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第22話 隠れ聖女と剣術大会~前日

お久しぶりです。

作品の引継ぎなどで時間がかかりました。

続きです。

 剣術大会まであと3日。セレナ様のレッスンも順調に進み、護身術程度の指導が“一般学生騎士レベル”の指導段階にまで到達していた。

 それもこれも、セレナ様は他学生が言うような“無能”ではなく、単に学び方を知らなかっただけのようだ。

 現にこうして一から指導をしたら見る見るうちに吸収し、学生騎士と同じレベルまで到達している。


(元々王家の血筋ですし、才能はあったんでしょうね)


 目の前で汗を流しながら素振りする王女様。逞しくなってくれて先生嬉しいよ。

 そう思いながらほっこりしていると、目の前から不機嫌そうな声が返ってきた。


「....何を考えている?さっきから受け流してばかりじゃないか」


 そう言いながらも襲ってきた木剣をいなし、かわし、受けては流す。そんなのらりくらりとした剣術で木剣を打ち合っていた。

 不機嫌そうに言うのはレオンハルト殿下。あの日以降、味を占めたのかセレナ様のレッスン中に現れては何度も打ち合いを所望してきた。暇なのか?


「そんなやり方じゃ、俺は越えられないぞ」

「いえ、そうでもないですよ?相手の剣の“癖”を読み取るためには受け流すのが一番わかりやすいですから」


 正直、いい試合だったとはいえ負けは悔しい。男女の体格やリーチの差、あとは純粋なパワーなど同じに比べてはいけない部分もあるが、技量でカバーしきれなかったのは痛恨のミスだ。

 誰にでもできるわけではないが、殿下とはもう一度大会で当たることになる。

 となれば、今のうちに“剣の癖”を掴んでおくのは今後の戦いに使えるだろう。


 あまりにものらりくらりとしすぎて殿下がつまらなくなったのか、一瞬の隙をついて急に殿下の剣が加速した。


「えっ....ちょ?!」


 驚きのあまり変な声が出たが、私も咄嗟に剣を当てて相殺する。

 バックステップで下がるが、構える隙すら与えないと言わんばかりに殿下が突っ込んできた。


 刺突を受け流し、そのまま殿下の剣をなぞるように横なぎ。だが、殿下が屈んだことで私の剣は空中を斬り、振り切った瞬間に殿下の追撃が入る。

 剣を戻して受けるのは速度的に無理。そうなると方法は一つしかなかった。


「“衝撃(インパクト)”!!」

「くっ....!」


 空間魔法“衝撃(インパクト)”で殿下の剣ごと殿下を弾き、私もノックバックで下がった。


「....一応言っておくが、本番で許されるのは強化魔法までだぞ」

「知ってます。急に襲ってくる殿下が悪いです」

「言い方が悪い気もするが....のらりくらりとした対応が気に食わなかったのでな。無理にでも戦わせようと思ったんだ。すまない」

「いえいえ、私こそ心ここにあらずですみません」


 そう言って、お互いに騎士の礼をした。これが模擬戦闘終了の合図となる。


「セレナ様、調子はいかがですか?」


 そう素振り途中のセレナに聞いてみる。汗だくになりながらも手を止め、微笑みながらこちらに寄ってきた。


「順調です!闇雲に振り回すのがやっとだった剣が、今では体の一部のように感じます」

「それはよかったです!剣は道具ではなく“相方”。セレナ様の体の一部になってるのなら、その存在が刻み込まれた証拠です」

「今なら騎士学の生徒にも負ける気はしません....!本番が楽しみですね!」


 セレナ様はワクワクした様子で、再び素振りに戻っていった。

 すると、殿下が隣に寄ってきて問いかける。


「セレナの様子はどうだ?」

「物覚えがよくていい子ですよ。上達しようという志向も見えます。将来は大物に化けると思いますね」

「....あいつは昔から億手でな。付き人と家族以外にあまり心を開かなかったんだ。それが、今は自分からライラに教えを乞うている。きっと、君の中の“何か”に触発されたんだろう」


 私の何に影響を受けたんでしょうね....?そんな大層なことをした覚えはないですが。

 あと、さらっと名前呼びしましたねこの方。


「私が彼女の助けになったのなら幸いですよ」

「剣術だけじゃなく、魔法も頼むぞ。ライラ」

「そのつもりです。セレナ様は、私の可愛い可愛い生徒ですから」



***


 ~パルド視点


 夕方、王都のとある商店街にて。学生服に身を包んだ男女数名が、夕方日も落ちそうな時間帯に歩いていた。各々串焼きや果実水を持っていることから、大会前日の息抜きといったところだろう。


