第21話 隠れ聖女と剣術決闘
タッタッタ....と学園の外周を走る音が2つ。時間は夕方、ジャージ姿の女子生徒が2人で学園の外周にあるランニングコースを走っていた。
ポニーテールに髪を纏め、同じ格好をした背丈の違う2人。
金髪が私、ライラ。銀髪がこの国の第一王女、セレナ様である。
「はぁ....はぁ....ラ、ライラ、様....待ってください....」
「大丈夫ですか、セレナ様」
外周を1周したタイミングで、セレナ様がぜぇはぁと息を切らしながら芝生に転がった。
運動の後なのだ。王族らしくないその行動を咎めることはしない。
「なん、で....ライラ様は....はぁ、はぁ....そんな、に....元気なんですか....」
「普段から鍛えてますから。一応これでも騎士の家系なので」
「そう、でしたね。ふぅ....落ち着きました。体がバキバキです」
差し出したドリンクを飲みながら、落ち着いたのか息が整っていくセレナ様。
何故今2人してランニングをしているのかというと、これが私が引き受けた『王女教育』の一環なのだ。
セレナ様の専属教育係を引き受けてから既に2週間。来月に迫った剣術大会で、セレナ様がベスト8に入れるレベルまで育てる為にこうして特訓をしているのだ。
レオンハルト殿下からは「そこまでしなくても、最低限護身術とかが身についているレベルでいい」とは言われたのだが、そこはもう私のプライドの問題だ。
「さて、小休止してから打ち込みの練習でも始めましょうか」
「はい!先生!!」
「先生は恥ずかしいのでやめてください....」
「なぜですか?」
クッ....この屈託のない笑顔が眩しい!!
「まぁ、いいです....お好きに呼んでください」
普通に負けてしまった。
***
校舎内の訓練場から響く剣撃。この2週間の内に、セレナ様は教えたことをそんそん吸収していった。もうそこらの学生と同等レベルには戦えるのではないだろうか?
(まぁ、騎士学の応用1レベルですからまだまだひよっこですけどね)
本人のやる気も相まって教えることが楽しくなってしまった私は、セレナ様が覚えたいと思うものを片っ端から教え込んだ。時には教育終了と共にそのままベッドインするような日もあったが、なんだかんだ楽しくやれている。
「....」
「....」
そこで眺めてる“黒髪のお兄さま”がいなければですけど。
「....何か失礼なことでも考えたか?」
「いいえ、特に何も」
なんで第二王子が常にこちらを見張ってるのだろう?正直、邪魔。
「レオンハルト殿下は執務は無いのですか?」
「王位をつぐのは兄上だからな。学園の執務を手伝うことはあるが、俺に出来ることはほとんどない」
「なるほど、暇なんですね」
「....もう隠す気もないのか?」
「まさか?オブラートには包みましたよ」
嘘だ。ポロっと本音が出た。
だが、事実この学園の王家管轄の執務は第一王子の仕事。レオンハルト殿下は将来的に王国騎士の一員となる為、基礎訓練や鍛錬の類が多い。だからこそ、こうして自由にされているのだろうが。
「そこで見ているくらいなら訓練でもしたらどうですか?」
「なるほど....その発想は無かったな」
騎士になろうというものが“訓練をする”という発想がないわけないだろう。何をとぼけてるんだこの人は。
そう思っていると、レオンハルト殿下は木剣を手に取り、私の反対側に向かい合って剣を構えた。
「....何してるんです?」
「訓練をするんだろう?つまりお前が相手になってくれると」
何をアホなことを。私がいつ相手になると言ったのだろうか?
