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第38話 隠れ聖女と街騒動

 店を出た私たちは街を歩いた。馬車を運転してくれた業者の男性は一旦実家に顔を出しているので、後程集合する手筈になっている。残念ながら私も殿下も馬車の動かし方は知らないため、徒歩で街を移動していた。

 時刻はお昼前。街の中も賑わい活気が出てきた。私もいつもと違う格好で出歩いている為か、道行く人々に好意的に声をかけられた。


「お、ライラ様じゃないか!今日もえれぇ別嬪さんだな!」

「あらライラちゃん、今日はおめかししてどうしたの?」

「あ、おねーちゃんだ!遊ぼ!遊ぼ!」


 子供に手を引かれそうになるが、「今日は遊べないの。ごめんね」と優しく断る。子供たちは残念そうな顔をしたが、すぐに私の後ろ日いる人物に目を奪われた。そしてそれは、周囲にいた街の人々も同じである。

 私の隣を歩く長身のイケメンは、やはり誰もかれもを魅了するらしい。着飾って街を歩くだけでその存在が周囲を惹きつける。お肉屋のおばちゃんも、買い物途中の主婦も、ましてやカフェでコーヒーを飲んでるダンディなおじ様までもが彼を見た。


「殿下、イケメンって罪ですね」

「それを言うなら美人も罪ってことになるだろう」

「誰のことを言ってます?」

「さぁな」


 こんな何気ない会話はいつも通りで楽しい。やはり殿下とはこのくらいの付き合い方の方がいいのだ。そう、このくらいの....

 そう考えた途端、先ほどまでのブティックの出来事や馬車の中での出来事を思い出す。だが、そんなことで赤面されてると知られたら....


『お前、案外初心なんだな』


 と笑う殿下の姿が容易に想像できる。ちくしょうめ、私は恋愛なんてしたことないんだよ!放っておけ!

 私はブンブンと頭を振って考えていることを打ち消した。


 さて、先ほども言った通り時刻はお昼前。そろそろお腹が減ってくる頃。

 なので私たちの向かっている場所はとあるレストランだ。予めマアンナ義姉様が連絡してくれていたらしく、予約も取ってある徹底ぶり。もしかしてお風呂で提案するより前から仕込んでいたのか?と思うほど早い行動に驚いた。


「今から行くのはどんな場所なんだ?」

「この街で一番人気のレストランですよ。庶民から貴族まで通う人気店です。私も幼少期に連れていかれてからずっと好きなんですよ」

「へぇ、どんなメニューがある?」

「そうですね、特に美味しいのはビーフシチューですかね?その他だとカルパッチョでしょうか?魚介がふんだんに使われてて美味しいんですよ」


 ウキウキした気分でスキップする。自分でも気づかぬうちに、殿下の手を取って走っていた。


 5分ほど歩いた先にあるレストランに私達は入る。モダンな雰囲気のレンガ造りの建物中に入ると、タキシードを着た店員が出迎えてくれる。予約していたティルナノーグの名前を出すと、店の奥へと案内してくれた。

 お昼前ということもあり席はすべて満席だったが、予約していたのは奥のテーブル席だったのですんなりと通される。そして、混みあった店の中を歩くと周囲から視線を感じた。男女問わず浴びせられる視線になんだろうかと思うが、私が不思議そうな顔をしている間にサッとみんなが視線を逸らし始める。

 ....?本当に何なんだ?


 この時、席に着くまでの間私の肩に手を置いて歩いていた殿下が周囲を威圧していたことを私は知らない。




***




 殿下との食事は思いのほか楽しく、普段あまり喋らない方なのかと思ったら普通に話題を提供してくれた。主にセレナ様に関してのことが多く、私でも会話がしやすいよう配慮してくれたのだろう。さり気ない所までイケメンである。


 店を出ると時刻はお昼過ぎ。街の活気が最高潮に達していた。


「さて、これからどうする?」

「そうですね....」


 いつもであれば防具屋や魔法店に赴くところだが、今日は殿下と一緒である上に私はアリアではない。となれば、そんな私が冒険者御用達のお店に行くことは不自然となる。

 となるとショッピング?とも思ったが、正直私に見たいお店はない。殿下は聞いてみないと分からないが、多分殿下もないと思う。


 さて困った。普段男女のデートとはいったい何をするんだろう?私に関してはその辺全くと言っていいほど知識がない。友人にも婚約者持ちはいるが、残念ながらデートに関する話は聞いていない。

