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第58話 隠れ聖女と目覚めの刻

「ほぅ?人間の小娘よ、お前が私を止めるだと?」


 鞭を取り出したルサールカが不敵な笑みを浮かべる。風を切るようにひゅんひゅんと音を立て、こちらを威嚇するようにその鞭を振った。


「笑止千万!お前のような小娘にやられるほど私も柔ではないわ」


「なら、やってみますか?」


「面白い」


 ニヤリと口角がさらに吊り上がった瞬間、目にも止まらぬ速さの鞭が私に襲い掛かる。

 まるで時が止まったかのような感覚に、私は頬を掠めるまでその鞭が迫っていたことに気づかなかった。目で追えない速度、一瞬のうちに感覚を取り戻して半歩下がって鞭を回避する。

 ルサールカは避けられると思っていなかったようで「ほぅ」と感心するように私を見た。


 だが私も負けてはいない。先ほどの攻撃はギリギリだったが、鞭の弱点はその長すぎるリーチであることも分かっている。今の私とルサールカの距離はおおよそ50メートルといった所。その距離まで届く鞭というのも凄まじいが、逆に言えば剣の間合いまで近づければ勝機があるということ。

 瞬間的に強化魔法をかけ、ルサールカに向かって真っすぐに突っ込んだ。


「ははっ!その意気やよし!!臆せず真っすぐに来るというのか!!嫌いじゃないぞ人間!」


 高らかに笑いながらも攻撃の手は緩めないルサールカ。彼女の振り回す鞭が蛇のように再び襲い掛かってくる。

 縦横無尽に空を舞うその鞭の軌道が読めない。何とか剣で応戦しながら進んではいるが....


(間合いを詰めれば行けると思ったけど....!むしろ間合いを詰めるほど()()()()()()()()()()!!これ以上進めない....!)


 鞭に意思でも宿っているのかと思うほど綺麗に軌道を描く攻撃が、容赦悪私の体を襲った。

 正面から、横から、背後から....360度あらゆる方向から襲い掛かる鞭を防ぎきることが出来ず、いなしながらもじわりじわりと削られていく。


「ふんっ!!」


「くっ....!!」


 横薙ぎの大振りを弾いた瞬間、その勢いと重さに負けて吹き飛ばされた。体が宙を舞う感覚に溺れる。

 何とか態勢を空中で立て直し、タッタッと軽快に跳ねて何とか着地した。


「どうした?そんなものか?」


 先ほどまでの余裕はどうしたと言わんばかりのルサールカ。

 だが、私だって責められっぱなしは癪だ。やられたらやり返す、相手が魔族なら....これが殺し合いなら尚更です!!


「まだですよ!」


 再び駆け出す。先ほどの身体強化に加えて風域による空中機動強化も施して、先の応戦とは比べ物にならない速さでルサールカに迫った。


「ははは!!そう来なくてはな!!!」


 再びそれに応戦するルサールカ。空中を蛇のように舞う鞭がその牙をむいた。細かく旋回を繰り返し、リーチの長さとそれによる接近戦の弱点を同時にカバーする動き方。普通の剣士ならば近づくことすら叶わず八つ裂きにされていただろう。

 だが私はその辺の剣士とは違う。殿下の前であまり大きなものは使えませんが....


雷撃(ライトニング)!!」


 舞う様に鞭による攻撃を捌きながら、鞭の攻撃が返って来る隙間時間コンマ数秒の隙をついて魔法で攻撃する。

 ルサールカの鞭攻撃の利点は遠距離による攻撃と細かい旋回による近距離防御。ルサールカ本人に近づくにつれ鞭の旋回密度が増し、進行そのものを止められる。

 だが、相手が遠距離攻撃をメインで戦うのならこちらも遠距離で戦えばいい。剣の間合いに持っていくのではなく、魔法で遠距離から攻撃すれば相手の隙を誘える。

 更に言ってしまえば、相手は鞭のみでこの攻撃を行っている。それに対し、こちらは剣で防御しつつ魔法で攻撃が出来る。つまりは手数が違うのだ。


 この戦法であれば相手の攻撃パターンを崩すことも可能なはず。ある程度耐久もしなければと考えていたが、私が思うより早くその効果は表れた。


「ちっ....」


 鞭の攻撃に割かれるリソースが減った。明らかに鞭の先端による遠距離攻撃が鈍くなっている。


(今だ!!)


 鞭による攻撃を捌いていた私が、唐突にその攻撃を()()()()()....

 スッと私の左手がルサールカに向けられた。魔力が体内から左手の先へと集中していくのがわかる。


風魔弾(ウィンドキャノン)!!!」


 手のひらに集中した魔力を弾にして放出した。あえて鞭を弾いた理由は、捌く行為は次の行動へ繋げやすく戦闘中の駆け引きを持ちかけることが出来るが、弾く行為は戦闘行為を一時中断させられる。お互いに攻撃手段を立て直す隙が生まれるのだ。

 そこからは手数の勝負。そうなってしまえば私に勝機がある!


