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第42話 隠れ聖女と海遊び

「海だぁーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」


 真夏の太陽が照らす水面がキラキラと輝き、鼻をくすぐる潮風が頬を撫でて吹き抜けていく。

 太陽の暑さが真っ白な複数の肌を焦がす。これほど輝く世界があったのかと目の前の光景に心奪われた。


 イザヤに着いた翌日、私達一行はライノさんの所有するプライベートビーチにやってきた。海岸沿いの一角で、砂浜と海のコントラストがまるで絵画のように惹きつけられる。普段からゴミ拾いなどをしているらしく、唐突に「明日海岸を....」と言ったらライノさんはすんなりOKしてくれた。懐の拾い人である。さすがイケオジ。


「ひゃっほーう!冷たいです!きーもちー!!」


羽織っていた上着を脱ぎ捨て、瞬時に水着姿となったセレナ様が水辺ではしゃぐ。年相応というかむしろ幼くなっているように見える彼女は、いつも以上に笑顔を振り巻きながら海の水を掬っては空中に放り投げた。


「セレナ様ー!あんまり遠くに行ってはダメですよー!」


 止めた馬車の方から私たちが歩いて行く。仮設テントの中に荷物などを置き、水着姿になった私たちが砂浜を歩いて海に近づいて行った。

 今日は腰ほどまでの少し裾の長いパーカーを羽織っている為下の生足しか見えない状態。髪は長いのでポニーテールにまとめた。


 「はーい!」と元気に返事しつつもまだまだ海で上がったテンションが下がることはないセレナ様。そんなセレナ様を見ながら、私はシトリンやマナ様とパラソルやチェアの準備をする。


「お嬢様、上着を脱いではいかがですか?」

「やだ....恥ずかしいもん」

「あぁ....せっかくお嬢様に似合うと思って可愛いものを用意したのに....」


 わざとらしく悲しむシトリン。くっ....わざとだとわかっていてもそんなことを言われては脱がないわけにいかない....

 すると、馬車の方から足音が近づいてきた。そちらを見ると、すでに水着姿で上裸の殿下たち男性衆が現れる。殿下・ゼレフの2人は騎士に匹敵する実力の持ち主だからか腹筋は6つに割れており、殿下がしっかりと付いた筋肉に対してゼレフはしなやかな筋肉が太陽の元にさらけ出されていた。


 「おお....!いい筋肉ですね....!」などと考えながら殿下の方を見ていると、こちらの視線に気づいた殿下と目が合ってしまった。

「準備を任せて悪いな」

「いえ、大丈夫でs....」

「大丈夫ですよ。こういった裏方は私たち()()()に任せて、子供は海で遊んできてください。ほら早く」

「わっ」


 シトリンに背中を押され、私は殿下の方によろけてしまう。それを殿下がキャッチしてくれたのだが、いつも以上にお互い肌が出ている状況なので少し意識してバッと離れてしまった。

 殿下の顔を見るとほんのり赤くなっているのがわかる。殿下みたいな硬派な男性でも意外と初心なんだな....と考えていると、殿下は私の格好を見て言った。


「ライラは脱がないのか?」

「セクハラですか?殿下のえっち」

「そういう意味じゃないのは理解してるだろ?」


 ちぇ。普段何を考えているか分からないし少しからかってやろうと思ったのに....


「分かってますよ。でも、私あまり肌が強くないので....」

「そうか。だがせっかくなら脱いだらどうだ?海風が気持ちいいぞ」

「そうですよお嬢様。日焼け止めなら塗ってあげますから」


 シトリンが準備を進めながらそう言う。殿下とシトリンが裏でこっそり目で会話していたのを知らない私は、どうしようかと悩む。正直海で遊びたい気持ちはあるのだが、水着姿というのはどうも恥ずかしい。

 そんな時、既に海ではしゃいでいたセレナ様が私に手を振って私を呼んだ。


「ライラ様ー!早く遊びましょー!」

「そうだぞライラー!私も海というものは初めてなんだ!是非遊んで欲しい!」


 いつの間にやら混ざっていたシノブにも呼ばれ、出て行かざるを得なくなってしまう。しょうがないですね....と笑い、私はパーカーを脱いだ。


 金の髪が風になびく。私の水着は少しフリルの付いたもの。白と瞳の色の蒼を取り入れたもので、お母様が「似合うと思ったから」とニコニコと笑いながら作った特注品だ。ちなみに作ったのはメロウリアのメノウだ。


 普段は学生服などで隠れている肌が露見し、真っ白な肌が太陽の光を受ける。

 すると、私のことを見ていた殿下に気づいた。


「?どうしました?」

「いや、何でもない」


 素っ気なく返されてしまうが、先ほど失敗した分少し悪戯して見たくなる。


「何ですか殿下?女の子の水着姿を見たんですから、何か言うことがあるんじゃないですか?」

「....似合ってるぞ。可愛いと思う」


 照れている殿下を見られたらそれで満足だ。普段こんな表情の殿下を見る機会などないし、こんな珍しい顔を独占できると思うと少し嬉しく思ってしまった。


「ふふっ。ありがとうございます」


 そう言い残すと私はシトリンの元へ行き、そのまま日焼け止めを塗ってもらった。少しして全身に塗り終わると、私はセレナ様の元へと走っていく。

 1年ぶりに飛び込んだ海はとても冷たかった。



***




「きゃっ!冷たい!」

「あはは!それそれ~!」

「やりましたね!ではこれで!!」

「「わぷっ」」


 きゃははと笑いながら水をかけあう私達。セレナ様もシノブも満足そうに遊んでいるため、連れてきてよかったと心から思う。最初は殿下たちが来たときは『冒険者活動ができない....』と頭を抱えていたが、いざこうして目の前で喜ぶセレナ様を見たらそんな考えはすべて吹き飛んだ。

