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第53話 隠れ聖女と海底洞窟

 ウィリアムに付いて行くと、辿り着いたのは山の麓にある洞窟への入り口だった。


「ここだ」


 草木をかき分け、隠されるように存在した洞窟の入り口が山のふもとにぽっかりと口を開けていた。


「この付近って洞窟多いんですね....」


「そりゃな。イザヤの地形は海から運ばれてきた土石が積み上がって出来たものだ。その過程で、完璧には埋まり切らなかった空洞があちこちに存在する。だが、ここは違う」


 そう言ってウィリアムが洞窟の中に入る。そして持ってきたランプで目の前を照らすと、そこには明らかに人為的に作られた壁やら石柱やらが所々に埋まっていた。


「ここは海底神殿への道を形成するために作られた洞窟。作ったのは海人族だ」


「ウィリアムさんは、海人族と面識があるんですか?」


「まぁな。というか、俺より何代も前の祖先から関りがあるらしい。俺達が勇者エノクの実在した数百年前から一族で海賊をやっていられるのもそれが理由だ」


 数百年前からウィリアムさんの一族は存在し、かつて勇者エノクと共に冒険をしたことがあるらしい。やはりあの小説に描かれていた”船長”とはウィリアムの祖先のことだったようだ。


「うちの家系は代々海人族と協力することで海での争いごとを解決してきた。海竜が眠った以上、守り人である彼らは神殿から動くことが出来ない。だから神殿の守りを海人族が、外部からの脅威を俺達が狩るっていう協力関係なのさ」


「なるほど....」


「少しいいか」


 ウィリアムの言葉を遮って殿下が話しかける。


「海竜の事情を知っているのなら聞きたいことがある。『太陽が最も明るくこの世界を照らす時、目覚めし海竜が魔に染まる』この言葉に何か引っかかる点はないか」


「....それは何かの小説の文か?」


「いや、予言だ」


「予言....いや、まさかな....」


 この反応、何か知っていることがあるらしい。

 マナ様の予言は一般には公開されていない情報だが、私を除く他の面々はこの予言の調査をしにこの町に来たのだ。相手が海賊だろうが、海竜に関して何か情報があるのなら聞いておいて損はない。


「何か気になることが?」


「....これは言わなきゃいけないやつか?」


「出来れば回答がもらえると嬉しいな」


「最近、町の中で妙に物資が減ってるっていう噂を聞いたことがある。無くなっているのは主に魔法石や陣用のインクなどが多いんだが、その中に一部鉱石が含まれているらしい」


「それと何の関係が?」


「予言の後半の部分。『目覚めし海竜が魔に染まる』、注目したいのは”染まる”という単語だ。それは海竜が何者かに()()()()()()()()()()()()()んじゃないのか?現に、町から消えている物資は魔方陣を描いたり使用したりするときに使うものばかりだ」


「つまり、魔族は既にこの町に潜んでいるうえに狙いは海竜の支配である....と?」


「あくまでも俺の勝手な見解に過ぎないがな。得た文章をそのまま読解するとそう読み取れなくも無いだろって話さ」


 確かに、ギンプが魔眼を持っていた時点でこの町に魔族が入り込んでいる可能性は考えておくべきだった。それに、物資の行方不明事件と言えば最近同じような話を聞いたばかり。




 ~1時間前


 町を出ようと町の北門へと向かっていると、私宛に思念伝達が届く。応答してみると、それはテプラからだった。


『ライラの嬢ちゃん、今いいか?』


『はい。何かありましたか?』


 今現在、テプラは商会内でティグルの言っていた件を調査中だ。ティグルもその場に残り、会ったという新人ルサールカの捜索と在庫の合わない夜珀石について調べているようだ。

 このタイミングで連絡してきたということは、かなり早い段階で結果が出たということだろう。


『ティグルから聞いていた件を調査してみた。結果だが”黒”だったよ。ルサールカという新人は存在しないし、倉庫にあった夜珀石の納品在庫は1箱分しかなかった。それに一緒に置いてあった納品在庫リストには1箱分の明記しかなかったし、乱雑に破られた切れ端が挟まってやがった』


『ということは....そのルサールカが今回の物資行方不明事件の犯人....』


『クソッタレだぜ!俺の商会内で好き勝手やってくれた阿呆がいるってことだからな!』


『同感だぜ!俺の船からも物資を取っていった野郎がいるってことだからな!』


 テプラの背後でガルルル!と唸るティグルの声。相当お怒りのようで、『商人から物資を盗んで行った罪は重いからな!!』と叫んでいる。


『ありがとうございます。引き続き、商人たちの様子や物資の動向に注意してください』


『任せな』


 テプラが白い歯をニカッと出して笑っている様子が容易に想像できる。まだ情報が足りないが、このルサールカという人物がものすごく怪しいことが判明した。

 思念伝達を切ると、私は殿下を誘導するように再び歩き出す。




 ~現在に戻る


 行方不明の物資、ウィリアムの証言、そして予言の内容....どれも当てはまる。バラバラだった情報が一つの道になっていく感覚がした。

 あと不明なのは予言の前半部分。これは恐らく海竜が目覚める”タイミング”を表しているのだと思うが、残念ながら思いつくものは無い。

 『太陽が最もこの世界を明るく照らす時』、最初はこの夏で一番暑い日なのかと思っていたがそんな単純な話ではないだろう。それに、明るく照らす時と言っても夏の間太陽は毎日出ている。それがいつのタイミングを指す言葉なのかは測りようがない。


「なるほどな。色々繋がって来た」


「後は肝心の時間帯....いたたたた」


 今得た情報を纏めて今後の動きをどうするべきか考えていると、不意に抱えていたリーアが私の頬をつねった。痛い....結構強いなこの子?!


