第39話 隠れ聖女と愉快な仲間達
「来ちゃったって....」
この場にいるはずのない人物の登場に私は驚きを隠せない。確かに殿下は大聖女マナ様の予言を調査するべくこの地に来たが、まさか予言した本人がいるなんて....
と、そこまで考えて私はある可能性に思いつく。
(ん?待てよ....?確かに予言の調査は必要だが、よくよく考えれば何百年も眠っていた竜が起きるというのに殿下だけではさすがに足りなくないか....?)
そう、戦力が足りない。仮に予言が本物だったとして、その竜相手に殿下一人でどうにかできるとは思えない。そう考えれば、国王が殿下とセレナ様の2人だけをこちらの寄こしたのは不自然だ。
そしてあの国王が殿下を死地に送るなんてのは余計にあり得ない。ということはマナ様は....
「俺が呼ばなくても、後から来る予定だったんだ」
「そういうこと。私は教会でやることがあったからさ、1日遅れで来たのよねぇ」
なるほど。ということは、元々私の平穏な夏季休暇など初端からなかったわけだ。元々全員がティルナノーグ邸に来る予定だったのであれば、私も調査に同行しなければいけないのは自明の理。最早逃げ道など王都にいた時点で無かったということだ。
というか、私がどう足掻いても摘みだったのである。
「あいつらは?」
「孤児院にいるわ。私はお買い物中よ」
「孤児院?」
そういえば、今私たちがいる道の先に孤児院があった。お母様がかなり支援をしている場所で、子供たちと私も沢山遊んだ思い出がある。
そしてその孤児院は正に私たちが向かおうとしていた場所らしい。
「デートの途中で悪かったな。あいつらが到着したと連絡があったから迎えに行こうと思ったんだ」
「それはいいですけど....て、まだいるんですか」
「ああ。俺の側近のマハトとゼレフとシノブ、それとマナのお付きでメイヴの4人だな。今回の調査に同行してくれる」
「ええ。人数は多いに越したことはないわ。そんなことよりも....」
マナ様は最後の一口を口に放り込むと、目を輝かせて言った。
「あなた達、デート中だったの~?」
ニコニコと笑いながら....いや、最早にやにやと笑いながらマナ様が言う。そりゃ、貴族の娘と王子様がおめかしして2人きりで街中を歩いていたらデートとしか思えないだろう。というか、実際そうなんだが。
だがこの程度で変な勘違いをされても困る!私たちはただお母様のプレゼントを買いに来ただけで....
そこまで考えて殿下の方を見ると、珍しく殿下が赤面していた。マナ様にからかわれるのがよほど恥ずかしいのだろうか?
「ええ。お母様へのプレゼントを買いに」
「そう隠さなくてもいいわよ~。で、殿下はどこまでしたの?」
「どこまで....とは?」
「これよ、これ!」
小指を立て、超絶笑顔で殿下に詰め寄るマナ様。一応ここは往来なのだが、こんな場所で堂々とやめて欲しい。こっちが恥ずかしいわ!
要するに、『恋人らしいことはどの程度したんだ?』という意味らしい。何か勘違いしているようだが、そもそも私と殿下は恋人ではない!!
「マナ様、一応ここは往来ですので控えてくださいますか?」
「あら、ごめんなさいね。後で屋敷でじっくり聞くことにするわ」
「いや、そもそも私と殿下はそういう関係ではないのですが....」
「諦めろライラ。この人はこう思い込むと周りの声なんか聞こえなくなる人なんだ」
おい大聖女、それでいいのか?!と突っ込みたくなる気持ちを抑え、鞄をマナ様に返す。悲鳴を上げた女性はどうやら鞄を取られてものほほんとしているマナ様を助けようとひったくり犯と揉めたらしい。その結果倒されて悲鳴を上げ、私たちが来たと言う流れだった。
女性は私たちにお別れを言うと街中に消えていった。
「孤児院に行くか」
「もう何か....色々疲れました....」
私達はマナ様を連れて孤児院に向かう。ミドルは騎士団の仕事があるため一度別れるが、明日からの港町イザヤへの移動に付いてくるらしい。その為、一度屋敷に寄ってくれるそうだ。
3人で孤児院に着くと、中では子供たちが男女2人組と楽しく遊んでいる風景と、1人の青年がシスターの手伝いをしていた。
「!主君!」
「お、やっと来たなレオ」
殿下の名を呼んだのは忍の女性シノブと森の中で殿下と一緒にいたマハトと呼ばれる青年だった。
そして横にいる私を見て気づいたように礼をする。
「そこのお嬢様はティルナノーグ嬢ですね。お初にお目にかかります、マハト・セルドナーグと申します。レオの親友でっす!よろしく!」
真面目に挨拶したかと思ったら急におちゃら気口調で自己紹介するマハト。変に堅苦しいよりもこのくらい軽い方が話しやすくて助かる。
「ライラ・ティルナノーグ様、剣術大会以来ですね。シノブ=アサギリと申します。以後お見知りおきを」
対してシノブは礼儀正しく対応してくれる。まだまだ堅苦しいため、私のことは守るべき対象と思われているのだろう。
「ゼレフは?」
「教会の中でシスターの手伝い。呼んでくるか?」
「ああ。馬車を待たせてある」
どこに馬車何か....と思っていると、丁度いいタイミングで孤児院の横に馬車が止まった。よく見ると知らない業者の馬車の他に私たちを乗せて来てくれた青年の馬車もある。いつの間に呼んだのか....
