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第51話 隠れ聖女とある噂

 窓から入る海風で煽られるアロハシャツ。筋肉質な体の腰に手を当て、白い髭と髪を携えた男がニヤリと笑う。


「よぅ。よく来たなライラの嬢ちゃん!」


 ニカッと白い歯を出すテプラさん。その瞬間、私の横を何かがものすごいスピードで通り過ぎていく。あまりにも一瞬過ぎて”白い何か”としか理解できなかったが、その何かが何であるかはすぐに判明した。


「往生せぇや!白髭ジジイ!!」

「おっと」


 飛び出した”白い何か”はティグルさん。一瞬のうちに踏み込んで、一瞬のうちにテプラさんに襲い掛かる。空中で強烈な蹴りを放つが、テプラさんはそれをいとも容易く仰け反って回避した。

 その瞬間に左手で空中にいるティグルさんの手を掴む。グイッと引っ張り、ティグルさんの体が引き寄せられると同時に膝でティグルさんの体を打つ。だが、ティグルさんはその攻撃をフリーの右手でガードした。


 この間たった3秒の出来事。だがここは経験の差なのか、ガードされたと理解した瞬間にテプラさんは右手でティグルさんの後頭部を掴む。一瞬の出来事で何をされているのか理解できていなかったティグルさんに覆い被さる様にテプラが上を取り、そのまま地面に抑えつけた。


「随分な挨拶だのう。ティグルよ」

「けっ!相変わらずいい動きすんなジジイ」

「カッカッカ!この程度の攻撃が防げぬほど衰えてはおらんわ!」


 そう笑うと、スッとティグルさんの上から離れる。テプラさんが汗一つかいていない状態でこちらに向き直った瞬間、再びティグルさんが背後から襲い掛かった。だがテプラさんは表情一つ変えず右の裏拳を背後から襲い掛かるティグルさんに向け、そこにまんまと突っ込んできたティグルさんの顔面にクリーンヒットした。


「べふっ....!!」

「全く、懲りん奴だのう」


 ティグルさんは鼻から血を出しながら倒れる。自分が負けたことを理解したのか、そこから更に追撃をすることは無かった。


「くっそ....マジでどうなってるんだこのジジイ」

「青二才が。老体とはいえ、わしに勝てんようじゃまだまだだのう」


 ティグルさんが鼻から垂れる血を拭きとりながら立ち上がる。

 そんな状況だが、横にいる男は目を輝かせてテプラさんのことを見ている。先ほどの数秒程度の戦闘で、相手の力量を理解したのだろう。強い奴に目がないのかこの男は。


「さて、改めて久しぶりだ。どれ、茶でも出してやろうか」

「そうしてくれると助かります。ここから話すことは少し長くなるかもしれないので」

「そこのお嬢ちゃんも紅茶で大丈夫か?」


 そう言ってテプラさんは私の抱えている幼女リーアを指す。リーアはまだ8歳ほどの子供だ。紅茶ではなくミルクティーの方が甘くて飲みやすいだろう。


「ミルクと砂糖多めで」

「座っとれ。今持ってこさせる」


 テプラさんが外に待機している職員に茶を出す指示を出している間に、私と殿下、そしてティグルさんの3人がソファに座った。

 ティグルさんはいまだに血の出ている鼻を抑えながら「痛ぇー....」と呟いていた。

 私は2人に挟まれるように座ったのだが、横にいた殿下が話しかけてくる。


「なぁ、あの人とティグルはどういった関係なんだ?」


 その問いが聞こえていたのか、私が説明するより早くティグルさんが答えた。


「あの人は俺の師匠だよ。当時戦い方を知らなかった俺に戦闘技術を、未来の無かった俺を拾って商人のイロハを叩きこんでくれた人。師匠ってよりかは”親”の方が近いかな」

「へぇ....一度手合わせしてみたいな」

「快く受けてくれると思うぜ。あのジジイはこれだけの規模の商会を立ち上げておきながら机仕事に頭を抱えるような人だからな。体を動かしてないと訛っちまうんだろ、老人だし」

「聞こえてるぞティグルよ。老人だ何だと言うのならもう少し優しくしてくれてもいいんだがな」

「そんなたまじゃねぇだろジジイ」

「その通りだがな。カッカッカ!!」

「アッハッハ!!」


 2人して笑い出したその瞬間、2人の目つきが変わる。


「もう一戦」

「するかのう?」

「すとーっぷ!!今はこちらの話が先決です!!対決なら後で好きなだけやっていいですから今はこっちの話を聞いてください!」


 2人の目線が交差する間に、私が割り込んだ。さすがにこれ以上話が中断されてはかなわない。何のためにこの場に来たのか理由を見失ってしまっては困るのだ。


「ふぅ、ということらしい。再戦はまたの機会だな」

「そうだのう。客人を待たせるわけにもいかん」


 そう言って向かいのソファにテプラさんが座る。その時、職員の人が人数分の紅茶を運んで来てくれた。テプラさんが気を回してくれたのか、マカロンも一緒にテーブルに置かれる。


「さて、本日はどのような要件ですかな?商談会議まではまだ期間があったように思うのだが」

「はい。今回ここに来た理由は....」


 テプラさんに対し、リーアに関する事件をティグルさんの時と同じように話す。邪眼の存在のみを伏せ、商人ギンプのことや海賊のことも話した。


「ギンプか....あいつは前々からウチの商会内でも評判が悪い。他国の商人だからと譲歩はしていたが、無理難題な取引額の値下げ、税金の減税希望、おまけに女性職員へのセクハラときたもんだ。捕まったって連絡が来たときは商会中大喜びだったのう」

