第32話 隠れ聖女と決着
「殿下!お待たせしました!」
バフォメットと戦闘中の殿下に声をかける。丁度バフォメットの大振りに弾かれた殿下がバックステップで下がり、私たちの目に着地した。
「行けるのか?というか、なぜセレナを逃がしてない!」
「大丈夫ですお兄様!私、行けます!」
「行けますじゃないだろ!早く逃げろ」
「でもいいんですかお兄様?私、あの悪魔の弱点わかりますよ?」
「....?どういうことだ?」
困惑と焦りが混ざった表情で殿下がこちらを見てくる。何という複雑な感情、まぁこの状況で大切な妹からそんなこと言われれば当然だろう。
「私から説明します。時間がないので簡単に。今、セレナ王女は聖女に目覚めました。彼女の所有する聖特性は真眼です。その能力を使って、バフォメットの弱点を見つけました」
聖女には、第1角~第7角までの聖女紋が刻まれる。角数餓多いほど聖魔法に関する能力が上昇し、また所有する聖特性の能力も上昇する。現代の大聖女マナは5角。彼女の聖特性も真眼だが、セレナ王女は4角なのでマナには届かない。だが、魔族の弱点を見破る程度であれば問題なくできたようだ。
「聖女....?!真眼....はぁ....アリア、後で詳しく説明しろ」
「嫌です。マナ様にでも聞いたらどうです?」
「....わかった。取りあえず、目の前の魔族をどうにかしないとな」
バフォメットはゆらりとこちらを見る。その視線は確実に私を捉えていた。
「で、作戦はどうする?」
「私と殿下の2人がかりで攻めるしかないでしょう?」
「セレナは」
「私は隠れて聖剣を作成します。都度、何かあれば外部から叫びます!お兄様!」
「つまり....」
「行き当たりばったり、成るようになれってやつです」
最早作戦とも呼べない残念な戦術。しかし、現状それが一番可能性がある。そして、私が聖剣を創れればそれが一番いいのだがこれ以上殿下一人に負担をかけるわけにはいかない。やはり2人がかりで攻めていた時が一番バフォメットにダメージを与えられていた。そうなれば、私が抜ける穴はあまりにも大きいと言えるだろう。
となれば、聖女として覚醒したばかりではあるがセレナ王女に頼むしかない。
「聖剣作成にどれくらいかかる?」
「セレナ様がどの程度できるかにもよりますけど....3分でしょうか」
具体的な時間を提案し、殿下はコクリと頷く。セレナ王女は不安そうにしていたが、少し振り返って頭を撫でてあげた。
「行くぞ、今度は....」
「「「3人だ!!!!」」」
「かかってこい、人間ども!!」
バフォメットが笑う。
改めて考えるとバフォメットの攻撃方法は正直単純なものしかない。だが極限まで強化された肉体や力量は人間の比ではなく、翼があることから空中戦もあり得る。正直、下手な小細工撃ってくるような敵よりもわかりやすい反面、突破するのが難しいと言える。
そんな敵に対する最初の攻撃は....
「正面」
「突破だな」
考えていることが被った瞬間、私と殿下は駆け出した。周囲には私達2人とバフォメットしかいない。つまり暴れ放題ということだ。
「ふっ!!」
「はぁ!!」
剣の射程圏内に入った瞬間に殿下と私の剣がバフォメットに襲い掛かった。冗談の横薙ぎと下段狙いの攻撃。だが、バフォメットは殿下の剣撃を腕で受け、その瞬間に私の剣を避けた。
だが、それだけで終わるような攻撃をするつもりはない。すぐさま剣を縦にして切り返し、殿下と私で実に50連もの斬撃をたった20秒で浴びせていく。
「うぉぉおおおお!!」
「やぁぁあああああ!!」
「フンッ...温いわ!!」
魔力を飛ばす衝撃波で、近接して攻撃していた私たちを無理やり剥がした。吹き飛ばされるまま空中で体を捻り、着地と同時に再び駆け出す。
まだたったの20秒。先ほどの物陰では、未だにセレナ王女が心血を注いでいた。
「まだまだぁ!!!!」
鬼気迫る勢いで駆け、再びバフォメットに襲い掛かる。だが、何度攻撃してもバフォメットは私の攻撃の身を的確に避ける。明確に攻防を繰り広げているのは殿下のみで、私はあくまでも殿下との攻防を妨害している邪魔者にしかなっていない。
(やはり....聖属性魔法を警戒してる....)
ということはつまり、今この場において最も警戒されているのは私ということになる。となれば、少なくともセレナ王女にヘイトが向く可能性は低いだろう。
そして、私を警戒しすぎるがあまり本命に気づかない。
40秒....50秒....60秒....時間が進む間絶え間なく斬り続ける。反撃と言わんばかりに腹を蹴られ、後方に下がった瞬間に剣に新たな魔法をかける。
”鋭利化”、”剛剣”、そして”炎撃”。持っている剣の刀身が炎で包まれた。再び襲いに行くと、今度はバフォメットが私の剣を防いだ。
「防ぐってことは....」
「やっと聖魔法を解いたな?ただの属性剣なら対して怖くはねぇ!!」
バフォメットが笑う。その瞬間、私もニヤリと笑った。
「聖鎖縛!!」
殿下と私でバフォメットの両腕を拘束した瞬間、隠蔽魔法で隠していた罠を起動した。
「なっ....これは?!」
地面に伏せておいた罠。それは聖属性魔法で鎖を創る魔法だった。鎖そのものが聖属性で出来ている為、魔封じに関しては絶大な効果を発揮する。
今の時点で戦闘開始から2分30秒。セレナ様からの反応は今の所ない。
「ぐっ....!!この程度....!!」
「させない!!」
鎖を引きちぎろうとするバフォメットに対し、属性剣で反撃する。殿下の剣を炎、そして私の剣に光魔法を付与して攻撃モーションに入る。
相手は拘束済み、属性剣で2対1の戦闘で襲い掛かる2人。残り時間は10秒。
行ける....!!!
