第20話 隠れ聖女と大聖女
※大聖女様の名前を変更いたしました。
旧:セレナ→新:マナ
「あなた、“聖女紋”持ってるでしょ」
核心をついた質問。さて、どう答えるべきでしょうか....?
下手に誤魔化そうとしても、向こうさんは確信を持って言っているのがわかる。大聖女様となれば、“聖結晶”を持ってきて無理やり確認するなんて方法すら可能。
....詰みじゃないですか!
「で、どうなの?」
「....」
「沈黙は肯定ってことでいいかしら?」
「いつからですか」
「うん?」
「いつから気づいてたんですか?」
もう誤魔化すのは不可能だと悟り、素直に白状することにした。これで私こと冒険者アリアが聖女紋を持っているのを知るのは家族を除いて3人目だ。
「あなたの手に触れた時よ。なんか違和感があるな~と思ってたから、触れたタイミングで“心眼”を使ったの。そしたらもうびっくりよ~。だって『7画』の聖女紋が見えたんだもの」
「それなら気づいたタイミングで言えば....いや、これは取引ですね?」
そう、見えたのなら気づいた時にでも言ってしまえば逃げられない。そちらの方が、言い当てられた私が動揺することも込みで優位にたてだだろう。
だが、そうはしなかった。相手に認めさせたうえで、本人の口から説明させようとしている。
そうすることで考えられる可能性は、『取引』以外にあり得ない。
「何のことかしら~?」
「こっちは白状したのにそちらはだんまりですか」
「あら、言うようになったじゃない。でもいいわ~そうよ、取引よ」
こちとら貴族の中でも最上位の爵位の末娘だ。腹の探り合いくらい貴族相手で慣れている。
「求めている物は何ですか?言っておきますけど、大したものは払えませんからね」
「そんなものに興味はないわ。私はあなたのお話が聞きたいのよ。
『7画』の聖女紋は初代聖女“竜の巫女”と同じ。その紋章は全ての聖女の頂点とも言える。
大聖女になることすら可能な物を持っていて、なんで隠すのか聞きたいだけよ」
「話さなければ?」
「国王にバラすかな~『7画の聖女紋を持ってる娘を見つけました~』って」
「....はぁ」
もう逃げ場はないらしい。諦めて正直に話すことにした。
過去にあったことを隠しつつ、私は自身が何故聖女になりたくないのかを説明する。結局、私の素性もバレてしまった。
「なるほどね~。冒険者として自由に世界を冒険したいから、聖女として縛られるのが嫌なのね」
「そういうことです。私は聖女紋なんて望んでないんですから。望まぬものを持っているからといって、縛られるのはまっぴらごめんです」
「自分の意思がしっかりしてるのはいいことだと思うわ。
私個人の意見としては、“竜の巫女”と同じ伝説上の聖女紋の持ち主を放っておくわけにはいかないんだけど....約束だからね。言ったりしないから大丈夫よ~」
「そうしてくれると助かります」
1から10まで全部バレてしまったが、大聖女が約束を違えることはしないはず。そう考えると、強力な味方を1人手に入れたと思えば気持ちは楽になった。
「噂程度にしか聞いたことなかった“白金の姫君”が、まさかティルナノーグ公爵家の1人娘だったとはね~あの家系は魔法が苦手だったはずだけど、突然変異かしら?」
「さぁ?私も剣はある程度使えますけど、魔法の方が体に馴染むので」
「世界には不思議なことが沢山あるからね~ま、そういうこともあるわよ」
そんなこんなで大聖女マナと1時間ほど話すと、扉がノックされた。
「マナ様、お客様です」
「あら、もうそんな時間?今行くわ~」
「では、私はそろそろ....」
「丁度いいわ。せっかく有名な方なんだもの。一度挨拶だけしたらどうかしら?」
「誰が来客してるんですか?」
「うふふ~会ってみたらわかるわよ~」
マナ様と共にメイヴの後に付いて行く。
大聖女に面会できるなんて....お偉いさんでも来ているのだろうか?
この時の私は思ってもみなかった。すぐに帰っておくべきだと後悔することになるとは....
扉が開き、大聖堂の中に足を踏み入れる。その中にいた人物は....
「....?なぜアリアがここにいるんだ?」
目の前の黒髪の青年に、私は顔が引きつるのだった。
***
「....で、なんでアリアがここにいるんだ?」
そう問いかけてきたのは第2王子のレオンハルト殿下。大聖女マナ様に会いに来たという人はこの人だったらしい。
何故よりによって第2王子なのだ....
