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第25話 隠れ聖女と虚ろな彼

 剣術大会2日目。

 昨日はセレナ様が出場した大会に熱中していたが、今日は私達の番だ。余熱が残っていないと言えば噓になるが、昨日の事ばかり考えてもいられない。


 結果として、セレナ様は準優勝に収まった。1回生の時は出ていなかったため、初出場で準優勝は素晴らしい成績だろう。

 試合後、セレナ様は泣きながら「悔しい」と私の胸に飛び込んで泣いていた。

 ほら見ろ。この子は“無能”なんかじゃない。強い意志を持った子だ。この大会で、生徒間での彼女の評価は大きく変わるだろう。もちろん、いい方向に。


 そして今日は私が出場する日。そして、トーナメント表を見てこっそりと笑う。


(トーナメントは2ブロック制。私はAブロックでレオンハルト殿下はBブロック!つまり、当たるとしたら決勝戦!)


「この前の借りは、必ず返します」


 この前の模擬試合で、私は負けた。唐突に決まったこととはいえ、私は出来る限りのことをしてなお負けたのだ。私だって子供、悔しいことには変わりない。

 これは、リベンジの機会を得たのと同じ!


 だが、決勝にたどり着くまでにも猛者はいる。負けるわけにはいかないのだ。


「ライラ様~!」

「セレナ様!こんなところまで何を?」


 手を振りながら駆け寄ってくるセレナ様。護衛も何も付けていないのは、一応ここが学園の敷地内なのも相まって安心しているのだろう。

 迷わずに私の胸に飛び込んできたセレナ様を受け止め、にぱっと笑うその笑顔にほっこりする。

 セレナ様はたまに幼いようにふるまうのだ。それがわざとではなく、天然なのも相まって大変可愛らしい。


「今日の試合、がんばってくださいね!私応援してます!」

「ありがとうございます。ですが、応援するならレオンハルト殿下の方では?」

「レオ兄さまはいいのです。私はライラ様に勝ってほしいので!」


 ふんすと鼻を鳴らすセレナ様。本気で私に勝ってほしいと思ってくれているようだ。


「わかりました。弟子の前で恥をかくわけにはいきませんし、私も全力で頑張らせてもらいます」


 セレナ様の激励に気持ちを改めていると、ふと横を通り過ぎる影が1つ。

 その瞬間、私は瞬時に剣を抜いてその人物の首元に突き付けていた。


 突然のことで驚いたセレナ様や周囲の人々が硬直している。

 だが、そんなことは知ったことではない。今、この男は明らかに()()()()()を纏い、セレナ様に触れようとした。周囲が感知してないことから、恐らく私にしかわからなかった波長。だが、この感覚には覚えがあった。


(今の魔力の感覚....邪眼だ)


 だからこそ、セレナ様に触れようとした時点で剣を抜いた。何が目的なのかはわからないが、セレナ様を危険な目に合わせるわけにはいかない。


「今何をしようとしました?」


 男に問うてみる。よく見ると、その男には見覚えがあった。

 パルド・アンドルファー。私と同学年の生徒で、平民から騎士学へと進学した男だ。直接話したことはないが、騎士学の中でも一目置かれた男だと聞いたことがある。


「別に。ただそこにセレナ様がいたから話しかけようとしただけだ。お前こそ、ライラ・ティルナノーグだな?セレナ様の護衛気取りか?」

「いえ。ですが、許可なしに不用意に王族に触れようとするのもどうかと思いますが」


 ピリピリとした空気感が蔓延する。だが、すぐにパルドが警戒を解いたように笑い出した。


「はっはっは!すまない。確かにこれは俺が不敬だった。申し訳ありません、セレナ様」

「え、えぇ....はい。大丈夫です」

「ライラ様も凄いスピードでしたな。同じ出場者として、当たることを楽しみにしていますよ」


 笑いながら去っていくパルド。不思議な人だったと周囲は思ったようだ。セレナ様も、よくわかってはいないようだったが安心したらしい。

 だが、見えなくなるまで私だけは警戒を解かなかった。

 彼の瞳の奥....かつて見たことのある薄暗い闇、それが渦巻くように彼の瞳を覆っていた。


(遠目に見たことある彼はもっと情熱と覇気に満ちていた。でも、今の彼の目に光はない。虚そのもの....やはり邪眼が?でも、なぜ彼が?)


