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第24話 隠れ聖女と剣術大会~後編

~セレナ視点


「無能....そうですね。私はライラ様がいなければ本当に無能でした」

「はっ!その通りだ!運動音痴でドジ、おまけに勉学にも魔法にも精通していない!王家の親戚ってだけでいいご身分だなと感じてる奴は沢山いるぞ!」


 勝ち誇ったように言い放つグレゴリー。『なんでお前が本戦に出られてるんだ』と瞳の奥で物語っていた。


「ですが、“無能”なセレナはここまでです!ライラ様に教えていただきました。『人は長所と短所が必ずある。何かに秀でた人はいても、何もできない人はいない』と。

 私は何もできない“無能”、でもそれは私が努力する方向を知らなかっただけ。今の私は、前とは違います!」

「無能風情が....吠えるなよ!!」


 試合開始の合図が出る。


 開始と同時に駆け出したのはグレゴリー。剣を振り、一太刀で終わらせるとでも言いたげな勢いだ。

 正直、怖い。体格差や力量を考えても、私が真正面から受けたら一撃で終わるだろう。相手もそう思ったから突撃してきたはずだ。


 でも、今の私なら大丈夫。


 すぅ....と息を吸い、ゆっくりと吐く。落ち着いてきた。大丈夫、集中できている。

 開けた目でグレゴリーを見据え、その一挙一動を注視する。振り下ろされる剣。だが、これすらも今の私なら敵ではない。

 ゆっくりと、確実にレイピアを当てる。そのまま剣のしなりと形状記憶能力の反発を利用して....


 キィィン!!


 と甲高い音が鳴った。先ほどまで確実に私を捉えていたはずの剣が地面に突き刺さり、代わりに逸れた私のレイピアがグレゴリーの喉元にある。

 一瞬の出来事に何が起きたのか理解できていない様子のグレゴリー。だが、突き付けられたレイピアをチラリと見て、頬を冷汗が伝った。


「ま....参りました....」


 一瞬。あまりにも早すぎたその試合展開に、会場が驚きのあまり固まる。一般客は知りようがないが、かつて私の事を“無能”だなんだと言っていた生徒は度肝を抜かれたことだろう。

 王女として、あまり汚い言葉使うべきではないけど....正直、『ざまぁみろ』って言ってやりたかった。


 審判の試合終了の合図に応じて、会場が再び沸き立つ。こうして、私の第1回戦は全試合中最速で終了した。


 控室に案内され、次の試合までしばらくあることを伝えられる。ふと、そういえばお父様たちに報告しなくてはと思い、急いで着替えて王族の席まで走っていった。



***



「ライラ、今のはどういうことだ?」

「どういうこと、とは?」

「セレナの剣術だ。あれでは剣術の試合にはならんだろう」


 レオンハルト殿下の言うことはもっともだ。セレナ様は剣での攻めを受けたわけではなく、そのままいなす、つまり受け流したのだ。

 本来、剣術同士での試合は剣と剣がぶつかり合うのが主流。回避も重要だが、たった1回の受け流しで決着がついてしまうなど試合というにはあっさりしすぎだ。


「私はセレナ様に教えただけですよ。剣と剣のぶつかり合いじゃなく、『流剣』と呼ばれる戦い方を」


 『流剣』とは、その名の通り攻撃を“受け流す”ことに特化した剣術。常に相手の一挙手一投足に気を配り、力の流れ・流すべき方向・いなす道順を瞬時に確認し、相手を崩してから行うカウンターで仕留めるもの。

 この剣術は、かつて家族で隣国である『楼月(ろうげつ)』という和の国に行ったときに教わったものだ。その時に出会った侍の家系の少女とともに、剣豪にみっちりと仕込まれたのはよい思い出だ。


「セレナ様の体は小さく、力も弱いです。その点、体幹バランスや持久力には秀でていました。そして、何かに注視する集中力もあります。剣同士の戦いにおいて、攻める場合は筋力やスピードといった身体的な面が顕著に表れます。セレナ様では受けられて跳ね返されるのがオチかと。

