第23話 隠れ聖女と剣術大会~前編
少し短いです。ご了承ください。
「き、緊張します....!私が勝てるんでしょうか?!」
「セレナ様、そこまでガチガチになる必要はありませんよ。ただ気持ちを楽に、深呼吸をするだけでいいのです。
セレナ様は十分お強い。落ち着いて戦えば、負けるはずなどありません」
緊張で肩に力が入ってしまっているセレナ様を摩りながら、落ち着くようにと促す。背中を摩ってあげると、力が抜けていったようだ。
今日は剣術大会本番。この国の貴族達や騎士を目指す者達が、己の武勇を見せつける場。参加は自由、事前のエントリーさえしていれば、平民だろうが貴族だろうが参加できる。
日程は3日間。1日目は1回生と2回生、2日目が3回生と4回生、そして最終日が5回生と6回生で執り行う。
試合は予選のバトルロワイヤルと本戦トーナメントの2種。予選から上がれるのは8人までだ。
本戦トーナメントは合計32人からその年の最強を決める。予選から上がってきた8人と、学園側から選出された生徒24人のトーナメントで、2つのブロックから勝ち上がった生徒が最終的に決勝で当たる仕組みだ。
学園側から本戦シードとして選ばれるには実力や実績が必要。私も殿下も本戦確定な為予選には参加しない。セレナ様も、あの日の私達の立ち合い以降教師に注目されていたようで、剣術の授業ではめきめきと頭角を現しているのだとか。
「安心して下さい、セレナ王女殿下。今のあなたは強い。心も、体も、騎士として恥じないくらいしっかりと強くなっています。緊張せず、ゆっくりと息を吐いてください。セレナ様なら大丈夫。
それに、誰が剣を教えたと思っているのですか?」
そう諭すように話しかけ、にっこりと自身満々に笑ってあげた。
その顔を見て、ゆっくりと深く呼吸をしたセレナ様の目に光が宿ったのを確認する。
「はぁーふぅー....もう大丈夫です。私ならやれます!」
すると、案内係の生徒がセレナ様を迎えにくる。もうそろそろアナウンスが入り、セレナ様の試合が始まるだろう。
「行ってきます!先生!」とそう勢いよく言った彼女の横顔は、とても凛々しく私の目に映っていた。
***
『さぁさぁどんどん参りましょう!続きましては2回生の部、本戦トーナメント第1回戦第3試合!東側ゲートよりグレゴリーーーーーモッドォーーーーーー!!!!』
金属製の剣を携えて入ってきた青年はぺこりとお辞儀をし、相手方のゲートを見る。だが、その目が相手を舐め腐っている生意気な目をしていることに私は気づいた。
『続いて西側ゲートより、セレナーーーーーエデンーーーー!!!』
自信に満ちた目で会場に入るセレナ様。同じくぺこりとお辞儀をし、審判を挟んでグレゴリーと向かい合う。
手に持っているのは細剣、そう、私と同じタイプの剣だ。だが、私の剣と違って軽量化し、刀身はしなりを重視して柔らかくしてある。
私が過去の依頼で入手して、倉庫の中に放り込んで忘れていた特殊金属を加工し、馴染の鍛冶屋に頼んで作ってもらった特注品だ。形状記憶能力があり、変形しないし、折れない優れもの。
「ふんっ....ティルナノーグ家のご令嬢に指導してもらってるからって、調子に乗るなよ無能が」
この学園では平民も貴族も王族も関係ない。男爵家出身の彼がこういうことを言っても不敬にはならない。
それに、彼の実家であるモッド男爵家はティルナノーグ家同様、騎士の家系なのだ。騎士を目指す者にとってティルナノーグ家は憧れの存在なのだろう。その家のご令嬢に、直接指導してもらえているセレナ様が羨ましくも憎たらしい、そんなところだろうか?
(まぁ....王家の親戚ですから、外で下手に言えば1発アウトですけどね)
レオンハルト殿下に、『なぜセレナ様は王家本家の扱いになっているんですか?』と聞いたところ、『父上....陛下がセレナのことを溺愛していてな。本当は叔父の娘なんだが、婚約やら外交やらの面倒ごとが向いてしまうのを避けるために、あえて陛下の管轄で保護してるんだ。叔父も陛下の事は信用してるから、任せているそうだ』とのこと。
あのおじさま....ああ見えて姪に甘々なのか。
「おい、何を考えている?」
横から話しかけてきたのはレオンハルト殿下だ。というか、なんで当然のようにこの人が横にいるんだ全く。そうは思うが、今いるのは一般の観客席ではなく王族用の席だ。本来であれば、私がこの場にいるのは不相応だと言われてもおかしくないのだが....
「ライラ、お前の生徒とはあの子か?」
「はい。そうですお父様」
陛下の護衛として父であるデオル・ゲオルグス・ティルナノーグがいる。セレナ様を送り出した後、出入り口にいた殿下に捕まり、流れるように席へと案内され、陛下に『ちょうどいいからここで観るといい。どうせ王族が座るだけにしては広すぎるからな』と言われては断ることなどできない。
「お前から見て、彼女はどうだった?」
「物覚えのいい子ですし、何より成長速度が速いです。教えがいのある生徒ですよ」
「そうか。だそうですよ、陛下」
その言葉を聞いて「カッカッカ!!」と笑う陛下。
「なら、剣術以外にもセレナ専属の教育係として任命しようじゃないか!ライラ嬢であれば私としても問題ない!むしろ大歓迎だ!なんなら花嫁修業もさせたいな!」
面倒なことになった。これは謹んでお断りしよう。うん、そうしよう。
「陛下、その役目は私では役不足です。謹んでお断りさせていただきたく思います。それに、私とてなんでもできるわけではありません。花嫁修業など以ての外。私には婚約者すらいないのですから」
「ふむ、ならばレオンハルトと婚約するのはどうだ?噂によれば、学園内でも随分と仲がいいそうじゃないか。それに教育係の件は了承済みだよ。なぁ、デオル?」
「陛下が望むのであれば、娘をお貸ししましょう」
「だそうだ」
にっこりと笑う陛下。それにひきつった笑みで返す私だったが、陛下の見てないところでしっかりと父親のデオルを睨んだ。
ちらりとこちらを見たお父様の瞳からは『今までさんざん好き勝手させてきたんだから、そろそろ婚約の一つでもして大人しくなってくれ』という意思を感じられた。
「はぁ....わかりました。教育係の件は引き受けます。詳細は後日合わせましょう」
「うむ!それでよい!さて....そろそろ試合が始まるし、会場に注視するとしようか!」
陛下が上機嫌になってくれてよかったと思う反面、また私の自由が減った....と思わざるを得なかった。
そして、横で殿下が『大丈夫か』という視線を送っていることに、私は気が付かなかった。