少しして、教会の中からゼレフと呼ばれた青年とマハトが出てくる。ゼレフは私を見ると跪き、私の手を自然にとって手の甲にキスをした。
「なっ//////」
「あ....?」
「お~」
「うふふ」
「はぁ....」
赤訳が分からずパニックになって面する私、突然の出来事にも関わらずゼレフを睨む殿下、面白いものを見たと言わんばかりのマハト、微笑むマナ様、頭を抱えてため息をつくシノブ。
各々が様々な反応する中、ゼレフは顔を上げて立ち上がった。
「お初にお目にかかります、ティルナノーグ嬢。ゼレフ・レクスタームと申します。剣術大会での殿下との戦闘は感服しました。敬意を表します」
「えっ、あ....はい、ありがとうございます?」
「これは経緯の証としてお受け取り下さい。深い意味はありません」
「は、はぁ....」
だが、顔色変えずさらりとこんなことをするゼレフは本当に何とも思っていないのだろう。好意や面白がろうという視線は感じない。
シノブはこうなることが分かっていたと言わんばかりに「やっちゃった....」と頭を抱えていた。
「申し訳ありませんティルナノーグ嬢。ゼレフは剣術大会以前は殿下と並ぶほど強く、周囲に興味なかったのですが....」
つまり、あの剣術大会で殿下以外にも私という強者がいることを知ったのだそう。井の中の蛙が大海に飛び出した、ということだろうか?
それ以降、私に対して「一度会って戦ってみたい」とよく呟いていたのだとか。それが念願かなって目の前に現れたから挨拶のキスもしてしまった....と。
「そういうことですか....言いですよ。夏季休暇は長いですし、手合わせでもしましょうか」
「本当ですか!」
「それと、堅苦しい言葉遣いはやめてください。マハト様もゼレフ様もシノブ様も、同級生なんですから気軽にライラと呼んでくださって構いません」
「そういうことなら、これからよろしくねライラちゃん♪」
「わかりま....わかった。よろしく、ライラ」
「ああ。今後共よろしく、ライラ嬢」
3人とそれぞれ握手をする。すると、放っておかれた殿下が急に私のグイッと引っ張った。その拍子に殿下の体に勢い余って抱き着いてしまう。
「殿下....?」
「!....何でもない。ほら、そろそろ行くぞ」
殿下はパッと私を離し、振り返らず業者の馬車まで向かって行った。その様子に唖然としていた私達だったが、マナ様が私の肩に手を置いて一言。
「ま、頑張りなさい。応援してるわよライラちゃん」
一体何を応援されているんだろうか....
***
「それにしても、一気に人増えたわね」
「シノブさんもマナ様も来て下さって私は嬉しいです!」
わしゃわしゃと髪を洗われるセレナ様とマアンナ義姉様。
「ふぅ~気持ちいいわぁ。教会のお風呂もこれくらい大きくしてくれないかしらぁ」
「教会は抱えている聖女の数も多いですからね。一度聖女様達に『お風呂は大きくするべきか』とアンケートを取って主教様に提出してみてはいかがでしょう?」
「いいわねそれ!帰ったら早速やるわよメイヴ!」
「そうですね....それならありかもしれません!」
お風呂について議論するマナ様、シトリン、メイヴの3人。
そして私の隣で縮こまるシノブ。う~!シノブ、普段は口元とか隠してるから分からなかったけど、外すとやっぱり可愛い!思わず抱きしめたくなっちゃう!