 ですから、セレナ様の剣術は“攻め”ではなく“受け”に特化した剣術を選びました。レイピアであれば軽く扱いやすいですし、何よりセレナ様のカウンターは理解していても防げない」


 現にこの技を教えてから何度か立ち合いを行ったのだが、相手がカウンター主体だとわかっていてなお防ぐことが出来なかったパターンがある。もちろん、持ち前のスピードと体幹を使って無理やり突破したけど。

 一応先生なので。生徒に負けるわけにはいかないのですよ。ええ。


「ほぉ、いつのまにそんな剣術を会得していたのか!デオルよ、それ私にも教えれないか?」

「はぁ....陛下が覚える必要はないと思われます。それに、仮に教えるとなればラインハルト殿下のほうでしょう。セルカがいますから」

「むぅ、確かにその通りだな。どうだレオ、お前も教えてもらっては」


 話を振られたレオンハルト殿下は表情を変えずに考え、


「そうですね。では、ライラ嬢に教えてもらうとしましょうか」

「え゛っ」

「なんだその嫌そうな声は....まぁいい。セレナの教育の際に俺も便乗させてもらうとしよう」

「え、嫌です」


 こんなにはっきり断られるとは思っていなかったのだろう。少し意外そうな顔をするが、すぐにその目元は緩んだ。それでこそお前だとでも言うように。


「そうです!ライラ様は私の先生なのです!」

「セレナ様」

「勝ちました!レオ兄さま、叔父様、見ていただけましたか?」


 嬉しそうに笑顔を振りまくセレナ様が、後ろから私に抱き着いてきた。

 私が教えた剣術で、ここまで喜んでくれるとは嬉しい。確かに、初めて経験した“勝利”の感覚は忘れがたいものだ。


「あぁ、見ていたぞ。よく頑張ったなセレナ」

「えへへ!ありがとうございます!レオ兄さま!」


 こういう無邪気なところは年相応に見える。1年しか違わないとはいえ、まだまだ子供なのだ。慕っている兄妹や親に褒められたら嬉しいものだろう。


「ライラ様、私頑張ります!教えてもらったことを、全力で発揮してきます!」

「はい、応援してます。今後もセレナ様とは長い付き合いになりますからね」


 その言葉に、キョトンとした顔を向けるセレナ様。か、可愛い!!

 気が付くと、レオンハルト殿下やお父様....いや、この場にいる全員がこちらを見ていた。


 なんですか?私、変なこと言いましたか?


「それって、レオお兄様とくっつくってことですか?!」

「ちょ、ちょっと待ってください!どこからそんなお話が?!」

「そろそろレオにも婚約者をつけようかと思っていたが、これは....」

「そろそろライラも婚約者くらい作って貰おうかと思っていたが....」


「「それ、いいな!」」


 年甲斐もなく父親2人がはしゃいでいた。おいおい....この国の王子と自分の娘が『まじかこいつら....』みたいな目で見ているのがわからないんですか?

 だが、レオンハルト殿下はすぐに冷静になったようで、


「俺としては一向に構わないですよ陛下。ただ、彼女には彼女の意志がある。我々の一存で決められることではないかと」


 意外にも擁護してくれた。少しうれしかった反面『私との婚約は嫌なのか?そんな義務的に執り行うレベルなのか?』と思いムカッともした。

 だが、私とてそんなことでキレるほど短気じゃない。陛下とお父様が期待を込めた目でこちらを見てくるのだ。簡単にノーとは言えない。


「....考えておきます」


 逃げる時の常套句。王族と婚約なんて誰がするものか!

 まぁ仮にするとなったら、私の“聖女紋”がバレたときですけどね。そうなれば、私が王族から逃げようとする理由も無くなる。そして同時に、聖女としての存在もバレるため私の自由は無くなるってことなんですけどね。


「ま、まあそんなことはともかく、まだ試合は続きますし今日は大会を楽しみましょう?」

「うむ、それもそうだな。セレナよ、期待しているぞ?怪我だけはしないようにな?」

「はい!叔父様!」


 元気よく答えたセレナ様に、この場の一同が微笑む。


 そして本日、セレナ様は2回生の部で準優勝という成績を収めた。


極力早く上げるよう努力します

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