 どうしようかな....と悩んでいた時、時計を見ていた殿下がボソリと呟く。


「もうそろそろだな....」

「え?何がです?」


 殿下の小声を聞き逃さなかった私は即座に反応した。だが、殿下の声がかなり小さかった為かなんて言ったかまでは聞き取れていない。


「いや、行くところはないのか?」

「うっ....恥ずかしながら....」

「大丈夫だ。1つ行きたい場所がある。付いてきてくれるか?」


 へぇ、殿下も行きたい場所あったのか。そう考え、どっちにせよ何もすることもデートプランも無くなった状態でふらふらするより、目的があった方がいいと判断してその問いに頷いた。

 殿下と横に並んで歩く。いまだにこのイケメンは顔と恰好だけで周囲を惹きつけている。だが、不思議なことに皆見るだけで近づいてこようとはしない。高貴なオーラが放たれているからなのか、はたまたその他の要因なのか....おかげで移動はすごく楽だが、1つどうしてもツッコミたいことがある。


「殿下」

「ん?なんだ?」

「どうして私の手を握ってるんですか?」

「人が多いだろう。迷子にならないようにな」

「私のこと子供だと思ってます?」

「そうじゃない。このデートを用意したのがライラじゃないとはいえ、デートはデートだ。今日くらいは俺もわがままにも付き合ってくれ」


 正直恥ずかしいんですが....まぁ、殿下とこうして長めにいる機会も中々なかったですし、しょうがない。手くらい繋いでてあげましょうか。

 殿下は聖結晶を外してくれたおかげで王族から離れなければという心配も減った。おかげでセレナ様のレッスンにも生が出る。


「きゃぁぁぁあああ!!」


 しばらく歩くと、唐突に正面の方から悲鳴が聞こえてきた。

 瞬時に反応した私たちは人混みをかき分けて悲鳴の聞こえた方へと走る。すると、噴水の前で女性が倒れていた。


「大丈夫か!!」


 殿下がすぐさま女性を介抱する。女性は薄っすらと目を開けて北の方角を指す。


「あっちに....ひったくりが....」

「殿下、彼女のことは任せました」

「お前は?って、聞かなくてもいいな」

「はい。すぐに捕まえてきますので」


 私は身体強化魔法のみで自分を強化し、街行く人々の間を縫って走った。白のワンピースで少し走りにくかった為、殿下のことが人混みで隠れて見えなくなった瞬間に風域を利用した低空飛行に切り替えて進む。幸い相手との距離はそこまで離れておらず、少し先にいる鞄を持って走り去る男が見えた。


 直接とっ捕まえてもいいが、あまり騒ぎを大きくするとまずいと思い右手に雷を発生させる。雷系統魔法”ショックボルト”。第一階級の初歩的な魔法だが魔力量と放出力を調整すれば人1人を気絶させることくらい容易い。


「道を開けてください!!」


 大声で周囲に呼びかける。最初こそ動揺していた人々だったが、私の右手に発生した雷を見て怯えるように道を開けた。結果、私の目の前には一直線の道とその先を走る男の姿がある。

 私は途中でスピードをガクンと落とし、地面に足がついて急ブレーキがかかった瞬間に振りかぶる。そして完全に停止したその瞬間....


「ふっ!!!」


 槍投げの様に発生させた雷を投げた。発射された雷は真っすぐにひったくり犯の男に向かっていき、数十メートル先でバリバリと雷が迸る。もちろん、周囲の人は巻き込まないよう上手く調整した。

