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第60話 隠れ聖女とイザヤ海戦~その1

「おい....!起きろ!!」


 その声で段々と意識が戻っていく。薄っすらと目を開けると、そこにはこちらを覗き込むようにしているウィリアムがいた。私と目が合うと、ほっとしたように胸を撫でおろす。


「よかった、目が覚めたんだな」


「ウィリアム....さん....?」


「ああ、ウィリアムさんだ。体調は大丈夫か?とりあえず入った海水を吐き出せ」


 そう言われて気づいたが、確かに少し息がしづらい。仰向けだった体を反転し、げほっ....げほっ....と咳をしながら海水を吐き出した。


「はぁ....はぁ....どうしてここに?捕まってたって聞きましたけど」


「お前たちが出発した後、戻って来たキエス達から事情を聴かされて解放されたんだ。そしたら神殿の方からとんでもない量の水流が溢れてきて、それが集落を守ってた結界を破壊したんだよ。その海水が集落ごと飲み込んで俺も流されてな、その時にお前らを見つけたんだよ」


「お前....”ら”?」


 複数を示すその単語を不思議に思うが、横を見ると同じく横たわっていた殿下を見つけた。

 恐らく、海水に飲み込まれた私達を強烈な水流の中で見つけ、助けてくれたのだ。


「殿下!大丈夫ですか?!」


「落ち着け、じきに目を覚ます。そんなことよりアレはいいのか?」


 髪から垂れる海水を水魔法と風魔法で飛ばしながら、私はウィリアムの指差した方を見る。暗雲立ち込めるイザヤの町。そして既に戦いは始まっているようで、海の方向にいる海竜と遠めだがルサールカの姿、そして地平線の向こうから無数の何かがイザヤに向かって押し寄せていた。


「やはり始まっていましたか....」


「事前に準備しておいてよかったな。さて、姫さんも参加するんだろ?」


「勿論です。皆は町を守ってくれてます。ならば、私の相手はあの魔族です」


 そう言って海竜と横にいるルサールカを指さした。

 それを見たウィリアムは「そうか」と言って笑う。最早私があの1人と1匹と戦うことに疑問を抱いていないようだった。


「あの....ウィリアムさん」


「なんだ?」


「私があの化け物と戦うにあたって、私は私でなくならなければいけません」


「?どういう事だ?」


「私は外部では“初級魔法以外を使えない”事になっているんです。でも、あれを倒すのに初級魔法と剣では不可能....私の“もう一つの顔”であれば、気兼ねなく魔法を使えるんです」


