恵を磨き、弱者故に技を磨き、弱者故に歴史と伝統を紡いできた。俺達は弱い。魔族のような特異魔力も無ければ、亜人のような特殊な遺伝子もない。だが俺達がこの世界で繁栄しているのはなぜか?それは....」


 踏みだした一歩に魔力が乗せられ、更に周囲に威圧感をまき散らした。


「紛れもない弱者だからだ!!考えることを止めず、技を磨くことを止めず、歴史を後継することを止めない!短い寿命で、後世へと繋いできた”弱者”たる歴史が、お前ら魔族を追い詰めた!!『人間は魔族に淘汰され喰われる存在』?笑わせるな。いつまでお前らは自分が”喰う側”だと思っているんだ?」


 剣をスッと前に出し、切っ先をフルーレティに向ける。


「次はお前達が喰われる番だ。魔族」


 その瞬間、レオンハルトの魔力が爆発的に増加した。その魔力が収束され、周囲が一瞬静かになった瞬間....


 ゴゥ!!!!!!という爆発音と共にレオンハルトの姿が消えた。フルーレティは必死に消えた男の姿を探すが、その瞬間に気づいた。レオンハルトは消えたのではない。()()()()()()()()()()()()()でフルーレティに接近したのだ。

 レオンハルトの足からはジェット噴射のように炎が噴射されている。これはレオンハルトが編み出した新しい魔法技、得意な炎属性魔法を足から噴射し、それをライラの使っていた”風域”を参考に風属性魔法でまとめて空中機動を可能とする超高速技。このために風属性魔法を習得していたのだ。


(マズイ....!防御せねば....!)


 速度は速いが剣が届くまでまだコンマ数秒の猶予はある。そう考えたフルーレティが杖で防御の姿勢を取る。何とか杖が間に合い、フルーレティは安堵の笑みを浮かべた。

 だが、無情にもレオンハルトの剣は杖に食い込んでまるで紙でも切るかのように杖を裂いていく。その剣は刀身が燃え盛っており、炎による威力上昇が杖の強度を上回っていた。


「なっ....」


「ふっ.....!!」


 杖を裂き終えたレオンハルトの剣は威力が止まぬ状態でそのままフルーレティの体へと食い込んでいく。燃え盛る剣が、そのままフルーレティの体を焦がしながら裂いて行った。


 レオンハルトが剣を貫通させ、くるくると回りながら摩擦でブレーキをかける。完全に止まり切ったその瞬間、空中には炎で出来た剣の軌跡が残っており、斬られたフルーレティの上半身が空中へと飛んでいた。


「このわしが....こんな小僧に....」


「いつまで捕食者を気取ってる。あまり人間を舐めるな、老害」


 その捨て台詞を言い終わると同時に空中に飛んだフルーレティの上半身と地上にある下半身が同時に塵となって消滅し始めた。

 サラサラと灰のように舞って消えていくフルーレティ。その姿を見ることもせず、レオンハルトは静かに剣の炎を振り払ったのだった。


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