そう少し嫌な顔をしていると、目をキラキラさせたセレナ様がこちらを見ていた。
「レオお兄様とライラ様の決闘....!!とてもわくわくします!」
「らしいが?」
レオンハルト殿下にそう言われてもやる気にはならないが、教え子にそう期待されてしまっては断るわけにはいかない。
正直気乗りはしないが、しょうがないと思って諦めることにした。
「はぁ....わかりました。私でよければお相手します」
「ハンデは必要か?」
「これでも騎士の家系です。いりません」
こちらも木剣を構える。
ピリピリとした空気感が場を支配し、セレナ様は少し離れた位置に避難した。
「それでは、レオお兄様とライラ様の立ち合いを始めます!双方、用意!」
私が使うのはエキドナ王国流剣術の派生、ティルナノーグ竜爵家に伝承されてきた型だ。対して噂で聞いたレオンハルト殿下は同じく派生、だが独自の型を使うらしい。
騒ぎを聞きつけたのか、ちらほらと観客が入り始めるのが見える。
「始めっ!!!」
その声と同時に駆け出す両者。
先ほどまでお互いがいた位置の真ん中で木剣同士が打ち合う。真剣であれば火花が散っているであろうくらいにギチギチと競り合っていた。
先に動いたのは殿下。力任せに振り払い、ノックバックで私は少し下がる。
それを見逃すまいと距離を詰めてきた殿下の剣を、切っ先で受け流した。目だけは殿下を見据え、そのまま横薙ぎで攻撃するが仰け反って殿下は避ける。
その瞬間に腕を地面につけ、後方回転を利用して剣を弾きに来た。
「ッ!!」
私は咄嗟に剣を手放し、殿下にわざと当てさせて空中へと木剣を弾かせる。
回転から顔を上げた殿下が襲うより早く、私は空中へと跳躍し木剣を掴む。そのまま切っ先を下に向けて殿下めがけて突き刺した。
が、やはり殿下はそれすらも避ける。
ほんとに速いですねこの人....素直に感心します。
時間にしてわずか十数秒ほどの戦闘。だが、あまりの速さ、レベルの高さから観客の食い入るような目線が刺さる。
中には教師もいるようだが、止める気配はない。
「やはりというか、さすがだな」
「殿下もです。さすがは王国期待の超新星」
「その呼び方は止めてくれ。シンプルに恥ずかしい」
お、照れてる。可愛い。
だが、そんな日常会話が続くはずもなく、再び戦闘は始まる。
今までのはお互いにウォーミングアップだ。つまり、ここからが本番なのである。
身体強化と剛化をかけ、さらに高度な打ち合いが始まろうとしていた。
構えた両者が一斉に駆け出す。先ほどよりも重い一撃が、訓練場内に響く。風圧と衝撃波が周囲の観客にまで届いている。
訓練場内の床がミシミシと音を立て、今にも穴が開きそうだ。
だが、そんなことはお構いなしに横薙ぎの上段で殿下の体勢を崩そうとする。が、避けた殿下が状態をひねって遠心力を利用して同じく横薙ぎを使ってきた。
「ふっ....!!!」
払った横薙ぎの木剣をすぐさま戻し、そのまま腕と剣でガード。重すぎる衝撃によろけそうになるが、今攻めているのは殿下の方。ならば、ここで力を別方向に流せば....
自身の体系の小ささと軽さを利用してするりと殿下の剣を床に流す。瞬間、殿下の体勢が崩れた。
(チャンス!!)
剣同士の打ち合いにおいて、体制を崩すという行為は自ら負けに行くようなものだ。その状況に追い込まれたならそれはその人物の落ち度だろう。それも実力。
殿下が反応するより早く振り上げた剣を振り下ろした。
だが....
「甘い」
「ッ?!」
剣を手放した殿下が両手を主軸に起き上がり、振りあがった足で剣が弾かれる。
その瞬間に剣を構えた殿下が横薙ぎ一閃。間一髪で避けるものの、蹴られた手が痺れたことでバランスを崩してしまう。
尻もちをついた私の首元に突きつけられた木剣が、試合結果を物語っていた。
「はぁ....はぁ....参りました」
「俺の勝ちだな」
「「「「「うぉぉぉおおおおおお!!!」」」」」
唐突な歓声に2人してビクリとする。試合に集中しすぎた結果、集まり始めた観客の数に気づかなかったらしい。
中には兄であるセルカや第一王子殿下、騎士学の教授に学園長まで見える。いつの間にこんな大物たちが見に来てたのか....
「素晴らしい試合だった!」
「いやはや、学生の身でこれほどの決闘....若者は素晴らしいですな!」
「ホントすっげぇよ....!騎士学の生徒として、もっと頑張らねぇと!」
「レオンハルト殿下も凄かったけど、ライラ様も凄かったわ!さすが騎士の家系です!」
口々に発せられる誉め言葉に少し照れつつも、差し出された殿下の手に捕まって立ち上がる。
「次は、負けませんよ」
「あぁ。受けて立つ。いつでもかかってくるといい」
正直この時は疲労で頭がまともに回っていなかったのだが、殿下がペンダントを身に着けてなくてよかったと、後々になって気づくのだった。