「まぁ....そんな感じはしますよね」


 商談会議に呼ぶ商人の内、他国の商人の人選はテプラさんに一任してある。私がギンプの存在を知らなかったということは、少なくとも会議に呼ばれるほどの商人ではなかったということ。まぁ、この国で奴隷商売などしようとした輩だ。常識や良識なんかあるわけがない。


「それで、その結果迎え入れたその子を帰すための情報が欲しいと」

「そういうことです。何か知っていることはありませんか?」

「....むぅ....正直海人族については長年港町の商人をやっているわしでも聞いたことがない。この近海に集落があるなんていうのも初耳....ん?集落....?」

「何か心当たりが?」


 何かを思い出すように悩むテプラさん。しばらく悩んだ後、ゆっくりと思い出したことを語りだした。


「かなり昔、わしがまだ現役冒険者だった頃の話なんだが....このイザヤの付近には”海底神殿”があるらしくての。そこを守る”守り人”の集団が存在するようじゃ。その”守り人”は神殿の近くに集落を作り、神殿を悪しき者から守り続けている....と噂で聞いたことがあるのう」

「海底神殿....守り人....その守り人の集団が、海人族であると」

「可能性はあると思うぜ」


 私の言葉に答えたのはティグルさんだった。


「海底神殿の噂は俺も初耳だが、そんなものが本当に存在するのなら守り人の話も嘘じゃないだろう。だとすれば、海中でも呼吸が出来て自由に動ける存在。意思を持って守り人が出来るのは海人族の他にいない。現に、リーアの存在がこの付近に海人族がいることを示している」

「だとすれば、次に探すべきは海底神殿の方ということですね」

「そうなるな。だが難しい点がいくつかある。まず1つ、神殿の噂はあくまでもジジイが若い頃聞いたっていう点だ。本当なのか嘘なのか、その真意が分からない。2つ、仮に本当だったとしても行く方法がない点。人間のお前らが海底に潜ることなんて出来ないだろう?」

「方法は後々考えるとして、まずはその神殿について情報を集めてみましょう。何もないよりは有力な情報です」

「あい分かった。こちらでも過去の文献を漁ってみよう」


 ひとまず有力情報ゲットだ。それに、この噂は真実である可能性が高いと判断した。なぜなら、神殿という位なのだから()()()()()()がいるはず。この東の領地で、かつこの港町で神格化されるほど祀られている存在は1つしかない。


(すなわち海竜リヴァイアサン。予言の真否を確かめることにも繋がるかもしれない)


 マナ様の予言、海竜リヴァイアサンの存在を確かめることが予言を確かめることにも繋がる。

 だが、この時私はとても嫌な予感がしていたのだ。頭の隅で何かが引っかかる。だが今の私にはそれが何なのかを知ることが出来なかった。


「そういえば、ティグルさんも何か聞きたいことがあるんでしたよね?」


 ティグルさんがこの場に来た理由、それは一部数の合わない物資のことをテプラさんに聞くためだ。2人の目を合わせた瞬間に戦いあう性格から本来の目的を忘れかけていたが、ティグルさんにもこの場に来る理由があったのだ。


「そうだな。なぁジジイ、輸入品の数量は変えてないよな?」

「ん?ああもちろん。外部に出す用のリストは下手したら外交問題になりかねんからな。わしが全て確認したうえで出しているものが正式版だ」

「今回俺達が運んできた物資の中に、数が足りねぇものがあるんだよ。”夜珀石”っていう鉱物なんだがよ」

「これまたレアな鉱石の名前が出たな。巷に流通してるものじゃ結構な値段の物。確かに取引はしているが、何が問題だったんだ?」

「今回対応してくれた奴が新入りだったらしくてな。そいつが言うには『夜珀石が2箱分』らしいんだが、俺達はいつも通り1箱分しか運んで来てない。取りあえず前回の余りだった分で補填はしたが、それでも精々1.3箱分が限界だった」

「それはおかしいのう。わしが目を通した時は確かに1箱分でリストを作成した。誰かが書き換えたのか....?」

「商会の内情に関しては知らねぇよ。だが、あの新入り....妙な気配があったな」


 思い出すように考えるティグルさん。その時、嫌な香りを嗅いだとでも言うように鼻がぴくぴくと動いた。


「妙な気配?」

「ああ。なんかこう....どす黒いものというか....あー言葉にするのは難しいんだが、とにかく何かが這うようなぞわっとした気配を感じたんだよ。気のせいならいいんだが、その時の感覚を覚えてるからわかる」

「そいつの名前は分かるか、ティグル」

「んーっと....確か()()()()()だったかな」


 ルサールカ....?初めて聞く名だ。少なくとも、私がこの町の管理者に就任してからは聞いたことが無い。さすがに商会の内情まで分かるわけはないが、この商会の人もある程度は知り合いが多い。そんな私でも知らない人物。


「....ルサールカ、わしも初めて聞く名だ。そいつに関しても調べさせよう。それと、商会の管理するリストと引き渡された物資についても」

「おう、頼むぜ」


 こうしてテプラさんとの会談は終わった。だが有力な情報を手に入れたと同時に、私の頭の中ではハマらないパズルのピースのように謎のもやもやが残り続けるのだった。


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