「なるほど?つまり本当は魔法が大得意なんですってのを隠したいわけだ。で、それを俺に話す理由は?」


「“信用してるから”ですよ。私のこの事実を知れば、きっと()()()()を抱くはずですから。貴族位以上の人間に、私が魔法を使えることを知られるとまずいんです」


「....何となく把握した。つまり、貴族位ではない俺には話してもいいって訳だな?」


「はい。なので他言無用でお願いします」


 そう言って空中に手をかざす。魔力によって乱れた空間が歪み、空気中に波紋を出すように揺れた。私はそこに手を入れていつもの杖を取り出す。

 杖でカツンと地面を小突いた瞬間、展開された魔方陣から溢れた魔力が外套となって私を包み、光が収まると私はアリアの姿になっていた。


「それがお前のもう一つの顔か」


「ええ。冒険者...."白金の姫君"と言えば分かりますか?」


「!!あの冒険者アリアか!そいつは驚いたな....!」


「私の正体がバレるわけにはいかないんです。殿下もまだ気絶してる。だから教えたんです。内緒ですよ?」


「分かってるよ。....行くんだな?」


「はい。殿下のこと、よろしくお願いします」


 そう言って風魔法を使って宙に浮く。そのまま振り返ることなく、私はイザヤの町へ向けて全速力で飛んだ。海にいる海竜とルサールカはまだ動いていないらしい。

 倒すべき相手を見据えながら、私は空を進んで行った。




***




 ライラが飛んでイザヤへと向かった後、それを眺めていたウィリアムはゆっくりと振り返った。


「さて、起きてるんだろ?王子サマ」


 ウィリアムの言葉に反応するように、ゆっくりとレオンハルトが起き上がった。


「盗み聞きとは趣味が悪いぜ」


「起きるタイミングを見失っただけだ。それに、ライラがアリアにならなければあれは倒せない」


「へぇ、知ってたのか。ん?だが姫さんは王子サマが知ってることは....」


「知らない。本人から明かしてくれるまでは黙っているつもりだ」


「本人は知られたくないらしいからな。お優しいね~」


 ウィリアムは茶化すが、その実本当にレオンハルトのことを褒めている。洞窟で戦っていた時からそうだったが、レオンハルトに対しては敬意をもって接しているのだ。

 そして、この男の横に立つべき人間がライラであることも直感で感じている。


「それで、姫さんの言ってた”別の疑問”ってのは何なんだ?」


「恐らくはティルナノーグ家に由来する疑問だろうな。ティルナノーグ家は身体強化や戦闘術に長けた家、その点魔法関係はほぼ使えないはず」


「だが姫さんは剣術も魔法も使えると」


「一般的にティルナノーグ家は”騎士として名を馳せた家”として知られている。貴族位以上になると守護竜の話や過去にまで触れる機会が増える為、四大竜爵家のルーツにまで触れるんだ」


「だから貴族位以上に知られてはいけないのか。だが、知られちゃいけない理由は?剣も魔法も使えるんならむしろ表に出した方がいいだろう?」


 確かに、ティルナノーグ家の”魔法がほぼ使えない”という欠点をライラはどういう方法かは知らないが乗り越えている。魔法の威力や使用範囲の広さには脱帽する機会も多いほど、彼女の魔法は洗練されていた。アリアとしてだが、陛下にすら宮廷魔法師に誘われるほどの腕前だ。彼女の魔法に関して、この国トップ層と言っても過言ではないだろう。

 だが彼女は隠すことを選んだ。きっと、この選択に何か秘密があるはずだ。


「まぁ、今は考えても仕方がない。それに俺はライラから話してくれることを信じてる。その日を待つことに決めた」


「フッ、そうだな。気になりはするが、姫さんが自分で決めたことに外部が茶々入れちゃまずいもんな」


「そろそろ俺も行こう。今はみんなが戦ってくれているが、俺も俺の役割を果たさないとな」


「おう」


「お前はどうするんだ?海賊」


「俺はイザヤの町とは関係がねぇしな~と言いたいところだが、このまま海が荒らされちゃおちおち航海も出来ねぇ。俺達の海を守るために戦うさ」


 ウィリアムはポンとレオンハルトの肩を軽く叩き、イザヤとは反対の森の方へと歩いて行った。


「どこに行くんだ?」


「このまま戦っても勝ち目はねぇ。俺は海賊らしく戦いに行くのさ」


 半分振り返り、ニヤリと口角を釣り上げた状態でウィリアムは言う。その意図を組み取ったレオンハルトはフッ....と笑い返し、ウィリアムに言葉をかけることなくイザヤの町へ向けて走って行った。

 ウィリアムはその後姿を見送り、森の中へと入っていったのだった。




***




 目の前で水鱗魔達に襲撃されているイザヤの町を見て、ルサールカはつまらなそうに鼻を鳴らす。海竜で暴れることも考えたのだが、それでは楽しみが無い。強き力に蹂躙されるのを一方的に見るのは案外つまらないものだ。それに、これから”楽しみ”が来るというのにさっさと終わらせてしまってはそれこそ面白味なんてない。

 海竜の力は強大だが、それを繋ぎ留めておくにも魔力がいる。ここで下手に暴れさせるよりも、この次の戦いに魔力を温存しておくのがいいだろう。


 そう考えているルサールカの元に、猛スピードで近づいてくる魔力反応が1つ。それも、遠距離から氷魔法による攻撃がルサールカに向かって飛んできた。


「ふっ....来たか!!」


 ルサールカは飛んでくる無数の氷のつららを鞭で全て砕く。氷の破片はバラバラと空中を舞い、キラキラと光る欠片に飛んできた少女を反射させた。


「遅かったな。溺れ死んだかと思ったぞ」


「あの程度の水流で死ぬわけないじゃないですか」


「さぁ、神殿の続きといこうか。ここからが本当の戦い、本当の殺し合いだ!!」


 少女は杖から剣を抜く。その剣は少女の魔力に反応するように光り、そして黄金色のオーラを纏った。


「あなたを倒して、リヴァイアサンを返してもらいます!!」


「やれるものならやってみろ。下の連中のことは無視して、私との戦いに集中してくれよ?でなければあっさり殺してしまうかもしれからなァ!!」


 空中を斬り裂く様に撓る鞭と、空中を猛スピードで接近しその鞭を剣で迎え撃つ少女:アリア。


 イザヤの町の混戦の中で、空中にてイザヤ海戦”大将戦”が始まったのだった。


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