第26話 騎士王子 vs パルド~前編
~レオンハルト視点
控室で剣を握る。大会用に用意された学園の剣は、どの武器も同じ素材を使った金属製。いつも持っているものと比べると物足りなさはあるが、それでもしっかりとした剣だ。
今は第4回戦。今のところ苦労することなく勝利し、ベスト4まで残った。今までの試合結果は全てライラよりも早く、煽るようにフッと笑ったらツーンとした態度で返された。
そこが可愛いところでもあるのだが。
「ようレオ。準備はどうだ?」
「気合入ってるな」
「主君主君、ファイトだぞ」
学園でいつも傍にいてくれる友人たちが励ましてくれる。本当は陛下から頼まれた護衛兼従者なのだが、俺はこいつらの事を友人だと思っている。
そんな激励を受け、ますますやる気が出た。
(相手はパルド・アンドルファーか。平民出身という話だが、かなり腕が立つ。だが....)
いつもと違う、そう思う。
今までの試合を見て思ったのだが、太刀筋や動き方がいつもと違う。何回か遠目で見たり、授業内で模擬試合をしたことがあるが....
(いつもよりも動き方が荒い。剣の扱い方が大雑把になっている。他にも上げようと思えばいくつかあるが、今までの彼の動き方を考えると何かがおかしい)
彼の使う流派は王国流の物だ。無難だが、彼の体格からして最適解であろう。その剣の扱い方は河を勢いよく流れる水のように滑らかで、重心の使い方をうまく利用した流れるような戦い方をする。
だが、今の彼は洪水そのもの。型などというものをはみ出し、力技によるパワープレイが目立っていた。
確かにその方が観客は湧くだろう。だが、普段から彼を知っている者や、噂程度には聞いたことのある者は違和感を覚えたらしい。生徒間で、彼の戦い方に関するうわさや憶測が飛び交っていた。
「正直わからんが、戦ってみればわかることだ」
「相手のことか?前に騎士科に練習訓練に行ったことがあるが、その時とはかなり変わっていたな。もっと好青年だったはずなんだが」
「ゼレフも戦ったことがあるのか?」
「ああ。実力は申し分なし。人格も好青年で、騎士科の兄貴分みたいなやつだったはずなんだが....人は変わるというが、あれは最早別人の域だぞ」
ゼレフが言うのだから間違いはないだろう。となると、彼の豹変に関しては益々きな臭くなってきた。
そう考えていると、案内の生徒に呼ばれる。そろそろ試合が始まるようだ。
「行ってくる」
「ああ。行ってこい」
「頑張ってね~、レオ」
「主君、応援してるからなっ!」
再び励ましの言葉をもらい、少し口角が上がりながら会場の方へと足を進める。
その時、ふと考えてしまった万が一の可能性。大聖女マナが言っていた『魔族がこの国に侵入しているかもしれない』という言葉を思い出し、パルドの豹変と何か関係があるのでは?と疑ってしまう。
もしかしたらの可能性を考え、一応振り返って指示を出した。
「ゼレフ、俺が試合をしている間に観客席の見回りを頼む。マハトは会場外周の警戒を。シノブは....セレナに付いてやってくれ。可能なら、ライラとも一緒にいてほしい」
唐突なその指示に困惑する3人。だが指示の内容はすぐに理解し、主人がこう指示したことにも何か意味があるのだろうと納得したようだ。
「「「了解」」」
3人の応答を聞き、真っすぐに会場の光の先を見つめながら俺は歩いて行った。
***
『さぁまもなく始まります第4回戦第2試合!!ついに準決勝2戦目まで来ました!!3回生の試合も残り2試合のみ!どんな展開になっていくのでしょうか?!』
会場のボルテージもMAX。湧き上がる訓練場内の感性を聞きながら、私も自分の剣を握りしめた。
本来であれば、レオンハルト殿下の試合を見て次の試合のイメージを固めたりするだろう。相手であるパルド・アンドリューには申し訳ないが、レオンハルト殿下が負ける未来は見えない。
だが、今の私を悩ませる原因が2つほどある。
1つはパルド・アンドリューのこと。先ほどの一件でパルドの様子がおかしいことが分かった。邪眼を持っているのではという疑いもある。
今の所どこから“邪眼”が生成されて流されているのかは分かっていない。邪眼の仕組みも分かっていないのだ。
その元を辿る手段があるかもしれないなら、そのチャンスを逃すわけにはいかない。
(それと....)
2つ目の悩み種、それは....