「どうしたのシノブ?そんなに隅に行って」
「わ、私その....胸が小さいので....お恥ずかしいなと」
なんだ、どんなことか。確かにこの場のメンツは発育がいい人が多い。セレナ様も1つ年下にしてはある方だし、マアンナ義姉様もマナ様もシトリンだって結構ある。私は体格的でいえば平均だからそこそこくらい?
そしてその言葉でズーン....と分かりやすく落ち込むメイヴ。こう、なんというか....まな板だった。
「私だって....その内よくなるもん....」
「安心しなさいメイヴ。女性の美しさは胸だけじゃないわ」
そう言いながらわざとらしくドーン!と胸を見せつけるマナ様。確実にからかっているのが分かった。
「マナ様、その辺に....」
「そうですよ!シノブさんもメイヴさんも可哀そうです!」
セレナ様は良かれと持って抗議したのだろうが、シノブまでもが落ち込んでしまい余計にややこしくなってしまった。
それに、その言い方だと”可哀そう”が別の意味に聞こえてくる。
「それにしても、ライラちゃんも割とある方よね」
「そうですか?去年の身体測定では平均くらいでしたけど」
「あのね、胸は成長と共に大きくなるものよ?さて....シノブちゃん!後学の為にライラちゃんの胸を揉みしだきなさい!!」
「はぁ?!」
「承知!!ライラ、すまない!」
「え、ちょっ....どこ触って....ひゃあん///」
バシャバシャと騒ぐ女子風呂。いつもと違い、人数の多い中騒がしいバスタイム。たまにはこんなのもいいなと思いながら、私は頑張ってシノブを剥がそうとするのだった。
***
一方男子風呂。湯船に浸かる筋肉と筋肉と筋肉。ゴリゴリのマッチョメン3人が横並びになっていた。
「あ~いい湯だな~」
「そうだな」
「まったくだ。貴族の風呂というのはこういう物なのか」
ミドル・殿下・ゼレフの騎士組3人衆がそれぞれ声を上げる。現役騎士団と騎士団所属経験のある男、そして現騎士団長からお墨付きをもらった男の3人はそれはもう素晴らしいほどの筋肉だった。
ただでさえ湯船は少し温くしてあるのに、熱気でむしろ熱いくらいである。
そんな3人を見て、セルカは自分の筋肉を揉んだ。
「ないなぁ....」
「そんな気にすることないっすよセルカ先輩!俺だってひょろひょろなんですから!」
落ち込むセルカを励ますようにマハトが言う。だが、殿下と共にトレーニングをしているだけあってマハトも平均よりも筋肉は見てわかるくらいには付いていた。この中で文弱なのはセルカだけである。
「あの3人と比べてひょろひょろっていうのは無理があると思うけど」
「その分、セルカ先輩は学年二位の天才だ。将来的には兄上の補佐になる予定の人だからな。俺達は内政のことは分からないが、頭脳派を守る矛となり盾となることが騎士の誉れだ」
「そうだな。最低限の教養知識は身に着けるが、政治のことなんぞ分からない。そういうのはそういうのが得意な人に任せればいい」
「そういう割にはレオは頭もいいじゃんかよ」
ぶーぶーと反論するマハト。確かに、今学年のトップはライラだがそれに次いで2位の天才がレオンハルトだ。何でもそろったスーパー王子である。
「それにしてもミドルさん、素晴らしい筋肉ですね。御見それしました」
「だろ?自慢の肉体だからな!」
「今度手合わせをお願いしても?是非現役騎士の実力をこの身で感じてみたいと思います」
「おう、いつでも言いな!相手になってやる!」
ゼレフから見てもミドルはかなり出来る方の人だ。王都の騎士とは比べ物にならないスペックの強さを持っていることが感覚で分かる。ライラの他にも、こんな強者と出会えるなんて....!と、この土地に来ていいことづくめだとゼレフは笑った。
そして、こんな筋肉だらけの蒸し暑い場所にいられるかとマハトとセルカは湯を上がる。
筋肉3人衆の会話は盛り上がるばかりで、熱気が入るとさらに熱くなった。
「あ~あ、俺女子風呂行きたかったなぁ~」
「そんなこと僕が許さないからな」
「冗談だって!」
「わかってるよ」
セルカとマハトは笑いながら脱衣所に入っていったのだった。




