第19話 隠れ聖女と教会へ
「では、私はギルドに依頼の達成を報告してきますね」
「ああ。俺はこの後予定が合ってな。すまないが頼む」
「いいえ。今回はリオさんも疲れたでしょうし、ゆっくり休んでください。
報酬は次回手渡しで渡します」
その言葉に頷いたリオさんがギルドと反対方向に歩いていく。それを見送った私も、リオさんと反対の方向に歩いて行った。
歩いて10分ほどの位置にギルドはある。途中で買った炭酸の飲み物を10秒ほどで飲み干しながら、私はギルドの中に入っていった。
すると、私が入った瞬間に首位がざわざわとなり始める。妙に視線を感じるのは気のせいでしょうか?
関係ないとばかりにいつもの受付嬢リンリーの元へと行く。
私に気づいたリンリーが顔を上げると、驚いたのか慌てて私に近寄ってきた。
「ちょっ....ア、アリアさん!?大丈夫ですか?!」
どういうことだろう?何か心配されるようなことでもしましたか....?
訳が分からず怪訝な顔をしていると、近づいてきたリンリーが救急箱を持って私の腕を掴む。私の位置からは見にくかったが、背面側の腕に大きく傷が出来ていた。
「あれ?いつの間にこんなケガ....」
「気づかなかったんですか?!」
「あ、うん。特に痛みも....いや、意識したら痛くなってきましたね」
なるほど、道行く人々から不思議な視線が向けられていたのはそういうことか。
だが、冒険者なんて職業ならケガするのも普通だろう。なんでそんなに驚かれるんでしょうか?
「早く治療しないと!」
「いやこれくらい....というか、なんでそんなに驚いてるんです?」
「いやいや!今まで数々の依頼を無傷でこなしてきた超有名冒険者が、初めてケガして帰ってきたんですよ?!驚くし、心配にもなるでしょう!!」
「は、はぁ....?」
「何があったんですか?アリアさんに難しいようなクエストではないはずですが....」
そう聞かれたので、あったことを全て話した。
すると驚きと呆れの混ざった複雑そうな顔でリンリーがため息をつく。
「クエスト中に飛竜と戦った....?おまけに上空4000メートル地点まで上昇してそのまま山を転がり落ちた....?!なんて無茶をしてるんですかアリアさんは!」
「いや、不可抗力ですし....」
「私だってアリアさんのことが心配なんです....!!とりあえず、依頼達成はコチラで処理しておきます!アリアさんは今すぐ教会に行って治療を受けてください!」
「え、教会....?そんな所に行かなくても....」
そこまで言うとリンリーにキッ!!と睨まれてしまった。そこまで心配されてしまっては行かないわけにもいかないだろう。
これくらいの治療なら朝飯前なのだが、よくよく考えればここで治癒魔法など見せてしまえば聖女紋の存在がバレる可能性がある。そう考えれば、大人しく教会に行くのはありなような気がしてきた。
(いやぁ....できれば行きたくないんですけど....)
少し引きつった笑顔を向けながらも、依頼の処理はリンリーに任せることにして私は教会に向けてギルドを出ていった。
***
この国の協会は治療院を兼ねている。
それもそのはず、教会は竜神信仰の要の場所。数ある聖女が教会の教えと洗礼を受けて各地へと配属されるのだ。
聖女紋を持つ者以外に基本的には“聖属性魔法”は扱えない。稀に魔力が極端に高い人が使えることはあるが、そんな例は極めて例外に近い。
簡単に言えば、教会は『聖女の集まる場所』。見習い聖女も大聖女も、すべては教会が関わっているのだ。
(そんな場所に行くのは割としんどいです....それに、今代の大聖女様は数々の予言を当てたとききます。お父様の武勲も言い当てたとか....)