「ライラ様!レオ兄様の試合が始まりますよ!!」
「そうですねセレナ様。ところで、なぜ私の左腕にしがみついているのでしょうか?」
未だに私は王族の観戦席から逃れられず、セレナ様がコアラのように腕にしがみついている。セレナ様の満面の笑みを見ては、やめてくださいとも言えない。
今日は私も試合のある日なのだから大丈夫だと思っていたのだが、試合終わりにセレナ様に捕まって連れてこられたのだ。次の試合の為に席を立つと、『ライラ様、頑張ってください!終わったらまた戻ってきてくださいね!』とニッコニコで言われてしまっては断れない。
しかも何故か、王族用の観戦席の出入り口を護衛する騎士には話が通っていたらしく、最早私がこの席を使用するのに何の疑問も抱いていないようだった。
「ライラ様の近くにいると安心するんです!私、お兄さまはいてもお姉さまはいませんから....」
一応、第一王子であるラインハルト殿下の婚約者であるメルル・シャングリラ様が義姉になるのだが、セレナ様は王弟の娘。歳が離れていることもありメルル様とはあまり接点がないらしい。
そんな寂しそうな顔をしないで....!!罪悪感で潰されそう!!
「わかりました。私の腕でよければ、いつでもお貸ししますよ」
「ありがとうございます!!ぎゅー!!」
こんな場面を観客席に見られでもしたら、『王族であるセレナ様があんなに懐いている!?まさかレオンハルト様の婚約者って....!!』みたいなことに繋がりかねない。だが、幸いにも私の席は観客席から死角になっている場所らしく誰にも見られていない。
先ほど友人であるセルカとリリアに、『ライラ様はどこで試合を観てるんですの?見回してもいなかったですから....』『そうそう!ライラちゃんと試合観ようと思ってたのに、どこかに行っちゃうんだもん!』と言われてしまった。
2人には申し訳ないが、王族からのお願いは断れないんです。
すると聞こえてきた一際大きな歓声で選手が入場したことがわかる。フィールドには、パルドが先に手を振りながら入ってくるのが見えた。
私は目はいい方だ。ある程度離れたこの位置からでも、パルドの付けている装備や装飾品はくっきりと見える。だが、邪眼らしきものは見当たらなかった。
(邪眼がない....昨日のは見間違い?いや、あの時感じたオーラは盗賊グランデスが使ってたものと酷似していた。感覚でわかるけど、聖女の魔力が危険だと訴えてる。間違うはずがない)
その時、会場をぐるぐると回りながら手を振ってアピールしていたパルドと視線が交差する。私の座っている位置は会場から死角の位置。となると今の視線は誰を見たのか?
すると、いつの間にかセレナ様が私に捕まる力を強めていた。1歳年下の私よりも筋力のない体が、必死に私に縋ろうとしていたのだ。セレナ様の方を見ると、小刻みに震えているのがわかる。
「セレナ様、どうかなさいましたか?」
「なんか....嫌な感じがします。目があった時、ゾクリと背筋を這うような何かを感じて....怖くて....」
聖女という存在が、後から目覚める例は少なくない。条件はわからないが、聖女紋が“いつ”現れるかは全くのランダム。今のパルドの魔力を“嫌な感じ”で感じ取れたのなら、もしかするとセレナ様は聖女として覚醒するかもしれない。
だが今はそんなこと気にしている場合ではない。小刻みに震えるセレナ様をそっと抱きしめて、「大丈夫です。私が何があっても守ります」と伝えた。
少し安心したようで、セレナ様が落ち着いていく。
となると、先ほどパルドと目が合ったのはセレナ様のようだった。パルドと初めに邂逅したのもセレナ様の前。これは偶然?いや、そんな都合よく偶然が起こるわけはない。もしかしたら、セレナ様が何かに狙われているということ?
色々考えてみたが、そう簡単に答えは出ない。最悪、試合が終わった後に直接聞きに行けばいい。危険極まりない行為だが、聖女の魔力があれば邪眼に対抗できることは身をもって実証済みだ。
すると、パルドよりも更に大きな歓声が響く。反対側の入場口よりレオンハルト殿下が出てきた。アピールをするでもなく堂々と歩く姿は絵になるなぁ....などと考えていると、レオンハルト殿下もこちらをチラリとみる。
今度は確実に私を見ていたようで、『勝ち上がるからしっかりと見てろよ』と言っているように聞こえた。どうしてパルドといい殿下といいこっちを見るんだ....私がここにいるのがバレたら面倒なんですけど....
2人は向かい合い、何かを話している。が、審判が試合の準備が終わったことを確認すると両者が剣を構えた。
『第4回戦第2試合、パルド・アンドリュー vs レオンハルト・アヴァロン!!試合開始ッ!!!!』
審判の合図とともに、試合が始まった。
最近は特にねむねむにゃんこ




