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第52話 隠れ聖女との再会

「海底神殿....海に詳しい人ですか....」


 うーん....正直、この町の中で一番海に詳しいのはテプラさんだ。町長のライノさんも詳しいには詳しいのだが、どちらかというと町の制度や住人・渡航者の居住管理、後は街の外へと流す流通など内陸関係の方が詳しい。ライノさんに一応念話で聞いてみたが、予想通り情報なし。


「この噂は信憑性が高いと思ったんですけどね....」


「ライラが”この付近の海に一番詳しい人”と言っていたテプラさんでも噂が精一杯なら、より情報を集めるのが困難になって来たな」


「ねぇリーアちゃん。何か思いだしたことはある?この町に連れてこられるまでの周りの景色とか、音とか」


「うーん....リーアずっと暗い所にいたから分かんない....」


「ごめんね。辛いこと思い出させちゃったね....」


 頭を抱え、「うー」と唸るリーアを抱きしめて頭を撫でる。さすがに子供に酷なことを強いてしまったと反省する。彼女を親元に届けるためとはいえ、攫われたときのことを思い出せというのは流石に失敗した。


「ううん、リーアは今パパとママの所にいるから大丈夫なの」


「そうだね。大丈夫だよ」


「ああ。俺達が付いてる」


 こうしているとまるで本当の家族みたいだ。家族....私も、母親にこうして育てられた記憶がある。幸せな家庭()()()

 少し頭にもやっとした違和感が残るが、頭を振ってそれを振り払った。


「でも、他に近海に詳しそうな人といっても思いつきませんからね」


「海底神殿についてなら町の図書館などはどうだ?書物の中になら何かあるかもしれない」


「書物....あ、そうです!書物ですよ!!」


 ここで先ほどテプラの下で話していた時に感じた違和感が払拭できた。そう書物、”海底神殿”と”海竜リヴァイアサン”のセットの話を聞いた時、何かで見たことのある組み合わせだと思ったのだ。

 それはイザヤに来る前、もっと言うと殿下達のやってくる前夜に屋敷で読んだ本。


「『海竜と海の勇者』!リヴァイアサンと勇者エノクの本です!」


「俺もそれは読んだことがあるが....あれはあくまでも伝承を脚色して作られた小説だろう?」


「確かにそうです。でも、これを書いた人は東の領地であるこのティルナノーグ領に伝わっていた噂、それを大人用の小説と子供用の童話に書き直しただけなんです。つまりその本の内容、特に大人用の小説の中身は伝承話がそのまま書かれている可能性すらあります」


「確かにな。中身の主人公である勇者エノクの言動や行動は脚色である可能性が高いが、全体の話を読み解いてみれば伝承に沿って作られている可能性は高い」


「そこで読んだ内容を思い出したんです」


 その本の内容はこうだ。




***




 勇者エノクは神殿を目指す。息がつまりそうな岩だらけの道を歩き、暗い先を何とか見据えながら進んだ。目指すは海竜の住処。かの竜種は汚された海に怒り町を破壊し始めた。海は荒れ、多数の魔物がリヴァイアサンと共に押し寄せる。

 そんな町を守るために彼はやってきたのだ。そして何より、長らく人間の守護者であった竜が暴れる理由が海が汚れたから?笑わせるな。かの竜種を守護する一族、”守り人”と呼ばれる一族が海を管理しているのだ。海竜の機嫌を損ねぬよう、澄み切った美しい海を守るために。


「なにより、俺は暴れるリヴァイアサンを見たことがある。あれは正気ではなかった」


 駆け付けた頃にはリヴァイアサンは満足したのか海に帰っていくところであった。だが、明らかにあの目はおかしい。まるで()()()()()()()()()()()()()、そんな目をしていた。


「あの竜種に何か術を施した人物がいる。そしてこの状況で人間に仇なす存在は魔族しかいない」


 魔族を倒し、この町を救うことが勇者である俺の宿命だ。町も人も、そして海竜をも守ることが、俺に課せられた使命でもある。


 天井から滴る水。海に詳しい”とある船長”に聞いた海底洞窟から神殿のある方へと向かう。先に進めば、恐らく守り人とも会うことが出来るだろう。

 何故海竜が暴れだしたのか。現状を把握してより素早くこの問題を解決しなければならない。


「勇者とは、そういうものだ」


 エノクは呟いた自分の言葉に笑ってしまう。いつのまにこんなクサいセリフを吐く様になってしまったのか。元々しがない一般人だった彼が、こうして勇者となったのはある意味不運とも言えるだろう。

 だが、もう彼は後悔しない。もう彼は前を見ることを諦めない。


 なぜなら、彼は”勇者”だからだ。


「必ず、皆を救う」


 自身に言い聞かせ、胸をドンと叩いて鼓舞する。力強い一歩を踏み出し、海底を進んで行った。




***




「そんなシーンあったか?」


「あります。子供用の童話では描かれていませんけどね」


「なるほどな。道理で知らないわけだ」


「これを基に考えると、海底洞窟が近くにあるはずです」


「洞窟というと、この前海賊と共闘した場所が思い浮かぶな」


 リーアを助けるために海賊ウィリアムと共闘したあの洞窟。だが、あの時の洞窟は現在ミドル率いる騎士団がギンプの物資を押収して運び出している真っ最中だ。何か報告があれば知らせるように言ってあるし、現状あの日から2日経っても何の報告もない以上あの場所の可能性は低いだろう。


