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第49話 隠れ聖女と獣人ティグル

 ティグルさんの下へと走ると既に管理組局の人はいなくなっており、ティグルさんが笑顔で私達を出迎えてくれた。


「おう、久々だなライラ!今日はお前が来るんじゃないかって思って好物のアンマラの実をたくさん持ってきたんだ。後で届けるから食べてくれ!」

「ありがとうございます!ニンフのアンマラの実は甘くて美味しいんですよね....♡」

「そう言ってもらえると運んできたかいがあっ....ちょっと待て、お前娘がいたのか?」


 喜んでくれたティグルさんの言葉に「あー....やっぱ気になりますよね」と何度目になるか分からない説明をしなくてはならないことを把握する。


「いえ、この子は私の子ではありませんよ。迷子なんです」

「?リーアはママとパパの子だよ?」

「おいライラ....このチビッ子はこう言ってるが....」

「あはは....何故か分からないんですけど、私とレオさんを親だと思ってるみたいで....」


 そう言うと、ティグルさんは私の隣にいる殿下の方を見る。殿下も学生の中では背が高く体格もがっしりしている方だ。だが、ティグルさんはその殿下とほぼ同じ身長であり、殿下と違い目で見てわかるほどの筋肉量をしている。

 ティグルさんはその瞳で品定めするように殿下を見た。


「ほぅ....中々鍛えてるなアンタ」

「お褒めに預かり光栄だ」

「ま、俺から言わせればまだまだ若造だな。鍛えてはいるが不十分だ。そんなんでライラを守れるのか?」

「確かに俺はまだ青二才だが、守ると決めたものは死んでも守る」

「いや、死んじゃダメですよ?」


 そうツッコんだ時には、お互いに手を差し出して力強く握手を交わしていた。

 肉体で語る....ということだろうか?目の前の2人からはキラキラとした何かを感じる。仲良くなれたようなら何よりだ。

 リーアは訳も分からずキョトンとした顔で肉串を頬張っていた。


「こんな場所で立ち話もなんだ。船の中に行こうぜ。客室がある」


 ティグルに案内されるがまま亜人の国の商船に乗り込む。途中、荷運びをしている獣人の方がと挨拶をしつつ、船内の客室に向かった。

 事前に指示してくれていたのか、客室のソファに座ると同時に紅茶が差し出される。


「さて本題に入るとするが、今日は何の用だ?商談会議まではまだ日があるだろ?」

「はい。本題はこの子のことでして....」


 そう言って今私たちが置かれている状況のことを話した。奴隷商と海賊の取引現場を見つけてしまったこと、奴隷商を倒して海人族の少女を助けたこと、その少女の帰る場所を探していることなどを話した。

 だが魔族が暴れている件に関しては変な誤解を与えるのはマズいと思い、邪眼によって水龍へと少女が変化したことは伏せておいた。


「なるほどな。海人族の子供か....」

「はい。この子がこの町まで連れてこられたということは、恐らくこの町と関係のある場所に集落があって、その付近で誘拐されたのでは?と考えまして」

「それで、亜人である俺に聞きに来たってわけか」

「はい」


 ティグルさんは考える。考えている間、白黒の縞模様の尻尾がゆらゆらと揺れているのが気になったのか、抱きあげていたリーアが飛び降りてその尻尾を目で追っていた。

 それに気づいたティグルが尻尾でリーアの頬を撫でると、リーアは嬉しそうにその尻尾を抱きしめた。


「そうだな....海人族は海底に集落を持つ連中だろ?ニンフの中に巨大な海洋都市があってそこに住んでるのは知ってるが....そこから連れてこられた可能性はありえないと思うぞ」

「なぜですか?」

「その都市は、そうだな....この国で言う東西南北の竜爵領と同じなんだ。6つの種族の内、海に関する亜人が住まう地域。そしてこれはニンフのルールなんだが、”多種属領へ行く際は通行印を押さなければいけない”っていうのがあるんだよ。この子にはそれがねえ」

「誘拐ですから、秘密裏に連れてこられたという可能性は?」

「それもないな。海の連中は特に外敵に対して警戒心が強いから、自分から外の連中に絡みに行くことはほとんどない。ニンフの外交に俺達みたいな獣人が多いのもそれが理由だ。それに、仮に不法入国者がいたとして、唯一神のいるニンフに入って無事に出られると思うか?」


 そう言われてみれば確かに....伝説に出てくる傍観竜とはいえ、我が子である亜人を守護する存在にして唯一現存する”神の竜”と呼ばれる個体がいる国だ。不法入国などしようものならむしろ海の藻屑にされてしまうだろう。


「ま、少なくともニンフから連れてこられた可能性はほぼゼロだと思っていい。一応俺達亜人の中にも、他国に渡った奴や別の住処を得た奴もいる。世界中を気ままに旅してるやつだっているし、そこまで考えるとどこから来たのかは....ん?待てよ?」


 そこまで話してティグルさんの動きが止まる。少し黙って考えた後、「もしかしたら....」と小声で呟いていた。

 しゃがんだティグルさんはリーアに対して目線を合わせ「少し背中を見せてもらってもいいか?」と質問をする。リーアが笑顔で頷くと、ティグルさんはリーアの長い髪を退けてうなじの部分を見た。