 はぁ....せっかく義姉様が整えてくれたのに髪も服も台無しだ。

 少し残念に思いながらも男の元へと向かい、鞄を取り返す。すると、街の騎士が私の元に近づいてきた。


「失礼、この辺で騒ぎがあったと....って、お嬢?」

「え?あ、ミドルさん」


 彼はティルナノーグ領直轄の騎士団、“東の騎士団”師団長のミドル。お父様直轄の部下で、ティルナノーグ家にもよく顔を出してくれるおじ様だ。


「お久しぶりです。前にあったのは春期休暇の時でしょうか?」

「あ~あのベアロックボアの時な。あれは運ぶのが大変でよ....ってそんなこと聞きに来たんじゃねぇ。何の騒ぎだいこりゃ」

「噴水の前でとある女性がひったくりにあったらしくて。この男がその犯人です」

「なぁお嬢」


 顔を近づけてコソコソと話し出すミドル。私もそれに合わせて顔を近づけた。


「そういった奴を捕まえてくれるのは嬉しいんだが、公に魔法を使うのはどうかと思うぞ。一応魔法は微力にしか使えないことにしてるんだろ?」


 ミドルは私に戦い方を教えてくれた師匠の1人だ。そして、当然ながら私がアリアであることも知っている。近接戦闘や肉体戦闘の師匠がメイド長シトリンであり、武器戦闘に関してはミドルさんから教わった。後もう1人、私に魔法を教えてくれた師匠がいる。


「そうなんだけど、こんな格好だと肉体戦闘は出来ないでしょ?」

「確かにな。というか、こんなおめかしして今日はどうしたんだ?」

「あ~、実は連れがいまして....」


 そこまで言いかけた時、殿下から念話が届いた。


『ライラか。犯人の方はどうなった?』

『捕まえて騎士団に引き渡し済みです。私もすぐに戻ります』

『あぁ、そうしてくれ。全くなんでこんな所に....』

『殿下?何かあったんですか?』

『来れば分かる。待っているぞ』


 そう言い残して念話が切れる。私はミドルと目線を合わせ、ミドルと共に噴水の前まで戻ることになった。騎士団として、こういった事件の処理はしなくてはならないので事情聴衆に来るのだろう。犯人の男は他の騎士に連れられて去って行った。


 噴水の前に戻ると、落ち着いた女性が噴水の縁に座っている。殿下は側で立っており、私たちに気づくとこちらを向いた。


「ライラ、その男は?」

「こちら、ミドルさんです。”東の騎士団”師団長の」

「ご紹介に預かりましたエキドナ王国騎士団所属、第2騎士団師団長を務めますミドル・エルロッゾと申します。お嬢が騒いでるのを見つけ、参上した次第です」

「私は騒いでなんかない!で、こちらがアヴァロン王家の第2王子殿下です」

「レオンハルト・アヴァロンだ。よろしく」


 その言葉に流石に笑顔だったミドルもピクリと反応して固まる。まさか普段妹の様に扱っていた女性が王族を連れているとは夢にも思わなかっただろう。差し出された手をギクシャクとした動きで握り返していた。


「して、ライラのことを”お嬢”と呼んだな?関係性は?」


 殿下、人に挨拶をする時の様に笑ってるけど全然笑ってない!明らかに握手した手からギリ.....ギリ....と音がするんですけど?!

 見るとミドルの顔も真っ青になっていた。


「俺とお嬢は伯父と姪みたいな関係性ですよ。年の離れた娘に欲情するほど雑食じゃないし、何より俺には妻も子供もいますから。だから....放してくれません?そろ痛いんですがっ....イタタタタタ!!」


「おっと、それはすまない。今後共よい関係を気づきたいものだ」


 パッと手を放す殿下。その顔は先ほどまでのものと違っていつもの様子に戻っている。私は一体何を見たんだろうか....


「それで、例の鞄は?」

「これです。どうぞ」


 そう言って女性に鞄を渡すと、女性はそれを受け取るのを拒否した。


「あれ、鞄違いましたか?」

「いいえ、これであってるわ。ただ、その鞄の持ち主は()()()()()()


 その答えに私とミドルの頭にはてなマークが浮かぶ。だって女性がひったくりにあったと言ったから追いかけたのだ。なのに取り戻した鞄の持ち主は女性じゃない?そういうことだ?

 そう考えていると、女性は鞄を()()()()()()()()()に手渡した。

 そしてその女性に、私は驚きを隠せない。


「なんでここに....?!」

「あらライラちゃん、久しぶりね~。街を散策していたらひったくりにあうなんて私もついてないわぁ~。お祈りしたほうがいいかしら?」


 のほほんと言ってのける女性。この国の全聖女のトップにして“心眼”を持つ”予言の聖女”がそこにはいた。


「なんで....マナ様が....?」

「ふふふ。きちゃった♡」


 手に持っていたクレープをパクリと頬張りながら、大聖女マナはあっけらかんと言ってのけたのだった。


ミドルさんは実は1話にも登場してます。

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