「となると他に洞窟の入り口があるのか?」


「いや、流石にそこまではわかりません。私もイザヤの内情整理に忙しかったもので、周辺の地形に関しては詳しくありません」


「そうなるとふりだしじゃないか....?」


 殿下の不安も分かる。海底洞窟の存在が分かったところで、その入り口を見つけられないのなら意味はない。

 だが、私には心当たりがある。この付近の海に詳しく、更に本に書かれていた”とある船長”というワード。数百年前の話とはいえ、その当時は普通に存在していたであろう集団がいる。


「心当たりがあります」


 そう言って私は二ィっと笑い、町を出るように出口の方向へと殿下を連れて歩いて行った。




 しばらく歩き、森を抜け海岸沿いを歩く。砂浜からまた森へと移り変わり、極力崖沿いを狙って歩いて行った。海に面した部分を注視しながら、とある物を探す。

 木々の隙間から崖下を見ていると、視界の端に揺れる何かが映った。


「大当たりです」


 私はその揺れる何かの方向に向かって走っていく。森を抜けると、そこには巨大な”船”があった。

 周囲では木箱を積み、酒を交わす男たちの姿。そしてその集団から外れた場所に、寝転がっている目的の男を見つける。

 森の方から堂々とその男の下へと歩いて行き、寝転がっている彼の前で止まった。


 男は突然自分にさした影に気づいたのか、ゆっくりと目を開ける。


「おっと、これは珍客じゃねぇか」


「2日ぶりですね。ウィリアムさん」


 海賊ウィリアム。水龍と戦う時に共闘した男。この男こそ、私たちが探し求めていた”答えを知る人物”だ。


「借りを返してもらいに来ました」


「借りを作った時もそうだが、神経が図太いな姫さん。俺が気づいたってことはあいつらも気づいてる。撃ち殺されるとは思わなかったのか?」


「そんなことになればあなたが止めていましたよね?」


「どうかな?あんたが死ねば借りはパーになる。返す相手のいない借りなんて存在しない。そうだろ?」


「もし仮にそうなってたら、私がウィリアムさんを捕らえますよ。盾になって貰うので大丈夫です」


 にこりと笑いながら言うと、その言葉が面白かったのかウィリアムが笑う。その声に気づいて他の船員もこちらに寄ってきた。

 ウィリアムが上半身を起こし、こちらに向き直る。


「ハッハッハ!いいねそういうの!悪魔かよ姫さんは!!」


「か弱いレディーですよ」


 本当の正体は聖女なのだが、そんなことバラすわけない。

 というか、聖女様に対して悪魔は禁句では?失礼過ぎやしませんかねぇ?


「で、今回は何の用だ....っと、なるほど。そのお嬢ちゃんか」


 リーアを見てウィリアムの顔つきが変わる。真剣な眼差しで、私たちがここに来た目的を計っているようだった。

 当のリーアは気絶していたためウィリアムのことを知らず、頭ではてなマークを浮かべながらつぶらな瞳で彼を見ていた。


「はい。この子を集落に帰すために、海底神殿への道を教えてください」


 その言葉にピクリと反応する。


「そこまで知ってんのか」


「はい。やはりあなたも知っていましたね」


「まぁな。俺の祖先からずっと語り継がれてきた伝承だ。俺が海賊をやってるのも、海底神殿の存在を知ってるのも、そして海人族の守り人が存在することも、全部ガキの頃から聞かされた伝承が原因だしな」


「あの状況、本来であればこの子をあなたが帰してあげるつもりだったんですよね?」


 ウィリアムがギンプとの取引を潰そうとしていたかつ、リーアを助けようとしていたことから、彼はこの子を集落へ帰そうと思っていたのだろう。

 それを私たちが邪魔をしてしまったせいでややこしいことになってしまった。

 おまけに騎士団が駆け付ける為時間のない状況で、海賊である自分に「その子を渡せ」と言っても信用してもらえなかっただろうという考えから、彼はリーアを()()()()()()のだ。

 いずれ、再び自分の元に辿り着くことを信じて。


「だからこそ、あなたの傷を庇った借りの他に、もう一つこじつけた借りを承諾してくれた」


「素晴らしいぜ姫さん。そこまで分かったんならもう俺から言うことはねぇな」


 よくよく考えれば、あの時から全てが繋がる。正直、ギンプの取引を潰した借りは承諾されないと思っていたのに彼はをそれを承諾した。

 海人族の子供を保護するにも、海賊である自分よりも王族と貴族令嬢の2人に任せた方がいいだろうと判断した。

 あの状況、あの短い時間の中で先のことを考えていたのだ。

 手のひらで踊らされたような感覚がして少し不満だが、彼の判断は正しい。現に、私たちは彼の読み通り情報を携えてこうしてやってきたのだから。


「では、案内してくれますか?」


「俺達にタダでナビゲートしろと?それにそっちの王子サマが俺達を捕まえない保証は無いだろ?」


 殿下に目配せをすると、殿下は意図をくみ取ってくれたのか前に出る。


「エキドナ王国アヴァロン王家、レオンハルト・アヴァロンの名において誓おう。リーアを送り届け無事にこの場に帰還し、海賊ウィリアム一行が出航するまで騎士団への要請及び捕縛行為を行わないと。竜に誓って、この盟約を果たすものとする」


「....王族に『竜に誓って』と言われちゃ疑うのは野暮だな。いいぜ。ただし、姫さんへの借りは一つ取らせてもらうからな」


「初めからそのつもりです」


「はぁ、面倒事が増えたな全く。お前ら、船の留守してろ」


 ウィリアムは立ち上がり、そのまま森の方へと歩いて行く。


「ついてこい。案内してやる」


 私たちはウィリアムの後を追って、砂浜を歩きだしたのだった。


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