「ママ、難しい顔はめっ!なの」


「あっ....ごめんね。子供の前で難しい話をしちゃった」


「それはいいの!ママがこう....鬼さんみたいな顔してるのが怖かったの」


 自分でも気づかないうちに険しい顔をしていたらしい。確かに、子供の前であまり酷い顔は見せられない。いけないな....考えると集中して周りが見えなくなるのは悪い点だ。

 子供にまで心配させてしまうなど言語道断。今はリーアを海人族の集落まで送り届けることの方が優先だろう。


「うん、もうしないよ。大丈夫だからね」


「ならいいの!ママが怖い顔になったらリーア悲しいもん....」


 リーアは優しい子だ。自分だって今集落の皆から離れてしまって不安だろうに、人を気遣う心の優しさを忘れないこの子は強い。

 リーアの為にも、私が余計なことをあれもこれもと考えるわけにはいかない。少なくともリーアの前では、私はこの子に寄りそう母親役でなくてはいけないのだ。


「そういえばリーアちゃん、リーアちゃんの住んでた所はどんな場所なの?」


「んーっとね....海の中の町なの。皆明るくて、お魚とか沢山取ってきて、あとおっきな石のお城があるの」


「おっきな石のお城?」


「それが海底神殿だな。集落からそう遠くない位置にある」


 暗い洞窟を進むにつれ、段々と石柱や人工的な物が増えてきた。

 積まれた木箱や焚き火の跡、それに崩れた瓦礫の山など明らかに最近誰かがいた形跡を残している。海底洞窟への入り口は森の中に隠されるように存在していたため、今場所の存在を知っている人物は少ないのだろう。それが、より一層海人族へと近づいていることを感じさせた。


 だが....


「止まれ」


 ウィリアムが制止する。魔獣でもいたのだろうかと周囲を見るが特にそんなことはない。

 だが、明らかにウィリアムは何かを警戒している動きをする。周囲をきょろきょろと見回し、制止した手を降ろすことは無かった。


「どうしたんですか?」


「この状況はおかしい....今見た生活感や物資....あんなもの俺は知らない」


「海人族の方が残したものではなく?」


「集落があるのにわざわざ洞窟内に物資を置く必要はないだろ?それに....あの木箱の柄は()()()()()。海人族は海賊(おれたち)と関りは持っていてもイザヤには知人がいないはず。となると、この物資がここに在るのはおかしい」


 そのウィリアムの言葉を聞いた瞬間、殿下が近くにあった木箱に近づく。私は咄嗟に光魔法を飛ばしてライト代わりに殿下に差し出した。

 殿下がライトで照らしながら木箱を確認する。箱の側面、蓋の形状、そして中身。


「これは....」


 意外と早く結論は出たらしい。殿下は怪訝な顔をしてこちらを向く。


「見て見ろ」


 殿下の言葉を聞き、私も近づいて箱の中身を見る。中にはインクやら鉱石といった物資がびっしり。それも、ウィリアムから聞いた行方不明の物資ばかりが入ったものだった。

 さらに少し離れた位置にある木箱、その中に入っていたのは....


「これは....!」


 大量に詰まった夜珀石。ライトを動かしてよく見ると、木箱には明らかにニンフの国印がプリントされていた。

 これで確定した。この場にある物資や、他の場所でちらほらと見た生活跡は海人族の物ではない。そしてイザヤ内で行方不明になっている物資がこの場にあるということは、それを盗んだ犯人がこの場を利用していたということになる。


「まずいことになったかもしれないですね....」


 物資を盗んだのはルサールカという女性であること、そしてその女性が魔族である可能性が高いことなど踏まえると、今のこの状況は非常にマズイ。

 この海底洞窟を進めば海底神殿へと辿り着くことになるし、辿り着かれてしまっては予言の通り海竜が魔族によって何かされる可能性がある。そうなる前に魔族を止めなければ....


「どうした姫さん」


「ウィリアムさん、神殿まではあとどのくらいですか?」


「かなり複雑な道を進むことになるからな。まだ1~2時間は見てもらわないと困る。もしかして、この物資を運んできた奴らのことか?」


「はい。彼らは魔族である可能性が高い、と」


「魔族....なんでそんな奴が人間界に....だが、そう簡単に辿り着くことはできないはずだ。俺だって途中海人族のガイドと合流する手筈になっている。闇雲にこの洞窟内を歩いても、どこにも辿り着けないんだよ」


「それなら時間稼ぎは出来そうですね....急ぎましょう」


 そう言った瞬間、目の前で何かが動く音がした。

 ザッ....ザッ....と複数の足音が聞こえる。暗闇に目を凝らしてみると、そこには手足の生えた半魚人が複数体立っていた。手に持った三叉槍をこちらに向け、ぎょろぎょろとした大きな目でこちらを威嚇する。


水鱗魔(サファギン)....?!」


「こんな所で魔獣と出くわすとはな。ライラ、リーアを連れて下がってろ」


「任せな姫さん。また共闘といこうぜ王子サマ」


「ああ。任せろ」


 刻々と迫る運命の刻。洞窟の中で、殿下たちと水鱗魔(サファギン)がぶつかった。


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