「やっぱりだ。この子はニンフから来た子じゃない」

「どういうことですか?」

「この子のうなじを見てみろ」


 ティグルさんに促されるまま殿下と共にリーアのうなじを見る。そこには白い竜の顔に赤い翼が生えたような形の印があった。

 何だこの形....と思っていると、理解できていない私達に気づいたティグルさんが説明してくれる。


「ニンフでは生まれた子供に焼き印を押す風習があるんだ。自身が信仰している竜の焼き印をな。ほら、俺にもある」


 そう言って服をめくったティグルさんの脇腹に、確かに焼き印があった。だが、リーアの物とは形も色も違う。


「俺の焼き印は亜人の国の神竜、”傍観竜セリシール”様を信仰する者の印だ。ニンフで生まれた者は全員がこれを押してる。それ以外の焼き印はつまり、”ニンフ国外で暮らす亜人”の証拠だ。それにこの印の色と形....この国の竜じゃないか?」


 赤と白....2色の竜....まさか!


「もしかして、”東の守護竜 アルビオン様”?!言われてみれば、ティルナノーグ家の家紋も似たような形と色です」

「ここまでくればほぼ分かったようなもんだな。この子の暮らしていた集落は、少なくともこの近海にあるっていうことだ」

「でも、その存在を私たちは知りませんでしたよ....?」

「さっきも言っただろ?海の連中は外敵に対して異様に警戒心が強いんだよ」


 つまり、この付近の海に集落はあってもその存在を外部にバレないようにしていたということらしい。

 ....ん?だとしたらなぜリーアはこんなにも私達に懐いているのだろうか?


「でも、リーアを見てるとなんだか警戒心が強いようには思えませんね....」

「さぁな、そこに関しては知らん。この子が特別なだけかもしれないし、ニンフ国外の亜人たちには独自の価値観があるのかもしれないしな」

「では、その集落ひいては近海の海人族について知ってることはありませんか?」

「残念だが、ニンフ国内のことならまだしも国外のことは分からねぇ。この周辺の海に詳しい奴に聞いてみるしか方法は無いと思うな」


 残念ながら集落の位置までは分からなかった。だが、このイザヤ付近の海底に集落があることが分かったのは行幸だ。後は付近の海に詳しい人に聞き込みを入れて、その場所を突き止めるだけである。


「だが問題として、海人族の存在を知らないイザヤの人々に集落について聞いて回るのはダメなんじゃないか?ひいては、この町にその存在をアピールすることにもなってしまう可能性がある」


 殿下の言葉に、思わず確かにと納得してしまう。肉屋のおじさんの時もそうだが、このイザヤに暮らす人々は海人族の集落の存在を知らないだろう。私達にバレないように、隠れて暮らしている集落の存在をバラしてしまうのは彼らにとって望ましくないことだろうから。


「となると....信頼出来て、付近の海に詳しくて、なおかつコンタクトの取れる人物....

「ああ、アイツなんてどうだ?テプラの野郎」

「あ~!確かに!あの人なら何か知ってるかも!」


 テプラとはこのイザヤに存在する商会の商会長の名前だ。通称”管理組局”とも呼ばれるその商会は、イザヤの全ての商人を抱える巨大な組織。町を管理するライノさんと協力しながらイザヤを守ってきた人物こそが商会長テプラさんなのだ。


「となると次の目的地は....」

「はい。”管理組局”テリジアに行ってみようと思います」

「おう、なら俺も連れて行け」


 次の目的地について話すと、ティグルさんがそんなことを言い出した。


「ティグルさんもテリジアに用事ですか?」

「まぁな。テプラにさっきの取引について少し聞きたいことがあってよ」


 荷物を全部見ていたわけではないが、運ばれていた木箱や物資にはおかしな点は無いように見えた。だが、私たちが合流する前に組局の人と話していたティグルさんには、少し怒りのようなものが浮かんでいたのを覚えている。


「何か取引内容に問題があったんですか?」

「それがな....今日来た組局員がいつもの奴じゃなかったんだよ。話を聞いてみれば、組局の持っている輸入リストと俺達が今日運んできた物資の量が合わないんだとよ。一応引き渡せる分だけは全部渡したが、一部の荷の数が足りねぇ」

「それは....国家間の物資について何か変更があったとかでしょうか?」

「いや、今回対応してくれた奴は新人なんだそうだ。そいつが言うには『上司から渡されたものですので、こちらに間違いはありません』の一点張り。面倒だからこっちで調べるって言って追い払ったよ」

「そのことについて、テプラさん本人に尋ねたいんですね」


 だが、もしも物資の輸入量が変わっているのなら私の元にも情報が来てなくてはおかしい。管理組局は商会として確かに大きな力を持ってはいるが、この町の管理者である私やライノさんに無許可で物資量の変更はできないはずだ。仮にライノさんが許可してくれていたとしても、真の管理者である私に情報が無くてはその取引は成立しないはず。


(輸入物資の行方不明事件....ですか)


 後でライノさんにも聞いてみなくては。

 とりあえず話はここで区切り、私たちは次なる目的地”管理組局”テリジアへと向かうことにしたのだった。

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