「いちゃ悪いですか?依頼でケガしたので治療を....」
そう聞いた瞬間、レオンハルト殿下が私の両肩をガッと掴んできた。
「ケガだと?!どこをケガしたんだ?傷は大丈夫なのか?!」
(ちょっ....近い近い近い!!無駄にイケメン顔を近づけないで!)
幸い、聖結晶のペンダントは持っていなかったらしく、聖女紋は反応しなかった。
「だ、大丈夫です!大丈夫だから落ち着いてください!あと、近いです!!」
「!!す....すまない....動揺してしまった」
びっくりするほど動揺していた。だがリンリーに言われたこともあって、よほど私は無傷の冒険者として知られていたらしい。
第2王子を動揺させるほど浸透してたとは驚きだが。
「殿下は何故教会に?」
「最近付属品の調子が悪くてな。聖結晶に魔力を補充してもらおうと思ったんだ」
なるほど。聖結晶の機能を保つためには聖属性の魔力が必要だ。それの補充ということならここにいるのも頷ける。
....ん?待てよ?
「聖結晶の....魔力補充?」
「そう言ったはずだが」
ということはつまり、今殿下がペンダントを持っていないのは....
「はい、殿下。補充終わりましたよ」
そう言っていつの間にやら現れた大聖女様。殿下の首にかけられたペンダントは聖結晶特有の七色の光を保っており、当然ながら殿下が私に触れているので発光し始める。
あ~....やっちゃった....
「ありがとう、マナ」
「いえいえ、殿下のお役にたてたのなら光栄ですよ。ところで、お若い2人が何をお話で?」
振り返るとニマニマと笑いながらこちらを眺めるマナ様。これが大聖女でいいのだろうか?その立ち振る舞いは妹に意地悪したくてたまらないお姉ちゃんのそれである。
「別に何も。私がここにいる理由を聞かれたので答えただけです」
「あらあら~そんなこと言っちゃって~。殿下ほどの優良物件、逃すのは惜しいですよ聖女様~?」
「言っておきますけど、殿下は私が聖女紋を持っていることは知ってますからね」
その言葉に意外そうな顔をするセレナ様。どうやら、私と殿下が面識があったことを知らなかったらしい。
「ああ。過去に助けてもらったことがあってな」
「なるほど?その時にうっかり聖属性魔法を使っちゃったって感じですか?」
「範囲回復が必要だったのでいた仕方なくです。お願いですから、この話はここだけの秘密にしてくださいね」
「え~?どーしよっかな~?」
「マナ、俺からも頼む」
殿下が庇ってくれるなんて珍しい。対して関わりがあるわけではないが、味方になってくれるならこれほど頼もしい存在もいないだろう。
その反応に楽しそうな笑いを止めて、優しくセレナ様が微笑んだ。
「殿下に言われちゃったら私じゃ逆らえませんね。いいでしょう。ここだけの秘密です」
「ありがとうございます。では、私はお先に失礼いたします」
「あら、もう行っちゃうの?」
「はい。他にも何やらお話があるようですし、部外者は早々に立ち去らないと。では」
そう言って立ち上がった私はそのまま出口へと進んで行く。
途中チラリと振り返ると殿下が何かを言いたげな表情をしていたが、引き留めてくる様子もなかったのでそのまま外へと出ていった。
(はぁ....なんか色々ありすぎて疲れました....)
シャワーで汗と血の匂いを洗い流して、ふかふかのベッドで眠りたいと思いつつ、私は着替えて寮へと向かうのだった。
***
《マナ視点》
「....で、彼女とはどういう関係なんです?」
「別に。ただ前に助けてもらったことがあるだけだ」
「本当に?殿下の話し方や態度から、そういう雰囲気を感じ取ったのですが」
「....俺が彼女に恋愛感情を抱いていると?」
「さぁ?私は何も言ってませんよ」
真剣な顔して殿下が考えてる。うふふ、こういうところは昔っから変わって無くて可愛いわ!
幼いころから弟のように可愛がってきた殿下にも、遂に運命の女性が現れたのかしらね?
「そんなことはさておき、今日俺をここに呼んだ目的は?」
と、話を逸らす様に殿下が本題を切り出してきた。
まぁ、確かに本題はそっちだけどね。
「んっん!では、簡潔に言わせていただきますね」
それは私が、“心眼”と対を為す魔眼である“真眼”を使って観た情報。私が大聖女と呼ばれる所以も、この2つの魔眼を併せ持つのが理由の1つだ。
そして、その真眼が映し出した未来は....
「“魔族”が、この国に入り込んでるかもしれません。陛下にご報告も含めて、要警戒をお願いします」
人類と袂を別った相反する存在、“魔族”。その存在が、この国に大きな影響を及ぼすことをこの時の私はまだ知らなかった。