 最後まで、私はそんなことを考えながら彼の去っていった方を睨んでいた。



***



『さぁ、やってまいりました3回生の部第1回戦第2試合!東側ゲートより、パラゲルーーーーーフォルドーーーーー!!!!』


 歓声を受けながら入場してきたフォルドー伯爵家の青年を、反対ゲートから見据えた。先ほどのパルドの1件は気になるが、それよりも今は自分の試合に集中しなくてはならない。

 念のため、セレナ様の護衛を強化するようにレオンハルト殿下に頼んでみたところ快く了承をもらい、今は陛下やお父様と一緒にいる。今のところ、この会場内で一番安全な場所なので大丈夫だろう。


『続きまして西側ゲートより、かの有名な“騎士の家”ことティルナノーグ家のご令嬢!!ライラーーーーーティルナノーーーーーーグ!!!!!』


 先ほどよりも大きい歓声に包まれて私は会場内に進む。手を振ったりアピールなどせず、ただただ相手を見据えていた。

 そしてお互いに向き合い、ぺこりとお辞儀をする。


「かの有名なライラ様とお手合わせできるなんて、光栄です」

「こちらこそ、パラゲルさんのお話は聞いています。胸をお借りしますね」

「ははは。それはこちらのセリフですよ。ライラ様」


 審判の試合開始のコールとともに、私は一直線に走り出した。それに対し相手は受けを選択したようで、構えの状態から防御の姿勢にチェンジした。

 騎士学の演習を見たことがあるから知っているが、パラゲル・フォルドーもセレナ様と同じく“受け”と“カウンター”主体の戦い方だ。そのため、愚直に攻めてくる相手との相性はいい。


(相手が私じゃなければですけど)


 相手には申し訳ないが、こちらは騎士の家系。同じ騎士を輩出する家柄だろうが、こちらには敵わない。


 愚直に振り下ろした剣をパラゲルが受ける。本来のカウンター技は防御してしての威力を殺しつつ、そのまま態勢を崩させて打ち込む。相手の動きから見ても、素直な動き方で安心した。

 テンプレ通り剣ごと横に流して行うカウンターだったため、態勢を崩すふりをしてそのまま反撃に出る。


 この試合では、剣以外での物理攻撃も認められている。そのため、瞬時に剣から手を放してのけ反ることで相手のカウンターを回避した。


「ふっ!!」


 柔らかい体を利用して、足で相手の手首を蹴って剣を落とさせる。その瞬間にするりと抜けた私は自分の剣を拾い、困惑するパラゲルの喉元に剣を突き付けた。

 上空から落ちてきたパラゲルの剣が、カランカラン....と会場に音を立てる。


「参りました」


『決着!!勝者、ライラ・ティルナノーーーーーーグ!!!』


 相手が学園から選ばれた精鋭とはいえ、負ける気はしない。

 1回戦は苦労することなく、決着した。


 ふと、視線を感じて観客席を見る。

 誰がいるわけでもなく、知り合いでもない。だが、そこにいた少年と思わしき人物と目が合った。

 小さな帽子を頭に載せ、マジシャンのような不思議なフェイスメイクをした少年。

 少年はにっこりと微笑んでこちらに手を振り、何を言うでもなく立ち上がって去っていく。

 

 何でもないただの少年のはずなのだが、なぜか無性に私の記憶に残った。


この剣術大会で第一章は終了予定です。

まだまだ続きます。

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