神の啓示を受けているのか、はたまた勘が鋭いのかは分からないが、とにかく近づきたくはない。
嫌だ嫌だと考えているうちに、教会の目の前まで来てしまった。
「あら?何をしてらっしゃるの?」
「!!」
驚いて振り向くと、紙袋を持った綺麗なお姉さんが立っていた。純白のシスター服を着ているということは、おそらくここの聖女なのだろう。
「はい。冒険者なのですが、ケガをしてしまって....」
「あらあら大変。すぐに治療しなくちゃね。どうぞ入って」
不思議と安心する声に促され、お姉さんの後を付いて行った。
教会内の清潔な雰囲気を血で汚さないよう傷を抑えながら、治療室に入る。どうやら、他の聖女たちは出払っているようでお姉さんが治療をしてくれるらしい。
「う~ん、そこそこ深そうね?ちょっと高位の治癒魔法にしましょうか“大天の治癒”」
そう唱えて私の腕に触れた瞬間、傷が塞がっていくのを感じる。
“大天の治癒”は高位の魔法。聖属性の扱える人が少ない中で、さらに高位の魔法が使える人物は限られている。
更に、高位の魔法になればなるほど使用する魔力の量も多くなる。聖女紋の画数が多ければ多いほど聖属性魔法の使用循環効率が良くなるのだが、目の前の聖女は汗一つかいてない。
(つまり、この人は相当高位の聖女様ですね。画数は5画でしょうか?)
「はい、終わりましたよ。それにしても、傷の中に毒が少量混ざっていたのよね~。傷を治りにくくする程度のものだけど、希少な毒だから珍しいものを見たわぁ~」
「あ~....だから教会に行けと」
リンリーは毒のことを見抜いていたのだろうか?いや、いくら彼女と言えどもそれはないだろう。
だが、治療箱を持ってきてなお自分では処理できない傷として認識したからこそ、教会に行くことを進めたのだとしたら納得できる。きっとそうですね。
「ところであなた....」
「?」
「少し聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
なんだろう?何か不思議なことでもしました....?いや、ついてきただけだし特に何もないはずですが....?
そう考えた矢先、扉が開かれて息を切らした聖女が立っていた。
「はぁ....はぁ....やっと見つけました....」
「あらメイヴ?どうしたの?」
「『どうしたの?』じゃありません!買い出しなら私たちが行くと言ったじゃありませんか!」
「今お客様がいるから静かにね~。いいじゃない、ちょっとした気分転換よ?」
「気分転換....はぁ、マナ様、ご自身が大聖女であると言う自覚を持ってください!」
....え?いま、なんて?大....聖女?
困惑して頭が真っ白になる。“大聖女マナ”、その名前を聞いたことがないわけない。
つまり、傷を治してもらいに教会に来たら“たまたま”大聖女様に声をかけられて、“たまたま”治療をしてもらったことになる。
そう考えれば、先ほどの『聞きたいこと』の内容が怪しくなってくる。
そこまで考えた瞬間、私は勢いよく立ち上がる。2人が驚いた様子でこちらを見るが、私は極力平静を保って言った。
「立て込んでそうなので、私はここでお暇しますね」
「いえいえ、まだお話は終わってないので座ってね。メイヴ、お茶を用意して」
「いえいえ、何やらお忙しそうなので私は失礼しますよ」
「うふふ、面白いこと言うのね。私が大聖女だと分かった瞬間、慌てたように見えたけど。
ますます逃がせなくなったわ。なんなら国王に拘束許可でも貰ってきましょうか?」
ここで王族を盾にするのはズルい!そう言われてしまっては、竜爵家の爵位を隠してる私はただの冒険者と同じ。権力には逆らえない。
退室していったメイヴを見送り、私は再びマナ様と2人きりになってしまった。
「さて、お話の続きね。私が聞きたいのはその左腕のことよ」
「ケガのことですか?それなら今話したばかりですが」
「ううん、そうじゃなくて手の甲の方。隠蔽魔法がかかってるけど、さすがに私は誤魔化せないわよ」
うっ....やはり気づかれていた....
「あなた“聖女紋”持ってるでしょ」
よりによって、一番バレてはいけない人に勘づかれてしまった。