 明日は剣術大会。ドラグニア王立学園で行われるビッグイベントの1つだ。

 毎年開催されるこのイベントには、王都の内外問わず多くの人がやってくる。学生同士の大会なのだが、将来性のある若者のスカウトや、打ち合いの駆け引きなど人を惹きつける要素は多々ある。

 そのため、王都がより一層賑わう3日間といっても差支えがない。


 前日ということもあり、宿はどこも満室だ。通りを歩くだけでも、人の出入りはいつもよりめちゃくちゃ多い。

 俺は騎士学の生徒で、パルド・アンドルファーという。平民出身だが技量と実力でここまで這い上がってきた。学友にも恵まれ、将来の騎士候補の1人となっている。

 早く騎士になって武勲を得て、両親に楽させてやるのが俺の夢だ。そのためにも、今度の剣術大会でいい成績を残さないといけない。


「にしても凄かったよな~この前の立ち合い。殿下もティルナノーグ様も速すぎて全然わからなかったもん」

「片や騎士団に同行するレベルの“期待の新星”、片や騎士なら誰でも憧れる“ティルナノーグ竜爵家”の末娘....まぁ、そりゃああなるよね」

「でもでも、そのおかげですっごい闘志燃えちゃったんだよね!あたしも頑張らないとな~!」


 あの立ち合いを見て、燃え上がった生徒は少なくない。現に、俺もその1人だ。

 あれだけの技量、あれだけの戦闘を披露することができるだろうか?不安にもなるが、そこは自分の力を信じるしかない。


「俺も頑張る。早く騎士になりたいし、いいところを見せたいからな」

「え?!何々?好きな人でもできたの?」

「まぁ....そんなところだ」


 少し照れながら返すと、様々な反応が返ってきた。


「まじか!お相手は誰なんだ?」

「え~嘘~!?(ボソッ)私の方が先に好きだったのに....」

「どこで知り合ったんだ?名前は?」


 あの立ち合いの時、2人の側にいた彼女。どうやら王家の親戚らしく、平民である自分が簡単に恋愛関係になれるような人物ではない。

 だからこそ武勲を上げ、かっこいいところを見てもらいたい。

 どうやら彼女はティルナノーグ家のご令嬢を師事しているらしく、彼女も大会に出るそうだ。彼女の前で強い自分を見てもらって、名前だけでも覚えてもらいたい。


 そう考えたら少しにやけてしまった。彼女の微笑みは、まるで太陽のように自分を照らしたのを覚えているから。


 その時、ふと視界の端に何かが映る。そちらを見るとそこにいたのはみすぼらしい老婆。水晶玉を置いていることから、占い師であるのは明白だった。


「もし....」

「?」


 最初は気づかなかったが、声が聞こえて振り返ると老婆がこちらを見ていた。その視線は、明確にこちらを見ている。


「もし、そこのお兄さん。良ければ占っていかないかえ?」

「俺に言ってるのか?」

「そうですとも学生騎士のお兄さん。私は辺境から来た占い師でねぇ。よく当たるって評判だったんよ。なに、料金なんぞいらん」


 正直、胡散臭い。

 だが、無料で占ってくれるというのならこの胡散臭い誘いに乗ってみるのもまた一興かもしれない。


「わかった。タダでやってくれるというのならやってもらいたい」

「ええ、ええ。いいですとも。何を占って欲しいんです?」

「明日以降の剣術大会、その結果を教えてもらいたい。俺が優勝できるかどうか」


 相手には先ほど話題に出た第2王子と竜爵令嬢がいる。この2人を突破できるかどうかが、爪痕を残せるかどうかの鍵なのだ。


「むぅ....出ました。金色の輝くような髪色の女性、そして対照的に漆黒の髪の男性....この2名があなたの障害となり、立ちふさがるでしょう。そのままでは勝てませぬ。

 ですがこのペンダントをお守り代わりに持っていれば、あなたの勝利は確実となるでしょう」


 そう言って老婆が取り出したのは不思議な形のペンダントだった。やはりそういう売り込みかとため息をつく。


「そうか、ありがとう婆さん。だけどそのペンダントは買わないよ」

「いえいえ、お代はいらないと言ったはず。これはあなたに差し上げまする。試合の前に、勝ちたいと強く願ってペンダントを身につけて下され」


 渡されたペンダントを握る。これもただでくれるというのなら貰っておくが....何が目的なのか全くわからない。


「....ありがとう、貰っておく。頑張るよ」

「えぇ、えぇ。頑張って下され。この国の未来は明るいですじゃ」


 はにかんだ婆さんに別れを告げ、友人たちに合流する。ペンダントはポケットにしまった。


 ふと気になって振り返ると、先ほどまで老婆がいた場所には何もなく、ただ風が吹くばかりだった。


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