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第33話 隠れ聖女とその後

「終わったな」

「ええ。終わりましたね」


 陽が少し傾き始めた頃、意識のないパルドを見ながら言った。バフォメットは消滅し、私たちは五体満足でこの場に立っている。戦争を知らない学生だが、我ながらよくやったと思う。


「ところで、弱点は何だったんだ?聖属性魔法か?」


 レオンハルト殿下が聞いてくる。確かに、私はセレナ王女の真眼を使ってバフォメットの弱点を見抜いた。だが、この戦闘において殿下はその弱点を目撃していないのだろう。


「弱点はここですよ。鳩尾」


 自分の鳩尾を指さしながら言った。


「....そこは魔族じゃなくても弱点だと思うが」

「そういうことじゃないです。胸の中にある魔族の魔核(コア)が弱点ということです。私も文献でしか読んだことなかったですけど、全ての魔族には魔核(コア)があります。位置は魔族によって違うみたいですけどね」

「つまり、セレナの能力を使ってバフォメットの魔核の位置を割り出し、そこを聖属性魔法を使って攻撃した....と」

「そういうことです。それが本当の作戦の概要です」


 殿下に言わなかったことは申し訳ないが、あの状況で説明してる余裕なんてなかった。そこはちゃんと理解してほしい。


「お兄様ー!アリアさーん!!」


 呼ばれたので声のする方を見ると、セレナ王女が手を振りながら走ってきた。そのままレオンハルト殿下にダイブして抱き着く。


「お疲れさまでしたセレナ王女」

「はい!無事に勝ててよかったです!」


 にこりと笑うセレナ王女に対し、フードの奥から笑いかける。その時、遠くから甲冑の金属音やバタバタと大勢が走ってくる音がした。


「....そろそろ騎士や聖女が集まってきますね」

「行くのか?」

「ええ。普通に考えれば、この場に名の関係もない冒険者がいるのはおかしいですからね」

「魔族を打ち取ったんだ。この国を救ったと言っても過言じゃない。国としては表彰ものどころか勲章を与えるレベルのことだ。それを放棄するのか?」

「勲章なんていりません。ただ私は、私がやらなければいけないことをしただけです。もちろん、私が今日この場にいたことも秘密にしてください」

「....わかった。お前はそう望むなら上手く誤魔化しておこう。前に命を助けてもらった恩もあるしな」

「ありがとうございます。レオンハルト殿下、セレナ王女、それでは」


 そう言って立ち去ろうとした瞬間、「待ってください!」とセレナ王女に引き留められた。

 振り向くとセレナ王女が私の目の前まで来て頭を下げる。


「アリア様、魔族を倒してくれたこと、そして聖女としての力の使い方を教えてくれたこと、とても感謝しています。ありがとうございました」

「いえ、今後は大聖女マナ様に指導をしてもらうといいでしょう。聖特性も同じですし、彼女はきっと教え方が上手いと思います」

「はい!あ、それと....」


 そう言ってちょいちょいと手招きをするセレナ王女。私は自分がマントとフードで身を隠していることも忘れ顔を近づけてしまった。


「あ、やっぱり。ライラ様だったんですね」

「っ!!」

「あぁ、そんな警戒しないでください。隠してるってことはきっとバレたくないのでしょう?ライラ様のことですから、何か事情があるんだと思います。誰に言いませんから、安心してください」

「ありがとうございます。そうしてくださると助かります」

「それではアリア様、本当にありがとうございました!」


 満面の笑みでそう言い、セレナ王女は再びレオンハルト殿下の元へと走る。2人は風属性魔法で空へと消える私をずっと見ていた。



***



 あれから2週間が経った。


 魔族と共謀していたと思われたパルドは一時監禁と事情徴収を受けた。噂で聞いた話によると、魔族に誘惑され体を乗っ取られたのだとか。最終的には魔族と直接戦ったレオンハルト殿下の一言でお咎めはなしになったらしい。

 パルドは学園から追放されることもなく、どうして魔族と通じたのかを隠すことなく吐いたようだ。


 剣術大会は一時中止、後日闘技場の修正が終わった段階で再度実施された。今度は予め聖女が数人派遣され、魔族襲撃にも備えていたが特に何もなく大会は終わった。

 私たちの番は決勝のみ。パルドvsレオンハルト殿下の戦いはレオンハルト殿下の勝ちという扱いで決勝戦は私と殿下の戦いとなった。結果から言うとまた私の負け。残念なことにまたもギリギリの戦いとなったが約30分にも及ぶ激しい剣劇の末、体力差で負けてしまった。私も普段から鍛錬しているが故自信はあったのだが、やはり騎士団に仮入団とはいえ所属した期間がある殿下に軍配が上がった。


 そんなこんなで早2週間、平穏な日常を取り戻した私たちは今日も今日とて学園に通っている。


「とまぁ、パルドの話はそんな感じです」

「なるほど」


 私は今、セレナ王女の部屋に来ている。侍女には下がってもらい、ティータイムという名目で密会を行っていた。この場にいるのは私とセレナ王女、それに....


