第27話 騎士王子 vs パルド~後編《レオンハルト視点》
「随分な歓声ですね、殿下」
周囲の声を聞きながらパルドがそんなことを言う。『自分よりも目立つな』とでもいうのかと思ったが、その顔は不敵に笑っていた。
「まぁな。こんなんだがこれでも一国の王子だ。騒がしくてすまないな」
「いやいや、これくらい盛り上がっていた方が楽しいですよ」
そう言って笑うパルドは普通に見える。だが、瞳の奥に渦巻く闇のように暗い何かを見て俺は眉をひそめた。
パルド・アンドリューの名前は騎士科ではかなり有名だ。俺が王国騎士団に仮入団してた時も、この学園に指導講師として来た騎士たちに絶賛されていたのを噂で聞いたくらいだ。将来が楽しみな男ではある。
だが、明らかに今まで聞いた人物像と違う。顔は笑っているが、目は完全に笑っていない。発することばの一つ一つが空っぽで、まるで人形劇を見ているかのような気分になった。
「俺にも目標がありましてね、殿下。そのためにはあなたを倒さなければならない。どちらが先でもよかったんですが、僕の最後の障害は彼女らしい。ライラ・ティルナノーグ」
「もう勝った気でいるのか?だが奇遇だな。俺の最大の障害もライラだ」
「おや、名前で呼び合うなんて随分と仲がよろしいようで」
「彼女には許可をもらっている。この程度で変な勘繰りをされても困るがな」
はっはっは....と2人が笑う。審判ですら、この2人の会話に戸惑っている。だが、笑いが途切れたその瞬間に強烈な威圧感が会場を襲った。
審判ですらたじたじなその様子に、会場内の観客がどよめく。魔力と気迫による威圧感に、背筋を震わせる者、倒れる者、震える者など反応は様々だ。
「審判、始めてくれ」
間近で震える審判に俺はそう伝える。震えながらも、空間魔法“拡声”でアナウンスを始めた。
『す、凄まじい魔力のぶつかり合い!!それでは始めましょう!!レオンハルト・アヴァロン vs パルド・アンドルファー!!試合開始ッ!!!』
2人して構えてもいなかった。剣を抜くでもなく、ただお互いの魔力に殺気を乗せて睨みあっていただけ。
だが試合開始のコールがかかった瞬間、俺達2人の姿が消える。
一瞬。ただ一瞬。その瞬間に審判ですら気づかないほど間近で俺達2人はぶつかった。ギリギリと競り合いながら、力任せに押していく。だが、相手も手段は同じなようで剣による鍔迫り合いは互角だった。
3秒ほどの競り合いの末、お互いに距離を取る。眼差しは両者相手を睨み、笑みもなく無表情で剣を握る。
一拍おいた瞬間、再び土煙が戦場を舞う。
「ふっ....!!」
「はぁっ!!!!」
土煙が舞って1秒も待たず、戦場の中心から起こった旋風が土煙を晴らす。
圧倒的なまでの剣戟が、巻き起こした突風に乗って観客を震わせる。
上段斬りを受け、カウンターを行うようにサイドに流す。だが、俺が構えるより早く剣筋をなぞって上がってきたパルドの剣の追撃が俺を襲う。
(甘いな)
首をひねって避けた瞬間に剣ごと腕を振り上げ、昇ってきた剣ごと上に弾く。
剣に体重を乗せていたパルドは握りしめた剣ごと空中に放り出される。
「あっ....?!」
驚愕の表情で見つめてくるパルド。男一人持ち上げられない軟弱王子とでも思ったのか?それなら俺を見縊りすぎだ。
体制を立て直すも何もない空中のパルド。この決闘では相手に過度な暴力を与えなければ、近接戦闘も可能となっている。
空中に放り出されたパルドから剣を抜き、遠心力を利用してそのまま蹴り飛ばした。
「おぐっ....?!!!?」
腹にクリーンヒットした蹴りの勢い乗せて、パルドは決闘場の隅まで吹き飛ばされた。
土煙が収まり、そこにいたパルドは倒れている。
誰が見ても立ち上がることが出来ないレベルの蹴り。騎士学生の中には、お腹を抱えて青ざめている者もいる。
『クっ....クリーンヒット!!』
ウォォオオオオオ!!!!と盛り上がる会場。本来、剣術大会では格闘技によるダウンはありえない。だが、今回のように武術による戦いもないわけではない。
騎士たる者、武器が折れても戦わなければならないからだ。
自分でも驚くほど綺麗に決まった蹴りは、下手したら相手にとって致命傷になるかもしれない。そう思うほど威力も打った感触も過去一番のものだった。
(死んでないだろうな?)
