第31話 隠れ聖女と迷い姫
お久しぶりです。
お待たせしました。
「セレナ王女....?!」
何故そこにいるのか?その疑問で頭がいっぱいになり、思わず呟いてしまう。そんな私の呟きを隣で聞いていた殿下は驚き、私の方を見た。
「セレナ....?セレナがいるのか?!」
「....あそこの出入り口の影です」
私が指を差すと、確かにそこには物陰からバフォメットの様子を窺っているセレナ様の姿がある。だが、幸いにもバフォメットはセレナ様には気づいていない。どうにかこうにかあの場所からバフォメットを引き離し、セレナ様を安全な場所まで送り届けなければ....
そう思っていた矢先、焦りからか殿下が声を荒げてしまう。
「セレナ!!」
「っ?!バカ....!!」
レオンハルト殿下に呼ばれたセレナ様がびくりと反応する。その拍子に、近くにあった瓦礫を崩してしまった。その音に反応し、バフォメットがセレナ様を視界に捉える。
「ほぅ?お前さんは....」
「ひっ....!悪魔....?!」
ゆっくりとセレナ様にちかよるバフォメットに対し、私は全力で地面を蹴ってバフォメットとセレナ様の間に割って入る。そしてそのまま光属性魔法で強化した剣でバフォメットと打ち合った。
「鬱陶しい!」
「くっ....!」
腕によって剣は弾かれたが、それでもバフォメットの歩みは止まった。これ以上前に出さず、今の場所から離れさせなければ....
そう考えた私は至近距離から魔法を放つ。風属性魔法“風弾”を鳩尾に喰らわせ、バフォメットを少し後退させる。その瞬間に風加速魔法を全力で行使し、競り合ったままバフォメットを闘技場の中央まで道連れにした。
着地と同時に巻き上がる土煙。バフォメット着地と同時に私を掃い除け、土煙が晴れる頃には私とバフォメットが対峙する構図になっていた。その隙に殿下はセレナ様の元まで駆けつけてくれていたらしい。
「不意打ちとはいえ、この俺様を無理やり退かすとは....よほどあの娘に近づいて欲しくないようだな」
「当たり前じゃないですか。あなたのような人....いや、魔族に触らせていいような方ではありません」
「そうか。まあ少なくとも俺はあの女に手を出すつもりはないな。俺様の宿主は気にしていたようだが」
どういうことだ?バフォメットの宿主ってことは恐らくはパルドのこと。彼がセレナ様を気にしていた....?
「どういうことですか」
「あぁ?なるほど、知らないのか。気にするな、今はこの男の意識はない。俺とお前らの戦いが楽しめればそれで十分だろ!!」
笑うバフォメットは再び襲い掛かってくる。鋭い爪の攻撃を何とか細剣で流すが、攻め手が見つからない。適度に反撃しようとするも、1対1の状況ではさすがにジリ貧だ。これが魔族。過去の人間は、こんな化け物相手に戦争をしていたというのか?
「くっ....!」
弾き、流し、時には反撃するも防がれる。細剣の戦い方は基本振り回す攻撃ではなく刺す攻撃。私の剣は細剣にしては多少横にも刃が付いている為、刺しと薙ぎを不規則に切り替えて戦っている。が、残念ながら私では致命傷は与えられない。
恐らく、元の筋力や身体能力はパルドが基準になっているのだ。学生とはいえ、騎士を目指していた男に対して私のような華奢な女では筋力勝負勝ち目はないだろう。
(となると、やはり殿下に止めを任せるしか....)
「何か考え事か?こっちの戦いに集中してくれよ!!」
少し思考を巡らせ一瞬目を離した隙に、バフォメットの拳が襲い掛かる。私は辛うじてその攻撃を防ぐことは出来たのだが....
(何この重さ....?!次元が違う....!)
おおよそ人間の出せるような威力ではない拳。その衝撃が直に伝わり、私は観客席ま吹き飛ばされた。
「がはっ....!」
崩れた瓦礫の側から立ち上がる。その場所にはセレナ様とレオンハルト殿下もいて、唐突に吹き飛んできた私い驚いているようだった。
「殿下、ここは私がやります。早くセレナ様を安全な所に....」
「いや、俺がやる。今の戦闘を見ていたが、パワーでは負けているだろう。代わりにセレナをここから逃がしてくれ」
「でも殿下!」
「大丈夫だ。最悪騎士と聖女が来るまで粘ることはできる。セレナ、こんな所にまで来た理由は後で聞く。今は逃がしてもらえ」
そう言うと殿下は私と入れ替わるようにバフォメットの方へと向かって行った。
私はすれ違いざまに殿下に強化魔法と結界などのできる限りの強化を施し、セレナ様の方へと駆け寄った。
「セレナ王女殿下、なぜこんな所に?今は避難指示が出ていたはずですが」
「あ、いや....その....」
「とにかく、今はセレナ様を安全な所まで....」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
必死なセレナ様に腕を掴まれ止められる。セレナ様は少し泣きそうな顔になりながらも、明確な意思を持った目をして私を見た。
「あの人、あの悪魔を、助けられるかもしれません」
「....どういうことですか?」
「シノブさんに逃がしてもらった後、なぜか頭の中に声が響いたんです。そしたら、自然とこの場所まで来てしまっていたというか....」
「声?」
そう聞き返すと、セレナ様は襟元を少しずらして私に鎖骨を見せてくる。その部分には、私とは違う形の“4角の聖女紋”があった。
なぜ?先ほどライラとして逃がした時にはそんな物なかった。もちろん、今までも彼女と共にいた時間にもなかった代物だ。なぜ、このタイミングで聖女紋が....?
だが、それはつまり彼女の魔法がこの場を切り抜ける鍵になるということ。恐らく、彼女が聞いた“声“とも関係があるのだろう。
「頭の中で響く声は言いました。『今、あの闘技場には悪魔がいます。あなたを思い、あなたを助けようとした結果悪魔に憑りつかれた者がいます。あなたの力が頼りなのです。聖なる光で、悪魔を浄化してください』と」
「聖女に直接声....?聞いたことない話です」
「でも、確かにそう聞こえた。だから私は来たんです!それに、直感で分かります。名も知らぬ魔法剣士さん、あなたも聖女なのでしょう?」
彼女は聖女に覚醒し、そして今この場からあの魔族を倒すために来た。そして私が聖女である事実も理解している。となれば、最早彼女の言葉を疑う必要などない。どちらにせよ突破口がなかったのだ。最悪、セレナ様は私が犠牲になってでも守り抜く。
「嘘は、言ってないんですよね?」
「はい。王族の誇りと、竜に誓って」
「....わかりました。でしたら私が全力で守ります。王女殿下、光属性魔法の使い方は分かりますか?」
「何となく....頭に流れた来た情報だけですが....」
やはり聖女になったばかりだと使い方が分からないのだろう。それもそのはず、光魔法は聖女に覚醒した者か教会関係のお偉いさんしか扱えない。一般魔法とはそもそもの扱いが違うのだ。使い方など知らなくて当然。私も聖女紋が発現した後力の使い方を教わった。
....。
ともかく、分からないのなら教えるしかない。
「セレナ王女、光属性魔法は....」
殿下が足止めをしてくれている間に、素早く光属性魔法について教えていく。ライラとして剣術を教えている時も思ったが、彼女は呑み込みが早い。駆け足とはいえ、基本的な使い方を教えたらすぐに覚えてくれた。
「わかりました。大丈夫です!行けます!」
立ち上がり、バフォメットと戦う殿下の方を見て立ち上がる。
「行きましょう。ここからは....反撃の時間です」