「何にせよ、魔族がどうして入り込んだのかはもっと調べないといけないわね」


 紅茶を啜りながら、バタークッキーをサクッと頬張る彼女。学園にはいないはずの大聖女マナ様が、この場にはいた。


「....何度も言おうと思ったんですけど、何故マナ様がここに?」

「セレナ王女が聖女として覚醒したからね。私はその教育係兼護衛よ。私、正直普段は暇なのよ。会議とか礼拝とかは行くけど、それ以外の教会関係のことは下位の聖女や教主様がやってくれるからね」

「....なるほど、そういうことですか」

「それに、マナ様でしたらライラ様がアリアだってことも知ってますし、同じ聖女同士なら話しやすいかなって私が打診したんです!」


 笑顔で言い放つセレナ王女。そんな顔されては嫌だなんて言えない。純粋無垢な女の子、可愛いけど時にすごく厄介ですね....


「それでライラちゃん、邪眼っていうのは?パルドっていう学生が持ってたっていう....」

「私が実物を目にしたのは2回。指名手配犯グランデスを捕まえた時とパルドの時。形はアクセサリーみたいな感じで、腰にぶら下げてたり服に付けていたりしてました。なんというか....聖属性魔法に反応する嫌な雰囲気がありますね。呪具みたいなものでしょうか」

「聖属性魔法....というより、それだと光魔粒子に反応するものと捉えた方が自然かもしれないわね。聖結晶と似たようなものかしら?」

「どちらかというと反対の部類だと思います。聖結晶は光魔粒子に反応し、溶け合うことでその力を強くします。ですが邪眼はその逆。光魔粒子に反応はしますが、それは融合ではなく拒絶。邪眼は光魔粒子を弾くことで反応する物です」

「となると、今回の件も考えればやはり魔族側が関わってくると」


 パルドが白状した情報によると、邪眼を受け取ったのは大会の前らしい。そして、魔族に干渉されたのはその時だと本人は言った。

 つまり、その邪眼を与えたという謎の老婆が犯人。だが、パルドとその友人たち以外その老婆を見た者はいなかった。現在はその老婆を騎士団総出で探しているらしい。


「占い師の老婆とか、いかにも胡散臭いですね!」

「私としては....いや、何でもないです」


 その時脳裏にちらついたのは試合中観客席にいたあの少年。小さな帽子にマジシャンのようなフェイスメイクをした少年の顔が、ふと脳裏を横切ったのだ。なぜか異様に頭に残る。


「ま、殿下が速めに動いてくれたおかげで万事解決。これだけの規模の事件で死者0なのは大したことだと思うわ。殿下に魔族ことを教えておいてよかったと思うわね」

「マナ様の予言だと、他には何かあったんですか?」

「う~ん....あ、そういえば....2人とも夏季休暇はどうするつもりかしら?」

「え?私は実家に帰ります。夏季休暇はセルカお兄様とティルナノーグ領に帰るのが通例になってますので」

「私も領は出ますね。王宮に戻ります」

「ティルナノーグ領って、海に面した港町があったわよね?」


 ティルナノーグ領の隅に、海に面した港町があるのは本当だ。かなり栄えた町で、領主邸のある街に続いて2番目に領内で栄えている町でもある。


「海!いいですね~!私も行ってみたいです!」

「ティルナノーグ領に関係があるかは分からないんだけど、海に関連する予言が一つあるのよ」

「それはつまり、海に面した町か海そのものに何かしら起こると?」

「そういうこと。予言の内容はこうよ『太陽が最も明るくこの世界を照らす時、目覚めし海竜が魔に染まる』」

「「不穏極まりないですね....」」


 セレナ様とセリフが被った。

 だが確かに不穏な予言だ。『太陽が最も世界を明るく照らす時』....正直太陽が毎日出ているのは当たり前のことだし、世界が一番暑くなる日ということだろうか?だとすれば、マナ様がこの夏を警戒するよう言ったのも頷ける。


「海竜....リヴァイアサンのことでしょうか?」

「何百年も前に眠りについてから消息不明の竜神様ですよね」

「四大守護竜の内、東の領地を守護するアルビオン様の直系....その配下であるリヴァイアサンは、何百年も前の戦争で人類の為に力を尽くし切ったとされてるわ。永い眠りにつき、それ以降は文献にしか残っていない存在とされていたけど....」

「生きていて、なおかつ眠りから覚めるとき魔に染まるという予言が出てしまったと」

「まぁなんにせよ、私の予言とて完璧ではないわ。当たるものもあれば外れるものもある。ただこの予言が出たうえで、ライラちゃんの実家が東の領地だったから気になっただけよ。夏季休暇はこんな予言気にせず、楽しんでいらっしゃい」


 微笑むセナ様に対し、私は無言で微笑み返して紅茶を啜った。

 こうして事後報告会....いや女子会....いや、聖女会かな?は無事に談笑して終わったのだった。


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