 海は危険が多いが、私が常に索敵魔法で周辺警戒をしているので問題なし。ライノさんのプライベートビーチということもあり、不法投棄物などがなく綺麗な海岸が見渡せるところもテンションが上がる要因になっていた。


 そんな時、砂浜に設置してあるパラソルから呼び出しがかかる。


「お嬢様、そろそろお昼にいたしましょう」

「はーい!」


 シトリンに呼ばれて砂浜の方に上がる。すると、何かが焼けるいい匂いがしてきた。

 セレナ様とシノブを連れてパラソルの方に寄ると、シトリンとマナ様がバーベキューの準備をしてくれていた。鉄性の網に炭を入れ、マハトが魔法で火をつける。その上をとうもろこしやたまねぎといった野菜から、鶏肉の串に牛肉などが並ぶ。たれはシトリンが持ってきてくれた自作のものを使い、既にとてもいい香りが周囲に広がっている。


「美味しそう!」

「こちらにあるものは既に焼けていますよ。先ほどマハト様とゼレフ様が海の幸を獲ってきてくれましたので、こちらも後で焼きます」

「獲ってって....潜水して取ってきたんですか?」

「そうだね。海なんて久々に入ったけど楽しかったよ」

「俺は海は初めてだから釣りで魚を取った」


 よくよく考えればマハトの実家であるセルドナーグ侯爵家は国家南方のシャングリラ竜爵領にある。南の方はここと同じく海を利用した観光産業が得意な土地。となれば、マハトが海に近い生活を送っていたのも納得が出来た。


「はふっ、ライラ様、あふいです....」

「焼きたてですからね。飲み物どうぞ」

「ありはとう、ございまふ」


 焼きたてのお肉を頬張りながらはふはふと息を吐いて喋るセレナ様。渡したジュースで飲み込むと満足したように息をした。

 皆が皆、この海岸沿いのバーベキューを楽しんでいる。私もシトリンと焼くのを手伝い、焼けた野菜やお肉を持って殿下に差し出した。


「どうぞ」

「ああ、ありがとう」

「美味しいですか?」

「もちろんだ。特にこのタレが美味い。これはシトリン殿が作ったのか?」

「ええ。私も幼少期から大好きな味付けです」

「そうか。レシピを貰ってもいいか?王都に帰ってからも食べたい味だ」


 殿下の提案に確認を取ろうとシトリンの方を見ると、無言でコクリと頷いた。地獄耳というか、何でも理解してる恐ろしいメイド長である。


「いいそうですよ」

「それは助かる。ほら、ライラも食べるといい」


 殿下は自分の皿に乗っていた肉串を私に差し出す。私はどうするべきか一瞬迷ったが、差し出されたものを断るのも悪いと思い垂れる髪を手で除けてそのまま肉串を食べた。

 甘い肉汁とスパイスの香りが鼻をくすぐる。弾力のある肉の間から染み込んだたれが溢れてきて、それはもうとても美味しかった。


「ん~!美味しい!」

「....そうだな」


 殿下が少し動揺したような反応をするので気になって見ると、今のこの状況を瞬時に理解した。

 殿下は私に肉串を手渡したつもりだったのだろう。私がそれを受け取って食べるものと。しかし私は殿下に差し出された肉串を殿下から受け取らずに食べた。この状況は、場合によっては恋人同士がやる”あーん”のようなものではないか!と考えたのだ。

 この間わずか0.5秒。私も思わず硬直してしまう。


 私は気恥ずかしさを必死に隠し、肉をもぐもぐと頬張った。


「....オイシイデスネ」

「....ソウダナ」


 2人して思わず顔を逸らしてしまった。


 ふとその時、私の耳が何かの音を拾う。そして同じタイミングでセレナ様とマナ様もピクリと反応した。

 何だ今の音....声?と周囲を見回すと、やはり2人も同じように何かを感じ取ったらしい。


「何ですか今n....」

「何か聞こえましたね」


 私の声にわざと被せるようにマナ様が言う。バレないように、私を手で静止していた。

 そしてその行動の真意を瞬時に理解する。


(そうか、今この音というか声に反応したのは私とセレナ様とマナ様だけ。ということはつまり、()()()()()()()()()()()だったということか)


 マナ様は私が聖女であることを知っているうえに隠すことに協力してくれている。私が何かに気づいたと思わせないようにするため、止めてくれたのだ。


「音?そんなもの聞こえたか?」

「確かに聞こえました。あっちの森の方から」


 セレナ様もマナ様と同じように反応し、近くの森を指さす。

 索敵魔法には何も引っかからない。誰かや何かがいる可能性は極端に低いが、聖女だけが反応したということはきっと何かあるのだろう。


「一応調査に行くべきでは?」

「そうだな。俺とライラ、あとマナとゼレフの4人で調べに行こう。マハトとシノブは留守中の護衛を頼む」

「「了解」」

「行けるか、ライラ」

「ええ。大丈夫です」


 そう返答し、森の方を見据える。何があるのか、起こるのかは分からないが、聖女にしか聞こえない声....この声の正体が何なのか、調べに行く必要がありそうだ。


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