そう思い倒れたパルドの方を見ると既に審判が近づいており、意識があるかの確認を行っているようだ。
取り敢えず死んでないことを確認する。だが立ち上がる事は無いだろうと思った瞬間....
バッ!!!という音と共に再び風が舞う。
足元で感じたその風で、何が怒ったのかはすぐに察した。背後から笑うような視線を感じる。
「さすがは第2王子殿下だな。凄まじい蹴りだった」
何事も無かったかのように立ち上がるパルド。だが確かにダメージは入っているようで、お腹を支える様子が見て取れる。
手には既に剣を携えており、不敵に笑うその様子に審判も試合続行の判断を下した。
「驚いたな。かなり綺麗に決まったと思ったんだが」
「いい蹴りだったよレオンハルト殿下。だが鍛え方が違う。俺の視線は、筋肉は、剣技は....あなたみたいな強者と戦えて震えている。たった数十秒の戦闘で、倒れるようなことはしないさ」
ゆっくりと近づいてくるパルド。そこから放たれる圧倒的な魔力は禍々しくも、俺の心を震わせた。
憎悪、嫉妬、興奮....悪徳な感情を感じるが、それでもなお俺の心は高ぶったままだった。相手がどんなに禍々しい魔力を持っていようと、恐れることはない。
ただ、高揚していた。
「奇遇だな。俺もまだ戦い足りなかったんだ」
「この試合は無礼講だ。怪我しても知りませんよ、殿下」
「望むところだ。全力でかかってこい」
その言葉を待っていたかのように、パルドの魔力が一気に増幅する。この試合でかけられる魔法は身体能力を向上させる身体強化と剣の重さと硬さを上げる剛剣の2種までだ。これは王国で定められた剣同士での試合・決闘の場合に適応されるルールの1つ。
案の定パルドは増幅させた魔力で身体強化と剛剣をかけ、ゆっくりと歩いてくる。それに呼応するように、俺も魔力を増幅して同じものをかけた。
(だがなんだ....この違和感?)
そう、先ほどから俺が決めきれない唯一の理由、それがこの謎の違和感だ。
先ほどの魔力もそう。魔力が禍々しい黒と紫に見えた。
もちろん、これはあくまでも本人の目が映し出したイメージの色であり、実際には魔力に色など存在しない。だが、俺の目にそう錯覚せるほどの禍々しさが、背中を這うように伝って来た。
「オラァ!!!」
「ふっ....!!」
再び駆け出した両者の剣がぶつかる。だが、今までのそれよりも波動が大きく、放たれる魔力に当てられて倒れる者もいた。
2人の実力はほぼ互角。速さでは俺が勝っているが、単純なパワーでは負けている。手数の多さで勝つしかない。
(それよりも速いラウラは....フッ、こいつの天敵だろうな)
呑気に考えたそんなことで少し笑ってしまう。すると、受けたパルドの剣がさらに重くなった。
相手の顔に浮かんでいたのは怒りの感情。静かに、そしてふつふつと湧き上がるような怒りの感情を感じ取る。
「何をっ....笑っているんですか!!そんなに俺の剣は軽いですかっ!!」
受けていた剣がさらに体を押し込めていく。単純な力勝負では勝ち目はない。
(くっ....!!どうする....!)
負けるかもしれない。ラウラとの約束を破ってしまうな....そう思った瞬間、俺の耳が、観客の声の中から少女の声を拾う。
「殿下ーーー!!!頑張ってくださいーーーー!!!」
大声援の中に凛と佇む彼女の声。その声は心に響き、何かが湧き上がるような感覚に襲われる。
(ああ....君は応援してくれていたんだな。なら、俺も君との約束を果たそう)
その瞬間、パルドの剣を受けていた体重が消えた。
たった一瞬の出来事。その瞬間にパルドは大きく吹き飛ばされてフィールドの壁に激突する。
何が起きたのかもわからず、声も上げずに固まる観衆。だが、俺は王族用の観客席にいる彼女の方を見て、ニヤリと笑った。
だが次の瞬間....
「うぉぉおおおおおおがぁああああああああ!!!!」
と、とてつもない雄たけびと共にパルドからあふれる魔力がさらに増幅した。その魔力はもはや周囲への影響を全く考えておらず、暴れるように壊していく。
試合会場の壁は抉れ、土煙が舞い、パルドの姿が見えなくなる。そして悲鳴の聞こえた観客席を見ると、数人の騎士たちが幽鬼のようにゆらりと立ち上がって観客を襲っていた。
「なっ....!?いったい何が....」
それは剣術大会で起こった悲劇。事態はやはり、深刻に事を進めていたようだった。
遅くなりましたが、新作出ます。




