第62話 隠れ聖女とイザヤ海戦~その3
彗星の如く空から落ちる光が、イザヤの港に直撃した。
巻き上がった煙が晴れると、そこには金色の魔力を持つ少女と赤い魔力の魔族がせめぎ合う姿。ギリギリとお互いの武器で力比べをしていたが、最終的には私の剣が勝ってルサールカを跳ね除けた。
「くっ....!」
「ふっ!!」
間髪入れず風域加速で距離を詰め、そのままルサールカに斬りかかる。ルサールカは距離が詰められたことで鞭の利点を失っている。空中戦と違い、攻撃と防御が完全に入れ替わっていた。
更に地面すれすれで風域による微飛行が発生しているため、私の剣技は普通のそれとは変わって変則的な軌道を描いている。
騎士としては反則極まりないが、こちとら魔法剣士だ。本職は魔法使いなので問題ない。もっと言ってしまえば、殺し合いの最中に卑怯も何も無いだろう。
(ルサールカ....あなたを倒せば、全部終わる!!)
横薙ぎを避けられた瞬間、風域を強化して体全体を回転させる。遠心力を利用して一周回った剣が再びルサールカを捕らえた。スピードはこちらが上、押し込めればそのまま決着もあり得る。
だが、その瞬間背筋にゾクリとした感覚が走る。直感でマズいと感じた私は剣を引っ込めて跳躍しルサールカから距離を取った。その直後、先ほどまで私がいた位置に水の槍が突き刺さる。
「海竜の攻撃....!!」
「あの竜の主導権は私にある。海賊を相手にしながらこちらにも攻撃を誘導させることなど容易い!」
リヴァイアサンは海の上から攻撃するウィリアム達海賊船と交戦しているが、魔法による攻撃はこちらに割けるほどの余裕があるらしい。やはり人基準で考えてはダメなのだ。
跳躍した私は空中でバランスを取る。地上のルサールカは再び鞭に魔力を込めた。
「これで距離が空いたな!」
「再び近づけばいいだけの話です!」
空中に向かって振り回される鞭の攻撃を空中機動で避けながらルサールカに迫る。相手は魔法による攻撃はしてこない。それがルサールカが単に苦手なだけなのか、”支配”能力に魔力を割いているからなのかは分からないが、目の前でうねる鞭の攻撃だけに集中すればいいのはラッキーだ。
体を捻り、剣でいなしながら距離を縮めていく。が、海底神殿の時と同じく距離を詰めれば詰めるほど鞭による攻撃の圧が増してくる。先ほどのように不意を突くか、ルサールカから鞭を剥ぎ取らない限り簡単には近づけそうにない。
(鞭を手放させるにしても、力による引っ張り合いなら私が負ける....)
押し合いであればまだ可能性はあるが、引っ張り合いに関しては武器相性が悪い。先に武器を手放してしまうのは私になるだろう。
おまけに背後から追尾してくる水の槍だ。海竜はウィリアム達との戦闘しているとはいえ、海竜の魔法の全てが彼らに向いているわけではない。ルサールカの口ぶりから察するに、支配対象に指示を送ることで海竜の意思を操作していると思われる。
だが今の所海竜を止める手立てはない。ルサールカを倒す方が手っ取り早いだろう。
(今まで戦ってきたどの敵よりも強い....!これほどの戦闘力、きっと魔族の中でも名が通っているのでしょうね)
鞭の扱いに関しては誰よりも優れていると思える。攻撃魔法を使わない反面、近·遠距離両方をカバーするその戦闘力の高さには正直脱帽しかない。
やはり隙を作るしかないと考え、私は空中で雷魔法を造形して形を変える。槍状に変化させた雷を2本、鞭の隙間を縫ってルサールカに投擲した。
「はぁ!!」
「ぬるいわ!」
案の定ルサールカの無知に阻まれて雷の槍は2本とも落下し地面に突き刺さる。だが、これも計算の内。ただ闇雲に魔法で攻撃したわけじゃないのだ。
空中で鞭と私の剣がお互いを弾きあった瞬間、空いた左手に溜めていた雷魔法を地面に向けて投下する。
「サンダーボルト!!!」
真っ直ぐに落下した雷魔法はルサールカによってかき消される。が、本当の狙いはここから。
掻き消された雷が空中に飛散し、そして突き刺さっていた雷の槍に触れる。その瞬間、ただ突き刺さっていただけの雷の槍が、共鳴するようにブルブルと動き出した。
ルサールカはその挙動に気づいた瞬間に立退こうとしたが、流石に雷の速度を超えることは出来ない。雷の槍同士の直線上にいたルサールカを貫くように雷撃が奔った。
「ぐがぁ....!!」
バリバリと電気を纏い、痺れて動けなくなるルサールカ。その一瞬の隙を私が逃すわけがない。ルサールカに近づくためにこの隙を作り上げたのだから。
風域による加速を利用し、一気にルサールカとの距離を詰める。ぐんぐんとその感覚は狭くなっていき、剣の間合いにまで到達した。このまま斬り捨てれば勝ち....なのだが、やはりそううまくは行かない。
ルサールカは痺れた状態でも体を少しずらし、振り下ろされる剣を避けた。が、完全に避けきることはできず胸元から腹にかけて大きな切り傷を作ることとなった。
舞う血飛沫の中で、「仕留めきれなかった....!」とあと一歩だった自分の攻撃を悔やむ。更にルサールカも一筋縄では行かないようで、次の行動に移そうとした瞬間に背後からドスッと鈍い音が響く。
熱くなっていく体に違和感を感じ振り返ると、私の右脇腹に水の槍が突き刺さっていた。
(まさか今の一瞬....避けることだけでなく反撃することまで考えていたんですか....?!)