「うぉおおおおおおああああああ!!こんなものぉおおお!!!」
バフォメットが雄叫びを上げながら鎖を引きちぎる。少しずつひびが入り、鎖が崩れていく。
私たちの剣が襲い掛かるまであと5秒。
4秒....殿下の剣の刀身がバフォメットに触れる。
3秒....私の剣をバフォメットが避ける。
2秒....バフォメットの反撃で殿下の剣が弾かれる。
1秒....私が、
『剣を手から放す』
「?!?!!!?!」
バフォメットですら理解ができない行動。今、バフォメットを倒すことが出来るのは私の聖属性魔法のみ。だが、その肝心の私が聖属性魔法がかかった武器を捨てたのだ。バフォメットが理解できないのも無理はない。
騙されたな。
時間がスローモーションのようにゆっくりとすぎる中、私はそんなことを思う。バフォメットは私が聖属性魔法を使うことを警戒していた。それは魔族なのだから当然だろう。そして、バフォメットは私が何か企んでいることも分かっていた。だからこそ、私が生成した聖鎖縛が発動した際にすぐに対応できたのだ。
そして私は、バフォメットがそう思うことすら利用してブラフをかけた。私の本命が、聖鎖縛であるように見せかけるために。
剣を手放した私の拳が白く光り始める。拳を握った瞬間、私の顔が険しくなる。
集中....集中....今は何も考えるな。セレナ様のことも、殿下のことも、周囲のことも....ただ....
『目の前のバフォメットを倒すことだけ考えろ!!!』
その瞬間、観客席にいたセレナ様からの声が耳に入る。
「アリア様!出来ました!!」
ジャスト3分、上出来どころか完璧だ。
瞬間的に“剛力”、”身体強化・強”、”震撃”を自身にかける。そして白く光る光の拳は私の持つ聖特性。バフォメットですら知らない、私個人の力。
「うぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
『天聖』それが私の聖特性。7角の聖女紋持ちだけが使える特別な聖特性。
胴体ががら空きなのをいいことにバフォメットの鳩尾に拳が当たる。その拳はめり込み、バフォメットの体でミシミシと音を立てていく。
雄叫びのまま、バフォメットを空中へと殴り飛ばした。
そして、今はバフォメットが動ける状態ではない。空中へと放り出された衝撃と、聖鎖縛による弱体化に私の『天聖』による攻撃で、今バフォメットの意識は飛ぶ寸前だろう。
「セレナ様!!」
「はい!おにーさまぁぁぁあ!!」
私がセレナ様に声をかけた瞬間、セレナ様が観客席から作成した聖剣を放り投げた。真上に飛んでいくバフォメット、そして空中のバフォメットに近づいていく聖剣。その瞬間、全てを理解した殿下が真上に向かって飛んだ。
殿下が聖剣を掴む直前、バフォメットの意識が戻る。だが....
「うがぁぁぁあああ!!この程度でっ....この俺がぁぁぁああ!!っ?!」
バフォメットは気づく。空中に放り出されたのはバフォメットの他に1人、そしてそれは殿下ではない。
バフォメットの下で、意識のないパルドが空中を漂っていた。
「バカな....!!分離された....?!」
そう、私の持つ『天聖』は魔族や悪魔と言った種族や魔法を解呪したり分離したりできる。そしてこれは通常効果、まだ全力ではない。
困惑するバフォメットの姿はヤギのような悪魔の姿、そしてその上で聖剣を手にする殿下の姿が見えた。太陽と重なり、聖剣の輝きはより一層増す。
「殿下ぁ!!決めてください!!」
「うぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
殿下の聖剣が振り下ろされ、そしてバフォメットの体を斬り裂く....と思ったが、バフォメットは4本ある腕で聖剣の斬り降ろしを白羽取りして受け止める。
聖属性魔法で手が焼けていくのも気にせず、バフォメットが全力で抗った。
「このっ....程度で....俺様が負けるかぁ!!!!」
弱体化しても魔族は魔族。いくら強化した殿下とはいえこれでは斬ることが出来ない。それに、やはり聖女になりたてのセレナ王女の作った聖剣では威力があまりなかった。
だがバフォメットは忘れている。私たちは3人で戦っていることに。
背中を向けて落下してくるバフォメットに向かって、私は聖属性魔法で弓矢を形成した。魔力の形状・性質変化。精巧なものでなくていい、今はあの魔族を貫くことさえできたら....
「行けぇえええ!!」
放った瞬間の衝撃波で体がぐらつく。が、放った矢はまっすぐに飛んでいき、バフォメットを背中から撃ち抜いた。
「がふっ....!!」
バフォメットの抵抗が緩んだ瞬間、殿下の聖剣がバフォメットの体を捉えた。
「お前の負けだ!!バフォメットぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「うっぐ....ぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そしてそのまま....
ザシュッ
という音と共に、バフォメットの体が空中で切断された。バフォメットは何を言うでもなく、聖魔法の力で体が焼け崩れていく。
一息つく間もなく、落下してきた殿下と意識のないパルドを“風域:反発”で受け止めた。
こうして魔族との戦闘は、私たちの勝利で幕を閉じたのだった。