 真っすぐに飛んでいった風魔弾がルサールカの目前に迫る。鞭を引き直すか、そのまま私に追撃するかで迷ったのだろう。この戦闘において、たったコンマ数秒の駆け引きが勝敗を分ける。

 だがその瞬間、風魔弾とルサールカの間に入った何者かが風魔弾を弾き飛ばした。

 その人物は杖を突いた小柄な老人。だが、額にはルサールカと同じく3つ目の眼が付いていた。


「ルサールカ様、危ない所でしたな」


「助かったフルーレティ」


「相手の実力を見誤りましたな。中々の策士ですぞあのお嬢さん」


「ああ、実力を認めよう。過去に私をここまで楽しませたのはお前だけだ小娘。名を聞いておこう」


 ルサールカとフルーレティ、2人の魔族がこちらを見る。だがその時、ルサールカが何かに気づいたように声を上げた。


「まて、あの男はどこだ?」


 その言葉を待っていたと言わんばかりに私は笑う。そうこの戦闘そのものが囮。魔族攻略の最初のファクターは別にある。

 すると、別の部屋へと繋がる廊下の奥からドタバタと足音が近づいてきた。そこから出てきたのは殿下を筆頭にした海人族の集団。キエスや巡回役の2人もおり、その後ろには捕縛されていた海人族がいた。


「『どんな戦闘でも、まずは不利な要素を取り除くことを考えなさい』、私の父の言葉です。魔族が2人いたことには驚きましたが、動けるメンバーが1人じゃないことはこちらも同じ。人質は返してもらいましたよ」


「すまない、遅くなった」


「いえ、大丈夫です。敵は2人、目の前の2人です」


「ああ。キエス族長、皆を連れて集落まで避難してくれ」


 殿下がチラリとキエスを見て言うと、キエスは頷いてすぐに指示を出す。


「分かりましたですじゃ。皆、集落まで引けぇ!」


 神殿の出入り口の方へと走っていく海人族の集団を見て、ルサールカも声を上げた。


「フルーレティ!水鱗魔(サファギン)を向かわせろ!!」


「御意」


 フルーレティと呼ばれた老人の魔族が杖を振ると、紫色の魔力がポゥと光る。その瞬間、フルーレティの出てきた通路の奥から水鱗魔が10匹ほど現れた。

 水鱗魔が逃げていく海人族を追いかける様に襲いかかるが、その刹那空間を切り裂く斬撃が水鱗魔を3体バラバラにする。

 突如斬られた仲間に驚いた水鱗魔が止まり、海人族との間に現れた男が剣を向けた。


「悪いな。通すわけには行かない」


(ナイス殿下!!)


 水鱗魔がたじろぐその間に、高く飛び上がったフルーレティが殿下に襲いかかる。

 杖を振り下ろしたフルーレティと剣の腹でそれを受ける殿下。競り合った末筋力は殿下に軍配が上がった。

 フルーレティは飛び上がって空中から魔法を放つ。先程の私と同じ雷撃(ライトニング)は数本空中を奔って殿下に襲いかかった。

 殿下はそれをバックステップで避け、そのまま炎属性魔法“火炎槍(フレアランス)”で追撃する。フルーレティはそれも回避した。

 その瞬間、フルーレティに指示された水鱗魔達が殿下の脇を抜けて神殿の出入口へと走っていった。


「くっ....!!」


「ルサールカ様!時間がありませぬ!儀式を行ってくだされ!!」


「儀式....?」


 フルーレティの言葉に頷いたルサールカが動こうとする。何をするのかは知らないが、“儀式”という単語を聞くにろくでもない事を行おうとしている事に間違いない。


「させない!!」


 ルサールカは今その儀式の為に攻撃をしてこない。ならば今ならルサールカに近づく事は十分可能!剣の間合いにさえ入れれば後はどうにでもなる。


 だが、私が駆け出すより早く横の通路から飛び出してきた水鱗魔達が体にひっ付こうとしてきた。

 その数が多く、私は襲いかかる水鱗魔の処理で進めなくなってしまう。

 着地したフルーレティが杖を構えて私と殿下を威嚇する。その背後にわらわらと出てきた水鱗魔の大群がルサールカを守るように群れ、雄叫びを上げた。


「させませぬ。海竜の力を御するのは我々の願い。魔族の繁栄の為、この国の人間には犠牲となってもらうのじゃ」


 その時、部屋の奥に存在した水球の前に辿り着いたルサールカがこちらを振り向いた。


「悪いな人間達。この力は我々魔族がもらい受ける。そして、この大陸は我々魔族のものとなるのだ!!」


 ルサールカの取り出したのは白い石こと夜珀石。水球に近づくに連れ、段々とその輝きが増していく。


「目覚めよ、海の主よ!!長き眠りの果て、その力と姿を開放するがいい!!」


 夜珀石が水球に吸い込まれた瞬間、水球が物凄い勢いと轟音で破裂する。周囲の地形や海流が唸るように地響きを起こし、神殿にも海水が流れ込んできた。

 水球から立ち昇る水流は神殿の天井を破壊し、さらに夜珀石に仕込まれた魔族の魔法を取り込んで美しかった青に赤い魔力が溶け合った。


「あれが....海竜?!」


「このままだと海水が....ライラ、一旦引くぞ!!」


 呆気にとられた殿下か私の手を引こうとする。だがその瞬間、決壊した神殿の壁から物凄い勢いの海水か雪崩込み、私達諸共飲み込んで行った。


 同時刻、地上に鳴り響く轟音が地上にいる人達に決戦の時が来たと知らせていた。

 海竜が目覚めたその時、皮肉にもその瞬間は正午ぴったり。


 予言通りの『太陽が最も世界を明るく照らす時』に最悪の災厄、魔族によって操られた海竜:リヴァイアサンが地上の海に姿を現したのだった。


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