痛みと熱さでグラリと体が傾く。が、この殺し合いの最中に油断は命取りとなる。現に今くらった攻撃は油断からくらったものだ。
そうこうしている内に雷魔法による痺れが取れたのか、腹を抑えながら鞭を振り回したルサールカ。その鞭を剣で受け、お互いに引き合って睨み合う。
「はぁ….はぁ….なかなかやるじゃないか。これほどの傷を負ったのは初めてだぞ」
「奇遇ですね、私もですよ」
「お互いに手負いの状態、だがこの程度ではい終わりではないだろう?」
「当たり前です。あなたを倒すまで、私の攻撃は止まらない」
だが、既にかなり限界に近いのは事実。対魔族オンリーならまだしも、そこに海竜を含めた状態で戦ったうえで今の状況なのだ。魔力消費も体力もかなりキツイ。
(町中で皆が戦っている。海でウィリアムさんが足止めしてくれている....私が倒れれば、この町の行く末は破滅以外になくなってしまう)
私以外に、この魔族を止められる人物はいない。そう確信しているからこそ、倒れそうになっても1歩を踏み出す事ができる。
イザヤを守る為に、海竜を魔の手から救い出すために私ができることをする。それがライラ·ティルナノーグが今進むべき道だ。
虚空から魔力ポーションを取り出して飲み干す。魔力は補給できた。傷は治癒魔法で何とか簡易治療は施した。後は気力と実力の勝負。
「第2ラウンド、行きます!!」
「かかってこい!!」
今度は魔法主体の戦い方で攻めてみようと、私は離れた状態から炎属性魔法と風属性魔法を組み合わせる。
鞭がギリギリ届かない範囲まで下がり、複合魔法をルサールカに向けて思いっきり放った。
「コンバージ·フレイムランス!!!」
放たれた特大火力の炎の矢が、周囲の風を巻き込んで更に大きくなる。ルサールカもこれは防げないと思ったらしく、髪を掠るギリギリでこれを回避した。そして、その魔法攻撃を目くらましにして私はルサールカに近づく。
何とか剣の間合いに入る事はできたが、ルサールカの鞭の持ち手が仕込みナイフになっていたらしくこれを防がれてしまう。
金属音が鳴り響く中、背後から襲って来た水の槍を跳躍して回避した。ふわりと風域で浮いた状態になったが、距離を取れば再び鞭による攻撃がくる。だからこそ距離は詰めたままを維持しなくてはならない。
風域による空中機動で追尾してくる水の槍を避けながらルサールカと打ち合うが、やはりこの追尾弾は厄介だ。
おまけにルサールカから指示がいつ飛んでいるのかもこちらからは感知することが出来ない。
「ふっ!」
「オラァ!!」
剣とナイフの力がぶつかり合ってお互いを弾く。その瞬間、この瞬間を待っていたかのようにルサールカの鞭が襲ってくる。
「仕込みナイフはおまけだ。お前も知っているだろう?本命はコッチだと!!」
完全に視覚の外。剣の間合いで鞭の攻撃はさせまいと動いていたが、やはりルサールカの戦闘センスは凄まじい。
だが、これに関しては私のほうが一枚上手だった。
「何っ?!」
鞭が私にあたった瞬間、ルサールカの目に映っていた私は幻影のように揺らいで消える。
その直後、私は霧のようにルサールカの背後から現れて剣を振りかぶった。更に、私を追尾していた水の槍と私の間にルサールカが存在する状況。ルサールカは私と槍の両方を一度に対処しなくてはならなくなっている。
「何が起こって....?!」
「水魔法と空間魔法の応用です。“幻影”といいます」
迫る水の槍、そして背後から迫る剣の刃。
だがその瞬間....
「なめるなぁ!!!!」
物凄い勢いの魔力爆発。赤い魔力が暴発するように放出され、その勢いに負けて水の槍も私も吹き飛ばされる。
瓦礫に体が直撃し、先程治療した傷にダメージが入って吐血した。
「がはっ....げほ....魔力爆発....?!」
いや、それにしては様子がおかしい。明らかに魔力量が増えているし、なにより禍々しいオーラが可視化できる程になっている。これは最早変化に近い。
「少し違うな。私が使ったのはコレだ」
そう言ってルサールカが取り出したのは邪眼。ルサールカと同じ色の赤い魔力が邪眼からも溢れ出していた。
「俺たち魔族にコレが使えないと思ったか?」
邪眼を持っていることを考えていなかった私の失敗だ。この状況で相手は強化、私は怪我にダメージで弱体化。状況はかなり悪い方向に進んでいる。
でも、打破する方法が思いつかない。
(一体どうすれば....)
そう考えた瞬間、背後からザッ....と誰かが歩いてきて止まる音がした。
「諦めるなんて、ママらしくないの」
その声に私は目を見開いてしまう。
違う、聞き間違いだ。この場にあの子がいる可能性はないはず。ここは戦場だ。子供がいるわけがない。
だがそんな考えも虚しく、振り返ったそこには耳元からヒレを生やした少女がいた。
「リーアちゃん....?」
「ママ、助けに来たの!」
そう言ってリーアは私に向かってV字サインを出した。




